ヒーロー?参上
途中胸クソ悪い展開がありますが、ヒーロー?が惨状、いえ、参上します。
朝になり目覚めると、悔しいぐらいに体も頭もスッキリとしていた。
眠りの精霊の力でぐっすりと眠ったからだ。
ベルドが戻って来た痕跡は無い。
生まれた時から常に側にあった闇の聖霊の気配を近く感じられないことが、こんなに心許ないものだとは知らなかった。
守りは残していってくれたようだが、何だか急に自分がか弱い普通の女にでもなったような気がしてしまう。
不安から溜め息を一つ吐く。
気分が重かろうが体は絶好調だ。お嬢様にも会いたい。
普段通りに身支度を整えて出勤する。
ケルヒンの王女と手を組んでベルドに媚薬魔法を使ったなら、あの令嬢が見たいのは私がショックを受けて落ち込む姿だ。
望みを叶えてやるのも癪なので普段と変わらぬ鉄仮面のような無表情で部屋の外へ出たのだが、お嬢様に朝の挨拶をした時に眉を下げて微笑まれてしまった。
お嬢様には私が落ち込んでいることがバレてしまったのだろう。
他の護衛や侍女の手前、個人的なことは何も話しかけられずに済んだが、後で人払いをして国王に見せる白昼夢の内容を打ち合わせしなくては。
表情を動かすことなく粛々と業務をこなしていると、ケルヒンの王女から使いが来た。
お嬢様以外の全員が身構えたものの、使いが持って来たメッセージはお嬢様でなくとも答えられるような些末な質問だった。
内容は、この大陸の国の花屋なら何処でも売っているような花のグレナード王国での花言葉を教えてくれというもので、そんなものその辺のメイドに聞いても答えられるし、従者に王宮の図書館で調べて来いと命じてもいい。
それを、すぐに返事が欲しいと言い、返事は王太子妃付き筆頭侍女のミュゲが持って来るよう名指しされた。
どう考えても罠だろう。
私を誘き出してお嬢様に害を及ぼす人質か道具にでもするつもりなら、遠慮なく全力で相手を潰せる。
だが、あの令嬢と王女が手を組んでベルドが向こうの手に落ちた直後だ。
目的は私自身を傷付けることだろう。
さすがに王太子妃を奸計で害したら、王太子を媚薬魔法で支配しただけでは無事では済まない。
ケルヒンの王女だって王族には媚薬魔法は効かないのが常識だと思っている筈だ。
魔法が効いて堕としたはいいが、今頃王太子が本当に国王と血の繋がりがあるのか疑っているかもしれない。
王命で婚約者となり結婚して王太子妃となったお嬢様を害して無事で済みたければ、国王も支配下に置く必要がある。
媚薬魔法と加護の関係性を知らなければ、王太子に媚薬魔法が効いたからといって、国王にまで効くかどうか試すのは博打だと思うだろう。
そして国王に試して失敗すれば、せっかく堕とした王太子の血筋が怪しいことが露見して「王太子の後妻」になる目的も怪しくなるし、他国の国王に媚薬魔法を使ったとなれば拘束されて極刑だと考えるはず。
媚薬魔法は毒の精霊の加護の力を使う魔法。つまり、毒を盛るのと同義だからだ。
国王に毒を盛って「じゃあ開戦だね」と対等っぽい話になるのは、相手も何処かの国王だった場合だけ。
たかが王女では帰国できるのは首から下だけになるだろう。
と、まあ、冷静に考えたらケルヒンの王女が私を人質に取ったとしても、せいぜい要求は王太子妃の座を自分から降りろくらいで、王命で王太子妃になったんだから無理だと突っぱねれば何も起きない。
要求を飲まなかったからと人質に危害を加えるとしても、私は聖霊の加護持ちで絶対に大丈夫だから私を人質にした要求は絶対に飲まないでください、とお嬢様には言ってあるし了承も貰っている。
だから、王女が主導で動いているなら逆に大したことじゃないのだ。私とお嬢様にとっては。
王女は力を貸しているだけで逆恨み令嬢が主導で動いている方が、嫌な事態になると思われる。
