第80話 本当に現れてくれるかな?
1Kの賃貸マンションの部屋が狭く感じる。
ロザリーの部屋は、ここより広かった。
日が沈んで、外は真っ暗。部屋も真っ暗。何か月も魔法学園に通ったのに、どうやらゲームを始めて一日もたっていないようだった。
夜のせいか、とても静かに感じる。
(“きらめき☆魔法学園”の世界では、いつも誰かが側にいたもんなぁ)
妖精さんがいつも側にいた。
最後の方は違ったけど、ロザロザが頭の中にいて、いつも賑やかだった。魔法学園では、ティアとゼアや、マリーとスピカがいつも側にいた。気づけばいつも隣にいたヘンリー王子も、今はいない。
「ものすごくお腹がすいているから、お弁当でも買いに行こう」
あまりに静かに感じるから、思ったことを声に出してみる。
外の車が走る音の方がよく聞こえて、やっぱり静かだなと思った。
駅の方の商店街に行くと、明かりのせいか、人が少なくても賑やかに見えた。
でも、賑やかに見えるのに、とても寂しく思う。
さっさとお弁当を買った帰り、“本当に呼んだら、妖精さんは来るのだろうか?”と疑問に思った。寂しいから、ちょっと呼んでみる。
「……ブルー・デイジー?」
…………風は吹かなかった。
「妖精さんの嘘つき」
不満が届くといいなと思い、ボソッと声に出してみたけど何もおきない。
やっぱり、人気がないと商店街は静かだなと実感しただけだった。
寂しくて泣きそうだと思ったとき、後ろから強めの風が吹いた。
それは、私の背中を押しているように感じた。
妖精さんが、“ブルー・デイジー”が来てくれた!!
喜びを噛みしめる間もなく、風はどんどん吹いてくる。
ちょっと、吹きすぎじゃないかしら?
風に背中を押されるままに前に進んでいる途中、商店街の照明が一瞬紫色に変わった。風はブルー・デイジーに間違いない。きっと、そう!
ヒラッ。
花びらが舞った。
一歩。また一歩進むたびに枚数が増えてくる。
まさか、まさか、まさか!!
何かの予感がして、胸が高鳴ってきた。
そして、商店街を抜けた先にいたのは、大人になった〔ヘンリー王子〕だった。
魔法学園に通っていたころより大人の姿。背が高くなってる。
しかも、現代の服を着こなして、ファンタジー系の〔乙女ゲーム〕の登場人物にはとても見えない。
「やっと、ロザリーに会えた!!」
ヘンリー王子が飛びついてきた。
わけがわからないので、何が起きたのか聞いた。すると、みんなのおかげだとヘンリー王子はいった。
◇◇◇◇◇
「うぅ……ロザリー様。演技がヘタクソですわ」
私が消えたのを目撃した女生徒はみんな、涙を流しながらそう言ったらしい。
宮廷魔法騎士団の人たちでさえ、信じなかったそうだ。
一世一代の演技だったのに、残念すぎる。
「信じられない」
「暗黒聖女は、この大陸の救世主」
「アルムス王国を乗っ取ろうとしてたなんて……」
「我々も、彼女の活躍を見ている」
「そんなことをする人物ではない」
「「「「「どうして、そんなウソをつくんだ!?」」」」」
「わからない。
わからないが、彼女が守ろうとしたものを、我々も守るべきだ」
と、そんな話になり、見え見えのウソだと知りつつも、連合軍がなぜ大勢で魔法学園にいるのか、誰も問いたださなかったそうだ。
それよりも、みんなは元の世界に帰った私の幸せを願ってくれたらしい。
“ロザリー様が、元の世界で少しでも幸せにくらせますように”
「それで、気がついたらこの世界にいたんだ」
どうやら、ヘンリー王子は、十年ぐらい前の大規模災害の被災地に転移したらしい。
住民のデータが全て消え去った街で、記憶喪失の被害者として育ったようだった。
「こっちの世界に来てからは〔ブルー・デイジー〕がよく夢に出てきて、いろいろと助けてくれたんだ。
また君に会いたくて“きらめき☆魔法学園”というゲームも作ったよ」
なんと、大人になったヘンリー王子は、ゲームの製作会社に勤めていた。
長い年月の間に、再開を諦めても仕方ないと思う。なのに、そうしなかった。ずっと好きでいてくれたのが伝わってきて、胸が熱くなる。
「どうか僕と結婚してください」
とても嬉しいんだけど、ちょっと待って。
ヘンリー王子は、成長して大人になったけど、私は魔法学園に通っていたころと変わってない。体だけ大人になって、心は成長してないのよ。しかも、自分の体に戻ったので、ロザリーの様な美人でもない。
今はよくても、そのうちガッカリされるんじゃ!?
