第73話 天使現る
振り下ろされたドラゴンスレイヤーが、勢いそのままに斜め下から迫ってくる。
左に避けようとしたのだけど、ドラゴンスレイヤーの方が動きが速い。
(なんで、異様にでかくて重たい剣を、こんなに早く振れるの!?)
地面に転がりながら、なんとか避けた。転がったから全身が砂まみれ。
「ちょっと! 妖精さん!!
乙女の世界は平和なんじゃなかったの!?」
「アルムス王国は平和なんだけどねぇ~。連合国はちょっとわかんない☆」
もっと抗議したかったけど、諦めた。
ロザロザのお父さんがドラゴンスレイヤーを振り回す手が止まらない。なんて体力!
大きく振りかざされたドラゴンスレイヤーの影が、私にのびる。
(これは、よけられない……)
死を覚悟すると、目の前が真っ暗になった。
「バードック侯爵。あなたの娘は悪魔ではありません」
見上げると、ヘンリー王子が私をかばうように立っていた。
ドラゴンスレイヤーが「ガチンッ!!」と音を立てて、ヘンリー王子の目の前で止まる。
振り下ろした剣を寸止めに変更って、なんて腕力!!
「危ないことはおやめください。
殿下は洗脳されております!!」
「あなたの腕なら、止められると知っている。
それと、バードック侯爵。私は洗脳されてなどいない」
「……曇りの無い眼差し。
確かに、洗脳されているとは思えないが…………」
かばってくれた……。
もうダメだと思ったとき、ヘンリー王子がかばってくれたのがとても嬉しかった。王子様モードになってて、知らない人のように見える。いつも“僕”って言っているのに、“私”って言ってる。本気でかばってくれているのだわ。
それにしても、ドラゴンスレイヤーの前に出て行くなんて、なんて度胸なの!! 私にはできないわよ!
安心感のある背中だなと思ったとき、空から声が聞こえてきた。
「お待ちになって! お父様!!」
見上げると天使がいた。
金髪の少女が、立派な白い羽をはばたかせている。髪は二つに分けて、白いリボンで結んであった。そして胸の辺りで大きくカールされて……って、ロザロザ!?
ロザリーのお父さんは、涙を流しながらロザロザを見上げていた。
「おおぉ……ロザリー…………。
天使のような子だと思っていたが、まさか本当に天使だったとは……。
……それとも、殺されて天使になったとでもいうのか………………」
ある意味、その通り……かも?
私は少し焦った。
ロザロザは殺されて腹がたったので、復讐のために私をこの世界に引きずり込んだ。それから色々あって…………確かに殺されて天使になったといえなくもない。
冷や汗が出てきた。
殺したのは私じゃないけど、わかってもらえるだろうか?
「お父様! 私、生きておりましてよ?
それより、〔ドラゴンスレイヤー〕は私の誕生日プレゼントだったはず。
なぜ、勝手に持ち出してますの?」
ロザロザが“自分の誕生日プレゼントを勝手に使った”と静かに怒っている。
いや、あなた〔ドラゴンスレイヤー〕なんて重くて持てないでしょ。
「ねぇ、ゼアがいないねぇ?」
妖精さんに言われて気がついた。
ゼアはロザロザと旅に出たはず。側にいないのは変だ。
周りを見渡すと、遠くの空に“シッポが長くて、白っぽい鳥のようなもの”が飛んでいた。
「すごく遠くにいたね☆」
そっか。
〔ドラゴンスレイヤー〕が怖くて、離れているのか。
本当に、ドラゴンを殺せる代物なんだわ。
だからロザロザは怒っているのね。
「お父様!
ちょっと、こちらにいらして!!」
ロザロザはお父さんを連れて校舎へと続く階段に行き、説教を始めた。
「「「「「ロザリー様が二人!?!?」」」」」
みんなは「ロザリー様が二人いる!」と大騒ぎ。
勇者として召喚された須吾威さんも、「どういうことだ?」と混乱している。
今がチャンスなので、私はロザロザにこの世界に喚ばれたのだと説明した。
「……君も召喚されたのか」
「そんな感じです。
ところで、少し気になることがあるのですが……」
会話!