闇の聖霊から聞いた話だからお嬢様にも言えないが、逆恨み令嬢は私を男たちに性的に襲わせるつもりだ。
腐っても王族と言うべきか、ケルヒンの王女の与えられた加護は強い。性的欲求を向ける対象を自分以外にも自由に設定できるほど媚薬魔法を使いこなせる毒魔法使いは少ない。
私に媚薬魔法は効かないが、私を対象として男たちに魔法をかけることは造作もないだろう。
聖霊の愛し子を物理や毒や魔法で殺すことはできない。聖霊の守りは堅い。かつて愛し子を人間に殺されて奪われた経験から、聖霊はとても過保護に神経質に愛し子を守るようになった。愛し子が自ら望まなければ他殺される機会は訪れないだろう。
だけど、殴ろうが蹴ろうが斬ろうがかすり傷一つ付かない体も、愛し子本人の抵抗以上の力であれば拘束はできてしまう。
拘束後も、毒も物理攻撃も魔法攻撃も効かないが、触ったり舐めたりは攻撃と見做されないから可能だ。
嫌な言い方をすれば、強姦致傷はできなくても拘束して猥褻行為はできる。
もしそんな事態になったら、私も当然嫌な思いはするだろうが、お嬢様がどれだけ自分を責めて苦しむか知れない。
緊急事態─生命の危機─以外では加護の力をバレるように使ってはならないと、お嬢様は私を守るために命令してくれている。
他に前もって加護の力を遠慮なく使う許可が出ているのは、お嬢様を害されそうな時の護衛としての職分だ。
私はお嬢様に絶対服従の忠誠を誓っている。
私がお嬢様の命令を守って、加護の力を使えず望まぬ猥褻行為を強いられたら、傷付くのも苦しむのも、きっと私よりお嬢様だ。
この罠にみすみす掛かりに行けばどうなるのか、私には予想がついているのに聖霊との誓約で口に出せない。
「ミュゲ・・・。力の無い私でごめんなさい」
しばらく思案に暮れていたお嬢様が、目を伏せて長いまつ毛を小さく震わせ、悲しい透明な声で言った。
王太子の大切な客人である隣国の王女の要求を、伯爵家出身の王太子妃であるお嬢様が断ることは難しい。
明らかに非礼な要求であれば理由をつけて断れるかもしれないが、不自然であっても非礼とまでは言い切れない要求だ。
「王太子妃様にそのようなお言葉を賜っては自らの不甲斐なさに泣きたくなってしまいます」
「返事を書くわ。気をつけて行って来てね」
「かしこまりました」
ペンを走らせる音とインクの匂い。便箋から漂う花の香。
「ミュゲ、無事で戻って来て」
「可能な限り」
お嬢様に嘘はつけない。だから、言えるのはこれだけだ。
お嬢様の澄んだ瞳が悲痛な色に染まる。
私こそ、どんな罠が待ち受けているのか、それによってお嬢様の御心がどれほど苦しめられるのか、予想ができていながら何も言えない、状況を覆すこともできない、力の無さを詫びなければならないのだ。
侍女の礼を取って退室し、花の香の封筒を載せた銀の盆を捧げ持って歩く。
人通りのある辺では何事も無いだろうが、王女が宿泊している部屋に近づくと人払いがされている。
人払いがされているのに読める気配がある。一応息は潜め身を隠しているようだが、ベルドの能力とは比べるべくもない。色々と雑だ。
「よぉ、ミュゲ」
叫んだところで誰も助けに来ない、それくらい人の行き交う場所から離れた所で、馴れ馴れしく声をかけられた。
男たちに見覚えはある。
王太子妃の専属近衛騎士の面接で落ちた騎士たちだ。面接の場に私も同席したからか、廊下や書類を届けた先で遭遇する度に絡まれていた。
逆恨み令嬢と逆恨み騎士たち。逆恨み仲間か。
「その人形みてぇなお綺麗な面をグチャグチャにしてやりてぇと、ずっと思ってたんだよ」
相手は五人、中身はともかく見た目は屈強な騎士。職務上、帯剣も許されている。
「あぁ、グチャグチャっつっても切り刻むわけじゃねぇぜ? 飽きるまで犯してヤり捨てる時にゃあ切り刻んじまうかもしれねぇがなぁ?」
