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悪役令嬢にとりつかれました!  作者: 葉桜 笛
悪役令嬢にとりつかれました!
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第8話 光の魔法と、舞い上がる花(挿絵有り)

「ごめんなさい、ティア!

 私のせいで怪我をしたの?!」


「いえ、私ではなくて……」




 そう言ったティアの視線の先にいたのは……



 ゼア!



 ティアが転びそうになったので助けようとしたところに、走って逃げるクラスメイトが次々とぶつかってきて怪我けがをしたそうだ。


 私のせいだ!


 ゼアの左のひたいから口元くちもとにかけて、血と青いあざがある。きっと制服の下にもあざが出来ているに違いない。私がちゃんとイメージしてから魔法を使っていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。申し訳なさでいっぱいになった。



「……ごめんなさい。医務室まで一緒に行くわ。

 あ、先に先生を呼んできた方がいいのかしら?」



 おろおろしてしまう。

 私のせいなのに、上手く判断が出来ない。

 何が最善さいぜんなのかわからなくて手が震えてきた。普通は医務室に行くのが良いと思う。でも、ヨド先生ならすぐ魔法でどうにかしてくれそうな気もする。

 医務室へ行くのか、先生を呼ぶのか、決断は早い方が良いのに決める事が出来ない。どっちが最善の方法なの?




「大丈夫だ。気にしなくていい」




 と、ゼアは何の感情も無い声で言った。


 激怒しているのだわ。


 主人のティアの前だから感情を押さえているだけで、本当は私の胸ぐらつかんで怒りをぶつけたいに違いない。いいのよ、ゼア。これは私のせいなんだから、私に思いっきり怒りをぶつけてちょうだい!




「もとはといえば、“思いっきりやれ”と言ったのは俺だ。君はただ、正直に実行しただけだ」




 え、……ゼア優しい。実は優しい人なの…………?




「そうですわ! このぐらい大丈夫です」




 ティアが明るい声が私の思考をさえぎった。

 何て良い子なの! 私を気遣ってくれるなんて……。

 ティアは笑顔で続けた。




「今から魔法でなおそうとしていたのです。

 ドジばかりで落ちこぼれの私ですが、光の魔法だけは自信があるんですよ?見ててください!」




 そう言ってティアは両手でつえを握った。




「..光よ、この者をいやしたまえ……」

挿絵(By みてみん)



 ティアの持つ杖が光り、どんどん光が大きくなっていく。やがて光はゼアをつつんだ。

 それは、"魔法"と言うより"願い"のように見えた。見ていて心があたたかくなる(あぁ。光の魔法は、優しさで発動するのだな)と思った。




「治った。ありがとう」




 静かに微笑んで、ゼアがティアにお礼を言った。傷やあざ見事みごとに消えていた。

 いつも(出会ってからまだ2日目だけど)眉間みけんにシワがよっていて、怒っているような顔をしているゼアの優しい笑顔。怪我が治って本当に良かった……けど………………


 何? この違い。


 まさかティアに恋をしているの?

 ダメよ!

 ティアにはヘンリー王子がいるのだから!

 そりゃ攻略対象は何人かいるし、公式設定のストーリーに進まなければならないという事もないけど、あなた説明書の登場人物に載ってなかった! むくわれないから、めておきなさい。と、モヤモヤしていたら、ゼアが




「ほら、心配する事なかっただろう?」




 と私に微笑んだ。

 さわやかな風が、吹き抜けた気がした。

 何?この優しい笑顔……。腰が抜けそうになる。横から見てるのと、正面から笑顔向けられるのは違うわ。ゼアはかくれキャラなのかしら? ドキドキす……




「素晴らしい魔法です!」




 私の思考をさえぎったのはヘンリー王子だった。いつから光の魔法が使えるのかとティアに聞いている。

 そこで、私は正気しょうきに戻った。

 そして気付いた!



 花が舞っている!!



 昨日もヘンリー王子とティアが見つめ合って、花が舞っているのを見た。あれは風がたまたま花を運んだのだと思っていた。けどそうじゃない。今、ヘンリー王子から花が舞っている!

 幻想的けんそうてきな風景だわ!

 少女マンガで花が舞うシーンにドキドキするけど、実際に花が目の前で舞うと仰天ぎょうてんよ!! 誰に恋してるか、皆にバレバレね……。




『あら? この世界では普通ですわよ?

 妖精が愛に反応して、喜びの花をき散らすのですわ。

 人の好意がハッキリわかって、良いではありませんか? よく見かけますし、誰も気にしません。

 あなただって、さっきヘンリー王子にお姫様抱っこされてドキドキしたでしょう? その時、黄色い花弁はなびらが舞ってましたわ。』




 ずかしい! 恥ずかしすぎる!!




 全然気が付かなった!

 プライバシーなんて、あったもんじゃない!

 それに、お、お姫様抱っこされたら、誰だってドキドキするわよ!!




『えぇ。ですから、気にする事ありませんわ。

 愛になると、花の形になりますの。

 ヘンリー王子はティアの事を愛しているのかしら? そうだとしたら、愛する女性がいながら他の女性をお姫様抱っこ。波乱の予感ですわね』



 やめて! 私、恋愛のドロドロは苦手なの。




「皆さん。まだ教室に逃げていないのですか?」



 ゼアの手当てのため、校庭の階段を登りきった所にいた私達に、ヨド先生が声をかけてきた。

 先生はひざから下がびしょれだった。




「もう水は出なくなりました。でも後片付けがあるので、一応いちおう避難していて下さい」




 そう言われたので、皆で教室に向かった。

 私は自分がやらかしてしまった光景を確認しておこうと振り返った。校庭が毒の沼のようになっているのが見える。

 私は水を出したつもりなのだけど、本当に毒だったらどうしよう……。

 



『本当に毒なら、今頃いまごろは何人かたおれてますわよ。

 皆が逃げれたことが水である証拠ですわ』




 ロザリー!

