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8.リン

「守ってくれたのか……?」


 フェンリルはまだこちらを向かない。

 走り去っていく騎士に意識を向けている。

 僕はその銀色の後ろ姿を見て何かを思い出した。


「リンか……?」


 フェンリルは勢いよくこちらを振り返った。

 頭を下げて軽く振った。

 リンが良くしていた仕草だ。


「ウソだろ……本当にリンなのか?」


 僕の前まで来て座った。

 座っているのに僕と目線が同じだった。


 僕は恐々触ってみた。


「リン……僕を守ってくれてたのか……?」


 よく考えるとフェンリルが来るのはいつもピンチの時だった……リンは目を瞑り、僕に撫でられていた。


「ありがとう。リン……」


 僕はリンを抱きしめた。

 僕が洞穴に居たリンにご飯を運んだのは数週間だけ。

 たったそれだけの恩でここまで僕を守ってくれたのか……。

 なんて優しい子なんだ……愛おしくて仕方がない……。


 僕はずっとリンを抱きしめていた。


「リン、僕のパーティメンバーにならないか?」


 リンは頭を下げて軽く振った。



 ◇



 僕とリンはレイザールから少し離れた所へ移動していた。リンの背に乗って移動したんだ。

 信じられないスピードで半分飛びながら走るリンにしがみつき、僕はレントとレイザールの中間地点付近まで来ていた。

 馬車で一時間だがリンなら数分だった。


「ここまでは追ってこないだろう」


 僕は持ってきていたおにぎりをリンに食べさせた。


「お前には小さいだろうけどね」


 リンは美味しそうに食べてくれた。


 リンをパーティメンバーにするにはどうすれば良いだろう?

 街には魔物をテイムして連れ歩いている人は沢山いる。それと同じように連れて歩けば良いだけかな?

 でもフェンリルが現れただけでレントの村は住民全員が避難した。それぐらい危険度の高い魔物。

「僕、フェンリルをテイムしました」では通らないかも知れない……。


 僕はリンを撫でて聞いてみた。


「僕の言葉がわかる?」


「――わかる――」


 僕はビックリした。

 まさか返事をするとは思わなかったからだ。

 でも声じゃなく頭の中に響いた。


「すごい……リンはすごいな!」


 僕はリンを撫でた。


「――少し話せる――」


 少女のような声だ。


「リンは小さなフェンリルになれる?」


 リンは一回り小さくなってみせた。

 ちょうどウルフぐらいの大きさだ。

 ウルフはよく連れている人がいる。

 嗅覚、聴覚が優れているので気配を良く察知してくれるからだ。


「いいぞ、翼はしまえる?」


 翼は背に張り付いてただの青い毛並みとなった。


「リンはすごいな!この大きさだったら一緒にいられるよ。僕と一緒に行こう」


「――レイといく――」


「街では絶対大きくならないでね。みんな怖がっちゃうから」


「――わかった――」



 ◇



 僕とリンはレイザール近郊に戻ってきた。

 僕はいつも背負っている大きな鞄から変装用に買った服とマスクを取り出し着替えた。

 リンには再度ウルフの姿になってもらっている。

 変装している上にウルフを連れて歩いている。

 僕だとはバレないはずだ。


 きっと僕は死んだ事になっている。

 フェンリルにあそこまで接近されたんだ。助かるはずがない。普通ならそう考えるはずだ。


 僕たちは街に入った。

 街の中が慌ただしい。

 きっとフェンリルが出たと言う情報が広まっているんだろう。


 気がつくとルーナが門の外を見ていた。

 もしかしたら僕の事を聞いて、帰りを待っているのかも知れない……。

 僕は騎士の職業につく者全てを対象にサーチしてみた。襲ってきた騎士達は離れた場所で一箇所に固まっている。騎士の兵舎にいるのか?

 案の定、ルーナの近くには監視役がいる……まるでカゴの鳥だ……。


 僕はルーナが立っているすぐそばにある街の案内板を見ているフリをしてルーナに話しかけた。


「ルーナ、見張られてる……そのまま!そのまま聞いて」


「レイ君?」


「今日僕は死んだ事になってる……そうでしょ?」


「ブレンからの報告では、たまたま街の外でレイ君を見かけたから、挨拶をしようと思って近づいた時にフェンリルが現れたって。レイ君はすぐ近くにいたからやられてしまっていると思うって……」


 あいつら最低だ。

 僕はルーナにブレン事件と今日の出来事を手短に話した。


「そんな……ブレン達がそんな事を……レイ君ごめんなさい。あいつらの本性に気付かなかった……」


「ルーナ、僕は騎士団に命を狙われている……今回は運良く生き延びたけど、生きているとバレたらきっと殺される。でも死ぬ訳にはいかない。母さんを悲しませてしまう。だから僕は遠くへ行こうと思う」


