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朽ちる魔法の申し子達  作者: 黒角あずま
1章
2/8

リンネ・コウ①

この春、リンネ・コウは魔術学校アルタイルへ入学した。

周りの人々からさんざんやめておけと言われた彼女が、それでも強引に入学に踏切ったのは、魔導士への憧れだった。

魔道士とは魔術を操る人間の総称である。

自分の願いと思いを魔力に乗せて、事象を起こす。

ある高名な魔道士はこう言った。


───現在の魔術は、魔術ではなく能力に近い。


と。

多種多様な願い、種族、環境が生み出すそれはもはや魔術と一概に称するには不適切である、と。

多種多様過ぎるあまりにいくつにも分岐した魔術は、その人間にとって最も得意で、そして適した形で発生する。

多くの人間はそれを極めることが多い、だから魔術と言うより能力に近い。


「私だって、得意な魔術があるはずだよ!」


そう意気込んでアルタイルへ来たはいいが、入学初日彼女を待っていたのは。


「……アァ?」


「……み、見てないです」


超至近距離からの睨み。〈メンチ〉である。


「見てただろ?あたしの事をジロジロとよォ」


「みっ、みみみ見てません!ただちょっと不思議な髪の毛だなって思っただけで……!」


「ほらやっぱり見てるじゃねえか!」


吠える彼女は、白髪ベースに青いメッシュが入った髪の毛をポニーテールにまとめていた。

こんな状況でなかったら、リンネは思わずうっとりと見蕩れてしまうだろうと思うくらいにその髪の毛は美しかった。


「おい、入学初日にやめないか」


「っせーな!話しかけんなっつっただろ!」


1人の男子生徒が割り込んでくる。身長は180くらいだろうか?筋骨隆々の体にはおよそ似つかわしくない知的な顔立ちが異彩を放っていた。


「済まないな、こいつは人の目に敏感でな」


「いっ、いえ!私も悪かったです!」


「そーだ!お前が悪い!」


「お前は黙っていろ」


「んだとテメェ!」


騒ぐ彼女をいなすようにして彼は自己紹介をする。


「俺はヨシトキ・アリマ。彼女はリリィ・ゴールドガーデンだ。これから3年間、よろしくな」


「あっ……よ、よろしくお願いします!」


「お前の名前はなんて言うんだよ?」


「わ、私はリンネ・コウ……です」


その言葉にリリィは少しだけ怪訝な顔をする。


「……ふーん、リンネ、ね。変な名前だな、なあヨシトキ」


「人の名前にケチをつけるな。極東出身だろう?」


「えっ?」


どうして分かったのかと、リンネは驚いた顔をする。


「極東特有の発音だ。俺も祖父が極東出身でな。こんな浮いた名前をつけられる位には祖父は極東が好きだったらしい」


なるほど。確かにそれなら合点が行く。

ヨシトキが言った通り、リンネは極東の小さな国出身である。

複雑な海流に囲われたその島国は、並大抵の労力では出ることも入ることも容易ではない。

だからこそ、それも含めてリンネの両親はアルタイルへの入学を反対したのだ。


「そうなんですか。同じ極東関連、心強いです!とっても!」


ガシッとリンネは手を握る。


「おいテメェ!距離の詰め方下手すぎんだろ!」


「リリィ、うるさいぞ」


「なんだと!」


ぎゃーぎゃーと2人が騒いでいる中、リンネは教室を見回してみた。

よく見ると、リリィ達だけでは無い。

他のクラスメイトも皆、かなり特徴的だ。


まずかなり幼く見える三つ子。眼帯をしている1人は椅子に座って目を閉じているが、残りの2人はその近くにしゃがみこんで、話しかけている。顔は同じだが、髪の色が違う。眼帯の少女は黒髪で、他のふたりは白と黒が混じった灰色だ。眼帯の少女はまだしも、他のふたりは見分けがつかない。


軍服をきた女性。銀髪でキリッとした顔つきをして、まさに軍人という感じだ。だが時折ボソボソと独り言を言っている。独り言を言っては、うっすらと笑って、また黙るを繰り返している。


ボーッとした少年。リンネより少しだけ背が小さく、その背丈に似合わない大きな杖を持っている。格好も昔ながらの魔道士と言った感じで、先がカクカクと巻いた紫色の帽子を目深に被って空を眺めている。


細身の青年。かなり線が細く、一見頼りなさそうに見えるが、鋭く光るその眼光から並々ならぬ凄みを感じる。見られているとやましい事がないのに、身構えてしまいそうになる。


こんな所にいると、自分の普通さが余計際立っているように思える。

黒髪黒目、これといった特徴のない自分が急に恥ずかしくなってきた。


「…上手くやっていけるかな……」


「やっていくんだよ。オラ!」


そう言うと、リリィは強引にリンネの手を引っ張り握手した。

引っ張られてバランスを崩しそうになる。軽そうな所作に反してかなりの力だ。


「悪い奴じゃないんだ、ただ、頭と口と態度が悪い」


「お前ほんっっっとキライ!」


リリィなりの不器用な励まし方に思わず吹き出しそうになる。

入学初日、不安に駆られる前に二人に出会えたことは幸運だっただろう。


「あはは、よろしくねリリィちゃん、ヨシトキくん」


こうして、リンネのアルタイルでの日々が始まったのだった。

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