28.ミラーリングの影響
魔王シトリーの居城へ向かいながら僕は魔力を制御する訓練を続けていた。
ミラーリング対象はロンドさん(普通の人)だ。
「ロンドも充分超越者と言える存在なんだがな……まぁ一般人ではすぐに魔力切れを起こすからロンドぐらいがちょうどいいかも知れんな」
「レイ殿にしてみれば私は普通の人なのでしょうね……」
僕は崖に向かい最大限に絞った火球を放った。
30cm程度のファイアボールが壁に激突して穴を開けた。
「まだまだだ。しっかり絞ればここまで出力を落とせる」
ケインさんは指先に蚊ほどの火球を作ってみせた。
「飛ばさずに指先に止めるのも魔力制御の内ですか?」
「そうだ。飛ばす事に使われる魔力をゼロまで絞れば飛ばない。制御が出来てくるとこんな事も可能になってくる」
そう言って火球の大きさを大きくしたり小さくしたり、指先一本に対して一つの火球、全部の指で十個の火球を出すなど、いろんな事をやって見せてくれた。
それを横目で見ていたソフィアさんが横槍を入れてきた。
「まさに変人の技ね。レイ、こんな事が出来るのはケインだけよ。同時に十個の魔法を平行発動するなんて人間技じゃないわ。程々に参考にするのよ」
ケインさんが反論する。
「ばかたれ!何事も精進だ!精進次第で出来るようになる!初めから出来ないと決めつければ出来ないままだろうが!」
「初めの一歩を指導するのに、人の身では到達出来るかどうか分からない千歩目を教えてどうするの?今のレイのレベルに合わせて指導すべきだと思うからそう言ったのよ」
ふと思った。
今まで試した事ないけど、人のステータスに他の誰かのステータスをミラーリングする事って出来るのかな?
ちょっと試してみようかな。
僕はさっきのトールさんをブラウズした。
やっぱり化け物だ。メフィストさんのステータスには到底及ばないがリンのステータスは軽く超えている。
そのステータスをケインさんにミラーリングしてみた。
瞬間ケインさんの指先の火球がブワッと巨大化した。
慌てたケインさんが空に向けて火球を放った。
太陽みたいに膨れ上がった火球は空へ向けてどこまでも飛んでいった。
僕は迂闊にもニヤついてしまった。
「おい、お前!何かしたろう?」
ケインさんが鋭く突っ込んできた。
「自分のステータスを確認してみて下さい」
「自分のステータス……おぉぉ……まさかお前……」
「今まで試してませんでしたが、人のステータスを人にミラーリング出来るようです」
「殺す気か!今の火球は危なかったぞ!しかしこれは大変な発見だな……お前のミラーリングは継続しているのか?」
「いえ、同時に複数はミラーリング出来ないみたいですね」
「まぁ当然と言えば当然か。それでも恐ろしいスキルだな。弱体化も可能になるんじゃないか?」
「どうでしょうか。やってみないとわかりませんが」
横からニヤついたソフィアさんが話に参加してきた。
「ケインですら有り余る魔力を与えられると制御が出来ないのね」
「おい、今のは聞き捨てならん。俺は制御出来る。自分の預かり知らぬタイミングでミラーリングされたんだから今のはナシだ。よく見ろ。これが俺の魔力操作だ」
ケインさんの指から火球が現れた。
一瞬膨らみかけたかと思うと小さくなり消えてしまった。
みんな注目している手前ケインさんも後には引けない。
もう一度火球を出して大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。
「うぉぉぉぉぉ!」
ケインさんから普段聞かない叫びが漏れた。
暴れる魔力と必死に戦っていたケインさんだったが、どうにか安定してきた。
若干憔悴したように見えるケインさんが言い放った。
「ど、どうだ……見ろ……鬼神トールの魔力を制御しきってやったぞ……」
「必死じゃないの……」
ソフィアさんが笑いを堪えながら言った。
「レイ……お前の気持ちがわかった。自分の能力を超えた魔力を与えられると制御が困難だと言う事が良くわかった。ミラーリングはそのステータスを使いこなすのに少し時間がかかるようだ。時間をかけてコツを掴むしかない。いざと言う時にいきなり使うのではなく、来るべき時に備えて習熟しておく必要があるな」
「そうですね。それに今ケインさんにミラーリングしているトールさんのステータスは戦士寄り。ケインさんには合わないですね」
「確かにそうだな。ミラーリングを戦力として考えるならそれぞれのスキルに合ったステータスを選抜すべきだろう」
その後ケインさんを元に戻し、再びロンドさんをミラーリングして魔力制御の練習を始めた。
しばらくするとケインさんが身体に感じる違和感をうったえた。
「お前はミラーリング後に何か感じた事はなかったか?高いステータスをミラーリングしていた影響だと思うが、自分の能力が増加した気がする」
「どう言う事?」
ソフィアさんが続きを促した。
「正直な所、俺は自身の能力に限界を感じていた。もう自分の能力はここまでだ。伸ばせるところまで伸ばしきった、と。だがしばらくトールのステータスをミラーリングして魔力操作をした影響だろう。恐らくだが一度に扱える魔力量が増えている。魔力を司る器官の器が広がったような感じだ。上手く説明出来ないが、頭打ちだと感じていたこの身に伸び代が追加されたと感じる。ミラーリングは単純なステータスの上書きではない。そのステータスを受け入れる身体にも大きな影響を与えているようだ。そしてその変化はミラーリング解除後もその身に残る」
「それって魔法の威力に直結するんじゃない?」
「あぁ、恐らく俺の魔法の威力は以前に比べて上がっている。俺が思うに、本来の自分より強力なステータスをミラーリングして本来の自分では出来ない動きを行う。結果的にそれに対応できるよう身体能力も上がる。まだ仮説だが、大きく外してもいないだろう」
「このスキルは修行にも使えるという事ですね。レイ殿のスキルはどこまで汎用性が広いのでしょうか……」
「レイ君、私もミラーリングを試してみたいんだけど……」
「わかった。じゃリンをミラーリングするよ。その状態で少しリンと手合わせしてみて」
僕はルーナにリンのステータスをミラーリングした。
ルーナが自分の身体を動かして不具合がないか確認をしている。
「うん、身体が良く動く!リン!手合わせお願いして良いかな?」
「わかった。いつでも来て」
リンとルーナは手合わせをしながら移動する僕たちについてきた。
リンの動きもルーナの動きもハンパじゃない!
