高価なお塩
「そしたら“今度私もお邪魔させていただくわ”だって…だからもしかしたら本当に来るかもしれないよあの子」
「はぁっ!?セリエナが加わるかも知れないって!?」
タンポポを川で洗いながら溜息を吐く。私ああ言うタイプの子の絡んだことないんだよなぁ…というかそもそもの話小さい子の扱い方がわからない。いや、今の私やルークにライルだってもちろん小さい子なんだけどね。この世界の子供は若干大人びているし現代よりも接しやすいところはある。
しかし女の子となると話は違う。この世界で6年生きてきたけど私の周りには兄やルークの影響もあり同い年くらいの女の子で友達と呼べる子がいない。茶彩時代でも小さい子と遊んだことはなく、幼い頃から友人が多いタイプではなかったのでこのくらいの歳の女の子の扱い方なんてわからないのだ。
私がどうしたものかと考えているとルークはこれでもかというほど嫌な顔をしていた。確かに私も初めて歳の近い女の子と一緒に何かをすることになり緊張やら心配やらしているし、セリエナの気が強いところは知っていたがあんなに好奇心旺盛な子だとは知らなかったためとても驚いている。
正直なところこれからどうなるのかの見当もつかない。
「そんなに嫌なの?セリエナが手伝ってくれるのが」
「嫌ってわけじゃないけど…鬼ババイーゼルの孫なんだぜ?それも気が強い頑固者で有名だろ?」
「それは…そうだけど、私たち今までセリエナと関わったことないからどんな子かわかんないよ?それにあの子この間フィルレイン修道院3ヶ月間修了してきたばっかりなんだから私達より知識あるし、助けてくれるかも」
ルークは手を止めて私の顔を真顔で見つめる。
「なんか…ステラお前、前より少し大人になったな」
「えっ…そ、そーお?そりゃまぁ、この間6歳になったからね!私だっていつまでもわがまま娘じゃないんだから!」
えっへん!と言えばルークはやっぱいつも通りだななんて言ってタンポポを鍋に放り投げる。
なんだか痛いところを疲れたような気がして一瞬固まってしまった。そりゃあ…20歳の記憶が戻ってますからね…。精神や考え方が身体に引っ張られて多少幼くなっているとはいえ純粋な6歳児の頭ではなく20年分の知識の詰まった頭なんだから。
摘んだタンポポを洗い終えたので枝や鍋を持って森へ向かう準備をする。
「今回は花の部分も使うんだな」
「うーん、なんとなく全部使ってみようかなって」
「ふーん…あ!そうだ、セリエナの件ですっかり忘れてた!悪い、塩は用意できなかった。母さんが“塩なんて高いのに子供にやれるか”ってさ」
「そっかぁ…うーん…」
ルークは拗ねたように唇を尖らせだいたい母さんだって…とブツブツ言っている。
そうか、塩も高いのか。一応城下町であるフィルレインだが、この街の付近には岩塩の産出地もなければ海もないため海の幸や塩は隣町のフィンデリールから仕入れなければならない。そのため時代的なものもあるが塩は高価なのだ。反対にフィルレイン付近では農業が盛んなため畜産物は一般家庭でもまぁまぁ手に入れやすい価格ではある。
塩か…私がこの世界の価値観がほとんど中世のようなものだったのを忘れてたせいでルークに悪いことしたな。母さんに頼んでみる…?いや絶対無理だね。“あなたこの間図書館の本棚倒して出禁になったばかりなのにまた何をするつもりなの!?貴方みたいなおてんば娘に高価なものを分けるなんてできません!”と眉を吊り上げて言われるのが簡単に想像できる。
ならばどうするか…勝手にとってくるしかなくない?
