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34.ポジション

 目配せを受けたセインは目を瞑り大きく息をはいた。


「なんだなんだ?昨日なんかあったのかよ?面白そうな話じゃねぇか。セイン、早く話せ!」


 だらしなく椅子に寝そべっていた男は姿勢を正して聞く体制になった。


「ロイ、お前は前世代の超越者達に興味はあるか?」


「は?前世代の超越者達……?それはルーナのパーティの賢者と聖女の事か?


「そうだ。興味はあるか?新世代の超越者たる俺達とどっちが上か……」


 ロイは少し考えたが、答えはわかりきっているとばかりに答えた。


「勝負になんのか?俺達とあんなロートル達が?」


 ロイは何故そう思ったかをセインに話した。


「ヨルムンガンドを退けたのは確かにすげぇと思うが……賢者と聖女って言うよりルーナの力が大きいんじゃねぇか?」


 セインは少しため息をつき、昨日の事を話し始めた。


「昨日、俺の隠密が勇者候補ルーナのパーティに看破された。俺は賢者か聖女……どちらかだと踏んでる」


「お前の隠密が……嘘だろ?そりゃ深刻だな。確かに……よく知ってる存在だが、本当の実力は知らない……」


 ロイは考え込んでいる。


「私でも感知出来ないセインの隠密を看破するなんて只者じゃないわね。どんなスキルなのかしら?」


 今まで黙って聞いていた盗賊風の女が口を挟んだ。


「わからない。何かしらの結界が敷かれていたのかもしれない。大概の結界なら看破できる自信はあるが……その時は何も感じなかった」


 考え込んでいたとんがり帽子の女が発言する。

 

「タネがわかるまでは接近しない方が無難って事……案外バロンも同じ事言ってんじゃないかしら?」


「その可能性は大いにある。バロンの危機回避能力は半端じゃないからな」


 セインとネイは同じ考えのようだ。

 面白くないと言う顔をしながらロイがまた姿勢を崩し始めた。


「その能力が現役最強の黒龍団を作り上げたんだもの。あいつの動向はチェックしておいて損はないわ」


 魔導士風の女は黒龍団を見ながらそう言った。


「星剣の行動方針は一旦静観。勇者候補ルーナのパーティには近づかない。ロイもいいな?」


 セインは着地点を静観と決定付けようとしたがロイの発言で全て台無しとなる。


「ヤベェのは賢者か聖女だろ?ならルーナは別にいいんじゃねぇか?」


 うんざりだと言った顔で少しキツめに言い聞かせるように言った。


「バカ言うな。ルーナは神輿だ。ルーナの後ろには賢者と聖女の策略が張り巡らされていると考えていい。絶対に手を出すなよ」


「俺なら看破出来るかもしれねぇ。俺の真実の眼がそう言ってるぜ」


 ロイはいつもの馬鹿さ加減を発揮し始めた。


「クッ……やっぱりお前と言う奴はどうしようもないな……ジークにも釘を刺されてるんだ。ルーナを試すなよ、と」


「まぁいいじゃねぇか。バロンの時もそう言われたがなんとかなったじゃねぇか。俺に任せとけよ」


「…………」


 セインは忌々しそうな目でロイを見た。


「まぁいいじゃない。パーティメンバーがいつも一緒って訳じゃないでしょ?私達だっていつも一緒にいる訳じゃない。個別に活動してる時ならひと絡みするぐらい良いんじゃない?」