五人で下卑た笑い声を合唱し、大変楽しそうだ。
来た道を戻ろうにも回り込まれている。読んだ気配で動きは分かっていたが、王女の部屋へ手紙を届けに行く役目の侍女が、「騎士の気配を感じたから」と役目を放り出して逃げ戻ることはできなかった。
王宮内にグレナード王国の騎士がいるのは普通なのだから。
「王太子妃様のお手紙をケルヒン王国の王女殿下へお届けする途中なので先を急ぎたいのですが」
王族から王族への手紙を妨げるのはバレたら物理で首が飛ぶ可能性もある行為だ。
効果は無いだろうが、一応彼らの行為が相当にマズイものであることは告げておく。
「手紙なら俺たちが届けてやるよ。王女殿下から言いつかってるからな。お前の役目はここまでだ」
銀の盆ごと取り上げられた。
実際にケルヒンの王女から命令があったとしても、これは自国の王太子妃への不敬だ。
だが、離脱できるものなら離脱が優先だ。お嬢様の心を守るために。
「そうですか。では私はこれで」
「待てよ、ミュゲ」
むさ苦しい肉の壁が五つの方向から迫ってくる。
まあ、分かっていた。目的がソレなんだから、離脱させる気なんか無いってことは。
最初に声をかけて来た時から目のギラつきが性犯罪者のソレだったし、私へと近づくほどに股間の盛り上がりが勢いを増すしな。
やっぱり媚薬魔法を使っているんだろうなぁ。
聖霊が認めた伴侶以外が挿入するのは暴力扱いだから物理攻撃と同じで不可能。
だから最後までヤラれることは無いんだけど。
ぶっちゃけ、どこまでなら猥褻行為をされてしまうのか見当もつかない。
聖霊のドストライクになるほどの外見だから、子供の頃にも性的に狙われた経験はあるが、お嬢様に忠誠を誓う前は逃亡も返り討ちも迷わずお手軽だったし、私が眠りこけている間に襲われても闇の聖霊が勝手に排除していたと思う。
今は闇の聖霊も側にいない。
お嬢様の命令で、生命の危機にならなければ加護の力を存分に振るった抵抗はできない。
伸ばされた手を躱すものの、騎士として鍛えている男たちは戦闘のプロであると同時に拘束や捕縛のプロでもある。
数分後には両腕を取られて拘束され、一人の体に押し付けられて他の一人に足を絡められて足の動きも封じられた。
それでも、掴まれた腕には痕も付いていないだろうし痛みも無い。聖霊の守りの効果は凄いんだけど、おかげで生命の危機には陥ることができない。
「可愛がってやるよ、ミュゲ。楽しもうぜ」
「そうそう。お前の旦那はとっくに他の女に寝取られちまってるんだからよ」
「可哀想だから俺たちが慰めてやるよ」
不意に昨夜の闇の聖霊の言葉が蘇る。
あの距離で触れられても嫌悪感が湧かない。
ベルドには、触れられて気持ち悪いと思ったことがなかった。
それを思い出したら、途端にこの男たちに触れられて拘束されていることが堪らなく気持ち悪くなった。
「へぇ。綺麗な顔だが可愛げがねえと思っていたが、怯える態度はそそるじゃねぇか」
勝手に強張った顔と体に男たちが愉悦を露わに舌舐めずりをする。
「ハハッ、髪も肌も手触りいいぜ。匂いもいいな。早く突っ込みてえ」
「ああ、確かにいい匂いだな。味はどうだ?」
昨夜ベルドに匂いを嗅がれた時は恥ずかしくていたたまれなくなったが、不快感があったわけじゃない。
こいつらに嗅がれるのは吐き気がするほど不快だ。
舐められるなど言語道断。
迫る臭い息と汚い舌から少しでも遠ざかろうと身動ぐが、男たちを喜ばせるだけだ。
「ほらほら、逃げねえと舐めちゃうぜ〜? どこを舐められたいんだ? 頬か? 鼻か? それとも」
レロレロと至近距離で舌を遊ばせる男が仲間たちに囃し立てられて舌先を言った場所に伸ばしてくる。
「口にするか?」
ニヤリと悍ましい嗤いを眼前に突き付けて、男の舌が私の唇に伸ばされる。甚ぶるように、わざとゆっくりと。
嫌だ。
絶対に嫌だ。
こいつらは嫌だ!
