29.兄から姉へ
仕事が落ち着き、少し時間が取れるようになってきました。
また細々と更新していこうと思います。
お暇な方はよろしくお付き合い下さい。
シトリーに引っ越しの約束を取り付けてからギルドへ戻ると、レイは大勢の冒険者や商人に取り囲まれた。
「な、なんですか?僕に何か用ですか?」
大勢の中から商人風の男性が歩み出て代表として話し始めた。
「アイテムの鑑定をお願いしたいのです。今日の新聞や今朝の出来事を聞きました。鑑定料に関して、本日中なら五千ギル、明日以降は二万ギルであると聞き及んでおります。出来るなら本日中に鑑定して頂きたくこちらでお待ちしておりました」
なるほど……こういう事になるんだな……。
「わかりました。ケインさん達はギルドへクエスト完了の報告をお願いします。リンは横にいて」
ケインさん達は受付へ向かい、リンは横に付いてくれた。
「個数を申告して鑑定料を僕に渡して下さい。順番に個数を聞いていきますので、自分の場所を決めてアイテムを並べて下さい」
みんな各々アイテムを広げ始めた。場所が足りないかも?
「場所がなくなった方は二巡目で鑑定しますのでそのまま待っていて下さい。では並べた方から鑑定料を徴収していきます。リン、手伝ってね」
僕は端から順に料金を徴収していった。
一巡目で三十人ぐらいの人が各々五〜十個程度を並べていた。
「では鑑定します。アイテムに触らないようにお願いします」
僕はわざとらしく手を動かし、如何にもスキルを発動してるような素振りを見せた。
アイテムの数は二百個近くあるが、今回は当たりが少ないようだ。魔法効果のあるアイテムを看破していき、一巡目が終了した。二百近くあった中から十二個が効果の封印された物だった。
中でも数人の冒険者に偏って発見されたので、その冒険者のレベルの高さがうかがえる。
「では二巡目にいきますので、今鑑定したアイテムは回収して帰って下さい」
だが数名の冒険者が悪態を吐きながらアイテムを捨て置き帰ってしまった。マナーの悪い人はどこにでもいるよね。
「最低……置いていったやつの顔全部覚えた。もう次から見なくていい」
リンが憤りをあらわにした。
捨て置かれたアイテムを回収して二巡目に突入した。
幸い二巡目で全て見ることが出来そうだ。
二巡目は百五十個程度だったと思う。
一気に確認して合計八個の効果の封印を受けたアイテムを看破した。
徴収したお金は全部で174万ギル。全部で348個あったようだ。
一部始終を見ていた記者さんが近付いてきた。
「今朝もお会いしましたフェリスです。素晴らしいスキルですね。この短時間でこれだけの数を鑑定出来、かつその鑑定率は100%だとか。スキル名をお聞かせ願えませんか?」
「いくつかのスキルを複合して使用しています。手の内を明かすのはここまで。今日は魔王シトリーを居城から退去させるクエストを達成してきました。一週間以内に退去すると言う約束を取り付けてきたので記事にしてもらって良いですよ」
「情報感謝致します。記事にさせて頂きます!スキル名はいつか教えて下さいね」
そう言ってフェリスは雑踏へ消えていった。
「レイ君終わった?報告も済んだよ。これからみんなでご飯食べに行こうかと話してるけどどうする?」
「行くよ。リンは?」
「また一度狩りに出かけてもいい?」
「もちろん。僕はミラーリングをしてるから街にいる限り大丈夫だからね。安心して行っておいで」
リンにそう伝えて僕たちは食事をとる為に移動を開始した。
ケインさんがいくら稼いだのか聞いてきたので今得たお金を教えた。
「174万ギル……明日以降ならその四倍取れていた訳だな。まぁお前のスキルは唯一無二のスキルと言っていい。四倍にしても客足が途絶えることはないだろう」
「でも鑑定士業は商売上がったりでしょうね……レイ君恨まれたりしないかな……」
ルーナが少し心配顔でつぶやいた。
「いや、おそらく鑑定士業は今まで通り商売出来るだろう。その為にレイの鑑定は高く設定したんだ。鑑定士が鑑定し切れなかった物のみが持ち込まれる可能性が高い。鑑定士の後にレイの出番が来る。棲み分け出来るだろう」
「なるほど……確かに……」
「レイ、あなたのスキルは魔力を消費しないの?昨日のガラクタ市の時もそうだけど、ブラウズする対象が幾つになろうと関係ないのかしら?」
「素の僕のステータスでも普通に使えたので、ごく僅かだと思います。ミラーリングしてる状態では瞬時に自然回復してしまう程度の消費量です。多数ある中からマジックアイテムをサーチで選び出すのに一度消費して、個々にブラウズして詳細を確認する度に少しづつ消費しています」
「なるほど……多数の中からマジックアイテムを選別するのにサーチを一回、その詳細を確認するのにアイテム一個に対して一回ブラウズを使用しているのね」
「ごく僅かの魔力消費で2万ギル……羨ましい限りです」
「こいつは全てが例外だ。同じ人間だと考えると心が折れる。珍獣中の珍獣だと思って見るぐらいにしておけ」
非常識である自覚はあるけど……珍獣って酷くない?
