1.アイテム集め
「何か落ちてないかな……」
僕は隣の村まで荷物を届ける帰りにアイテムが落ちていないか探していた。
ふと気がつくと向こうから見たくない顔が三つ並んで歩いてくる。
「よう、レイ。今日も拾いもん乞食頑張ってるか?」
「はははっ、言ってやるなよ。戦えないんだから仕方ねーじゃんか」
「その腰に下げてる剣は飾りか?下ばっかり見てねえでもっと上を見て頑張れよ」
この三人は近所の悪ガキトリオだ。
小さい頃は一緒に遊んだりもしたけど、三人は少し離れた街にある冒険者養成校へ入った為、普段この村にはいない。今みたいに村へ戻ってきた時に馬鹿にされる程度の付き合いだ。
この世界では12歳前後で初めてスキルに目覚める。
戦闘系のスキルであったり生産系のスキルであったり。一番最初に発現するスキルは将来を占う大事なスキルと言われている。僕は小さい頃から初めに戦闘系のスキルに目覚め、物語の主人公のように冒険の旅に出る事に憧れていた。
だけど僕が得たスキルはサーチ。探し物に特化したスキル……。幼い頃から僕はアイテム探しばかりしていたので、このスキルが発現したのかも知れない。
家には父さんがいないのでとても貧しい。
母さんは頑張って仕事をしているが、それ程稼げる訳じゃない。僕は配達の仕事をしながらアイテムを集めて家計を支えていた。
本当は戦闘系のスキルが良かった……。
でもこのサーチが使えるようになって一気にアイテム集めが捗るようになったのも事実だ。
拾ったアイテムは道具屋のおじさんが買い取ってくれる。そのお金で母さんと美味しい物を食べるのが今の楽しみだった。僕も養成校へ行きたい……そう思わない訳じゃないけど、行っても仕方ない……。
そんな僕の事情を知って馬鹿にしてくる悪ガキトリオ。正直顔も見たくない……。
「ちょっとあんた達、レイ君に失礼だよ。レイ君はアイテムを集めて生活費を稼いでるの。私達と違ってもう働いて収入を得てるのよ。親に養って貰ってる私達よりずっと大人なんだよ」
そう言ってくれたのはルーナ。悪ガキトリオと同じく幼馴染だ。僕が馬鹿にされているのに気付いて来てくれたみたいだ。
僕は小さい頃からずっと彼女の事が好きだった。
僕の思い描く夢の隣にはいつもルーナがいた。
けど彼女は12歳で勇者の息吹というスキルに目覚めた。一気に時の人となり王都の騎士団からスカウトされ、今は王都暮らしをしている。住む世界が違い過ぎて、最近では見掛けてもこちらからは声を掛けられなくなっていた……。
「ありがとう。ルーナ。帰ってたの?」
「おい!ルーナさんだろ!お前如きが馴れ馴れしくすんじゃねぇ!」
僕は三馬鹿のリーダー、ロディに肩を突かれ、尻餅をつく形で後ろに転んだ。
「乞食風情が勇者様に軽々しく話しかけんじゃねぇ。消えろよ!」
ロディは剣を抜き僕に突き付けてきた。
剣を向けられた僕は背筋がゾクリとした。
「ちょっと、何やってんのよ!レイ君、大丈夫?」
「大丈夫……」
僕はもうこの場に居たくなかったので逃げるようにその場を去った。
今は春休みでみんな帰ってきているみたいだ。
ずっと帰って来なければいいのに……。
しばらく木陰に腰掛けてイジケていた。
仕方ないじゃないか……。
僕に与えられたスキルはサーチ。
しかもうちは貧しい。
みんなと同じようにはいかないんだ……。
僕は気を取り直していつものようにサーチを展開してアイテム探しを始めた。
――薬草――
薬草だ。
薬草は素材として常に需要があるので、100ギルになる。
――薬草――
また薬草だ。
――初級ポーション――
えっ、ポーション……?
なんでポーションが?
――初級ポーション――
まただ、ポーションなんて初めて拾ったんだけど……。
――鉄のラウンドシールド――
なんで盾が??
――鋼の剣――
おかしい……どう考えてもおかしい……。
――戦士アルバート(負傷・気絶)――
やっぱり!
その先に戦士の男の人が倒れている!
何かに追われてポーションを取り落としたんだろうか。
「大丈夫ですか?」
僕は駆け寄って声をかけた。
「うぅ……」
ダメだ……意識がない。
僕は初級ポーションを二本とも飲ませた。
「うぅ……ここは……?」
「ここはレイザールの西にあるレントという村の近くです。大丈夫ですか?」
「レント……そうか……ゴブリン退治にレントへ来たんだった……俺はどれぐらい気を失っていた?」
「すみません、わかりません。ついさっきあなたが倒れているのに気付いたので」
「そうか……君がポーションを飲ませてくれたのか?」
「ずっと向こうに二本落ちていたんです。ポーションが落ちているなんておかしいと思って周りを探したらあなたが倒れていて」
「すまない、助かった……風圧で吹き飛ばされて意識を失っていたようだ……他の者は見なかったか?」
「僕は見ていません」
「そうか……無事に逃げていればいいが……」
「何か魔物がいたんですか?」
「君もここから逃げた方がいい。見えたのは一瞬だったがあの辺りからフェンリルが現れた。正直物語でしか見た事はないが、あれは間違いなくフェンリルだった……村に戻ったら責任者に知らせて欲しい。フェンリルが出たから避難をしてもらいたいと」
戦士さんが指さした辺りには昔僕が秘密基地にしていた洞穴がある。子犬がいた事もあり、エサを運んだりもした。いつの間にかいなくなって寂しい思いをしたけれど、あそこの洞穴には更に奥へ繋がる穴がある。頑丈な柵がしてあって出入りは出来ないはずだけど、フェンリルなら簡単に壊せるかも知れない……あの奥から出てきたのだろうか?
