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2.フェンリル


「レイ、今日も行くの?」

「行くよ。どうして?」


 母さんが聞いてきた。

 

「ここの所魔物が目撃される事が多いから気をつけてね」


「うん、わかってる。しっかり警戒してるから」


「そうね、あなたのスキルなら心配ないと思うけど、それでも注意するのよ」


「わかった、行ってきます!」


 フェンリル事件からニ年が経過した。

 あの後王都の騎士団が派遣されてフェンリルを捜索したが、ついに見つからず仕舞いだった。

 二週間の期間を置いて僕たちはレントに帰ってきていた。


 あれ以降一個で八万ギルなんていう稼ぎはないものの、順調にアイテムを拾って家計を助けていた。

 その間に僕は簡単な戦闘スキルである初級剣術と加速を取得していた。

 弱い敵なら倒せば良いし、強い敵なら逃げればいい。

 僕のサーチはその判断が容易に出来る。

 サーチの範囲内であれば敵の位置、敵の名前がわかるからだ。毎日ずっとサーチを展開しているのでサーチ出来る範囲もずいぶん広がり、最接近前に戦闘するか避けるか選択出来る。


 今日もいつものようにフィールドを歩いていた。

もう配達の仕事はやめて、アイテム探し一本に絞って活動していた。その方がよく稼げるからだ。


――薬草――

――薬草――

――毒消し草――

――銀鉱石――


あっ、銀鉱石だ。

今日は幸先のいいスタートだ。

僕は拾ったアイテムを背中のデカい鞄に詰めていった。


――薬草――

――毒消し草――

――ゴブリンの死骸――

――ゴブリンの魔石(小)――


 ゴブリンの死骸がある。

 僕は周りを注視した。


――ゴブリンの死骸――

――ゴブリンの魔石(小)――

――鉄の剣(錆・折れ)――


――ゴブリンの死骸――

――ゴブリンの魔石(小)――

――木の棒――


――ゴブリンの死骸――

――ゴブリンの魔石(小)――

――木の棒――


――ゴブリンの死骸――

――ゴブリンの魔石(小)――

――鉄の剣(錆)――



 ゴブリンの死骸が沢山散らばっている。

 ゴブリンの魔石なんて取っても大したお金にならないから捨て置いたんだろうか。

 でも僕にはありがたい!

 僕は夢中で回収した。



「すごいぞ、今日は銀鉱石も取れたし、一万ギルぐらい稼げたんじゃないか?」


 僕はゴブリンの魔石が沢山回収出来て有頂天になってしまっていた。

 気がつくと魔物の接近を許していた。


「マズい……魔物が近くまで来てる!」


――ホブゴブリン――


 よりによってホブゴブリン……。

 ホブゴブリンは今の僕ではたぶん倒せない。

 それなのに距離はもう20mもない……。

 木が視線を遮ってくれているのでまだこちらには気づいていないようだ。

 どうする……加速で一気に逃げるか……でもあいつ手斧を持ってる……もし投げてきたら確実に避けられる保証はない……このまま隠れてやり過ごすか……。

 その時僕のサーチが離れた場所にいるもう一体の魔物を捉えた。


――フェンリル――


 僕は凍りついた……こんな時に……あの時のフェンリルだろうか……心臓が早鐘を打っている……冷や汗が止まらない……。


 ホブゴブリンがこちらの気配に気付き大きな声を出した!


「グガァァァァ!」


 次の瞬間ドッという音がしてホブゴブリンの声が消えた。

 僕の鼓動が頭の中いっぱいに響き渡っている!

 さっきまであんなに離れた場所にいたのに一瞬でホブゴブリンを……木を背にして目を瞑り、息を殺してうずくまった!

