6.ルーナとの再会
レイザールに住み始めて半年が経っていた。
母さんはレイザールで仕事を見つけて働いていた。アルバートさんも冒険者を引退して養成校の講師をしている。
僕は冒険者ギルドが貸している狭い部屋を借りて一人暮らしをしていた。
ちなみに浮力石は一億二千万ギルで落札された。
手数料を差し引かれた金額が僕の口座に振り込まれている。もちろんそれだけじゃなく、日々預金額は膨らんでいっている。さすがにそろそろ部屋を探す頃合いだと感じていた。
僕はいつものように採取に出掛けていた。フェンリルと三馬鹿は視界に収めている。もう二度と顔を見たくなかったからだ。
今日は珍しくギルドマスターから依頼を受けた。
希少過ぎて片付かないクエストがあるから、どうにかならないか、と。
探すアイテムは妖精の羽。生きた妖精から羽を千切るのは嫌だから、落ちてるのを拾うしかない。
期待薄だなと思いながらサーチしてみた。
すると思いの外沢山落ちているようだ……。
「案外あるな……すぐそこにもある」
僕は近場の所在地まで移動した。けど無い……。
あるはずなんだと信じて手で探っているとカサカサと何かが指に触れた。
無色透明の薄い羽だった。よーく見ると筋があり羽だとわかるが、これは普通に探しても見つけられない……。
その後近場で取れた四枚をアイリスさんに渡した。
「さすがですね……誰も納品出来なかった妖精の羽をこうもアッサリと……どうやって見つけたんですか?」
「たまたまです。たまたま光の反射でキラッと」
「キラッと……?」
「そう、キラッと……」
その後アイリスさんから報酬の半分を現金で受け取り、半分を振り込みしてもらいギルドを出た。
たまには美味しいものでも食べに行こうかな。
そう思い僕は美味しいと評判のお店の入り口まで来た。
「レイ君!」
そこで突然呼び止められた。
振り返ると騎士の正装を着たルーナだった。
「ひ、久しぶり。元気にしてた?」
「本当、久しぶりだね。今からここ入るの?私も入るとこだったの。一緒に食べようよ」
そう言って僕はルーナに引っ張られてお店に入った。
向かいの席についたルーナはめちゃくちゃ綺麗だった。眩しくて直視出来ない……。
「どうしたの?目がしょぼしょぼしてるよ。この店良く来るの?」
「いや、今日初めてだよ。依頼を片付けて少し多めの報酬が出たから、たまには美味しいものでも食べようかと思って来てみたんだ」
「そうなんだ、私も今日初めてだったの。でも一人で初めてのお店入るの勇気いるからレイ君がいて良かったよ」
「騎士団はどう?もう隊長やってるって聞いたけど」
「なんとも言えないよ。自由な時間が全然ないもん。今日もずっとお願いしてやっと出た休みだから。ホント息が詰まっちゃうよ……」
「そうなんだ……騎士も大変だね……僕なんて冒険者ギルドに所属してるから自由過ぎて……」
「良いなぁ。私も冒険者になってレイ君とパーティ組みたかった……」
その後僕たちは美味しい食事を食べて楽しく過ごした。やっぱり僕はルーナの事が好きだ。改めて自分の気持ちに気付いた。
お店を出る頃になってルーナが聞いてきた。
「レイ君この後どうするの?」
僕は部屋を探そうと思っていたと話した。
するとルーナも一緒に選んでくれるという。
最高の気分だった。
お店を出た所で大男が僕の前に立ち塞がった。
「ルーナさん、誰です?コイツ」
「私の幼馴染よ。私は今日オフなの。消えて」
「そうはいきません。隊長についた悪い虫は駆除しないと」
「消えて」
ルーナが凄み、大男は顔をひきつらせながら雑踏へ消えていった。
「ごめんね、レイ君……驚いた?」