 冷静な分析ぶんせきだね!!

 そうだよ。毒なら今頃、バタバタと倒れてるよね。感心していたら、知ってる顔を見つけた。




「アイザック先生?!」




 燃えるような赤い髪。190cmの高身長。間違えようのない特徴だけど、昨日、家庭教師に来てた時と何か違う。


 マントだ!

 マントけてる!!

 すごくよく似合ってて品格が増してるから、遠い世界の人に見える。こんなにちゃんとした人に昨日は教えてもらったのか……と思っていたら、




「ロングマントうらやましいか?

 だが、学生はまだ体力無いから、ハーフマントで辛抱しんぼうしろ。このマントは魔法防御と物理攻撃への防御力が高いが、重い。お前にはまだ早い」


「そうなんですね。

 それにしても、宮廷魔法騎士のアイザック先生が、何故学校に……?」




 どっからどう見ても、立派な騎士姿のアイザック先生と話すのは緊張きんちょうす……




「お前のせいだ。バカ娘」




 あ、中身は変わらない。

 昨日のアイザック先生だ。

 ちょっとホッとした。




「何ですか! 彼女は僕の生徒です!

 そんな口の聞き方しないで下さい」




 そう言ってヨド先生は私を引き寄せた。

 アイザック先生からかばうようにしているのはわかるけど肩を抱き寄せられるとドキッとする。

 近くで見ると、眼鏡の隙間すきまからヨド先生の素顔すがおが見えた。

 あれ? ヨド先生、ととのった綺麗な顔だ。流石さすが攻略対象。眼鏡の下はイケメンなのね。でも私には刺激が強いので、とりあえず抜け出そうとすると花が舞うのが見えた。


 えー?!

 これ、私?!

 でも、ドキドキなら花弁はなびらだよね?

 これ、花そのものだよ。


 と、あわてていたらヨド先生がさらにしっかりと抱き寄せてきた。


 もしかして、先生の花……?


 その時、今度はアイザック先生に引き寄せられた。




「こいつは俺の弟子!

 俺の方がお前より先に出会っている。」


 


 弟子の取り合い!




 例え“弟子の取り合い”だと気が付いても、男性2人から引っ張られてると何だか自分がモテている気分になって、ドキドキするわね。

 困ったなと思っていたら、今度はアイザック先生から花が舞っているのが見えた。


 ヨド先生とアイザック先生は「自分が先に出会った」だの「自分の方が彼女の力を引き出せる」だの言い合っている。

 花を舞わせながら……。


 これは……。つまり、そうなのね。



『なんですの?』



 ロザリーの不思議そうな声が聞こえた。

 私は心の中で強くロザリーに返事をした。


 ロザリー。

 この2人は愛し合っているのよ!



『え? 男性同士ですわよ?』



 そうよ!

 私をイチャイチャするキッカケにしているのよ!!



「二人共! 真面目まじめに働いてください!!

 私をダシにイチャイチャするのはめて下さいよ!」



 私は怒った。



「校庭の水を片付けてから、二人でイチャイチャしてください!」



 私がこしたトラブルだけれど、他人事ひとごとのように私は怒った。

 


「何で俺がコイツと、いちゃつくんだ!」



 と、アイザック先生はうったえてているが、もう知った事ではない!



「大丈夫です! 世の中にはそういう人たちもいるって、知ってます!

 内緒にしておきますから、まずはこの……沼(?)をどうにかしてください!!」


「違うのに」とブツクサ言いながら、アイザック先生は「このために今日は呼ばれていたからな」と剣を抜いた。




「ロザリーさん。見ておくと良いですよ。

 魔法騎士は"つえ"を使わず"剣"を使います。剣を振る事で、効率よく精霊に指示を出すのが特徴です。

 上位じょういの精霊と、直接契約している魔法騎士ならではの方法です」



 そっか、つえ以外でも魔法は使えるのか……。

 アイザック先生、上位の精霊と直接契約って本当に凄いなぁ……。口は悪いけど。




「あと、アイザックは古い友人なだけです。

 勘違かんちがいしないで下さい」




 ボソッとヨド先生が付け足した。

 はいはい。




「"水よもといた所へ帰れ"」




 アイザックが剣をかざして呪文をとなえたら、水が少しずつ減っていった。




「これ、時間がかるんだよ。

 今日のレッスンは無しな」




 と、剣をかざしたままアイザック先生が言った。

 確かに水は減っているけど、ジワリジワリだ。このスピードでは時間が掛かる。

 しかも、元はと言えば私のせい。

 私はだまってうなづいた。



 別れぎわヨド先生から




「友達は選んだ方がいいですよ」




 と言われた。

 アイザック先生の事だろうか?

 確かに大変そうだものね。

 それにしても、学園に結界がられていて本当に良かった。

 もしも結界が無かったら、今頃いまごろ紫の水は森を抜け、近くの町は紫の水で水浸みずびたし。

 結界って、素晴らしい。



            *

            *

            *



 ヘンリー王子はロザリーがいない事に気付き、廊下を引き返した。その先に見たものは……


(?! うちの宮廷魔法騎士がヨド先生と、ロザリーを取り合っている!!)


 丁度ちょうどアイザックとヨドが「ロザリーは自分の弟子だ」と言い合っている所だった。




(さっきのゼアといい、たった1日でライバルが3人もあらわれるとは! 油断できないな……)




 ヘンリー王子は真っ直ぐに駆け出した。




「ロザリー! 早く避難しましょう」

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