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朽ちる魔法の申し子達  作者: 黒角あずま
1章
3/8

リンネ・コウ②

「お前たちはまともな魔道士になるのは諦めた方がいい」


校内放送を告げるはずのチャイムから流れたのは、あまりにも唐突で、そして信じられない内容だった。

校内放送で「直に担任の教師が来られるので席について待機していてください」と伝えられた直後の放送。


「お前たちはあまりにもピーキーすぎる。特異すぎる」


「何言ってやがんだ!テメェ!」


チャイムに向かってリリィが吠える。

声を挙げこそしないがリンネの胸中も同じだった。

魔道士になるためにアルタイルへ来たのに諦めろ?

何を言っているか分からない、いや、分かりたくない。

これが周りの人間ならまだしも、教師の誰かから言われた事なのだと認めたくない。


「俺たちは魔道士になるためにここへ来たつもりだが?」


礼儀正しく挙手をしてから、ヨシトキが発言する。

どこから聞いているのか、その言葉に対しての答えがチャイムを通して返ってくる。


「礼儀正しいな、坊ちゃんよ。だけどこれはアルタイルの総意なんだよ。お前らはまともな魔道士になれねえ」


「分からないな。ちゃんと話してくれないと」


ヨシトキが直ぐに言葉を返す。いきなりの不躾な言葉に対し、少しだけ怒っているようにも見える。


「そうだなぁ、そもそもお前ら、魔道士って何か分かるか?」


魔道士。

─それは魔力を用いて自在に望む事象を起こす人間のことである─

と、リンネはさんざん読み返した「猿でもわかる魔道士のススメ」という本の冒頭を思い出していた。


「魔道士ってのは望む事象を起こすんだ、得手不得手あろうがある程度の自由は効く」


「そうだな。そうだと記憶してる」


「なら坊ちゃん。魔力の全く存在しないお前はどんな魔道士になろうって言うんだ?」


「!!」


驚いた顔でヨシトキはチャイムを睨みつける。

魔力が無い?それはもう魔道士を志す以前の問題ではないだろうか。

人を殴るのに拳がいるように、空を飛ぶために翼がいるように、魔道士になるためには魔力が必要だ。


「魔力は魔術を使うための燃料だ。人間は量と質の差はあれど魔力を生み出し続けている。でもお前にはそれが全くねえ」


「……」


ヨシトキは俯いてしまう。

居心地の悪い沈黙が場を支配する。


「なあ、教えてくれよ、お前どうやって魔道士になろうとしてたんだ?」


そこでゆっくりと、ヨシトキは口を開く。


「……なら、どうして俺を入学させたんだ?俺だって合格通知が届いた時は目を疑ったさ。ダメ元で受けたのに受かったんだから。だから俺は……!」


「今までの魔力の無い生活は何かの間違いだと思った?いいや、お前は魔力を生み出す体の構造じゃねえ、「先天性魔力欠乏症」だよ」


声が鋭さと冷たさを増した。

まるで何も意に介していないように、彼の胸中を気にすることなく続ける。


「他の奴らも同じだ、似たような状況ばっかだろ?」


その言葉に、教室の雰囲気が冷える。

鋭い殺気とは、このことを言うのだろう。

その後最初に口を開いたのは、リリィだった。


「……お前、いい加減にしろよ」


「……あー?」


「あたしが……こいつがどんな思いでここに来たのか、そんな事すら知らないで、当たり前みたいに人の気持ちを踏みにじってんじゃねえ……!」


「知らねえよ、お前らのことなんて」


「テメェ……!」


ついにリリィが拳を握る。

握りしめるその捻るような音が教室全体に重く響く。


「じゃあお前らは、自分たちが魔道士になれるって言うのか?」


その言葉にリリィは口を濁す。

彼女にも何か思い当たる節があるのだろうか、ギロッと睨んだまま歯を食いしばっていた。


「なれるさ、似たような状況の俺達だからこそ、俺達は助け合えるんだ」


ヨシトキが再び声を挙げる。先程の狼狽えた声色ではない。芯の通った真っ直ぐな声だ。

リリィの激昂で逆に冷静になったのだろうか。


「ふーん、俺達、ねぇ。ははっ、お前無条件で信じ過ぎだろ、こええよ」


「何?」


「じゃあお前らが魔道士になれるかどうかテストしてやる」


「そんなものは必要ない!俺達は正規の手順を踏んでここへ入学してきたはずだ!」


「じゃあ合格できなかったら全員退学な」


「……なっ……!?」


横暴。あまりにも酷い横暴。

初日からこれでは、何のために入学してきたか分からない。

気持ちが悪くなってくる。

周りから散々言われた言葉を、リンネは思い返していた。

魔道士にはなれない。

夢を見るのは諦めろ。

分相応な立場がある。

それでも、諦めたくなくて、入学したのだ。

魔道士になりたくて、あの奇跡を自分でも起こしてみたくて。

それなのに───。




「お前らの中に嘘つきがいるぞ。炙りだせ」



そこまで私は、魔道士になってはいけないのだろうか。

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