第74話 家庭教師現る
連合軍の会話をコッソリ聞き取るためグラウンドの木の陰に隠れて間もなく、妖精さんが飛んできた。
「来た! 来た! 来たぁ!!
魔法陣で河原の広いところに、どんどん兵士がやってくるよ!
ほら! 野外実習で魚を釣った所!!」
連合軍が、き、来てしまった。
妖精さんの声はティアも聞こえる。向こうはティアが妖精さんの知らせを伝えてくれたみたい。グラウンドの真ん中の方で皆が動き出した。ロザリーのお父さんはドラゴンスレイヤーで素振りを始め、生徒の皆は火の魔法で火柱を作る。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!!
急に色々な考えが頭を巡った。
須吾威さんの足を引っ張るんじゃないだろうか? と思えてしかたない。売れない声優だったので演技は上手くないだろうし、この世界に来て一回も演技などしていない!
失敗したら、ここにいる皆を怖い目にあわせてしまう。たぶん殺さないと思うけど、そうじゃなかったらどうしよう!? この芝居にアルムス王国の未来がかかってると思うと、逃げ出したくてしょうがなくなった。
「ロザリン☆ 落ち着いて?」
悶々と考えていたら、妖精さんが目の前に来た。
「ロザリンは、ロザリンでいればいいだけだよ☆
余計なことは考えなくていいんだよ?」
「盛り上がりや、登場人物が何を思って何をしようとしてたとか……?」
「考えなくていいんだよ☆」
そうよ! そうだわ!!
商業作品に出演するんじゃないのよ!
キャラクターの気持ちを掘り下げたり、いろいろ考えなくていいんだわ!!
私は私のままで演じればいいのよね!!!!
妖精さんの言葉で、スッキリした。
“迷惑かけちゃう”ばかりが頭の中を巡ってた。
「失敗してバレたら、暗黒聖女らしく山に火を放って逃げる時間を稼げばいいんだよ☆ だって、皆の中のロザリンのイメージって、そんな感じだもんね☆」
そうよね。そうすればいいんだわ!
この辺り一帯を火の海にすればいいんだわ!!
火の魔法は得意だもの!!
みんなの勘違いに悩まされてたけど、逆にそれを利用すればいいのよね!!!!
さすがにそんなことする気は無いけど、とても心が軽くなった。
それにしても、妖精さんって制作者側の人みたいな発言ね。
「来るよ!!」
妖精さんが、再び叫ぶ。
(さぁ! やってみるわよ!!)
私はさっき、ロザリーのお父さんに殺されそうになった時の感覚を思い起こした。
それだけで恐怖がよみがえり、体が震えてくる。
その気持ちをキープ!
そして、遠くの人が叫んでいるように、少し声の大きさは小さめ。語尾は少しのばして距離感が出るように…………!!
「いやぁぁぁぁぁ!!
こうなったら、とにかく思いっきり魔法を唱えるしかないわぁぁ!!!!」
(遠くで叫んでるように)と思いながら、やってみた。
上手くいったか確認する余裕はない。
グラウンドの方では、すかさず生徒の皆が私の魔法に見立てた〔炎の壁〕を放った。ロザリーのお父さんが砂煙を上げながらドラゴンスレイヤーを振る。〔炎の壁〕をぶった切られたので、リアクションの声が再びいる!
左足に力を入れる。
さっき地面を転がりながらドラゴンスレイヤーを避けたのを思い出す。あの時と同じような衝撃を再現するつもりで、体の内側の筋肉を動かしながら――――――叫ぶ!
「うぅあ゛ぁっ!!」
距離があると、音は遅れて聞こえてくる。
光の速さより、音が伝わる速さのほうが遅い。だから、声が遅れても問題ない。大丈夫。まだ、連合軍の人は演技だと気付いてない。
時間を空けず、ロザリーのお父さんの声が聞こえてきた。
「魔法など、この剣の前にはゴミくずのようなものだ!!!!」
「僕の方が先に着いたんで、割り込みはしないでもらえるかな?」
須吾威さんが合わせていく。
まるで同じ場所で会話しているみたい。
尊敬するお方の演技を近くで見られて感動した。
感動してたら、「カサッ」と連合軍の総司令官が一歩前に出る音が聞こえた。
「はははははははは!
二人も強敵を送り込めば、〔暗黒聖女〕も為す術もないだろう!!
弱ったところで俺が現れ、トドメを刺し、英雄になってやる!!!!」
演技だとバレてない!
良かった!!
あとは、本当にアルムス王国に攻めてくるかなんだけど……。
そこの所が話に出てこないので、冷や汗が出てきた。
ドキドキしながら、聞き耳を立てる。
「城の様子はどうだ?」
「はっ。“魔法学園で騒ぎが起きている”と通報したので、間もなく魔法騎士団が動くと思われます」
「アルムス王国の王子も通っているからな。必ず来るだろう。
ま、来たときには、もう遅い。
暗黒聖女を倒し、邪教に染まったこの国の王を倒すため、我々は城に攻め入っているところだ」
(本当にアルムス王国を滅ぼす気だった!!)
喜んでいいのか悪いのか、複雑な気持ちだった。
とりあえず、須吾威さんとロザリーのお父さんからは、命を狙われなくてすみそう。
でも、アルムス王国の危機じゃない!
「我が国に侵略戦争をしかけるということか?」
ヘンリー王子が、木の陰から連合軍の前に「スッ」と姿を現した。
すぐにジェイクとフォスターがそれに続く。(そんな堂々と姿を現すと危ない)と思ったら、須吾威さんも木の陰から出ていった。
「何てことだ。僕は利用されるところだった」
みんな勇気があるなぁ。
森の中に兵士がいっぱいいるのに怖くないのかな? 一人だけ隠れているのもあれなので、私もコッソリ木の陰から出た。
「ヘンリー王子!! それに、勇者と邪神ロザリー! 瞬間移動ができるのか!?」
アイエ総司令官はとても驚いていた。
遠くで戦っているはずの人達が、なぜ近くにいるにかわからないといった様子だった。引っかかってくれて、ありがとう。
あまりに不思議がっているので、声の演技だと教えてあげた。
「くっそぅ! こんな形で計画がバレるとは!!
勇者を一人でいかせるんじゃなかった!」
悔しがるアイエ総司令官。
憎しみに満ちたような顔の歪めかたをするので、せっかくのカッコいい顔が台無しになった。
「さすが、邪神ロザリー」
いや、ちょっと待ってほしい。
そもそも、その呼び方してるのあなただけ。誰も私を「邪神ロザリー」って呼んでないからね? “「堕天使」よりはしっくりくる”というような意見があっただけだからね?
「あれ? アイエ。こんなところで何やってんだ?」
グラウンドから、誰かがこちらへ向かってくる。
せっかく連合軍の悪巧みを暴いたのに、アイエ総司令官側の味方が現れるなんて最悪だ。いったい誰なんだろうと振り返ると、よく知った人がいた。
「……アイザック先生」
アイザック先生は、アルムス王国の出身ではない。
「きらめき☆魔法学園」の攻略対象は全員王子様みたいだから、連合軍側の人ともいえる。しかも、連合軍の総司令官に気軽に挨拶する間柄。
二人の関係を知るのが怖くて、再び冷や汗が出てきた。
「――――おい。アイザック。
俺のことは“お兄ちゃん”と呼べと、いつも言っているだろう?」
“お兄ちゃん”?
アイザック先生は、アイエ総司令官の弟なの!?