それでも生命の危機ではないから屈強な騎士五人を無力化するような力は発揮できない。
ギュッと瞑った目から出そうと思っていないのに涙が溢れ落ちた。
その瞬間。
「ふっざけるなあああああああああっっ!!!!!」
どごばきいっ!!!!!!!
凄まじい音がした。怒鳴り声はベルドのものだったような気はするが、あんな風に荒らげた声は聞いたことが無いので気のせいかもしれない。
「は?」
目を開けて、見えた光景に呆気にとられ瞬きを繰り返す。
え? 何が起きているの?
「勝手に俺の妻に触りやがって! あまつさえ舐めるだあ⁉ 俺だってまだなのに‼ フザケンナ‼」
ベルド・・・。助けてくれたっぽいけど、怒りポイントはそこなんだ?
「俺の可愛い可愛いミュゲに触った部分は取り外して処分しような? お前らごときが所持していいモノじゃないからな? 文句なんかねぇよな? あ゛あ゛っ⁉」
私が目を瞑っていたのはせいぜい数秒だったと思うんだけど、どうして五人の騎士たち全員が既にボロ雑巾のような状態で口も利けなくなっているんだろう。
顔も原型が分からないくらい腫れ上がって歯も抜けてるし、文句があっても喋れなそうだ。
と言うか、ベルド、ガラが悪い。
「俺の最愛の妻を怯えさせて泣かせた汚ねぇ肉は細切れにして豚の餌にしてやるよ」
ドスの利いた低い声。とんでもなく低い声。どこから出してるんだ。
それに普段は艶のある紅茶色の両眼が凝った血みたいな暗赤色になっているんだけど。通常モードでは柔らかく緩められている目尻は急角度で吊り上がっているし。
いつも括っている一房だけ赤いくすんだ金髪が、どうして全部鮮烈な赤になって振り乱されているのかな。あの髪紐で何かを封印していたのか?
「べ、ベルド様?」
普段とあまりに違うベルドの様子に呆然としていたが、足早なヒールの音が近づいて来て覚えのある令嬢の声で自分の夫を呼ばれ、我に返る。
逆恨み令嬢に色々と思うところはあるが、この状態のベルドによく呼びかける気になったな。
「豚の餌にも劣る女が何の用だ」
令嬢がギロリと睨まれ吐き捨てられた。
ベルド、豚の餌という言葉を気に入っているのか?
「ベルド様、何を仰ってますの? わたくしを選んで夜を共にしてくださったではありませんか」
ああ、やっぱり・・・。
仕方がない。魔法耐性が低ければ王族の魔法に抵抗なんか無理だ。
俯いて唇を噛んでしまう。
「俺の妻に誤解される言い方はやめろ。妙な薬を使おうが怪しげな術を使おうが、俺はミュゲしか愛していない。理屈で説明できない未知の攻撃を受けたから妻を守るために貴様を監視していただけだ」
「え? ベルド、逆恨み令嬢とヤッてないの?」
思わず顔を上げて訊ねるとクワッと目を見開かれた。瞳孔も開き切っていて怖い。
「ヤるわけないだろっ‼ 殺るならともかく、どうして俺がこんな女とヤらなきゃならないんだ⁉ 俺にはお前がいるのに⁉ 冗談じゃない! 監視のためとは言えこの臭い女にずっと張り付かれて吐き気を耐えるのに大変だったんだぞ⁉ ミュゲ‼」
「ひっ」
開き切った瞳孔で両腕を広げてずんずんと歩み寄られ、本能的な恐怖で後退る。
「ミュゲ?」
首を傾げるベルドの瞳はまだ暗赤色で瞳孔が開き、髪も鮮烈な赤を振り乱している。
「ベルド、いつもと見た目が違う」
恐る恐る言うと、ようやく気づいたように「ん? ああ、そうか」などと一人で納得している。
「驚かせたか? ミュゲ。俺、ちょっと変わった体質らしいんだ」
「体質」
「ああ。感情が昂ると体の色合いが少し変わるらしくて」
「そんな体質は無い」
「いや、実際あるし」
え? あるの?
