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朽ちる魔法の申し子達  作者: 黒角あずま
1章
8/8

一室での争い

この国有数の魔道士が集まる魔術学校アルタイル。魔術の才ある若き天才達も、魔術を極めし老いた達人も、学ぶため、教えるため、或いは自身の限界のさらに先を目指すためにここへ集う。

故にアルタイルは国の護衛と称して、有能な人材を各地方へ派遣する役割も果たす。ここはその業務を行う一室。つまりは、国の重要な立場にある人間が日々訪れる場所である。


「勝手なことをしおって!」


白く縮れた長い髭を蓄えた「いかにも」な見た目の老人がルタを強く叱責する。手が震え目が泳ぎ今にも倒れてしまいそうだ。


「私も同意見です、ルタ先生。今回の件はあまりにも独断専行がすぎる」


黒髪長身の女性も同様の意見のようだ。両名、アルタイルの校長、教頭でありそれぞれ名前はイマニ・ルーとナナミ・ヒガサキである。


「だから、校長を騙ったのは申し訳ありません」


「そんな事を責めている訳では無い!誰が生徒らを教室に閉じ込めて試すような真似をしろと言った!?」


イマニが円卓を激しく叩く。皺が深く刻まれ、今にも折れてしまいそうな腕であるというのにもかかわらず、その迫力には目を見張るものがある。


「これが僕のやり方なんですよ、それに上手くいったじゃないですか」


生まれながらにして黒い魔力を持ったリンネという禁忌の子は、自分が孤独ではないという事実を知った。それは確かにルタのみならず、アルタイル全体の目的であった「旧い戒律からの脱却」に大きく近づいただろう。


「しかし、思考誘導まで行うのは些か乱暴ではありませんか?」


「乱暴かなぁ、遅かれ早かれの問題だと思うけどね僕は」


『ルタは思考誘導という特殊な魔術でリンネに対するリリィの好感度を操作した。そのためにリリィはあそこまでリンネに固執し、結果としてりリンネは救われる事になった』という旨の報告を、イマニは受けている。


「彼女を……彼女たちを道具としてしか見ていないのか!?」


「禁忌の子に酷い迫害をしたのはあなたたちの世代でしょう、校長」


その瞬間目にも止まらぬ早さでナナミが動き、ルタの喉元に短剣を突きつける。

否、突きつけたと言うよりは途中で阻まれたといった感じだ。


「イマニ校長は禁忌の子を迫害などしておりません……口が過ぎますね……賊上がり如きが……!」


緊迫。

ナナミの魔力とルタの魔力がぶつかり合い白く爆ぜる。部屋の花瓶やガラスにヒビが入る。


「もうやめようぜ、なあ」


これ以上は見ていられない、といった様子で、扉にもたれかかっていた、傭兵の格好をした男が声を挙げる。


「ルタは次勝手なことをしたら処分ってことでいいだろ、なあ」


「それを決めるのはイマニ校長です、部外者は口を出さないでください。これだから男は……!」


「イマニさんも男のはずだがな……」


やれやれと言った感じで頭をかくこの男は、国の防衛騎士長であるイザ・シヤラである。

戦場では姿を見たものはおらず、それでいて参加した戦場では必ず功績をあげるというなんとも掴みどころのない男である。


「ルタ、お前も勝手なことしすぎだ。いくらなんでも思考誘導はやりすぎだ。1歩間違えりゃ洗脳と変わらねえ」


「僕がそんなヘマすると思う?」


「思わねえ、だがそういう問題じゃねえんだ。思考誘導を魔術の基礎もない連中にかける、そのリスクがわからんお前じゃないだろう?」


「リスクの問題ではない。人間として……!」


「イマニさんよ。あんた達だってコイツの身の上を知った上でここへ呼んだんだ。どうしてコイツがこんなやり方するのかって事くらい理解してやってくんねえか?」


「……」


その言葉に、イマニは白い髭を触りながらゆっくりと息を吐く。


「次はない」


「だってよ、ルタ。オラ!返事!」


「……すみませんでした」


こうしてアルタイル某一室での諍いはなんとか事なきを得たのだった。


■■■■■■


部屋を出てイザとルタは、月明かりの指す廊下を歩いていた。目指す場所があると言うよりは、話すことが目的のための散歩である。


「助かったよ、イザ」


「助かったよじゃねえ、なぁ、ルタ。お前あんまり無茶するんじゃねえよ」


「無茶じゃないよ、彼らの人となりがよく見れたじゃないか」


「あのなぁ、イマニさんはお前のことも考えてくれてるんだよ」


「あはは、思考誘導のリスクねえ」


思考誘導の魔術をかけるとかけた相手の思考が流れ込んでくる。かけた術者に確実に少なくないダメージが行く。


「特にあの年頃の子達は起伏が激しい。飲まれちまったらお前だっておかしくなっちまうかもしれないぞ」


「まあ、そうなったらそうなっただよ」


そこでイザは少しだけ考え込んだ後に再び口を開いた。


「……なあ、ルタ。お前いつから思考誘導してたんだ?」


「いつからって?」


「……禁忌の子に耐性のある子が居るのは分かった。どんな手を使ったか知らんがお前が見つけ出してきたんだろ。だが、その子がここへ来たのは単なる偶然なのか?それとも……」


「さあ」


「さあってなお前……」


「大事なのは、彼女は世界で自分がひとりきりだと思っていた、けれどそうではなかった。そこでしょ」


「あんまりヤバいことするんじゃねえ、俺だってお前を庇うことだけが仕事じゃないんだからな」


そう言うとイザは歩を早め、暗がりの中へ消えていった。


「いつから……か」


ルタがリリィに対し入学前から思考誘導を行っていたのは事実だ。

もちろん最低限に済ましてはいたがそれでも、アルタイルへ入学するという決定に一役かっていたのは言うまでもない。

だが、あの瞬間、1度目にリリィに殴られた瞬間、防御に徹するために、ルタは思わず思考誘導を解いてしまったのだ。

解いてしまったにも関わらず、リリィはリンネを追いかけて自らの魔力を流し込んだ。


「確かにお膳立てはしたよ、けれど、リンネを助けたのは紛れもなくリリィだよ」


リリィは自分でリンネを助ける選択をしたのだ。

死んでも構わない、それよりも、目の前の少女が傷つき泣いているのが見ていられない、たったそれだけの理由で。


「彼女たちは僕の希望だ、そして羨望でもある」


月が半分翳り、廊下が薄暗くなる。

しかし一層輝きを増すルタの目に灯るのは、反射した月光か、それとも───。


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