とにかくここは会話をして、戦わなくてすむ糸口を探そうと思った。
普通に会話しているように見せかけて、心臓はバクバクだった。
この辺りのほとんどの精霊や妖精が須吾威さんにメロメロなので、また戦いになったら次こそは消されてしまう。
「須吾威さんは、ここまで一人でいらしたのですか?」
「一人だが、馬車で送ってくれたんだ」
「送ってもらったとしても、異世界から喚びだされた人が、迷わず私を見つけ出すのは大変だと思います。案内役の人がいないと、普通はキツいですよね」
「あ、そうだね。
僕はこの作品に出演したから場所も顔もわかるけど、予備知識が無かったら難しいね。
あれ? でも、彼らとそんな話はしてないな」
「う~ん。
それって、時間がかかってもいいってことに思えますね。
こちらに目を向けさせて、何かしかけようとしていたら大変……」
あれ?
話をしていると、だんだんイヤな予感がしてきた。
「例えば…………侵略戦争か?」
ヘンリー王子が“まさか”と衝撃を受けたような顔をしている。
私も“まさか”と思う。
「学園の騒ぎを治めようと騎士団が動いたところで、城を攻める。
殿下。あるかもしれません」
ロザリーのお父さんが、説教から帰ってきて大きく頷いた。
「と、いうことは、まもなくこちらに連合軍がやってきますね」
「先に手を打たねばなりません」
いつも少し離れてヘンリー王子を見守っているジェイクとフォスターも、会話に入ってきた。
話がどんどん進んでいくので、ちょっと焦った。
ちょっと思いついただけだしなぁ。〔侵略戦争〕だなんて、気のせいだったときどうしよう?
とりあえず、“私を殺害する”という目的から、“侵略戦争の阻止”に目的が変わってきたので良かったと思うことにしよう。
このまま“侵略戦争の阻止”に集中してもらって、どこかでコッソリ逃げたらいいんじゃないかしら!
「一芝居打ってみてはどうでしょう?」
私は、勇者の須吾威さんが、素晴らしい声の演技が出来るお方だと説明した。
「そうか!
あいつらの思惑通り、グラウンドで三人が戦ってるフリをすればいいのか!!
僕は彼らの近くで“声の芝居”をしていれば、会話が聞き取れる」
「なるほど。
と、いうことは、私はグラウンドで砂埃を巻き上げながら、ドラゴンスレイヤーを振り回せばいいのですな?」
須吾威さんとロザリーのお父さんが、どんどん作戦を立てていく。
「連合軍の加盟国に、転移魔法の秘術を使える国があります。
転移魔法で軍を移動させて奇襲を仕掛けてくるなら、グラウンドと繋がっている山があやしいでしょうか?」
「野外実習で使用した広い場所もあります」
ヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターも参加して、さらに話が進む。
これで、とりあえず須吾威さんと距離ができそう。
あとは、どうやってコッソリ抜け出すか……と、考えていたら須吾威さんに「ガシッ」と手を掴まれた。
「さぁ、行こう!」
「え? 私もですか?」
「君も声優なんだろう?」
私は声優だなんて言ってないのに、なんで私が声優だと思ったんだろう?
とにかく「役に立ちません」と説明しようとしたら、ヘンリー王子が励ますように私の背中をポンポンと叩いた。
「大丈夫だ。僕も側にいる」
「私達もついていきます」
「安心なさってください」
ヘンリー王子と、ジェイクとフォスターも来るらしい。
え、行くの!?
コッソリ逃げるつもりだったのに、そうはいかなくなってきた。
……これ、連合軍こなかったら、ホントどうしよう?
もし、本当に来たら、もっとどうしよう――――――!!