 ルーナは「そんな……」と言う顔をした。

 下を向き、涙を流した……。


「レイ君……私も連れてって。騎士団は辞めてくる」


 ルーナがとんでもない事を言い出した。


「だ、ダメだよ。ルーナは勇者になる器なんだ!僕なんかの為に道を踏み外しちゃダメだ」


「逆だよ。レイ君。私が所属する騎士団が道を踏み外した。私は勇者になる為に、自分の信じた道を進むの」


 ルーナは続けて言った。


「騎士団に所属して実績を積むのは勇者になる近道。それは良くわかっているけど、あの団のメンバーでは無理。さっき聞いたレイ君を襲撃したメンバーはうちの団の幹部。事実上彼らがうちの団を動かしている。私は頭に据えられただけなの。実権はない……」


 そりゃそうだ……ルーナは僕と同じでまだ18歳。

 隊長だと言っても実権がないのは休みが取れない事でも良くわかる。あいつらはあんなに暇そうなのに。


「僕はこれから母さんや世話になった人たちにお別れを言ってくる。僕と一緒に行けるなら準備をしてここに来て。これから僕はルーナをサーチして来たらすぐに分かるようにしておくよ」


「わかった。必ずここに来るよ」


「そろそろ行くよ。じゃ……」


 僕はその場を離れた。


 監視役はそのままルーナを見張っている。

 僕には気付いていないみたいだ。


 僕はギルドへ向かった。

 ギルドにも騎士がいる。

 万が一僕が戻る可能性にも手を打っているようだ。

 僕は堂々とギルドに入った。

 こそこそすると逆に怪しまれる。

 そして真っ直ぐギルドマスターの部屋の前まできた。


「ソフィアさん、いますか?」


「レイ?入って」


 僕は部屋に入った。


「レイ……変装してるの?それに……従魔をテイムしたの?」


「そうです。ウルフです」


「ウルフね…… 私には事情を教えてくれないの?」


 な、なんか見抜かれてるのかな……。


「ソフィアさんに報告があって来ました」


 今日の出来事を話た。

 ブレン達が明らかに僕を殺しに来た事を。

 たまたまフェンリルが出てきて助かったけど、騎士達は僕が死んだと思っている事を。

 黙って聞いていたソフィアさんが僕の目を見て言った。


「で、そこにいるウルフがフェンリルね」


 僕は青くなった。何故わかるんだろう……。


「鑑定はレイだけのスキルじゃない。私も使えるの」


「そ、そうだったんですか……」


 ソフィアさんが時々じっと見つめてくるのは鑑定されてたんだろうか。


「レイがフェンリルを連れている理由を聞かせて貰えないかしら?昼過ぎからそのリンちゃんの対応に大忙しだったのよ」


「す、すみません……実は――」


 僕は洞穴でのリンとの出会いから今に至るまでの経緯を話した。


「そんな事が……レントでフェンリルが出たというのは大きな事件として聞いていたけど、それがレイの危機を救いに来たリンちゃんとは……触っても大丈夫かしら?」


「リン、ソフィアさんは僕がお世話になっている人なんだ。触ってもいい?」


「――触ってもいい――」


 ソフィアさんが驚愕の表情を見せた。


「リンは意思疎通が出来るんです」


「意思疎通が出来る……さすが伝説級の幻獣ね……」


 恐る恐るソフィアさんがリンに触れた。


「レイを守ってくれてありがとう。私もレイの事が大好きだから、あなたが守ってくれて本当に良かった。これからもレイを守ってあげてね」


「――レイ、守る――」


「レイ、騎士が本格的に殺しに来たのは捨て置けない。それに死んだと思わせるのは一見すると名案のように感じるけれど、今後ギルドを利用出来なくなる。口座のお金も凍結される。現実的じゃないわ」


「でも生きていると分かると殺しにきますよ……」


「私に任せて。手出しするなと警告したにも関わらず手出ししてきた。許さないわ」


「僕は難を逃れる為に旅に出ようと思っていました。実はルーナも騎士団を退団し一緒に行くと……」


 さっきより強い驚愕の表情を見せた。


「レイ……勇者候補のルーナとそこまでの関係だったの?」


「ち、違います。ただの幼馴染です」


 ソフィアさんがジト目で見てきた。


「ただの幼馴染にそこまでする訳ないでしょ……」


「いや、ホントです!ルーナが騎士団に入ってから全然会ってませんでしたし、再会したのもあのブレン事件の時ですよ」


「……そう言う事にしておくわ。で、いつ発つの?」


「ルーナには準備が出来たら門まで来てと伝えてあります。僕の方はこれから母さん達に報告をして準備を進めます」


「ちゃんと大手を振って出発出来るようにしてあげる。任せて」


「すみません……ソフィアさんには世話になりっぱなしで……」



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