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4.アルバートさん


「母さん、行ってくるね」

「いってらっしゃい。今日も頑張ってね」


 僕は18歳になっていた。

 僕の収入はとんでもない事になっていて、母さんには家で専業主婦をしてもらっていた。ちなみに何故かうちにはアルバートさんが入り浸っている……。


「フェンリルは接近していないか?」


「はい、ずっと遠方にいます。常にモニタリングしてるので接近してきたらすぐに伝えに戻ります」


「あぁ、頼りにしているよ」


 そう言って僕は家を出た。

 アルバートさん、母さんといい感じになってる。

 良い人だから今の関係を僕は歓迎していた。


「ようレイ。今日も拾いもん乞食か?」


養成校を卒業したての三馬鹿のリーダーのロディがニヤついて声を掛けてきた。


「バカ、レイはごにょごにょ……」


 三馬鹿の一人ドランがすぐに制止した。

 嘘だろ?と言わんばかりにロディは僕を見た。


「レイ、今度うちに遊びに来ないか?また昔みたいに一緒に遊ぼうぜ」


 三馬鹿の一人バークが僕に馴れ馴れしく言ってきた。露骨な手のひら返し……。


「そうか……採取の仕事はうまく行ってるようだな。俺たちお前の事心配してたんだよ。また俺達にも採取のコツを教えてくれよ」


 ロディが心配していたなんて事を言ってきた。

 顔も見たくない……。


 僕は無視して三馬鹿の横を通り過ぎた。



 フィールドに出た所で僕はリストを取り出した。道具屋のおじさんが高く買い取ると言っていたリストだ。上から順にサーチをかけていく。


「よし、すぐ近くだ。今日も幸先がいいぞ!」


 ちなみに敵対生物は常にサーチしている。

 近くにいない事を確認しながら行動しているので魔物には会わない。


 茂みの奥の深い所に自生している再生茸を取れる範囲で採取していった。これは上級ポーションの素材として高値で取り引きされている。


 次は虹コガネ。これは希少昆虫ですり潰して鋼に混ぜ込んで鍛造する事で虹鋼の装備品が作れる。虹鋼は魔法防御に優れている為、虹コガネは非常に人気の素材だった。

 希少昆虫だがサーチするとすぐに密集地を発見出来た。僕は乱獲にならない程度に残しながら採取していった。


 次は浮力石。これを装備品に埋め込む事で軽量化が出来るらしい。軽量化どころか、重量ゼロも実現でき、フルアーマーを装備しながら着ていないかの様に動ける。その効果は群を抜き、超高値で取り引きされる。滅多に存在しない超貴重品だが、もし発見出来たら買い取りたいと言っていた。

