第67話 洞窟へ
次の日。
学園がお休みの日だったので、私は馬車で“古の妖精”の所へ行くことにした。
妖精さんが言うには、アルムス王国の南の方。隣国の、山の中の洞窟にいるんだって。空に魔法陣を書く時おじゃましたラーチ先輩の国より、まだまだ南の方の隣国みたい。馬車の中で、妖精さんが得意げに語ってくれた。
「今より、ずっと、ず~~~~~~っと昔ね?
三人の〔光の妖精〕に、ものすごく愛されたエルフがいたんだよ☆ 彼女の死後も三人の妖精が遺体をずっと見守ってるの」
「そんなに昔なら、遺体はミイラになってるんじゃない?」
「〔光の妖精〕を甘く見てはいけないんだよ」
チッチッチと言いながら、妖精さんが人差し指をたてて、右、左、右と指を左右に動かした。
「〔回復魔法〕が得意な妖精が三人もいるんだよ?
腐敗どころか、生きていた頃より少し若返るほどにキレイな状態だよ」
移動中の馬車の中で妖精さんと話していると、なんだか外の様子がザワザワしてきた。どうやら、貴族の別荘地の森を抜け、小さな商店街にさしかかったみたい。
「聖女様の馬車だ!!」
「聖女様の魔法陣のおかげで、夜道も安心して歩けるようになりました!」
「私なんて、悪夢でさえ見なくなったわ!」
「この度は、ドラゴンを追い払ってくれて、感謝の言葉しかない!」
「絶えず空から花びらが降り注ぐ、平和な世界をありがとう!!」
馬車を見た人々が、「聖女様、聖女様」と声を投げかけてくる。
すごいすご~い!
私、“聖女様”って呼ばれてる!!
『あなた、結界を張ったとき“聖女様”って呼ばれてましたわよ?』
そっか、忘れてた。
私、この辺りの人からは「聖女様」って言われるんだった。
プリンセス馬車に乗るのは久しぶりだからビックリした。魔法学園に通うときは、ヘンリー王子かティアの馬車に乗るから、馬車に向かって声をかれられることがなかったもの。
それにしても……“聖女様”って呼ばれるのいいね。
『心が踊ってますわね?』
だって、仕方ないでしょ?
学園では“暗黒令嬢”だの“暗黒聖女”だの、“ドラゴン殺し”に“死霊使い”と、暗いイメージの呼び名しかないんだもの。“聖女様”って呼ばれると、ステキな女性になれた気になる。
頭の中のロザリーこと、ロザロザと会話している間も、たくさんの応援や感謝の声が聞こえてくる。
「普通の聖女様より、力強くて頼もしい!!」
ふ、普通の聖女?
聖女って、そんなゴロゴロいないよね?
『きっとティアのことですわ。
貴重な存在なのに、あなたのせいで影が薄くなってかわいそうですわね。
みんな感覚がおかしくなってますわ』
そうだよね?
ティアは貴重な存在だよね!
「我らの聖女様は、力が強すぎて〔暗黒聖女〕だと、貴族の間でウワサになってるらしい」
「“死霊使い”とのウワサもある」
「ドラゴンを追い払った時、ゾンビを従えてたらしいな」
「俺、その日、森の中でゾンビのうめき声を聞いた……!」
「頼もしすぎる! 〔暗黒聖女〕!!」
「「「「「暗黒聖女様、ばんざい!!!!」」」」」
ぐぅはっっ!!
どういうことなの!?
“聖女様”と呼ばれて喜んでいたのに、あっという間に「暗黒聖女」に呼び方が変わったわ。そして、それは「暗黒聖女」コールが始まってしまった。
どうせ呼ばれるなら、「聖女様」のほうが良かった……。
「大丈夫です。お嬢様。
町の者にお嬢様の身元はバレておりません」
頭を抱える私に、御者の人が小窓ごしに声をかけてくれた。「お嬢様の秘密は、私めがお守りいたします」と御者用の小窓から顔を覗かせたのは御者の人ではなく、専属メイドのミュゼ!
