証言1 「確かに、ウワサ通りだ……ぐはぁっ!」
新章です
銀色のドラゴンに乗って大空に飛び立ったロザロザは、広がる大地を見下ろした。
ゆっくり飛んでいるようだが、ドラゴンが飛ぶスピードは早い。金髪の〔大きな縦巻きロール〕が、風でバタバタなびく。強い風の中でもドラゴンに聞こえるように、ロザロザは叫んだ。
「ゼア! ちょっと、“借り”を返しに行きたいので、〔クロコ王国〕に寄っていただきたいのですわ!!」
不思議そうに、こちらを見るドラゴンが「ぐわっ?」と返事をした。
「でも、ドラゴンに乗ったまま〔クロコ王国〕の街を歩くわけにもいきませんわね。
三人の〔古の光の妖精〕の誰でも良いので、〔チョーカー〕になって力を貸してくれないかしら?
そうしたら、体が軽くなって移動が楽ですわ」
二つ返事で力を貸してくれると思ったのに、三人の〔光の妖精〕は「できない」と言った。
古い妖精だからなのか、“チョーカー”が何なのかわからないとのことだった。
「ツマリ、体ガ軽クナレハ、良イノダナ?」
「デハ、我ガ、〔右ノ翼〕ニナロウ」
「デハ、我ハ、〔左ノ翼〕ニナロウ」
三人の〔古の光の妖精〕のうちの二人がロザロザの背中に飛んだ。
すると、ロザロザの背中に立派な〔金色の翼〕が生えた。
続いて、三人目の妖精が言った。
「デハ、我ハ、〔魔法ノ杖〕ニナロウ」
◇◇◇◇◇
夕方。
城下町の細い路地裏の居酒屋。
意外と広めの店内の奥で、渋い顔の男達が七、八人集まっていた。「このままではよくない」「……もう限界だ」と、他に客はいないのに小さな声で会話している。そんな、薄暗く静かな店のドアが、突如大きな音を立てて開け放たれた。
バァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
「「「「「国王軍か!?」」」」」
慌てて立ち上がる男達。
しかし、店の入り口に現れたのは〔国王軍〕ではなく、〔天使〕だった。
金色の立派な翼。金色の長い髪は、胸の前あたりで大きな縦巻きロールにしてある。よく見れば、服はボタンもファスナーもない“田舎の服”。しかし、全身がほのかに金色に光っているからか、まったく気にならなかった。
「天使だと!?」
「飲み過ぎたのか!?」
「おい! 俺たちゃ酒を飲んでないぞ!!」
天使は、男達の反応を無視して言った。
「反乱を起こして、この国を取り戻しますわよ!!!!」
「は、反乱……!!」
「滅多なことを言うもんじゃないぜ」
「突然、何を言い出すんだ」
「誰かに聞かれたらどうする!?」
「お嬢ちゃん。気は確かか?」
男達は慌てた。
いつか反乱を起こそうと集まっていた。が、準備がまだ出来ていない。今はとにかく目立ちたくない時期だった。
「私、サフラン生徒会長への借りを返しに来ましたの。
……あぁ、〔サフラン王子〕と言ったほうが、あなた達にはわかりやすいかしら?
元、国王軍のみなさま方?」
「お嬢ちゃん……サフラン殿下を知っているのか?」
「しかも、俺たちの素性まで!!」
天使は、全てを知っているような目をしていた。
昨年、悪い大臣が反乱を起こして、国王に成り代わったこと。本来ならそこで、小国が集まって加盟している〔連合軍〕が助けに来るはずが、〔連合軍〕は来なかったことを――――――。
それは、大臣が〔連合軍〕に巨額の寄付をし、先代の王は殺さず幽閉にとどめるだけにしたから。
さらに、サフラン王子は下級貴族に降格にした上で、アルムス王国の魔法学園に入れるという実質〔国外追放〕にしておき、“王が不甲斐ないから仕方なく反乱を起こしました”という形をとったため、〔連合軍〕は動かなかったのだ。
故に、今、大臣は王の座を得てやりたい放題。重い税に、市民は苦しんでいる。
それを、この天使は全て知っているようだった。
渋い顔の男達は、信じられない思いで天使をじっと見た。
じっと見ていると、天使の髪型が気になってきた者が出てきた。
「……あれ? その、縦巻きロールの髪型…………まさか、〔暗黒聖女〕?」
「貴族のこども達の間でウワサになっている人物か?」
「この大陸に、巨大な結界を張った聖女か!」
「確か“ドラゴン殺しの死霊使い”と言われるほど強いとか……」
「そんな、まさか」
「“サフラン生徒会長”と言っていた。
彼女はアルムス王国の〔魔法学園〕に通う生徒だ!」
「確かに言葉遣いは貴族そのものだ!」
「おぉ! アルムス王国の聖女様がついているなら心強い!!」
翼があるから〔天使〕と思ったが、〔聖女〕だった。
渋い顔の〔元国王軍の男達〕は聖女について行くことにし、すぐに城に向かった。
途中、悪い大臣に嫌気がさした市民が次々と加わり、城に着くころには百人ぐらいになった。
城に着くと、聖女は門の前で高笑いをした。
「お~っほっほっほっほ!