「わかった私がもらってくるから森の開けたところで火焚いといて!」
「おう、まかせろ!」
今の時間ならきっと母さんが店番、父さんが裏仕事、ライルが休憩時間のはずだから幸いキッチンには誰もいないはずだ。
裏口から家に入りそーっとキッチンまで移動する。しかしここで問題が一つ。塩の入った瓶がどこにあるのかわからない…。
私の様な小さなお転婆娘はキッチンになんて危なっかしくて入れられないと言われてる。それに母以外にもライルや父に“俺がやってやるから座ってろ!”と言われるため本当にキッチンの構造も何もわからない。
そ・れ・に!洗い場にすら手が届かないのにこのキッチンには踏み台もないのだ。6歳児に優しくない世界だよね、まったく。取り敢えず手が届くのは竈門と道具棚だがどちらにも塩の瓶はないだろう。と、なると洗い場、作業台やその上の壁に据え付けられた食品棚だろう。さてと…。
「ぅっん、しょっと……はぁ…」
作りの荒い作業台の窪みに足をかけてなんとか作業台に登る。
あ、やば、靴履いたままだった。靴を脱ぎ捨てるとコツンと割と大きな音を立てて床に転がりだす。シンとした家の中に少し音が響いた。あ、やばい!忘れてた。誰にも気が付かれては……いない!これは危なかったね一安心。私の履いていた靴は茶彩時代には履いたことのないような恐ろしく硬い革靴なのでそこそこの高所から落とせばいい音がなる。前にも同じ様な悪戯をした時に靴を落とした音で気付かれ、怒られたこともあった。今回はまだ誰にも気づかれていないみたいだ。
さてさて、塩の瓶はどこかな…作業台には包丁や茶色い粉の瓶があるだけ…てことはこの棚の上か、よぉ〜し。
食品棚はだいぶ出っぱった作りになっているので作業台のギリギリに立って扉を開ける。そこには野菜や瓶がたくさん入っていた。その中には私の見たことのないものもたくさんあった。すごい…パプリカに似た形をしているがずっしりと重い…果物?何これ。まぁいいや。パプリカもどきを放り投げて暗い棚の中を手探りでガサガサと漁るとコツンと爪の先に硬いものが当たる。グググと引き寄せるとそれは白くてキラキラとしたものの入った瓶だった。これって…これってもしかして…!
瓶の蓋を開けてペロリと舐める。
しょっぺぇぇっ!!!間違いない、これは塩だぁ〜!
任務完了だね〜!やっぱり私もやれば出来る子なんですよ。さてこれを布に包んで…。
「ぅわあぁっ!っつぅ〜っ!いだぃ〜」
ドンッ!!と大きな音が立つ。重いものを持ったせいかバランスを崩してグラグラと身体がゆれ、足を滑らせて背中から落ちてしまったらしい。生憎塩の瓶や他のものに被害はないけど…背中がぁー!痛みにのたうちまわっているとドタバタと誰かが近づいてくる音が聞こえてくる。なんなら家が揺れている。
「どうした!すごい音が聞こえたが…ステラ!ここで何してる!何があった?」
私が落ちた音に駆けてきたのはスカーゼ父さんだ。
父さんは駆けつけてきたと思えば転がる私を見て心配そうにしゃがみ込み、抱き上げて立たせると、開いた食品棚と転がった靴、私の手の塩の瓶を見て溜息をついた。私の肩に手を置くともともと吊り上がった眉をもっと吊り上げて厳しい顔をする。あーあ、バレちゃった…でも父さんで良かった。怒った母さんは怒った父さんより怖いんだから。
「ステラ、怪我はないか?痛いところは?」
「痛かったけどもう大丈夫…」
「そうか…。ステラ、いつもお前にはまだ危ないからキッチンに近づいちゃダメだって言っているだろう?お腹が空いたり欲しいものがあるんだったらまだ今は父さんや母さん、ライルに言うこと。わかったか?」
「はぁい……ごめんなさい」
父さんはいつもの優しい顔に戻って私の頭を雑に撫でると私の手から瓶を取ってハンカチに一握りの塩を包み棚に戻した。
「いいか?塩は高いんだ。何に使うかは知らないが無駄にするんじゃないぞ」
「父さん!ありがとう!!大事に使う〜!」
私が塩を欲しているのを察してくれた父さんに抱きつくとハハハと笑って背中をポンポンと叩かれる。こちらの世界では優しい良い父さんを持ててよかった。別に茶彩時代の教育パパだった父が悪い人だったというわけではないけど。
「あ、母さんには内緒だよ?」
「ああ、わかってるよ。お前のことだからルークを待たせているんだろ?ほら早く行ってあげなさい」
「うん!」
へへへ、父さん大好き〜。スカーゼ父さんは本当にいい父親だと思う。顔は眠そうだしこの世界の男の人にしては力は強くないけどね。
裏口から外へ出るとルークが鍋に水を汲んでいた。
「おせーよ!鍋ってことは何かあのタンポポをスープにでもするんだろ?」
さすがルーク。よくお分かりで、仕事のできる男だねぇ。
私の顔がよほどニヤついていたのかルークは何ニヤニヤしてんだよと怪訝な顔をしてズカズカと森へ進む。
「失礼だなー!でもさすがはルークくんですねぇ、お仕事がお早いですな」
「何だよその喋り方、気持ちわりぃ…塩は手に入ったのか?」
「ふっふっふ〜、色々あったけど無事手に入ったよ〜」
「おお!やったな!お前のやりたいこと出来そうだな」
私とルークは追加で枝を拾いながら森の中へ進んだ。
お久しぶりです。
私個人の事情により更新が半年以上も経ってしまいました。読んでくださった方もいらっしゃるのに申し訳ありません。
今後もペースはゆっくりかと思いますがよろしくお願いします




