証言2 「あいつは悪魔だ……ぶふぉっ!」
敵も味方も関係なく、皆が泣き叫んだ。
「こんな体では、もう家には帰れない!」
「まだ、やりたいことがあったのに!」
「ゾンビになるなんて!!」
「悪い大臣のいうことなんて聞いたから!」
「金に目がくらんだ結末がこれかぁぁぁぁぁぁ!」
「おだまりなさい!!」
暗黒聖女が一喝すると、泣き叫んでいた人々がピタリと叫ぶのをやめた。
みんなが泣き叫んでいる中、暗黒聖女の声がとてもよく耳に響いた。
そのことが、自分たちが暗黒聖女のゾンビになったことを裏付けているようだった。マスターの声が一番よく聞こえるということかと、この場にいた誰もが推測した(実は〔暗黒聖女〕についている“三人の〔古の光の妖精〕の加護”の影響なのだが、そんなこと知るよしもなかった)。
「あなたたちは、生きています!
泣き叫んでいないで、それぞれの人生を大切に生きなさい」
「生きている? 俺たちを殺したくせに!!」
「私達は、これから外見もゾンビになっていくんだわ!!」
「完璧なゾンビが出来上がるまでは、戦力にならないから好きにしていいということか!」
「なんて恐ろしい女なんだ!!」
「イヤだわ! 家族に、なんて説明したらいいのよ!!」
酷い酷いと訴える民衆を、冷静に眺めていた暗黒聖女は、静かに口を開いた。
「もう、行っていいかしら?
諸悪の根源を摑まえたいのだけど?」
その言葉に、皆、目が覚めたような思いがした。
そう。
全ては悪い大臣のせいでこうなった。
暗黒聖女が来なくても、そのうち反乱を起こす気でいた。
そうすれば、必ず死人が出る。
自分が死んでいてもおかしくない。
反乱を起こさなくても、重い税のせいで食べ物もろくに食べられず、餓死か、過労死していたに違いない。
「そうだよな。〔暗黒聖女〕の目的は、死霊を増やすことじゃない」
「サフラン王子に借りを返すために来た……」
「国を乗っ取った〔悪い大臣〕を引きずり下ろすのが目的……」
「反乱で死んでたのは、俺かもしれない……」
「死んだら何もできない。でも、私達はまだ動ける!!」
皆、普通の生活に戻れることに涙した。
「わかりました!!」
「人として生きられる僅かなときを、大事にします!」
「暗黒に手をそめても、やはり、あなた様は〔聖女〕です!」
「この国を救いに来てくれて、ありがとうございます!」
「〔暗黒聖女〕バンザイ!!」
「「「「「我々は喜んで、あなたの配下に加わります!!!!」」」」」
広場で騒ぎが起きている間に、その場を抜け出した者がいた。
ゴツゴツした岩肌が多く見える森の中を、息を切らしながら歩いている。
「おい! 国の秘宝のありかを言え!!」
感情のままに叫び、元国王を引きずる悪い大臣。元国王は縄で縛られていた。
悪い大臣は、〔暗黒聖女〕の出現にとても焦っていた。
なんせ、ウワサでは〔暗黒聖女〕は“ドラゴン殺しの死霊使い”といわれている。対抗するには、それ相応の武器が必要だ。
幸い、この国には“世界に誇れる秘宝”がある。伝説でしかないので、王族しかその隠し場所を知らない。本当にあるのかどうかわからないが、今はそれに縋るしかなかった。
「……あれは、もう…………ない」
「そんなはずはない! あるんだろう? 伝説の武器が!!」
引きずられて弱々しく答える元国王に、悪い大臣はイライラした。
(〔暗黒聖女〕をここで消さなければ、ゾンビにされるに違いない。
ウワサでは人体実験もしていると聞いたこともある。“単なるこどもの遊び”と思っていたが、実際に目の当たりにして気付いた。
あいつは本当にヤバイ!!!!)
実際に見た〔暗黒聖女〕は、ドラゴンを従えていた。
〔天使の羽〕が生えていたし、とにかく普通の人間じゃない。もしかしたら、自分を罰しに天が使わした〔正義の使者〕かもしれないとさえ思った。
そうじゃないかもしれない。が、とりあえず〔正義〕だろうと〔悪〕だろうと、驚異でしかなかった。
「言え! 言えぇぇぇぇぇぇ!!
俺の命がかかっているんだ! 妻や息子がどうなってもいいのか!?」
「……そうは言っても……無いものは、無い」
「ウソをつくな! 今、この場で殺されたいのか!?」
「お~っほっほ!
ウソではありませんわ!!」
空から若い女性の声がして、冷や汗がドバッと出た。
〔暗黒聖女〕が追いついてきたのだ。
光り輝く白く立派な両翼。二つに結ばれ、胸の辺りで大きくカールしてある髪は、キレイな金色で、天使が舞い降りて来たようだった。
「〔ドラゴンスレイヤー〕は、お父様が誕生日プレゼントにくださいました」
「はぁぁぁぁぁぁ!? わが国の秘宝を、誕生日プレゼント!?!?」
「国宝だとか知りませんわ。“洞窟で見つけた”と言っていましたもの。
そんなに大事なら、お城で管理しておくべきでしたのよ」
「いやいやいやいやいやいや。
あれはそんな気軽に持ち出せるものではないし・・・・・・」
「国王の座を乗っ取るほうが大犯罪ですわ!
それこそ、気軽にやっていいものではありませんわよ?
それに、愛しのゼアの脅威になりうるものを、簡単に返しませんわ」
そう言って、暗黒聖女は空を飛んでいるドラゴンを守るように前に出た。
“愛しのゼア”とは、ドラゴンのことらしい。
「ひぃぃぃぃぃ! ゆ、許してくれぇ!!
国の発展のためには、緩いことをしててはダメだと思っただけなん・・・・・・」
「お~っほっほ!
後から取って付けた言い訳なんて、聞きませんわ」
その言葉を聞いて、ドラゴンは悪い大臣を足で捕んだ。
〔暗黒聖女〕は、すぐに元国王の縄をほどき、その縄で悪い大臣を縛った。
「悪魔めぇぇぇぇ!!
ワシにだって、ワシにだって、最初は国を思う気持ちがあったのに、その話を聞きもしな……」
「それは裁判で話せばいいことですわ。
私はサフラン王子に借りを返しに来ただけですもの。
〔正義の使者〕でもなんでもありませんわ」
人の話を最後まで聞かない〔暗黒聖女〕に、悪い大臣は腹がたった。
こっちの言い分も少しは聞いてほしい。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!
貴様など、天使でも、聖女でもない!!
悪魔だぁぁぁぁぁぁ!!!!
この、【屍生産機】めぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
この事件のあと、〔クロコ王国〕で“ドラゴン殺しの屍生産機”が現れたとのウワサが密かに囁かれた。