 盗賊風の女がロイの援護射撃を始めた。

 セインは「お前まで……」と言った表情で盗賊風の女を睨みつける。


「俺の隠密を看破したタネがわかっていないんだ。一緒にいなくとも警戒すべきだろう?」


「いつになく慎重ね……星剣がぽっと出のパーティに……そこまで警戒しなくちゃダメかしら?」


 盗賊風の女が挑発的な顔でセインに食ってかかった。


「ティリス……俺はどうなっても知らないからな」


 セインは不機嫌そうに立ち上がりギルドを出て行った。


「セイン……あいつビビりすぎだろ?俺らがロートルに遅れをとるなんて本気で思ってんのか?」


「まぁね……でもセインの隠密が看破されたのは事実。今までにない相手だけに、あの反応もわかる気がするわ」


「まぁあいつは天才児だからな。今回初めて敗北感ってやつを味わったのかもな」


 ロイの若干小馬鹿にしたようなニュアンスにイラついたように今まで黙っていた戦士風の男が声を荒げる。


「お前ら、それぐらいにしておけ。セインの立てた方針が間違ってた事が今まであったか?今回もあいつの見立ては間違ってない。俺はあいつについて行く」


 戦士風の男はそれだけ言って立ち上がり、ギルドを出て行った。


「チッ……マルスもセインも冗談が通じねーからな。しゃーねぇ。ルーナを試すのはやめとくか……」


「そう?なら私が試す」


 もう一人、沈黙を守っていた少女がロイの後ろから囁いた。


「謎の少女ポジションは私の専売特許……リンとか言う女にわからせてあげないと」


「そっちかよ。まぁそっちは俺は興味ねーわ。お前の好きにしな」


 パーティにおける「謎の少女」ポジションにこだわりを見せた少女の言葉にティリスとネイはギクリとした顔をしていた。


「アビー……程々にね……」


「それは相手次第。どっちが謎めいた部分を守りきれるか……勝負するだけ」

 

「そりゃどんな勝負だよ……謎めいた部分を守る勝負?内容が見えねぇ〜」


 ロイが茶化した。


「少し恥ずかしい目にあわせるだけ。服を切られて肌が露出しても謎の少女のスタンスを維持出来るかどうか……謎の少女は表情を崩してはいけない。そこが勝負の分かれ目」


「なんだそりゃ……犯罪にならねぇようにお前ら監視しとけよ。アビーはたま〜に一線を越えそうになるからな」


 そうネイとティリスに伝えてロイはギルドから出て行った。


「いつも一線を越えるのはロイ。私のは越えそうで越えない。一緒にしないでほしい」


  アビーはそう言うとギルドを出て行った。

  その後を追うようにティリスとネイも出て行った。


 

 雑踏の中、セインはイラつきを押さえられずにいた。

 ルーナパーティに関する情報が少な過ぎるのだ。

 遠征から帰ってきたばかりなので仕方がないが、昨夜見れたのはルーナのステータス部分だけ。スキルは確認出来ていないし、他のメンバーに至っては全くの未知。


 いつもなら隠密で近づき、鑑定で情報を得る。

 至極簡単な仕事だ。俺の十八番。

 だが隠密を封じられるだけでここまで追い詰められるものなのか……。


 もう一度接近してみるか?

 鑑定スキルを発動出来るまで近付くには隠密は必須。

 俺の隠密は……本当に看破されるのか?


 あれはジークの思い込みだったかも知れない。

 入室と退室のタイミングがたまたま合ったのをあいつが早合点した可能性もある。

 ギルドマスターなんて職に就き、能力の高い風を装っているが、スキル関係では俺の足元にも及ばないただの筋肉馬鹿だ。

 あんな野郎に踊らされてたまるか。

 危ない橋ではあるが……確認しなければ前に進めない。


 セインは立ち止まり、来た道を引き返した。

 途中外套を裏返し、赤い装いから漆黒の装いへと変装する。   

 フードを目深に被り、首元から布を引き上げ口元を覆った。

 ギルドに到着して酒場で飲み物を頼み、あたりを観察した。


「ルーナパーティはいない……」


 必ず来るはずだ。

 今日来ないと言う選択肢はない。

 これだけ冒険者が集まっている中で颯爽と登場し、一気に顔を売るだろう。

 パーティレベルはヨルムンガンドの件だけで俺達に肉薄してくるかも知れない。


 黒龍団はもう姿を消していた。

 あいつらはどの程度情報を得てるのか。

 

 こんな時に諜報活動ができるパーティメンバーが俺しかいないのが悔やまれる。ティリスがもう少し……いや、よそう。


 他のパーティが沢山いて騒がしく動いているが、ルーナのパーティはなかなか現れない。

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