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朽ちる魔法の申し子達  作者: 黒角あずま
1章
7/8

リンネ・コウ⑥

「リンネーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」


「うわぁぁぁぁーーーーー!?」


全速力で走ったリリィは制止も間に合わず、そのままの勢いでリンネに衝突した。

ぶつけた尻を擦りながらリンネは、恐る恐るリリィを見る。


「……どうして来たの?」


「どうしてって……」


「私、禁忌の子だよ?」


「っ……!」


その言葉を吐くのに、どれだけの葛藤があっただろうか。

自分で自分をそう呼ぶのにどれ程の悲しみが、呪いが……!


「お前は禁忌の子じゃ……!」


「気休めはいいよ!」


「気休めだなんて……」


「気休めだよ……っ……!だって私の魔力黒色なんだよ!?魔力のコントロールは出来ないし、人のこと疑ってばっかりだし、それに……!」


そこで言い淀んでリンネはポツリと涙を流す。


「それに……っ……さっきだって……皆のこと……っ……!うぅ……!」


「ありゃあみんなが悪ぃ!あたしも含めてな!」


「違うよ!禁忌の子の私が全部悪いんだ!私が!私のせいで!……私の……!!!!」


禁忌の子じゃない。

いや、違う。リンネにはその言葉は届かない。

何故なら確実に、全ての事象は完璧なまでに。

リンネ=禁忌の子という式を表しているからだ。紛れもなく、間違いなくリンネ・コウは、忌み嫌われた呪われた「禁忌の子」なのだ。


「お前が禁忌の子でも構わないっ!!!」


「……え?」


「……さっきの、本当に凄かったぜ。あんな風に魔力の流れを見るなんて、誰にでもできることじゃねえ、それに、お前ヨシトキの事、分かってたのに黙っててくれたんだろ?」


「……それは……」


打算がなかった訳では無い。ここでヨシトキの事を伝えるメリットが感じられなかっただけだ。事実、必要であったならリンネは迷いながらも確実に、ヨシトキの秘密を白日の元に晒していただろう。


「いや、良いんだ。お前の思惑がどうであれ、本質はそういうことじゃないんだ、リンネ」


「じゃあ……」


ぎゅっと、強く強くリリィはリンネを抱きしめる。

今まで誰にも抱きしめられなかった分まで、抱きしめるように。


「生きて良いんだ、リンネ」


「……私ね……っ……ここに来るの反対されたの……!それって……私が心配だからってだけじゃない……もちろんっ……っ……心配もしてくれたけど……!それ以上にお父さんとお母さんは怖がってた……!私が……わたじが……!」


ヨシトキ、その他のクラスメイトも遅れて駆け付ける。

その瞬間に、リンネの咆哮が周囲に轟いた。


「私が……禁忌の子だってバレたら……!恥をかくから……だからあの二人は私をあそこに閉じ込めておきたかったんだ!!!!」


ついに言ってしまった。そうだと思っていたが、今まで口に出さないことで守ってきたリンネの最後の防衛線。

リンネの両親は、実の娘より保身を重要視した。たったそれだけの事が、酷くリンネの心を傷つける。

心が軋むのを感じる。

バラバラに、砕け散って、後にはもう何も残らないくらいに、細かく細かく、塵になって、そして─────


「オラァッッッ!!!」


リリィがリンネに向けて魔力を流し込む。


「……なっ!?リリィ!?」


ヨシトキが驚いた声を挙げる。魔力供給には双方の合意と資格が必要なはずだ。しかし今の懸念はそうではなく。

魔力を流し込むという行為は一方通行ではない。魔力を流して空いた隙間には少なからず相手の魔力が流れ込む。

それが黒い魔力だったとしたら。


「あいつ馬鹿か!?死んでしまうぞ!」「死ぬよ!」「死ぬもんね!」


「オォオオオオオオオッ……!」


「やめ……やめて……やめて!リリィちゃん……!こんな……こんな事……!」


「ならお前も……!そんな顔やめろよ!」


「っ!」


「望んでここに来たんだろ!?お前は禁忌の子でも魔道士になれるって!証明するために来たんだろ!?お前が憧れた魔道士はそんな顔っ……!してたかよっ!?」


遠い記憶を思い返す。あの時憧れた魔道士は、疲れた顔をしていて、けれどどこか爽やかで、そう、それで────。


「笑顔だったはずだよ、リンネちゃん」


見覚えのある黒い羽が眼前に現れる。艶やかな黒い布に、無数の銀粉を撒き散らしたかのような、美しい羽。


「……あ、あぁ……!先生……!先生は……!!」


そう言いかけてリンネはハッと我に返る。リリィはまだ抱きついたままだ。これ以上は危険だ。身体中にリリィの魔力が迸るのを感じる。痺れるような、それでいて心地よい灼熱が、体の全身を駆け巡る。


「先生っ……!リリィちゃんを……!!リリィちゃんが……!!!!」


「ねぇ、リンネちゃん」


リンネの焦りも気にすること無く、ゆっくりとルタは喋り始める。まるでことの結末がわかっているかのように。


「リンネちゃんは、禁忌の子だ」


何度も言われてきた言葉。信じきれなかった、信じざるを得ない事実。


「君はかつての禁忌の子の魔力を受け継いだ」


ゆっくりと、ゆっくりとルタは言葉を紡ぐ。


「けれど、君が1人だなんて誰が決めた?」


「……でも……っ……」


ルタは心底嬉しそうに、笑った。

無邪気な笑顔、しかしどこか年齢を感じさせるような笑顔で。


「君の目の前にいる子は……リリィちゃんは!君のちっぽけな魔力なんかじゃあ、死なない!そうだろ!リリィちゃん!」


勢いよくリリィが立ち上がる。皮膚に少しだけ黒い線が稲妻のように浮き出ているが、紛れもなく彼女は生きている。


「あぁそうだぜ!むしろ力が湧いてくる!リンネ!!」


嘘だ。

だって、あらゆるものに試したんだ。人以外ならなんでも、黒い魔力を流し込んだ。

草木は枯れて、動物は驚いて走り去る。

実の両親は、触れることすらしなかった、それなのにどうして赤の他人の貴方が……?


「リンネ!あたしがお前の……友達第1号だッ!!!!」


魔法は奇跡を起こす。魔力は魔術を生み出す。

この世には絶対の理があり、1度決まったそれを変えることは出来ない。

だからこそ、世界の理を書き換えない形でルタは。

いや、リンネとリリィは奇跡を起こしたのだ。


「そうさ、これは彼女達の奇跡だ」


リンネが足に力を込める。黒い魔力と合わさって、どこまででも一足で迎えそうな気がする。

拳を握り、大きく構え、そして───。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」


黒い雷撃と化した彼女の拳は空中のルタの顔面へと再び突き刺さった。


「なんでやーーーーーーーー!!!!」


リンネは、嬉しくて仕方がないなぁと、そして少しだけ、やっぱりナガはベタだなぁと思って笑った。

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