私が来たからには、大臣の悪事もこれまでですわ!!
大人しく降伏なさい!!!!」
「堂々とした姿」
「なんて頼もしいんだ!!」
ついてきた市民は興奮した。
門番は不審者を捕まえるべく、聖女に向かって行く。
渋い顔の男達は、身構えた。
(((((きっと、聖女は得意の〔結界〕を張って、門番の足止めをするだろう。 そこで俺たちが前に出て、門番に剣か魔法で攻撃だ!!!!)))))
「ふふふふふ。
私、あの子の中でずっと観察しておりましたのよ?
呪文を唱えるとき、体のどこに力を入れて、どの筋肉を動かすか、何に気をつけたらいいか全て知ってますわ!!
食らいなさい!
〈燃え上がれ! 炎よ!!〉」
聖女が何を言っているのか、その場にいた者にはよくわからなかった。が、やる気と自信はしっかり感じられた。
何を言っているのかわからなくても、暗黒聖女がこの大陸に大きな結界を張ったのは、この場にいる誰もが知っていた。きっと、また結界を張って自分たちを助けてくれるに違いない。誰もがそう思った。
しかし、聖女が構えた杖の先から出たのは、〔ロウソクの炎〕のような小さな火が出た。
「あれ? どうなってますの!?」
何か、予定が違ったらしく、聖女は慌ててポンポンポンポン小さな火を出した。
それを見て、門番は笑った。
「ははははは! 何だそれは? マジックショーか?」
「とりあえず、王への反乱で捕まえるぞ……ぷぷぷ」
「どうしてですの?
あの子の中にいたときは感じられた細かい筋肉が、今は肉の塊にしか感じられませんわ!
そういえば、あの子、毎日“すとれっち”だの“発声練習”だの言って、朝か夜にトレーニングをやってましたわ!!
この体はそれをやってないから、出来ないということですの!?」
わけのわからないことを聖女が言っている間も、門番は笑いながら近付いてくる。
聖女は、空に向かって叫んだ。
「ゼアァァァァァァ!」
すると、空から〔銀色のドラゴン〕が現れた。
優雅にバサンッバサンッと羽を動かして、聖女の近くに舞い降りる。
その場にいた者は、恐怖で叫び声を上げた。
「うわぁぁぁぁ!」
「ウソだろ!?」
「ドラゴンが王都に現れるなんて!」
「反乱どころじゃないぞ! 逃げろ!!」
「お嬢ちゃん! 早く逃げるんだ!!」
だが、少女は逃げるどころか、ドラゴンに抱きついていった。
「私、ピンチですのぉ。助けて♡」
それを聞いて、ドラゴンの顔が赤くなった。
「「「「「え? “ドラゴン殺し”ってそっちの意味!?」」」」」
〔ドラゴン殺し〕は“ドラゴンを殺す”という意味でなく、“ドラゴンをメロメロにする”という意味だったようだ。
男達が驚いている間に、ドラゴンは聖女を乗せて高く舞い上がった。
ドラゴンの顔の前に炎が現れ、だんだん大きくなりながら回転していく。それを、聖女は止めた。
「お城が燃えたら、サフラン生徒会長が帰る所がなくなりますわ」
ドラゴンは炎を出そうとするのを止め、聖女を背中に乗せたまま、もっと高く舞い上がった。
そして、城に向かって〔風の魔法〕を使い、さらに自らの翼で風を送る。
城の中は、風が吹き荒れて、人がどんどん窓や扉から投げ出された。使用人も貴族もごちゃまぜに空から落ちてくる。
「さぁ! 悪い奴らを捕らえるのですわ!!
私より、あなたたちの方が詳しいでしょ?」
「そうは、言っても……ぐはっ!!」
「こんないっきに人が降ってきても……い゛だっっ!!」
「待て待て待て! 俺たちにあたる゛っ!! ぶふぉ」
空から降ってくる人にあたって、どんどん気絶していった。
敵も味方も関係なく、皆、気を失った。
「………………やりすぎましたわ」
反乱軍の人達の前に、お城にいた人達が落ちて、いい人か、悪い人か判別してもらうのが理想だったらしい。が、これでは判別どころではない。
「“光の精霊”が三人もいるのですから、私にも〔癒やしの魔法〕が使えますかしら?
〈光の精霊よ、この者達を癒やせ〉」
聖女が呪文を唱えると、渋い顔の男達も、途中で合流した街の人も、お城で働く人も、悪い大臣に仕える人も、みんな目が覚めた。
「さすが〔暗黒聖女〕やることが荒いな……いてて」
「あぁ、痛かった…………って、……荒いだけで〔暗黒聖女〕なんて呼ばれるか?」
「……“ドラゴン殺しの死霊使い”……。おい、まさか!!」
「俺たち、気を失ったと思っていたが、実は気を失ったんじゃなくて“死んでた”のか?」
「俺たち……〔死霊〕にされたのか!?」
「「「「「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
お城の前の広場は大混乱に陥った。