・・・後で闇の聖霊に訊いてみよう。
と言うか、闇の聖霊は確かにベルドが媚薬魔法を使われたと言っていたけど、かからなかったのか?
どういうことなんだろう。
「ミュゲ、お前に触れてもいいか?」
「・・・うん」
何がどうなっているのか、いまいちよく分からないけど、ベルドに触れられるのは嫌じゃないことは、よく分かった。
あいつらに触られる気持ち悪さと不快感、それに、唇を舐められそうになった時の自分自身の奥深くから噴出した拒絶の感情は、「ベルド以外は嫌だ」というものだった。
「ミュゲ、怖かったか? 遅くなってごめんな」
男たちに襲われた恐怖も吹っ飛ぶほど、感情昂りバージョンのベルドの方が怖かったけど。
それでもその腕の中で、あやすように撫でられ優しく抱きしめられていると、不安定だった気持ちが落ち着いて来る。
詰めていた息を吐いて、自覚する以上に自分の体が緊張していたことを知った。
「お前を側で守れないんじゃ意味がない。監視は切り上げる」
奴らが無遠慮に触った場所を上書きするように、ベルドがそっと撫でたり口づけを落としたりしていく。
「こいつらを片付けたらお嬢様に許可をもらって今日は休ませてもらおう」
「え?」
今の「え?」は私ではない。すっかり存在を無視されていた逆恨み令嬢の口が発したものだ。
でも私も言おうと思っていた。
え?
「俺のこの姿見ちゃったし、ミュゲを泣かせたし、どうせミュゲに触った部分は取り外して処分するんだし。全身無くなっても大差ないから」
ん? 何だか猟奇的なことを話していないか?
「こいつらをどうするの?」
「跡形もなく始末するよ? 大丈夫。慣れてるから。バレるヘマもしない」
私を襲った騎士たち五人と逆恨み令嬢を指差しながら、出しっぱなしの本を本棚に戻しておくよ、程度の語調で言うベルド。
うん、さすが元凄腕暗殺者。
「お嬢様の許可が取れるまで始末は延期」
「えぇ?」
不満そうな声と拗ねたような表情。スープのおかわりを強請って「もう無いよ」と言われた子供みたいな顔だが、求めている内容は一杯のスープではなく血の海。
逃げたくても指一本動かせないダメージを負っている騎士たちと、どこにも怪我などしていないけど恐怖で凍りついて動けない逆恨み令嬢。
「でもミュゲ、これをこのまま置いておくわけにはいかないだろう?」
ベルドの中ではこいつらは既に人間ではなく、破壊対象のモノなんだろう。
わざとではなく、何の気負いもなく自然に物扱いで話し続ける。
「取り敢えず脅しをかけて口止めして離脱しよう。お嬢様に報告が必要だし判断を仰がなければ休暇申請も始末も話が進まない」
「わかった」
私の頭を一撫でしてスッと離れたベルドは、口元を隠して逆恨み令嬢と騎士たちにそれぞれ何事かを囁くと、にっこり良い笑顔で戻って来た。
「行こうか。ミュゲ。彼らは彼らの仕事をやり遂げるみたいだから」
「仕事?」
首を捻ると背中に手のひらを当てて戻るよう促される。
「大丈夫。さ、戻ろう?」
「う、うん」
頷くと、ベルドの姿がいつものものに戻った。
どういうカラクリなのか、とても気になる。