 今まで存在を知らなかった為、今日初めてサーチをかける。非常に楽しみだ。


「浮力石……あるかな?」


視界にブワッと浮力石の所在が表示された。


「僕にかかればこの通り……」


 一人でニヤついていた。幸い近場にもあるようだ。

 場所はあの洞穴。

 最初にフェンリルが発見された場所。

 でもフェンリルは遠方にいる。近くにはいない。

 僕はその洞穴へ向かった。


「この洞穴も久しぶりだな。あの子犬はどこに行ったんだろ?」


 そんな独り言を言いながら洞穴に入っていった。

 簡単な生活魔法は取得していたので僕は照明魔法を発動した。


「敵はいない。罠もない。大丈夫だ」


 僕は確認しながら進んでいった。

 昔丈夫な柵があったけど、今はもう無くなっていた。おそらく騎士団の捜索で取り外されたんだろう。


 柵があった所より奥へは入った事がない。

 僕は少し不安になりながらも進んでいった。

 洞窟はどうやらかなり深いみたいだ。

 しばらく歩いて浮力石のありかに到着した。


「すぐ出てくれば良いけど……」


 僕はハンマーとタガネをカバンから出して岩を砕いていった。

 思ったより柔らかい岩だったので簡単に取り出す事が出来た。


「ふぅ、やったぞ。これが浮力石……」


 岩肌から剥がれた瞬間天井まで飛んでいきそうになって慌てて取り押さえた。危ない……外で手を離してしまうと空の彼方に飛んでいってしまうだろう……。

 僕は急いでカバンに詰めた。

 けど、今のカバンの重量では押さえきれない。それどころかカバンを体に密着させている僕自身もふわふわしてきている。


「取れた浮力石……ちょっと大き過ぎたんだろうか。僕ごと浮いてしまいそうで怖いな……」


 荷物の重量を増やす為他の鉱石がないか探知してみた。ここでも利便性が発揮される。

 具体的に欲しい物を探す時はサーチ、近場で良いものがないか調べるのは探知。僕は使い分けていた。


 鉄鉱石や銀鉱石をいくつか採掘した所で出口付近に敵対生物が近づいているのがわかった。

 三馬鹿だ……あいつら敵対生物としてサーチ出来てるんだけど……さっきまで敵対生物としてはサーチ出来てなかったのに。

 急に敵対するって事は僕を攻撃する意思が生まれたって事……。

 あいつら僕が無視した事に腹を立ててるんだろうか……こんな人の目のない所で……正直何をされるかわからない……。


 僕は背筋が寒くなるのを感じた……。


 次の瞬間、ずっと遠くにいたフェンリルが一気に接近してきているのがわかった!


「こんな時に……」


 見る間に接近してきて洞穴の外から魔物の咆哮と三馬鹿の騒ぐ声が聞こえた。

 離れている僕もすくみ上がってしまう咆哮だった。


 まただ……また一気に接近された……。


 外の騒ぎ声はもう止まっている。

 三馬鹿はどうなっただろう……。

 意識を集中してみた。


――ロディ(気絶)――

――ドラン(気絶)――

――バーク(気絶)――


 三人とも気絶している……。

 今回も死人は出なかったみたいだ。

 だからと言ってさすがにフェンリルには近付けない!


 フェンリルは洞穴に入ってきた。

 くそっ、どうする……!

 僕は奥へ向かって走った!

 頼む!どこかへ抜けていてくれ!

 縋るような気持ちで僕は奥へ走り続けた!

 随分走ったけどまだ続いている。

 洞窟は曲がりくねっており、方角的にこのまま走ると敵対生物がいる事に気付いた。

 その敵対生物に意識を向け、それが何かを確認してみた。


――ブラックスライム――


 ダメだ……ブラックスライムなんて絶対倒せない……なんでこんなとこにブラックスライムが……。

 でも洞窟がこのままブラックスライムに繋がっている保証はない。上手く洞窟が曲がり、避けて通れるかも知れない。

 僕は一縷の望みに掛けて進み続けた。


「ダメだ……間違いなくブラックスライムに到達する……」


 僕は立ち止まった。

 後ろからフェンリルが追ってきているのはわかっていた。止まったら追いつかれると思ったけど、僕が止まるとフェンリルも止まったようだ……。


「やっぱりこのフェンリル……害意はないのか?それとも遊ばれているのか……?」


 どちらかを選ぶしかない。

 害意はないと信じてフェンリルの方へ行くか、ブラックスライムの横をすり抜けて先へ進むか。

 どっちも生存確率は限りなく低い……。


 母さんごめん。僕はもうダメかも知れない……。


 せっかく良いスキルがあってもこういう逃げ場のない場所へは入っちゃダメだったんだ……。


 僕はどちらも選べず立ち尽くした。

 フェンリルかブラックスライムが居なくなる事に期待して待ち続けた。


 どれぐらい経っただろうか……ずっと動きがなかったフェンリルとブラックスライムだったが、最も恐れた方向へ自体は動き出した。

 ブラックスライムがこちらへ移動し始めた。

 距離はまだまだあるから、途中で引き返すかも知れない。でもこちらの気配に気付いて移動を開始したのなら真っ直ぐここまで到達するだろう……。

ブラックスライムがこちらに移動を開始してしばらくすると、フェンリルもこちらへ近付いてきた。


 「もうダメだ……」


 僕は半ば絶望して上を見上げた。



 

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