第75話 魔人現る
お兄ちゃん!
アイエ総司令官が、アイザック先生のお兄ちゃん!!
なるほどね。
アイエ総司令官に会ったとき、どこかで見たような気がしたわけだわ。
アイザック先生と全然違う雰囲気だからわからなかった。
「…………二人はエモシオン王国の王子ってこと?」
コッソリ、妖精さんに聞いてみた。
「そうだよ☆ よくわかったね!」
やっぱり。
アイエ総司令官は「アイエ・エモシオン・プロフォンド」って言ってた。
王族は一つ目が名前で、二つ目が国名、三つ目が首都だったけ。ちゃんと、覚えてるよ。
それに、ヘンリー王子を始め、ヨド先生、サフラン生徒会長、ラーチ先輩と、「きらめき☆魔法学園」の攻略対象はみんな〔王子様〕だった。アイザック先生だけ〔宮廷魔法騎士〕だなんておかしいもの。今さら驚かないわ。
「アイエ。俺たちは双子なんだから、そんなの気にすることじゃないだろう?
それより、大勢引き連れて〔魔法学園〕に何しに来たんだ?」
「くっそう!
アルムス王国に〔侵略戦争〕を仕掛けていることに、もう気付かれたとは!!」
「アイエ……。お前、そんなことしようとしてたのか」
アイザック先生は驚いていた。
どうやら、連合軍の計画を知らないらしい。ここに来たのも、私が魔法を暴走させてないか〔放課後トレーニング〕の様子を見に来ただけみたい。
それにしても、アイザック先生が双子だったなんてびっくり。
「今なら、“ちょっと転移魔法の演習してました”で誤魔化せる。
無謀なことはやめて、帰れ」
アイザック先生がたしなめるように言うと、アイエ総司令官がワナワナと震えた。
「……お前はいつもそうだ」
「は?」
「なぜお前は、いつも俺をたしなめる!?
なぜ、いつもお前の方が正しい!?
“お兄ちゃん”は俺だぞ?」
これは、兄弟喧嘩が始まりそうな予感。
まさかね? と思ったけど、そのまさかだった。
「これじゃ、お前の方が“お兄ちゃん”みたいじゃないか!!」
容姿はとてもカッコイイ大人なのに、こどものようだわ!!
大勢の部下を前にたしなめられた恥ずかしさと、今まで積み重なったストレスが爆発したようだった。
「アイエ総司令官! 怒りをお鎮めください!!」
「連合軍の総司令官を務められるのは、あなただけです!!」
「アイザック様は、雑すぎてとても任せられません!!」
「高いカリスマ性と、丁寧な気配り、それが出来るのはアイエ様だけです!!」
「弟君は“邪神ロザリー”に洗脳されているのです!!」
アイエ総司令官。意外と部下からの信頼が厚かった。
しかも、アイザック先生の性格もご存じのようだ。確かにアイザック先生は、いろいろと雑だよね。
「お前ら、本気でコイツを“邪神”だと思ってんのか?
ちょっと魔法のコントロールが苦手な学生なだけだぞ?」
「それにしては、〔闇の精霊〕に愛されすぎだ!
七割の王が〔闇属性の魔法〕を使えるが、威力はささやかなものに過ぎない。
あんなふざけた威力は見たこともなければ、記録にも無い!!」
「だからって、こども相手に脅えすぎだ」
アイザック先生が、私の頭に右手を置いてガシガシと撫でた。
それを見て、連合軍の騎士達が「言われてみれば、確かに普通の学生にしか見えない」と頷く。その様子を見て、アイエ総司令官が更に不機嫌になった。
「いつもいつもいつもいつも、そうだ。
俺よりお前の方が正しい!!
評価されるのは、いつもアイザックの方だ!」
どうやら、長年の積み重なったストレスがあるらしい。
アイエ総司令官の怒りが爆発した。
(……何これ)
アイエ総司令官の体から、透明なオーラが燃え上がっているように見える。
すると、妖精さんが青い顔になった。
「ロザリン! 大変なんだよ!!
憎しみの感情が強すぎて、この辺りの精霊がアイエ総司令官の感情を食べに集まってきたんだよ!! このままじゃ魔人になっちゃうよ!!!!」
「ま、魔人!?」
「前に、“モンスターの体には精霊がいる”って説明したでしょ?」
「安定的に感情を食べ続けるために、モンスターの体に住み着いているのよね?」
体の中に精霊が住み着いているから、魔物は魔法を吐き出せる。
まさか、人にも起こりうる事なのだろうか?
嫌な予感がして、妖精さんに恐る恐る質問してみる。
「…………人間の体にも、精霊って住み着くの?」
「そうなんだよ!
