第76話 ステージ現る
「は!?」
アイザック先生はとても驚いた顔をした。
ま、それもそうだと思う。
双子の兄が〔魔人〕になって、今にも暴れようとしているのに、何故のんきに歌わねばならないのかと思うだろう。そうじゃないんです。先生。思い出していただきたい。私がこの大陸に結界を張った時のことを!
「アイザック先生!
この杖、マイクになるんです!!」
「まいく!?」
アイザック先生が「ワケがわからない」といった様子。
私は妖精さんに頼んで、杖をマイクに変えてもらった。そして、スタンドマイクに変わった杖を、アイザック先生の前に置く。
「私がこの大陸に結界を張ったとき、このマイクを使いました」
「今回も、お前が歌えば良いじゃないか」
「アイエ総司令官は、アイザック先生への嫉妬が強すぎて魔人になったんです! アイザック先生の言葉の方が、一番、彼に届くに違いありません!!
だって、アイザック先生はアイエ総司令官のこと好きでしょう?」
そう。
だから、兄に王様の地位を譲るために、アルムス王国の宮廷魔法騎士になったんだと思う。そうすれば後継者争いにもならないし、もしもの時にアルムス王国から援軍も出しやすい。
魔人の攻撃と共に流れてきたイメージは、いつもアイザック先生が後から現れていた。
あれはきっと、どこかで双子の兄が頑張る様子を見て、コツを研究している。その後、かまって欲しくて現れただけ。
「いや、こんなに人がいるのに、兄を思う歌なんて恥ずかしいだろ」
その気持ちもわかるけど、恥ずかしがっている場合ではない。
魔人が更に暴れれば、退治しなくてはならなくなる。
「大丈夫です。
勇者も一緒に歌ってくれますから」
「は!?」
今度は須吾威さんが驚いた。
アイザック先生の声を担当しているのは須吾威さん。合わせるなら、あなたしかいない!
「須吾威さんなら、担当キャラに合わせて歌えます!!
マイクは、その王冠の精霊さんが何とかしてくれます!!!!」
私の言葉に応えるように、須吾威さんの頭の上にある〔王冠〕が形を変え始めた。王冠から、須吾威さんの口元に細く小さいマイクがのびた。
これは、正にヘッドセットマイク付きの王冠!
須吾威さんは「おぉ!」と言って、少し楽しそうだった。
「準備は整いました。
さぁ! やってみましょう!!」
「え゛ぇ゛っ!?」
アイザック先生はまだ受け入れられないみたい。
しかし、私はお構いなしに話を進めた。
「妖精さん!
ミュージックは任せたわよ!!」
「了解だよ☆」
妖精さんの返事と共に「ジャジャーン♪」と音が鳴った。
今は、須吾威さんの声の魅力で、目に見えない精霊や妖精が集まっている。
いったい何処の何を鳴らしているかわからないけど、グラウンドが、いや、この辺り一帯が振動した。妖精や、目に見えない精霊の輝きなのか、世界がキラキラして見える。
空の結界からは、相変わらず花びらがひらひら舞い落ちている。その花びらも仄かに光っていて幻想的だった。
そして、伴奏が始まる。
「俺は宮廷魔法騎士だぞ?
曲に合わせて歌なんか歌えな…………」
「大丈夫です!
歌は、歌う人が主役です。
曲の方が、歌い手に合わせていくものですから!!」
アイザック先生に「さぁ、どうぞ!!!!」と促すと、須吾威さんが「Ahaaaaaaaaa!」と叫んだ。ロックな感じだわ!!
須吾威さんの声を聞いて、グラウンドの生徒の皆がこれから起こることに何か期待するようなワクワクした表情になった。もちろん。私もワクワクした。
いける! いけるわ!!
♪ お前は、まだ気付いていないのか ♪
「「「「「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」
アイザック先生の歌が始まると、女生徒が黄色い歓声を上げた。
そうでしょう。そうでしょう!!
宮廷魔法騎士なので、ピシッとした感じだけれども!
隠せない大人の色気!!
ちょっと見え隠れする大人ボイスが女子の心を鷲掴み!!!!
叫ばずにはいられない!!!!!!!!
♬ だから、そんなに必死なのか ♬
「「「「「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
続いて須吾威さんも歌い、再び歓声が上がる。
そうでしょう。そうでしょう!!
アイザック先生の声の担当されてますもの!
鼻血ものよね!!
アイザック先生として歌ってないので、微妙なニュアンスの違いが良い!!!!
叫び声が止まらない!!!!!!!!
♪ お前は、充分魅力的だ ♪
「グガッ…………」
よろめく魔人。
歌が魔人に届いてる!!
♬ だから、無理しなくていいんだ ♬
「グガガガガガ…………、ガアァァァァァァァァァァッ!!!!」
魔人が抵抗してまた咆哮をあげた。
再びイメージが頭の中に入ってくる。
――――――魔法学園の制服を着た、アイエ総司令官。
学生に囲まれて、クラスの中心人物みたい。
なのに、寂しそうに学生時代のアイザック先生とヨド先生を見てる。
どうやら他の生徒は、魔法の実技の成績が良い二人が人間離れしすぎてて、変人扱いしているようだった。
若きアイエ総司令官は、後から現れたヨド先生にアイザック先生の隣を奪われたような気分になっているみたい。
――――――どうすれば、あいつらみたいになれる? 魔法学園に入ったのに、俺はまだ何も掴めていない!! このままでは、王位を継げない!!!!
心を切りつけられたような感じがした。
攻撃と共に来るイメージが、毎回切なすぎて精神的なダメージが重すぎる!
アイエ総司令官は、王位を継ぐ資格を得るために〔連合軍〕の総司令官になったのね。
アイザック先生より優れていると、人の上に立てると証明したかったのね!!
頑張っても思うように出来なくて焦る気持ち、よくわかる。
その人と同じように頑張ってるつもりなのに、自分にはなかなか身につかなかったり。
わかる!
声優の養成所にいたとき、よく思った。
声だけで演技するより前に、動きのある舞台の演技をまずやってみましょうというとき、セリフを覚えるのが皆より遅くて苦労した。あの時は本当に焦って、電車の中でも練習用の台本を読んでた。
で、何とか追いついたと思っても、個性を光らせて事務所の人の目に止まる子が出てきて、また置いて行かれる。個性を作らなくちゃって焦った。
「無いものばかり見てもダメよ!!」
私は魔人になったアイエ総司令官に向かって叫んだ。
アイザック先生と須吾威さんが歌っているので、私の言葉が届くかわからないけど叫んだ。連合軍の総司令官になったのに、まだ劣等感を感じるなんて相当だ。
「自分の輝き、ちゃんと確認してる?
剣だって、手入れする時、ただ磨けば良いってもんじゃないでしょ?」
居合い道で、時々、刀の手入れをしていた。
古い油を拭き取って、新しく油を塗らないと刀が汚れてくるし、抜刀の時の滑りが悪くなるからだ。
「油を塗りすぎたら、剣が白く濁ってくる!
自分に油を塗りすぎてない?
輝かせようと頑張りすぎて、逆に輝きを濁らせてない?
私もそうだったから、よくわかる!!」
叫んでいるうちに、自分でもよくわからないけど涙が出てきた。