リンは森の中を全力で駆けていた。
人の姿でいるとどうしても身体が鈍ってしまう為、狩りに出た際にはこうして全力で駆けて限界まで身体を研ぎ澄ます。
魔物と戦ったとしても、フェンリルが全力を出せる魔物などほぼいない。だからリンは走る。意外に「走る」という行為は自分の限界に挑戦できる。単純な行動であればある程全力を出せるのだ。
超スピードで景色は流れてゆき、やがてほど深い渓谷へ足を踏み入れた。
息を整えてリンは渓谷の奥に目をやる。奥には鈍く光る瞳が二つ……氷のように冷たい視線がリンの瞳に到達した。
「兄上……転生は無事に済んだようだな……」
渓谷の奥、闇の中から巨大な鎌首が這い出てきた。
フェンリルの巨躯を持ってしても遥か上空を見上げる形での対面となった。
「ヨル、私は今世では姉」
「ふん……そんなどうでも良い話をしに来た訳ではないだろう……何しにここへ?」
「面白い話を持ってきた。人間の戦士達が集う冒険者ギルドという組織がある。知ってる?」
「ここへも何度か冒険者を名乗る者が来た事がある。全て軽くひねり潰したがな」
ヨルと呼ばれた大蛇は尾で地面を強打した。
衝撃の強さで渓谷は揺れ、ガラガラと頭上から岩が転がり落ちた。
「それが原因。ヨル、その組織内では、ヨルムンガンドが最高討伐難度の魔王として知られていた。ヨル、いつの間に最高討伐難度の魔王になった?」
「わ……我が最高討伐難度の魔王だと……?恥ずかしいからそんな話はデタラメだと言っておけ。我など足元にも及ばぬ魔王はいくらでもおると言うのに……」
ヨルと呼ばれた大蛇は勢いよく叩きつけた尾をおずおずと奥へ引っ込めた。
「ヨルが長くここに居座って冒険者を潰しているから悪い。シトリーは人間に棲み家を譲って程々に移動しているからそれ程注目されてなかった。ヨル、鱗を一枚置いて他の谷へ移動したらいい。私が退けたことにしておく。そうしたらヨルの討伐難度も下がる。弟が最高討伐難度の魔王を名乗っているの恥ずかしい」
「名乗っておらんわ!……わかった。我の鱗を一枚持って行け。すぐに移動しておく……」
ヨルと呼ばれた大蛇は口で鱗を一枚剥ぎ取りリンの前へ置いた。その鱗はフェンリルの頭程の大きさであった。
「これでいい。これでヨルは最高討伐難度の魔王ではなくなるはず」
「兄……姉上はどうやって我を退けたと人間に知らせるつもりだ?」
「私は今人間に擬態して人間と行動を共にしている」
「なんと……姉上はそこまで魔道に精通していたか……人の世界に溶け込むには高度な擬態力とさらに高度な知性を求められると聞く。姉上がその域に達していようとは……我も転生を視野に入れていかねばなるまいな……」
「つがいも見つけた」
「なんと?!つがい?それは何者か?いずこかの魔王か?」
「人間。とても面白い人間」
「……人間とつがうと……?」
「すでにメフィスト公公認」
「メフィスト公……?何を言っておるのだ?」
「トールおじさんにも伝えてある」
「待て、姉上……我をからかっておる訳ではないのだな?本気で人間とつがうと言うのだな?」
「そう、レイって言う。そのうちヨルにも会わせる」
「何故急にメフィスト公などと言う雲上の名が出たか解せぬが……まぁよい。一度父上とも話してみるとしよう………では姉上、我は行く……」
ヨルと呼ばれた大蛇は谷の奥へ消えていった。
リンは鱗を咥えて来た道を引き返した。