異常なほどの強い欲求を持っていると、精霊が体の中に住み着いて【魔人】になっちゃうんだよ!!」
最悪なことに、アイエ総司令官の体が3倍の大きさになった。
不思議なことにそれに合わせて、服も大きくなったので裸にはなってない。精霊のせいで大きくなったから、何か魔法の力があるのだと思われる。
そして、血色の悪そうな肌の色になり、ムキムキの体つきになって、角まで生えた。この場にいた誰もが、信じられない光景を見て混乱した。
「ウソでしょ!?
魔人になったわ!!!!」
「え? 魔人!?」
「そんな! アイエ総司令官!!」
「どうしちゃったんですか!?」
「逃げろ! 逃げるんだ!!」
「まさか! 【邪神ロザリー】の力!?」
私の力なら、なんで私が驚くのよ!
変な言いがかりはやめて欲しい。
連合軍の皆さんも大混乱。それにもお構いなしに、魔人は「ガァァァァァァァ!!」っと空気が震えるほどの咆哮をあげた。それを全身で浴びると一つのイメージが入り込んできた。多分これは、アイエ総司令官の記憶。
――――――少しウエーブのかかった赤い髪の少年が、魔法の練習をしている。
きっと幼い頃の〔アイエ総司令官〕。
そこに彼によく似た〔赤い髪の少年〕がやってきた。
二人の違いは、髪にウエーブがかかっているかいないかぐらいだった。多分、彼は幼い頃の〔アイザック先生〕。こどもの頃はとてもかわいかったのね。
質の良い服を着て、顔だちの整った二人は天界の人間と言われても違和感がないぐらいキレイな少年たちだった。
後から現れたアイザック少年は、アイエ少年のマネをして魔法を放った。
すると、〔火の精霊〕が彼の前に現れた。
――――――ぼくも精霊に好かれたいのに、全然来てくれない。いったい何が足りないんだろう?
その後も密かに努力するアイエ少年。
少し胸がチクリとした。
ちょっと切ない思い出か通り抜けた〔アイエ魔人の咆哮〕。
この衝撃波の威力は凄まじかった。
強い風圧を感じたと思ったら、十メートルぐらい飛ばされた。
体が地面に落ちたとき、何が起きたかわからなかった。
他の皆も飛ばされて、地面に倒れていた。
再びアイエ魔人が叫ぶ。
「ガァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「ロザリー!」
また、衝撃波が来ると身構えたら、ヘンリー王子が私を軽く包み込むように前から抱きしめた。ヘンリー王子がかばってくれたので、今度は咆哮と共に通り抜けるイメージに集中できた。
――――――さっきより大きくなったアイエ少年。
どうやら誕生日に剣をもらったみたい。でも、重くて上手く振れないので、木の板に向かって振り下ろして練習しているようだった。
そこに現れたアイザック少年。
二人で稽古を始めると、軽々とアイザック少年が勝利を収めた。
――――――家を継ぐのは俺だ。もっと強くならなければアイザックに取られる。
切ない!
なんて切ない攻撃なの!!
衝撃波の後に来る想い出が心を抉る。
精神にも重たい攻撃だわ!
「ふうぅぅぅぅん!!
ドラゴンスレイヤーの陰に隠れろ!!!!!!」
衝撃波は、私達より後ろのグラウンドの生徒達の所までしっかり届いていた。
それをロザリーのお父さんがしっかり受け止めている。
泣き叫ぶ生徒は多いし、パニックになってる生徒もいるけど大丈夫そうだ。
「連合軍が来ると思ったら、まさか魔人が現れるとは!」
そう言うと、ロザリーのお父さんは魔人に斬りかかった。
大人数人で持たなきゃいけない〔ドラゴンスレイヤー〕の重さを感じさせない素早い動きだった。
ガキィィン!!!!
当たったけど、かすり傷を負わせただけだった。
ドラゴンの皮膚を切るための剣なので、刃の部分が分厚すぎて切れないみたい。
「ドラゴン用の剣では、魔人を切れんか……」
ロザリーのお父さんは、とりあえず魔法学園の生徒を守りに徹することにしたようだった。
「剣がダメなら、魔人の精神に訴えるしかないわ!」
私はそっとアイザック先生に杖を渡した。
「俺は剣を〔魔法の杖〕代わりに出来るからいらないぞ?」
そう。
宮廷魔法騎士のアイザック先生は、杖ではなく、剣を振って魔法を発動させる。
が、魔法を使うために渡したわけではない。
「アイザック先生、歌ってください!!」




