第77話 勇者いなくなりました
♪ 届かない想いはどうすればいいのか ♪
♬ お前にぶつければいいのか ♬
「「「「「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ♡」」」」」
歓声が止まらない。
アイザック先生と須御威さんが歌い続けてる。
私も歌を聴きたいと思うけど、それどころではない。
「歌や乗馬や居合いなんか習ってないで、自分が得意な表現を磨いていれば、もっと違う結果になったのかもって思う。
“次は何を頑張れば、クラスの皆より先に行けるだろか?”って、人の輝きと自分の輝きをくらべてばかりいた。
でも、それじゃ遠回りなのよ!
人の輝きを見てないで、自分の輝きを見て!!
アイエ総司令官は結果なんて出さなくても、“人に愛される”という輝きを持ってる!
それを伸ばせば良いのよ!!!!」
アイエ総司令官は、早くから私の危険性を確認するために部下を学園に来させた。
今回は自分でも確認に来たでしょ?
“しっかり確認して判断しようとする”って行動は素晴らしいと思う。
ウワサを鵜呑みにする人が多い中、この人はそうしなかった。
確認したあとの判断がちょっと焦りすぎていたんだろうけど、この人、普段は良い仕事しているんだろうなって思う。
だって、魔人になっても連合軍の人達は、逃げずに留まってる!!
「見て!
連合軍の人達は、あなたが魔人になってもあなたに攻撃してない!!
びっくりはしているけど、逃げもしない!!!!
これって、あなたを信用してるってことでしょ?」
「ガアァァァァァァァァァァッ!!!!」
アイエ魔人が苦しそうに叫ぶ。
また違うイメージが来る。
――――――こどものアイエ総司令官とアイザック先生。
二人はベッドにしがみついている。
ベッドにいるのはきっと二人のお母さん。
「アイエ。あなたはお兄ちゃんなんだし、立派な王様になるのよ?」
必死にうなずく、こどものアイエ総司令官。
「アイザック……あなた……は、お兄ちゃんをしっかり……さ……さえて…………ね」
「「ははうえ――――!!!!」」
ベッドにしがみついて泣く二人。
そうか。
お母さんとの約束だから、立派な王様になりたいのね。
「ガアァァァァァァァァァァッ!!!!」
続いて、違うイメージの世界に引き込まれる。
――――――もしかして、魔法学園を卒業して国に帰ったアイエ総司令官?
部屋には魔法学園で使ったと思われる本とかローブとか置いてある。
窓を開けて、久しぶりの自分の部屋からの眺めを堪能しているのかな?
気持ちよさそうに外を見てる。
「……やはり王位は魔法も剣も優れているアイザック様だな」
「アイエ様はお人柄はとても良いんだがなぁ……」
「軍のトップには立てないだろうからなぁ……」
「何も実績がないと、不安だよな」
窓の下から聞こえてきた声に、アイエ総司令官が背を向けた。
〔実績〕がない。
それを気にして、連合軍の総司令官まで登り詰めたの?
「もう充分じゃない!!
総司令官になれる人ってそうそういないよ?」
「グゥアァァッ!!」
「それだけじゃ足りない!?
完璧を目指すと、さらになりたいものが遠ざかることもあるわよ?」
離れた所にいる生徒がボソッと言った。
「――――――魔人と話してる」
自分でも不思議に思う。
何故か「グガグガ」と言ってるアイエ魔人の言うことがわかる気がする。
言いたいことがあると、言語や種族が違っても伝わるんだろうね。きっと。
そういえば……。
“言いたいこと”で一つ思い出した。
「私ね、しゃべるときに変なクセが出てたのよ――――――」
――――――――それは声優の養成所に通っていた時のこと。
「話し方に変なクセがある」
と、よくダメだしされた。
だから、何年もかかったけど、何とか“クセのない話し方”になるように頑張った。
そうしたら今度は「キレイに読めているけど、それではつまらない」って言われた。
一人だけレッスン場から、暗闇の違う空間に落ちていった気がしたわ。
言われたから直したのに「つまらない」と言われ、「何がしたいのかわからない」とまで言われた。
私は絶望したわ。
クセを直すことだけに集中したわけじゃなかった。
読み込むべきポイントは、丁寧に押さえたつもりだった。
なのに、何も評価されない。
私とはちょっと違うクセのある人は、いつものクセがあるのに「いいね」と言われている。 “ら行”が絶望的に苦手で、「それでは仕事が来ない」と言われてた人は、まだ所属してないのにお仕事をいただいてたりする。
話し方のクセには、三種類あるのかなと私は思っている。
一つ目は、もともと持ってる話し方のクセ。
二つ目は、気持ちを作りながらセリフをしゃべろうとするから出てくる波。
三つ目は、アクセント辞典の調べすぎ。
私は三つとも経験した。
主に、一つ目で注意されていた。
もともと持ってるクセなら個性にもなりうるから、気にするのは半分だけにすればよかった。
私、今からスタート地点なの?
と、気が遠くなった。
不思議と、怒りは湧いてこなかった。
原稿を読む上でやるべきことを、自分なりにやりきった感覚があったので「そうなんだ」って、冷静に受け止めた自分がいた。
「いつも言われるクセに対して全力でやりきったって、そんなもの。
そんなものなのよ!
まして、あなたは仲良くもない、面識があるのかも怪しい通りすがりの兵士に言われただけでしょ? 気にするのは五分の一ぐらいで良いわよ!!」
「グガ……グガガガガ…………」
悶えるアイエ魔人。
話は聞いてくれていそうなんだけど、人間に戻れるほどではないみたい。
やっぱり、今日会ったばかりの人の話ではいまいちパンチ力に欠けるわよね。
私は、心の中で「あとはお願いします!!」と願いながら、アイザック先生を見た。
うなずくアイザック先生。
♪♬ あの日の母の願いを二人で叶えよう ♬♪
「グゥガァ」
効いてる!
効いてるわ!!
♪ 俺たちなら ♪
♬ きっと出来る ♬
♪♬ なぁ、そうだろ? ♬♪
♪ ・・・・・・・・・・・・……――――兄貴――…・・・ ♪
「……グ…………ガ………………」
アイエ魔人の目が、驚いたように大きく開かれた。
そして、全身が輝きだし、魔人から人間に姿が戻っていった。
光に、赤い髪がなびいて、もともと整った顔がゆえに、さらにカッコよく見える。
少し離れた所にいる女子生徒は、少しほほを染め、涙を流しながら感動していた。
「奇跡ですわ」
「美しき兄弟愛ですわ」
「魔人が人間に戻るとは……」
「アイエ総司令官!!」
「我々は信じていました!!」
魔法学園の生徒も、連合軍の人も歓声をあげた。
よかった。
もとに戻って本当によかった。
「――――――熱いステージだった」
そう言って、フッと笑った須御威さんの体は透けていた。
「須御威さん、体が…………」
「あぁ。
どうやら“勇者”は、もう必要ないみたいだ」
笑顔の須御威さん。その体は、ほとんど見えなくなっていた。
アイザック先生とアイエ総司令官は、抱き合って人間に戻れたことを喜び、これから一緒にがんばろうと強く約束していた。
「ありがとう。
“ドラゴン殺しの死霊使い【暗黒聖女】ロザリー”
響き的には、恐ろしい異名だけど〔聖女〕という文字が入るだけあって、君は優しいね。
討伐しようとした俺が間違っていた」
「待って!
そんなことより、勇者の体が!!」
説明のために振り返ると、そこにいたはずの須御威さんの姿が消えていた。




