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身支度と黒パン

朝、部屋に差し込んだ太陽の光によって目を覚まし、ダラダラといつもやっているように身だしなみを整える。

有名な赤毛の女の子の名作の少女達が着ているようなワンピースに、漫画でしか見たことのないような大きな赤いリボンの髪飾り。

今考えてみるとなんだかとても異世界らしい服装かもしれない。

顔を洗おうと鏡を見るが、いつも見ているはずの自分の顔をマジマジと見つめてしまい、ライルに熱でもあるのか、と訝しげに言われてしまった。


やっぱり今までは記憶になかった日本人としての常識が戻ってしまった今、今までなんとも思っていなかった自分の容姿に違和感を感じてしまう。


ミルクティー色の髪に白すぎる肌、おまけに目はまんまるで大きくて瞳は紅いときた。日本人時代と似ているところといえば常に下がっている眉くらいだ。この世界での基準が日本人だった頃と変わらないならば私の顔はそこそこ整っていることとなる。まぁ、兄も母も父も、ルークもその辺の人たちも結構な確率で整っていることにはなるが。


そうだとしてもうちのお母さんであるラリアはとても美人だと思う。落ち着いた茶色の髪にキリッと少しだけつっている大きな目。瞳は私よりも暗い赤だ。


父と兄は金髪で垂れ目、瞳は綺麗に澄んだヘーゼル。

二人ともよく眠そうな顔をしていると言われているが、やっぱり二人とも整っている。

まぁそこに関してはこの世界に転生して良かったのかもしれない。


朝食を食べようとリビングに降りれば父さんは既におらず、ライルが食卓に座っていた。


「さっきも思ったけど、ステラ今日は早起きだな、店番でもしてくれんのか?」

「別に〜?6歳になったから自分のことは自分でやるの!」

「はいはい、がんばれがんばれ」


ライルは頬杖をついて、いつまで続くのやらとでも言ってそうな顔をする。私にはわかっちゃうんだからね!これでもあなたの妹だもん。

全く、妹が可愛くないのかしら?


「父さんは?もうお仕事に行ったの?」

「あぁ、ほら、今日はエヴァンズ邸へ商談だろ?きっと明日まで帰ってこないぜ」


エヴァンズ邸というのはうちの唯一貴族の商談相手であるオッズ・エヴァンズの豪邸のことだ。

うちは生活雑貨を主に扱っているが、基本的にはなんでも揃うし、裕福層や貴族をターゲットにした商品だって売っているのだ。


ちなみにエヴァンズ家の旦那さんと父さんは幼馴染みらしく、上下関係こそあれど側から見れば仲の良い友人だ。


「おはよう二人とも、さ、ご飯早く食べちゃってね。今日は商品の入荷でいつもより忙しくなるから、ライルは手順通りにね」


母さんはテキパキと朝食を出しながらライルに指示を出す。

この世界では子供は10歳になったら大体の子が仕事の研修期間に入るため、10歳までに自分のなる仕事を決めなければならない。まぁ、転職はできるのだけれども。


ライルは10歳で、すでにうちの家業を継ぐことが決まっているのでいつも忙しそうにしている。

家業といえど研修中のライルには普段母さんと父さんが分担してしている雑用が任されるので開店時間までにやることがたくさんあるのでライルの朝は大忙しだ。


ライルがいそいそとパンを牛乳に浸して流し込むを見て私もパンを食べ始める。のだが…


口に入れればパンとは思えないような効果音が響く。

何このパン…固っ!!歯が痛いんだけど!?

本当に人が食べるものなの…?