 背後でガブッ……ガブッ……という肉を噛み砕くが聞こえる……僕はもうダメかも知れない……フェンリルなんかに見つかったら瞬殺されてしまう……。


 しばらく噛み砕く音が響き、そして静かになった。

 食べ終わったようだ……トス……トス……トス……という足音が聞こえる。

 ドサリ……僕がいる木の裏に寝そべったようだ。

 フェンリルのような犬型の魔物は嗅覚が発達している。

 木を隔ててこちらにいる僕に気づかないはずがない……どうやら僕は生かされているようだ……。


 だけど僕はどうする事も出来ない。

 逃げる事も戦う事も……もはや僕に選択権はない……フェンリルの機嫌次第だ……。

 

 僕は下を向いて時間が過ぎるのを待った。

 永遠とも思える時間が過ぎた……。

 神経がすり減る……耐えられない……。

 

 不意にズズッと身体が擦れる音がして僕の心臓は飛び上がった。

 恐らくフェンリルが立ち上がった!

 僕は目を瞑って震えた!

 汗が止まらない……いよいよ食べられる……。

 フェンリルの気配が近づき、ザリッと頬を舐められた。


 そこで僕の意識は途切れた。




 

 気がつくと僕は自分のベッドで寝ていた。

 ガバッと起き上がり、自分の体を見た。

 傷はない……奇跡だ……フェンリルは僕を食べずに去ったようだ……。


 その時、物音を聞きつけて母さんが部屋に入ってきた。


「レイ……意識が戻った……良かった……」


 そう言って僕を抱きしめてきた。

 随分と心配をかけてしまったようだ……。


「母さんごめんなさい。心配をかけるような事になって……」


「何があったの?レイが倒れていたすぐ近くにホブゴブリンの死骸があったそうだけど……」


「そうなんだ。ゴブリンの死骸が沢山あったから魔石を集めていたんだ。そうしたら生きてるホブゴブリンがいて……」


「それでどうしたの?」


「隠れてやり過ごそうとしたらフェンリルが出てきたんだ」


「フェンリル……二年前にも出て大騒ぎになったあの……?」


「たぶんそうだと思う。まだ居たんだよ。フェンリルはそこにいたホブゴブリンを食べた……次は僕だと思って隠れているうちに怖すぎて気を失ったんだ……」


「フェンリルはホブゴブリンを食べて満足して帰っていったのね……良かった……レイが食べられなくて……」


母さんがさらに強く抱きしめてきた。


「誰が僕に気付いてくれたの?」


「アルバートという戦士の方よ。ゴブリン退治をしている時に見つけたとおっしゃってたわ」


「アルバートさん?」


「レイ……あの方を知ってるの?」


「二年前フェンリルに襲われたのがアルバートさんだよ。その時は僕がたまたま通りかかったんだ」


「お互いに助け合ったって事?レイにとって何か縁のある方なのかしらね」


「もう帰っちゃった?」


「まだ村長の所に居るはずよ。フェンリルの事も伝えておいて。また避難しないといけないわね……」


 僕は体が大丈夫そうなのでそのまま村長の家に向かった。

 向かいながらさっきの出来事を思い出していた。

 フェンリルに頬を舐められて生きてるなんて……。

 運が良かったでは片付けられない。

 ホントにホブゴブリンぐらいでお腹いっぱいになるんだろうか?

 

 そんな事を考えてるうちに村長の家に着いた。


「村長居ますか?またフェンリルが出ました!」


 会話をしていた村長とアルバートさんが一斉にこちらを向いた。


 「フェンリルが?見たのか?」


 アルバートさんが聞いてきた。


 「いえ、でも僕のサーチにフェンリルと出ました」


「なるほど……君は名前まで解析出来るんだったな。二年前俺が見たのもフェンリルで間違いなかったんだ……村長、申し訳ないがまた避難が必要だ。フェンリルは危険過ぎる。またレイザールまで引いてくれ」


「わかりました。王都へも連絡を入れておきます。今回も後の事をお願いしても……?」


「あぁ、後の事は任せてくれ」


 そう言ってアルバートさんが村に残り、僕達はまたレイザールへ乗合馬車で避難した。

 


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