「いや、ルーナが身を置いてるのはあんな大男のいる所なんだと思うと、改めて大変だなと思うよ……」
あの大男は僕の危険人物リストに加えておく。
――騎士ブレン――
あいつが消えた振りしてまだ近くにいる事がわかった。
「ルーナ、あいつまだいるよ。僕のサーチでわかるんだ」
「レイ君のスキル、サーチって言うんだ。どんなスキルなの?」
「探し物に特化したスキルだよ。戦闘が発生しない採取系のクエストなら一発解決出来るよ」
「なんでも?」
「うん、なんでも」
「じゃぁ一つお願いしても良い?」
「良いよ、なんでも言って」
「私、小さい頃レイ君から貰った指輪あったでしょ?」
「うん、あったね……」
僕小さい頃ルーナに指輪贈ったんだった。
我ながら大胆な事をしたもんだ……。
「あれ……失くしちゃったの……どこにあるか探せる?」
「探せると思う。その指輪を思い浮かべて手を繋いで」
「こう?」
どさくさに紛れて手を繋いじゃった……。
本当は手を繋ぐ必要はないのに。
僕は指輪に集中した。
「あった。見つけた……レイザールにあるよ。近い。行ってみよう」
僕は所在地に向けて歩き出した。
ルーナはずっと手を繋いでるから僕もそのまま繋いでいた。
あそこだ。馬車の発着場の石畳の間の溝……。
「もしかしてレイザールに避難してきた時に失くしたんじゃない?」
「そうなの。その頃だと思う」
僕は溝に小枝を突っ込み指輪を拾い上げた。
服でゴシゴシしてルーナに渡した。
「ちょっと汚れてるから帰ったら洗ってね」
「ありがとう……もう出てこないと思ってた……」
「割と役に立つでしょ?」
「うん、すごいよ。尊敬する……人の役に立つスキルだよ!」
「そうなんだ。でもルーナの方がすごいよ。勇者だもん。凄すぎるよ」
「そんな事ないよ。戦う力なんて……レイ君の方がずっと凄いよ」
少し遅くなったので僕らは部屋を見に行くのをやめて公園を散歩していた。
あいつずっとついてきてる。
ルーナと別れた後どうなるか怖いな……。
「もしさっきの大男、ブレンが迷惑かけたら言ってね」
「うん、わかった。あいつずっと尾けてきてるから僕の家までつけてきそう。やだなぁ」
「何かあったら逃げてね」
そう言って僕たちは別れた。
ルーナもさすがに危害は加えないと思ってるんだと思う。けどあいつヤバそうだ……。
あいつがどっちについて行くか注目していたけど、案の定僕についてきている。しかも一気に雑な尾行になった。
僕は雑踏に溶け込み一気に距離を離した。
ブレンが右往左往しているのが見て取れた。
僕を見失っているようだ。
僕はそのままどんどん距離を取り、完全にまいた。
常に視界に捉えている要注意オブジェクトは五つになった。視界が少し煩わしいけど仕方ない……。
あいつ、どうやら冒険者ギルドへ向かったようだ。
まさか張り込むつもりか?
めんどくさいのに目をつけられた……。
僕はうんざりしながら適当な宿に入った。
ブレンは朝になってもギルドの近くにいた。
本気だな。本気で捕まえに来てる感じだ。
冒険者なんだから朝になったらクエストを受けにギルドへ来ると思ってるんだろう。
だが残念ながら僕は普通の冒険者とは違ってクエスト報酬で稼いでいない。
採取したアイテムを売って稼いでいる。ギルドを押さえられても痛くも痒くもない。
僕は朝食を済ませてフィールドへ出た。
いつものように希少なアイテムを集めて回った。
昼を過ぎた頃にブレンが動いた。
どうやら街への入場門を押さえに来ている感じだ。
僕はその前に滑り込み、ブレンと入れ違いで街に入った。
夕方ごろ、ブレンがまたギルドへ移動した。
あいつなんであんなに暇なんだよ!