み、身元はバレてないって言っても、魔法学園ではみんな知ってるから、時間の問題よ?
『ふふふ。ミュゼは過保護なので、やり遂げそうですわ』
そんな、まさか。
……でも、確かにやり遂げそう。
それから馬車はずっと走り続けた。
馬車の中で昼食のサンドウィッチのお弁当を食べて少しすると、目的地に近い国境付近に着いた。人気のない山の中。よく馬車でここまでこれたなと思う。
「ここからは、変身して行くよ☆」
「え!? 馬車は!?」
「置いてく☆」
妖精さんが言うには、国境を越えるので検問とか気にしてたら日数がかかるから、山の中を進むとのこと。結界張るときも同じようなこと言ってた。妖精さんって抜け道に詳しいね。
『時間短縮で、効率重視。
チャラチャラしているようで、しっかりした計画を立てれるところが素晴らしいですわ』
ロザリー大絶賛。
妖精さんとロザロザに勧められ、私は馬車から降りて森を進むことになった。
ノリノリで妖精さんがチョーカーになり、私の首に巻き付く。私の髪は、妖精さんの影響で金色に輝き、体が軽くなった。
ミュゼにここで待っててとお願いして、私は大地を蹴る。
軽くなった体は、木のてっぺんまで飛び上がり、枝から枝へ私は飛びうつった。妖精さんの案内に従って進んでいくと、ゴツゴツした岩が目立つ洞窟に辿り着いた。と、同時に妖精さんが私の首から離れたので、驚いた。
「え?
もう変身といちゃうの?」
「ここから先は、あたしは入れないんだよ……」
残念そうな妖精さん。
妖精さんが入れないと言うので、一人で洞窟の中に入ってみる。
すると、少し歩いただけで、すぐ〔岩の扉〕に辿り着いた。
〔岩の扉〕には、〔妖精文字〕が書いてある。指でなぞりながら、それを読んでみた。
「あ…………まい、も、の、を…………持たぬものには、い、か、ず……ち…………雷を!?」
“甘いものを持たぬものには、雷を!?”
え!?
私、手ぶらだよ!!
動揺して力が入り、手が滑った。
その勢いで前に倒れ込むと、〔岩の扉〕が「スー」っと左に動いて、私は洞窟の奥に倒れこんだ。
「うわ”ぁぁぁぁぁぁ!
なんで突然自動ドアみたいに扉が開くの!?
私、おかしなんて持ってないのに!!」
心の準備どころかよ!!
お土産の準備がいるなら、前もって教えてほしい。
雷で打たれると思い、私はおもいっきり嘆いた。
______押せば良いのか、引けば良いのか、恋はよく分からない♬
その時、頭の中に歌が響いた。
それは、私の頭の中にいるロザロザの歌声。
乙女ゲーム〔きらめき☆魔法学園〕のテーマソングだ。
私はピタリと嘆くのを止めた。
……そうだった。
妖精にとって“恋”や“愛”はデザートなんだよね。
だから、それを持たない妖精さんは中に入れなかったのか。
――――――女の子らしさなんて、いったいどうしたらいいの?♪
私はロザロザと一緒に歌った。
歌い終わると、次の扉が開いた。
中に入ると、洞窟の中なのに明るくてびっくり。
壁際など、所々にある天然石がほのかに光って、幻想的な空間になっている。
部屋の中央には大きなクリスタルがあり、その中に若い女性の体が入っていた。長い金髪。とがった耳。きっと彼女が〔三人の古の妖精〕に愛されたエルフ。透き通るような白い肌は、血色が良く、今にも動きだしそうだった。
「久シブリノ来訪者!」
「大気中ノ精霊ガ騒イデル」
「闇ノ属性ノ者。闇ノ属性ノ者」
大きなクリスタルの方から、手のひらに収まるぐらいの〔三つの光〕がこちらに飛んできた。




