第70話 不審者現る
やむ終えない事情により、〔放課後トレーニング〕に参加できない生徒も何人かいた。
「きゃぁ! あの方カッコイイですわ♡」
下校する生徒が、自分を見ると黄色い歓声を上げてすれちがっていく。男はそれに満足し、さらに優雅に、上品に、カッコよく歩いた。
(そう。俺はどんなときも注目される男。
ただ、歩いていてもオーラを隠しきれないのさ!!)
男は、注目されたいがために〔連合軍〕のトップに上り詰めた、〔アイエ・エモシオン・プロフォンド〕だった。
◇◇◇◇◇
「ヘンリー殿下!」
放課後トレーニングの途中、学園の事務の人が校庭にやってきた。
まじめな顔でヒソヒソ話をし、ヘンリー王子の顔色が少し曇ったように見える。
どうしたんだろう?
「ロザリー。
残念なことに、面倒な客人が来たようなので、少し離れるよ」
そう言って、護衛のジェイクとフォスターを連れて、ヘンリー王子は校舎に急いで行った。
「ロザリー様。私もちょっと抜けます」
ティアも抜けるの?
事務の人は、ティアにも何か言ったみたい。
話を聞いたティアは、怒りの表情になったんだけど、何があったんだろう?
「だ、大丈夫?」
「ちょっと面倒な人が来たようです。
行きたくないけど、行ってきいます」
ティアは、ため息をつきながら、事務の人と一緒に校舎に行った。
ヘンリー王子とティアが抜けて、なんとなくトレーニングの空気が途切れる。
すると、クラスの男子が恐る恐る質問してきた。
「あの~、ロザリー様」
「少し気になっていることがあります」
「〔喜怒哀楽〕の中で、“怒り”の感情が一番やりやすいと前に聞きました」
「レッドドラゴンの親と戦ったとき、俺たちも実感しました」
「では、一番難しいのは何ですか?」
私は感動した。
今まで、イヤイヤ私の提案にのってくれているのだと思ってた。
今回の〔放課後トレーニング〕も、マリーとスピカに迫られて仕方なく参加しているのだと思ってた。
でも、そうじゃなかったのね!
私は嬉しくなって、「それはね……」と前のめりになって答えようとした。が、女子の黄色い歓声でその声はかき消された。
「「「きゃぁぁぁぁぁ!
あの方、カコイイですわ!!!!!!」」」
少しウエーブのかかった赤い髪。整った顔だちは、威圧感も冷たい感じもない。本当にカッコイイ。長身で、手足はスラリとのびてモデルみたい。
「…………どこかで見たことがあるような……」
この世界に来て、まだ半年もたってないけれど、どこかで見たことがあるような気がした。
う~ん。
ゲームのパッケージにでも描かれていたのかしら?
この人も攻略対象なんだろうか?
「それは、運命の出会いだと言っているのかな?」
体験版しか、まだ出てないしなぁ。と考えていたらこっちに来た。それにしても、「運命の出会い……」なんて、軽そうな人だわ。
私が考えている間も、〔赤い髪のカッコイイ男〕はずっとしゃべってた。
君の瞳がうんたらかんたら。輝くような紫がかった紺色の髪がうんたらかんたら。君が着ると制服もドレスのように見える。とか、とにかく褒めてくる。
周りの女子は大興奮。「うらやましい」とか「私も言われたい」とかいってる。 男子は「何だかスゴイヤツが現れた」とか「殿下という婚約者がいるのに、命知らずだ」と注目している。
「残念だな。君には婚約者がいたのか。
だが、〔愛〕に正直に生きるべきだ。結婚前の今なら婚約を解消して――――――」
そう言いながら、カッコよく私の方に手を伸ばしてきた。
大勢の中から私だけに注目して、こっちに歩いてくる。
「不審者よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
私は後ろに下がって叫んだ。
確かに、運命の出会いはあると思う。一目見て「この人だ!!」って感じる出会い。
でもね、この人、怪しい。
「みんな! 今こそ、トレーニングの成果を見せる時よ!!」
〈〈〈〈〈燃え上がれ! 炎よ!!〉〉〉〉〉
その場にいた生徒全員が、私の声を聞いて反射的に呪文を唱えた。
大きな〔炎の壁〕が生徒達の前に出来て、男がこれ以上近寄れないようになった。
高さは二メートル以上ある。トレーニングの成果が見れて、私はちょっと感動した。
「俺は〔連合軍〕の総司令官だぞ!?」
「そんな偉い人が、初めて会った人に“運命の出会い”とかいう?
たとえカッコよくても、魅力的でも、おかしいわ!」
「なんと! それは盲点だったぁ!!!!
いや、待て!
たとえ少し不自然でも、俺の〔品位〕と〔魅力〕で全ての女性が一度はときめく。
なのに、なぜ俺の魅力が効かなかった!?」
悔しがる〔赤い髪のカッコイイ男〕。
みんなも、自分たちの成長に驚きながらも「なぜ、こんなにカッコイイ人が不審者?」と疑問に思っているようだった。なので、私なりに思ったことを語ることにした。
「〔感情表現〕で一番難しいのは、“愛”!!