ルーナは休みが全然ないって言ってたのに。
これだけ長時間僕を追うのはおかしくない?
本格的に狙われてるんだろうか?
僕はその日も宿を借りた。
翌朝ブレンはまだギルドにいた。
怖いよ。あいつ寝てないんじゃない?
僕は適当な服を買ってきて着替えた。
顔を覆うマスクをつけて、一見すると僕とは分からない。意外とマスクを付けている人は多いので、違和感もそれほどない。
僕は変装を済ませてこっそりとブレンを見に行った。
ブレンが誰かと会話をしている。
――騎士アレックス――
どうやら仲間もいるようだ。
僕は本格的に騎士に追われているようだ……。
ブレンがいない時は仲間に見張らせるんだろうか?
仲間を割り出す必要が出てきた。
とりあえずアレックスはブラックリストに追加しておいた。
今日は採取をせずこのままブレンをモニタリングして、他の騎士と接触するのを待つ事にした。
昼になってブレンは近くの宿に入った。
さすがに疲れたみたいだな。
その間もアレックスはギルドを張っている。
アレックスに誰か接触してきた!
――騎士ロバート――
また騎士だ……騎士ってどんだけ暇なの?
ブラックリストにロバートも追加しておいた。
まずい……視界がわちゃわちゃしてきた……。
ブレンが夕方宿を出てギルド前でロバートとアレックスと話をしている。
僕はギルドマスターの部屋から三人を見ていた。
「レイ……騎士に尾けられるなんて大事よ。何かしたの?」
「何もしてないですよ。幼馴染のルーナと食事しただけです」
「ルーナ……もしかしてあのルーナ?勇者候補の?」
「知ってるんですか?」
「知ってるわよ。あの子がスキルに目覚めた時、レントから勇者候補が出たって大騒ぎしてたじゃない。あのルーナの幼馴染だったの?」
「あいつらきっとルーナについた悪い虫を潰しに来てるんです」
「なるほど。そういう事ね。彼らにとってルーナは女神様みたいなもの。これは相当根深いわね……」
「確認出来てるだけで騎士ブレン、騎士アレックス、騎士ロバート。三人に尾けられています……」
「レイ……どうやって名前を割り出したの?」
「僕は近くの物を探知出来るんです。あと、探知と同時に名前も鑑定出来るので」
「なるほど……探知に鑑定……レイの採取力はそのスキルのおかげなのね」
「そうです。僕のスキルの事はご内密にお願いします」
「もちろんよ。二人だけの秘密にしとくわ」
急にしっとりした声出すのやめて。
ドキッとしちゃうから……。
「それはそうと……戦闘系のスキルは持ってるの?」
「いえ……初級剣術と加速だけです。後は生活魔法がいくつか」
「見つかったら終わりね……良いわ。しばらく私と一緒に行動して、ギルドマスターであるソフィアの愛人だと思わせる。これしかないわ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。別に愛人じゃなくて、部下や従者でも良くないですか?」
「あら、私の従者になってくれるの?」
「それであいつらが引き上げてくれるなら……」
「仕方ないわね。私の従者にしてあげるわ」
「よ、よろしくお願いします」
何故かめちゃめちゃ乗り気なソフィアさんに少し恐怖を感じるけど、とりあえずこれで大丈夫だろう……。
僕たちは何食わぬ顔でギルドを出てレストランに入った。ブレンとアレックスが尾けてきている事は確認している。
ソフィアさんが食事をしている横に立ち従者らしく振る舞おうとしたら向かいに座るよう指示された。
僕は向いに座り、いつの間にか楽しく食事していた。
なんか騙されてない……?
僕たちはレストランを出てソフィアさんの部屋まで来た。
「それじゃ、おやすみなさい」
「何言ってるの?レイも入るのよ。このまま帰ると確実に捕まるわよ」
「で、でも……そんな……」
「従者なら身の回りのお世話をしないと。さぁ入って」
僕は部屋に通された……。
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