リンの動きが早いのは知っていたけど、ルーナは勇者の息吹によってステータスブーストがかかっているのか、むしろリンを押しているようにも見える。
「ルーナの身体能力はすごいな。すでにリンのステータスに身体が追いついているようだ。勇者は超えるべき壁が高ければ高い程成長していくと言われている。身近にリンという壁があれば、それを越えるために成長する。ミラーリングしてリンと手合わせする事でルーナは化けるかもしれんぞ」
「そうですね……ミラーリングしてない状態だと僕には二人の動きは見えないですよ……」
「お前の本来の身体能力も上がっているはずだぞ。良く注視してみろ。タロスの動きが止まって見えたように注視する事でよく見えるようになるはずだ」
そうだと良いんだけど……と思いながら二人の動きを注視した。
見え……ないな。やっぱり。
「やっぱり見えません……」
「そうか……まぁ戦闘が始まればお前はメフィストのステータスをミラーリングすれば死ぬ事はないだろう。戦闘以外はルーナの成長に協力してやればいい」
「そうします。シトリーの城はまだでしょうか?」
「いや、そろそろだろう。そろそろリンとルーナも手を止めてシトリーに備えろ」
「わかりました!」
やがて遠くに城が見えて来た。
城というよりお屋敷のようだった。
「見えてきましたね。サーチしてみます」
城の中には五十体程のの魔物と一体の魔王、シトリーがいた。
「兵の数は五十といった所です。思っていたより少ないですが、一体一体がかなり強そうです。シトリーは人の姿のリンと同じか少し向こうのほうが強いようです」
「リンちゃん、移動してもらえるように説得してね」
「わかった」
僕たちは城門までやってきた。
「シトリー、いる?」
リンが声をかけた。
城門が開き、僕やルーナと同じ年代に見える女の子が出てきた。
「リン、急に来てどうしたの?」
「シトリーに引っ越ししてもらいたくてお願いしに来た」
「引っ越し?ここもダメなの……?あなた達に言われてもう二回引っ越ししたんだけど?まだ気に入らないの?」
シトリーはリンから目線を外して僕たちを見て言った。
「すみません、ここを通って先を探索させて貰いたいんです。難しいでしょうか?」
シトリーは真っ直ぐ僕を見た。
「あなた何者?あなたのステータス見えないんだけど。人間よね?」
「シトリー、その人はレイ。リンのつがい」
「えっ?つがい?ちょっと、どう言う事?嘘でしょ?」
「本当。リンのつがい」
「聞いてないんだけど……リンに先を越されるとは思わなかった……」
シトリーはショックを受けているようだ。
「シトリー、引っ越し……」
「わかったわかった……あなたのつがいがお願いしに来たんじゃ引き受けない訳にもいかないじゃない。一週間以内に移動しておくわ」
「ありがとう」
「いーえ、どういたしまして」
シトリーは僕を真っ直ぐ見ていった。
「あなた、リンは私の友達なの。泣かせるような事をしたら殺しに行くから」
「わかりました。リンは僕が守ります」
「馬鹿じゃないの?リンは守る必要なんてない。泣かさないでと言ってるの。わかった?」
「わ、わかりました……」
「頼りないわね……まぁいいけど。じゃあね、リン」
そう言ってシトリーは城門の中へ入り、門は閉じられた。
「クエスト完了ですよね?」
「シトリーは約束した。絶対守ってくれる」
リンが答えた。
「よし、ギルドへ報告に戻ろう」
僕たちはテレポートでギルドへ戻った。
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