あなた、何の目的か知らないけど、みんなに〔運命の出会い〕を見せようとしているのが見え見えなのよ!」
「そんな!!」
「〔喜怒哀楽〕の中にすら入ってない表現!!」
「なんてことだ!!」
「〔怒り〕以外の、〔喜び〕〔悲しみ〕〔楽しい〕の中の感情じゃなかったのか!!」
「ロザリー様は、見事にウソを見抜いたのか!!」
さっき自分たちは、なんて良い質問をしたんだとクラスの男子が興奮した。
そうよね。驚くわよね。
〔喜怒哀楽〕の字の中に入ってない感情だもの。
だからね、〔愛〕は“別格”に難しい。
そして、〔恋〕と〔愛〕は別の感情表現。
“恋する人”の表現は出来ても、〔愛〕の表現で躓く人が養成所では多かった。それはもう、そこら辺を歩いている人に「ちょっと私と恋愛してくれませんか?」ってお願いしたくなるほどよ。でも、適当に付き合い始めてわかるものじゃない。
それに、実際に〔愛する人〕がいて、とても愛していても“表現”として外に出すのが難しかったりもするの。
じゃあ、愛する二人が演技したら良いのでは? って思うでしょ?
それがね、〔愛する二人〕が演技すると、今度は〔愛〕が出すぎてお芝居を楽しめない。(あ、お腹いっぱいです)ってなっちゃう。だから、よほど上手いカップルじゃないと、実際の〔愛する二人〕は配役されないらしいわ。
つまり!
それほど〔愛〕の表現は難しいのよ!!
よく騙そうとしてくれたわね!
あぁ! 腹立たしい!!
「恋愛のお芝居を得意とする人もいる。
けど、あなたは自分がカッコイイが故に、顔に頼りすぎなのよ!」
「俺の顔がカッコイイから、バレたのか!!」
不思議がっているから、なぜ気付いたのか教えてあげることにした。
「あなた。頭からゆがんでいるのよ」
「は!? 俺の頭はゆがんでいない!! そもそも、この髪のウエーブは生まれつき……」
「あなたの頭じゃなくて、文章の頭。
一言目の、最初の一文字のことよ!!」
「なっ! 一言目からバレただと!?」
「“大人の魅力”を出そうとして、音が変にゆがんでた。
次に、〔運命の出会い〕のイントネーションがおかしい。〔運命〕より〔の出会い〕の方が強いし、もっと細かく言うなら〔の〕から強くなって〔い〕が一番強くなってる。〔出会い〕を強調したいのなら、その前の〔の〕から強くなるのは変。何らかの意図を持ってそう言っているのかもと思ったけど…………芝居くさい言い方なのよ!」
お芝居に“正解”と言うものはない。
監督やディレクターさんがどういうふうに作りたいかだったり、作品に合うか合わないかだったり、お客さんからどう見えるかだと思う。
100パーセントそう思って言っているのに、ウソっぽい人とか、そう見えない人は多い。家族や知り合いだったら、まだわかりやすい。でも、知らない人が言ってることがウソかホントかなんて見わけるのは難しいのよ。
だから、“もしかしたら本気で言っているかもしれない”。そう思いながら話を聞いていたけれど、やはり芝居に見えた。
「だいたい、私に話すっていうより、周りの人に聞かせようとしているのが、チラチラ見えていたのよ。
何をたくらんでいるの?」
「くっそぉ!
そこまで見破られたか!!
どうやら〔ドラゴン殺しの屍生産機“幻光の堕天使ロザリー”〕のウワサは本当のようだな!!!!」
ドラゴン殺しの屍生産機“幻光の堕天使ロザリー”!?
え!?
誰のこと????
「し、しかばね生産機!?
“げんこう”?
“堕天使”ってどういうこと!?」
「しらばっくれるな!
貴様のウワサは、我が国にまで届いているぞ!!」
混乱する私。
他のみんなも混乱していた。
「“屍生産機”は、なんとなくわかる」
「“堕天使”っていうのが、引っかかるわ」
「ロザリー様に“天使”ってつくのはちょっと……」
「“邪神”の方がしっくりくるよなぁ」
「〔邪神ロザリー〕の方が確かに自然ね」
“邪神ロザリー”ですって!?
そんなの誰が信じるのよ!!
「貴様……〔神〕になろうとしていたのか!!」
信じるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
「いや、そんなわけないでしょ?
学生の戯言を信じないでください!!」
私は否定した。
ちゃんと否定した。
なのに、信じてくれなかった。
「思った以上に大変なことになろうとしていたとは!
ここは、ひとまず引いてやるが、次に会うときは容赦しないからな!!」
悪者の捨て台詞のようなことを言って、〔赤い髪のカッコイイ男〕は帰っていった。
少しして、ヘンリー王子とティアが慌てて帰ってきた。
「今、〔連合軍〕の“総司令官”が来てたみたいだけど、大丈夫だった!?」
「あの人、本当に面倒くさい人なので、ロザリー様に会わせたくなかったのに!
無事ですか? 無事ですか!?」
あの不審者、本当に偉い人だったらしい。
とりあず、この日は何事もなく終わり、次の日も特に何もなかった。
このまま何もなければ良いんだけど…………はぁ。ため息がでる。
◇◇◇◇◇
次の日。
連合軍の総司令官〔アイエ・エモシオン・プロフォンド〕は会議で、昨日のことを各国の代表に伝えた。
「“神”になろうだなんて、恐ろしい考えだ!!
ふざけたトレーニングで、学生の魔法の技術が上がるわけがない! きっとあれが、〔暗黒魔法〕。
こうしてはおれん!
勇者を召喚するのだ!!!!」




