5.脱出
絶望して上を見上げると結構広めの空間があった。上の方は暗くて見えない。
照明魔法を上に移動させて照らしてみると横穴がある事がわかった。
わかった所であの高さは無理だ……いや!普段なら到達出来そうもない高さの横穴だが今なら!
僕は浮力石以外の鉱石をカバンから出して足元に捨てた。そして思い切り飛んでみた。
浮力石のおかげで想像以上に飛ぶことが出来、僕は横穴に入り込めた。
「いいぞ!この先には魔物はいない!」
僕はそのまま進んでいき、やがて外へ出る事が出来た。
「こんな所に繋がっていたなんて……」
そこは前回フェンリルと僕が出会った場所。ゴブリンが沢山死んでいた場所の近くだった。道から外れた奥まった所だったので穴がある事に気づいていなかった。
「助かった!」
僕はフェンリルとブラックスライムの位置に注意しながら浮力石の浮力を利用して飛ぶように村に戻った。
「アルバートさん、フェンリルです!フェンリルがあの洞穴にいます!あと洞穴の前にロディとドランとバークが気絶しています!」
「わかった!フェンリルがまた出たと村長に知らせてくれ!」
僕は駆け足で村長へ知らせに行った。
その後アルバートさんは三馬鹿を救出しに行ったようだ。幸いもうフェンリルは居なくなっていて、三馬鹿は無事に救出された。
またフェンリルが確認された事により、僕達は再度レイザールへ避難した。
フェンリルはすでに遠くへ去っていたが、それがわかる事は伏せておくようにアルバートさんに言われたので申し出ていない。
ちなみに三馬鹿はフェンリルと戦ったと武勇伝のように語っていて何とも腹立たしい……。
レイザールの宿で母さんとアルバートさんと食事をとっている時だった。
「今回派遣されてくる騎士団の隊長はルーナさんなんだって。すごいわね」
「そうなんだ……すごいね」
「騎士団もいくつかに分かれていて、ルーナさんの為に一団が組織されたそうよ」
ルーナ……ますます遠くに行ってしまった……。
「レイ君、今は差があるように見えるが、君がその気になれば差なんてすぐに埋まるよ。ルーナさんとの将来だって諦める必要は無い」
アルバートさんが優しく微笑みながらそう言った。
母さんまで優しく微笑んでいる。
「別にそういうんじゃないんで……」
僕は冷やかしに耐えられず退散した。
ルーナは勇者になる可能性がある。
さすがに器が違いすぎる……そう悲観していた。
僕はレイザールの道具屋に再生茸と虹コガネと浮力石を持ち込んでみた。
「再生茸と虹コガネは買取りさせてもらうよ。ただ、このサイズの浮力石は買い取りが難しい……。君の噂は聞いているよ。これからも取り引きをさせて貰いたいが、さすがにうちの資金では難しい……」
高値がつき過ぎる為買い取りが難しいそうだ。
「ギルドへ持ち込んでみてはどうだろう?オークションに掛ければ青天井で値が上がるかも知れない」
道具屋の店主さんに勧められたので僕は冒険者ギルドへ持ち込んでみた。
「すみません、オークションで売りたい物があるんですが」
受付で聞いてみた。
「オークションに出品希望ですか?差し支えなければ品物を拝見させて頂けますか?」
「別室でお願い出来ませんか?」
「構いませんが……貴重な物でしょうか?」
「そうですね。あまり人目のある場所では出したくないです」
「かしこまりました。応接室へご案内致します。こちらへ」
そう言って僕は応接室に通された。
すぐにグラマラスな美女が応接室へ入ってきた。
「ギルドマスターのソフィアよ。さぁ何を見せてくれるの?」
ソフィアと名乗る美女は向いに座り、ワクワクした顔でこちらを見てきた。
僕は飛ばしてしまわないように注意しながら浮力石をカバンから出した。
「これはすごい……確かにこれは人前では出さない方が良いわね……」
ギルドマスターが目を丸くして浮力石を見つめていた。
「オークションは取引成立したら手数料として10%をオークション会社が、5%をギルドが取るわ。それで大丈夫?」
「はい、構いません」
「いくらで売りたい?開始値はいくらにする?」
「相場が分からないので……」
「そうね……このサイズだと装備品一式の重量を相殺出来るわね。欲しい者なら一億ギルでも出すかも知れないわ」
