条件
彼と付き合ったとき、それはそれは周りから祝われた。
お礼まで言われた。
彼は冷たい人間だったが、友達として過ごした2年間の中で何故か私にだけは言葉の刃を向けたことはなかった。
それがいつも不思議で仕方なかった。
付き合ってから一ヶ月経った頃、
「あいつ最近めちゃくちゃ優しくなったんだ。」と、
彼と比較的仲のいい奴から言われたとき、私はこう返した。
「もともと優しかったよ。」と。
すごくいい気分だった。私だけが本当の彼を知っていて、私だけが彼を理解してあげられるという優越感に浸っていた。
彼は本当は優しい人なんだ。ただ少し人と関わるのが苦手なだけで、きっとこれからもっと色んな人と関わって、沢山の人に囲まれて幸せになれるだろう。
私は彼が大好きだ、だから彼には幸せになって欲しい。沢山の人と触れ合って、人の温かさを知って欲しい。
私の幸せの必要条件は、沢山の人に囲まれて生きることだった。だから彼にもそうなって欲しいと思ったのだった。
でも、彼はそうじゃなかった。
彼の幸せの条件は私にとってひどく歪んだものだった。
彼は私に甘えるとき、私を抱きしめたとき、いつもこう言っていた。
「世界で僕達2人だけだったらいいのに」と。
彼は、私しか要らなかった。