「十年たつと、人は変わるわ。
大人になったあなたから見ると、私は残念な人にしか見えないかも……」
心が、年の割に大人だったから好きになってくれただけかもしれない。そう伝えると、ヘンリー王子は「不安に思ったことを、すぐ教えてくれて嬉しい」といってくれた。やはり、素晴らしい大人に成長している。私にはもったいない。
「“面倒くさい”にどこまでつき合えるかが〔愛〕だっていうらしいよ?」
ニコニコ、ニコニコ笑顔のヘンリー王子。
私のことを“面倒くさい”と言いつつ、それをとても喜んでいる。
普通はイヤなんじゃないの?
「前に君は“愛がほしい”って言ったよ?
“愛”を証明できるチャンスが出来て、僕はとても嬉しい」
そういえば、そんなことを言ったような気がする。
何かのワナにはまりつつあるような気がしないでもない。とりあえず「では、お友達からお願いします」と返事をした。
これでいいのだろうか?
私にはもう何が何やらわからなくなってきた。
「やっぱり、あたしがいないとダメなんだよ☆」
この声は、ブルー・デイジー!!
ヘンリー王子の後ろから、精霊に進化したブルー・デイジーが現れた。私たちは感動の再開をし、また一緒に過ごすことになった。
そして、何か月かたち、私はブルー・デイジーと会社を立ち上げた。
せっかくだから、一緒に働いたら楽しい毎日が過ごせるかなと思ったから。
会社の名前は「妖精探偵社 ロザリー」。
妖精は、イタズラで物を隠したりするらしいから、探し物をしている人向けの会社を作ってみた。バイトをしながら、月に一度仕事が入ればいいかなと、そんなつもりだった。だったんだけど——————。
『ギャギャギャギャギャァァァァァァァ!!
道連レニ、シテヤル!!!!』
私は今、悪霊と戦っている。
今日は都内のマンションに住み着いた悪霊を退治しにきた。
〈闇よ! 心地よい眠りをこの者に!!〉
「まかせて☆」
呪文を唱えると、ブルー・デイジーが羽ばたき、悪霊は無事に成仏した。
あるとき、“なくし物”の依頼を受けて探していたら、持ち主が亡くなって悪霊になっていた。
そこで、〔闇の魔法〕の眠りの呪文を唱えてみたら成仏したので、口コミで除霊の仕事が増えた。
悪霊は怖い。
仕事が増えても、全然嬉しくない。なので、「二十万です」とか、高い金額を言ってみたりするのだけど減らない。企業には「三百万です」と言っても、出す会社は出す。
何より、ブルー・デイジーがやる気になっているので、無理のない範囲で続けている。
「この先に神社がありますね。
そこに行こうとした霊がこの部屋のポスターに引っかかって、出られなくなって焦ってたみたいです」
別に調べたわけでもないのに、変な知識も増えた。
「ありがとうございました!
“悪魔を使い、亡くした者を探す 妖精の探偵ロザリー”のウワサは本当ですね!!」
なんか、“なくした物”の字が違う気がする。
言葉も変に増えてる。
私は悪魔を使っていない。
バッサアァァァァン!
ブルー・デイジーが羽ばたいた。
ブルー・デイジーは精霊に進化しても、人間の姿にはならなかった。
一つ目、一本足のカラスの姿のまま大きくなった。
人間の姿よりはるかに大きい。悪魔に間違えられても仕方がない。
そして、私が時々ブルー・デイジーにチョーカーになってもらって身体強化する。
金髪に変化するのを、目撃した人から“妖精”が人間界に潜り組むための変身だと言われることもあった。まさか、私が妖精だと思われるとは……。
『隙アリィイ!!!!!!』
「しまった! もう一体いたの!?」
隠れていた悪霊が出てきて、私の方に飛んできた。
「貴様ノ体ヲ、乗ッ取ッテヤル!!」
バチィィィィィィン!!!!
大きな音がして衝撃を感じたのに、痛くない。
『お~っほっほっほ!!』
聞きなれた声が響き渡った。
『この体にはもう先客がおりますのよ?
定員オーバーですわ』
「ロザロザ!?」
もう会えないと思ったのに、ロザロザが私の中から出てきた。
『違いますわ。
ロザロザは、違う世界線の未来から来た人ですわ。
私は、あなたが入っていた体の〔ロザリー〕でしてよ? あなたが〔きらめき☆魔法学園〕の世界にいる間、魂の接着剤のような役割をしておりましたの』
本来なら、プレイヤーがゲームを終えると元に戻って、その後の人生を歩むはずだったらしい。
でも、なぜか体が消えた。
だから、そのまま私の魂の一部になっていたのに、今、起こされたとのこと。
『これから、よろしくお願いしますわね』
と、いうことで、私は〔悪役令嬢〕にとりつかれました。