「そんなにですか?」
「浮力石が人気なのは、何にでも装着出来て確実な効果が現れるから。今装備している最強装備に装着すれば確実に強くなれる。高ランクの冒険者ともなればお金なんてもう価値を感じていない。価値があるのは強さのみ。浮力石はそう言った層に求められているのよ。重さも重要なタンク職には不人気だけれども、動きの速さを求められるアタッカーには絶大な人気を誇ってるわ」
「なるほど……じゃ一千万ギルスタートでお願いします」
「引き受けたわ。私が責任持って出品してあげる。あなたどこかのギルドの会員?」
「いえ、違います。どこにも所属してません」
「ならついでに冒険者ギルドに登録してはどう?売上金を管理するのもどこかのギルドに所属しないと現金で持ち歩く事になって大変よ」
「なるほど……確かに一千万ギルなんて持ち歩けない……」
どこかのギルドに所属しないと銀行は利用出来ない事を知っていた。そろそろどこかに所属して口座を作ろうと思っていたのでこの際冒険者ギルドに所属してしまおう。
「冒険者ギルドに登録しようと思います。手続きは受付でしょうか?」
「今ここでしてあげるわ。少し待ってて」
そう言ってソフィアさんは出ていった。
すぐに戻ってきて僕の前に紙を置いた。
「書き物は出来る?」
「なんとか……」
僕は母さんから基本的な読み書き算術は教わっていた。でもあまり自信はなかった。
名前、出身地……記入する項目はたったこれだけ。
あと下の方に四角で囲われた部分に血を一滴垂らせば良いそうだ。
針を貸して貰い一滴垂らした途端その紙が白から青に変化した。
「これで登録出来たわ。次に会員証と口座を作るから」
その紙をドアの外に待つ受付嬢に渡し、しばらく待った。
「ねぇ、この浮力石どうやって見つけたの?」
「たまたまです。鉄鉱石を掘っててたまたま見つけたんです」
「ふーん、たまたまねぇ……レイ、私あなたにすごく興味あるわ」
真っ直ぐ見つめられて言われたのでドキドキしてしまった。
「か、会員証まだですかね……」
ギルドマスターが前のめりにずっと僕を見てくる。
ドキドキして心臓が飛び出しそうだ……。
やがて受付嬢が会員証を持ってきてソフィアさんに渡した。ソフィアさんは会員証を確認して僕に渡した。
「はい、どうぞ。これでレイは冒険者ギルドの会員。口座もこの会員証で開設してあるから。何か良い物を売る時は必ず私に声をかけてね。この浮力石は私が責任持って預かるから」
「こんな大きな浮力石初めて見ました」
受付嬢さんが目を丸くしている。
「アイリス、あなたこれからレイに専属でついて。レイもこれからは必ずこのアイリスを通して。良いわね」
「かしこまりました。レイさん、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそお願いします」
そうして僕はギルドを後にした。
ヤバい、まだドキドキしてる……。
レントからレイザールは馬車で二時間ぐらいの距離。
大物を売る時はこっちで売る事にしよう。
ギルドを出た所で会いたくない奴らに出会ってしまった。三馬鹿だ……。
「誰かと思えばレイじゃないか。お前フェンリル見た事あるか?」
「いや、ないよ」
「そうか。俺達も冒険者として活動をしているが奴に会ったのは初めてだった。一目でわかったよ。コイツは強いとね。被害が出ないよう抑えられないか試したが俺達もまだまだだった。でもあのフェンリルと戦って生き残ったんだ。俺達もまた強者だったと言う事だろうな。お前も採取頑張れよ」
そう言って冒険者ギルドに入っていった。
腹立つ……咆哮一発で気絶したクセに……。
まぁ自分も頬を舐められて気絶したので何も言えない……。
宿に戻ると母さんとアルバートさんから話しがあると言われた。どうやら二人は結婚したいそうだ。僕には反対する理由が一つもない。祝福すると答えた。
結婚したらレイザールに移り住むつもりだと言う。僕もレントにはそれほどこだわりがない。
良い年齢だし、レイザールで部屋を借りてみようと思う事を伝えた。
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