「すぐに村長に伝えてきます。戦士さんはもう大丈夫ですか?」
「あぁ君のおかげで助かった。名を聞かせてくれないか?」
「僕はレイと言います。ではアルバートさん」
僕はアルバートさんに別れを告げて行こうとした所呼び止められた。
「君、何故俺の名を?」
「僕はサーチというスキルが使えるんです。僕のサーチにはあなたは――戦士アルバート――と出ていますので」
「サーチ……鑑定の一種なのか?羨ましい……最高のスキルじゃないか!」
「こんなの……本当は戦闘系のスキルが良かったです」
僕は再度駆け出した。
村に戻った僕は村長にアルバートさんの存在とフェンリルが現れた事。避難するよう言われた事を報告した。
「フェンリル……神が降臨したと言うのか……何という事だ……こちらの冒険者の方達も同様に強大な魔物の出現報告を上げて下さっている。すぐに避難しよう。乗合馬車を出すからお前もすぐに母親と一緒に馬車まで来なさい」
村長の所にはすでに冒険者の方が三人いた。おそらくアルバートさんのお連れの方達だろう。無事だったようだ。
その後、僕たちレントの住民はレイザールまで避難を開始した。三馬鹿やルーナも他の馬車に乗ったみたいだ。
◇
僕と母さんが乗った馬車はレイザールへ向けて進んでいた。レイザールまでは馬車で約二時間。退屈しのぎに僕はサーチを展開しながら馬車の窓から外を見ていた。
――鉄球(スリングショット用)――
――ロック鳥の羽――
――ロック鳥の冠羽根――
――鉄の矢――
――鉄の矢(火属性付与)――
――ロック鳥の羽――
――鋼の矢(火属性付与)――
矢や弾が落ちている。
ここでロック鳥との戦闘があったんだろうか。
あの羽とか矢……売るといくらになるんだろう……拾いに行きたいな……。
――ロック鳥の死骸(腐敗)――
うわっ、死骸がそのままになってる……。
大型の魔物は死骸が腐って環境に悪影響が出ないように燃やすのがマナーと聞いた事あるけど、この戦闘の主はそういう意識はなかったのかな……いや、矢には火属性が付与してあったので燃やそうと試みたのかも知れない。
そんな事をぼんやり考えていると
――ロック鳥の魔石(大)――
いやいや、これは流石に拾いに行くでしょ!!
戦闘主も何であれ置いていってるの?
草地に落ちたから見つけられなかったのか?
僕は馬車を飛び降りてそれを拾ってポケットにねじ込み、また馬車に飛び乗った。
「レイ!あんまりやんちゃすんなよ!」
「ごめんなさい!」
御者をしていたお隣のスタン兄ちゃんに怒られた……。
僕は母さんにも少し小言を言われながら席に戻った。
また外を見ながら考えていた。
アルバートさん……僕のサーチの事最高のスキルって言ってたな……サーチって良いのかな……。
僕はポケットの中の魔石を握りながらニヤニヤしていたら母さんにだらしない顔はやめてと言われた。
その後は目ぼしいものも見つからずレイザールに到着した。
「母さん、僕売れる物を持ってるんだ。一緒に売りに行こうよ」
「何?さっき馬車から飛び降りた時に拾ったの?」
「うん、きっと宿代にはなるよ」
そう言って僕らは道具屋さんに向かった。
レイザールへは買い物によく来るので地理はよくわかってる。道具屋さんの店主さんにロック鳥の魔石を渡して買取をお願いした。
「立派な魔石だ……これは良い値がつくぞ。良かったな、坊主」
店主さんが何か資料を広げてサイズや重さを測っている。
「さぁ、査定完了だ」
そう言ってトレイに一万ギル紙幣がいくつか置かれた。
「こんなに??」
母さんが驚いていた。
ふふん、すごいでしょ僕。
僕は有頂天になっていた。
お金は全部で八万ギルあったようだ。
一万ギルあったら安宿なら二人の四、五日分の宿代になる。宿代を大きく上回る大儲けだった。
「レイのスキルはホントに役に立つわ。いつもありがとうね」
母さんに褒められてすごく嬉しかった。
本当は戦闘系のスキルが良かったけど、こんな魔石が拾えたし、戦士さんからも良いスキルだって言ってもらえたし、今日は嬉しいことが重なった。
嫌な事もあったけど、今の気分はとても良かった。
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