「馬鹿、朝はライ麦パンだって言ってるだろ?お前はまだ顎が弱いから浸さないと固くて食えねぇって。お前さては寝ぼけてんだろ?」


すでに食べ終わっていたライルは、日本人からすると驚くほど固いパンを睨みつけている私に呆れたように言う。

そうでした、そうでした…

今までは毎朝このかったいパンをスープや牛乳に浸してふやかして食べてました…。

それでも今までの私はよく寝ぼけてこのままかぶりついてライルに何度も馬鹿だと言われてました…。


気を取り直してパンを牛乳に浸せば、まぁ食べれなくはない。

にしてもこのパンは本当に固い。

茶彩だった頃にドイツで本場のライ麦パンを食べたことがあるが、それが小麦粉の菓子パンだと思えるくらいに固いし、味もしない。


この固いパンを食べるのは朝だけとはいえ毎日は少し辛い。記憶の戻っていない頃の私はよく毎日食べていたな…とても偉いと思う。まぁ、美味しいと思ったことは無かったが…。

平民には3食ふわふわパンを食べるなんて贅沢は許されないので、これからはこの食生活にならなければいけない。


「なんかお金のかからない改善策とかないのかなぁ…」


ライルはすでにお店の方に行ったらしく、私の呟きは誰かに拾われることはなかった。拾われたところで馬鹿なこと言わないの、と諭されるだけなのだろうけれど。


「なんの改善策だ?」

「わぁぁぁあっ!!いだっ!…ってルークかぁ」

「おいおい大丈夫かよ、つーかそんな驚くか?」


小中学生のよくやる怒られる不安定な座り方をしていた私はびっくりして椅子から落ちる。

ライルがいないから一人だと思っていたらいつのまにかルークが居たらしい。ルークは笑いながら椅子から落ちた私に手を差し伸べる。

もう、本当にびっくりしたし結構痛いんだからね!?


「お店の方から入ってきたの?」

「いんや、裏口」

「え?鍵かかってたよね?」


この世界ではあまり技術が進んでいないといえど、鍵だけはなぜか日本のものとほとんど変わらない。とは言っても一昔前のものだけれど。


「ふっふっふっ、聞いて驚け、これを使って開けたんだ」


誇らしげな顔をしているその手には金属の細い棒を折り曲げたものが2本…。これで鍵を開けたってこと?

てことは…ルークがピッキング行為をしたってこと!?え、犯罪じゃん。いや、この世界じゃピッキング行為が法に触れるなんてことないけど。


「すごいね、誰かに教わったの?」

「いやいや、誰もこんなこと思いつかねぇって。ほら、うち鍛冶屋だろ?鍵とかも作ってて仕組み知ってるから落ちてる長細い屑鉄とかで開けられんじゃねえかって思ってな」


試したら本当に開いてビビった〜なんて言いながら笑っているルーク。ルークの家は代々鍛冶屋をやっていて、男に産まれたならみんな鍛治職人と決まっているのだ。

ルークのところの鍛冶屋は農具や武器から鍵やフォークまで金属でできているものは全て取り扱っているので、ルークが鍵の仕組みを知っているのも納得がいく。


「すごいけど、それ誰かに教えたりしたらダメだからね?」

「えー、なんでだよ。俺すごいだろって自慢したい」

「もう、細い棒で開けれるって知ったら泥棒とかに悪用されちゃうじゃん」

「はー、なるほどな…ステラさすがだな」


ピッキング行為なんて知れ渡ったら鍵をかけている意味が皆無だ。

まぁ、そもそもドアは木製なので安全性が高いとは言えないけれど…。


「で、なんの改善策なんだ?」

「ふっふっふっ…ルークはさ、朝に食べるこの黒パンどう思う?」


キラキラと目を輝かせて聞いてきたルークは私の発言によりキョトンとしながら食べかけの黒パンを見つめる。


「うーん、うちはステラの家より人数多いし金がないから毎食このパンだし、慣れてるから特に思うことはねぇな…まぁ、もっと上手いもん食べたいとは思うけどよ」

「でしょ!!」


さっすがルーク私の待っていた発言をしてくれたね。


「おいおい、改善策ってまさかパンのことかよ」

「うん、そのまさかだよ。ルークは私のこと手伝ってくれるでしょ?」


私が協力のハイタッチを求めればルークは呆れたように息を吐きながらハイタッチしてくれた。



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