第66話 ゾンビ志願者
『ドキドキしましたわ! ドキドキしましたわ!!
ドキドキしましたわ!!!!』
ヘンリー王子が帰った後、頭の中のロザリーがはしゃぎだした。
『私、二人の邪魔をしないよう、興奮して叫びたいのを必死で堪えたんですのよ?』
だったら、このままそっとしておいてほしい。
思い出して、恥ずかしくなるじゃない!
『そんなこと出来ませんわ!!
ずっとマントに包まれるなんて、ドキドキしっぱなしでしたわよ!!』
そうなのよ!!
ヘンリー王子の体温が伝わってくるし、良い匂いがするし、ドキドキして目が回りそうだったのよ!!!!
――――いつもなら、このあたりで妖精さんも仲間に入ってはしゃぐのに静かだった。
この時の私はドキドキで頭がいっぱいで、そのことに気付くことができなかった。
次の日。
いつものようにヘンリー王子が“王宮の馬車”で迎えに来た。
続いて、ティアとゼアも「一緒に学園にいこう」と、誘いに来たから少しホッとした。だって、昨夜の事を思い出してウロウロというかそわそわというか、ヘンリー王子にどう接したら良いのかわからないんだもの。
学園の、半円になっている馬車降り場に着いて、何だか違和感が……。
他の馬車がいない?
今日、授業あるよね?
一人で登校してたら、“間違えたかな?”って思ってしまうほど静か。
“不思議だね”って話しながら校門に歩いて行ってびっくり。
校舎に続く並木道に、生徒がずらりと並んでいた。
「「「「「ドラゴン殺しの死霊使い〔暗黒聖女〕ロザリー様!!」」」」」
「「「「「おはようございます!!!!!」」」」」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
気合いの入った挨拶。
ビシッとそろったお辞儀。
それが全て私に向けられている。
なんて、乙女ゲームの世界からほど遠い挨拶なの!!
乙女ゲームといえば、少女漫画の様な世界。
花が舞って、朝日がキラキラしてて、微笑みながら優雅に挨拶。
っていう登校じゃないの!?
私は両手で頭をかかえた。
すると、突然マリーとスピカが現れた。
「ロザリー様! おはようございます!!」
「この者達は、ゾンビ志願者です!!」
ゾンビ志願者!?
ゾンビ志願者と言われても、私に人をゾンビに変える力はない。
私に出来るのは“ゾンビごっこ”。遊びみたいな発声練習よ?
驚愕していると、マリーが得意げに私に説明を始めた。
「大丈夫です!!
本当に“ゾンビ”になるわけじゃなくて、〔発声練習〕だと説明してあります」
「大勢に教えるのは大変でしょうから、肉と骨を引き剥がしたい者には、私とマリーで担当します」
「あ、ありがと……」
こうして、放課後〔ゾンビレッスン〕が始まった。
ユラユラと“ゾンビごっこ”をしながら、皆でグラウンドをグルグル回る。
そのあと、質問があった。それは、同じクラスの男子からだった。
「ロザリー様!
ドラゴンを追い払うとき巨大化しておられましたが、あれはどういう魔法ですか?」
学園から見ていた人達には、人間と同じぐらいの大きさのドラゴンに見えたらしいけど、そうなんだよね。確かにあのとき私は巨大化した。
「あれは、力を貸してと〔光の精霊〕にお願いしたら、大きくなったのよ」
「そうだったのですか!
“光の精霊”と話せるなんて、さすがロザリー様です!!」
「妖精文字も読めるし、ロザリー様は本当にスゴイ!!」
「もしかして、結界を張るとき髪が金色になってたのも、精霊の力の影響ですか!?」
皆がザワザワとしてきた。
巨大化が出来るし、光の精霊と話もできると言って盛り上がり始めた。
「結界の時は、妖精さんに力を借りたの。
あのとき、妖精さんが一人で逃げ…………」
「そうよ、ロザリン!
魔法陣はあたしの力だって言ったげて!!
あと、ロザリンは妖精とも話せるってね!!!!」
妖精さん?
急に愛称で呼んでくるなんてどうしたの?
話に割って入るほど、褒めて欲しいの?
『違いますわ。
あれは、一人で先に逃げたのを知られたくないのですわ』
あ、……あぁ。なるほど。
じゃあ、「ドラゴンが強そうだったから精霊さんにお願いした」ってことにしよっか。
あっという間に、みんなでの練習の時間が過ぎ去った。
今日は説明をしながらだったので、やり方の確認で精一杯。
人数がいると、説明にも時間がかかる。
次回はもう少し細かく、コツを説明して効率よくトレーニングしていきたい。って、放課後のトレーニングいつまでやるんだろ?
あんまり深く考えたくないなと思いつつ、眠りにつこうとしたとき、妖精さんが枕の陰から顔を出した。
「…………ロザリン……」
とっても、しょんぼりしてる。
一目散に逃げたことを反省しているようだった。
「大丈夫だよ。
先に逃げたことなんて、気にしてないよ?」
手のひらサイズの妖精さんからしたら、私よりもっともっと怖かったと思う。
住民のみなさんも避難してた。逃げるのが当たり前だよね。
「……あのね、ロザロザの体、手には入るかもしれない」
「ロザロザ!!
それって、私の頭の中にいるロザリーのこと!?」
「だって、体が手には入ったら、二人とも同じ呼び方だと不便でしょ?」
それを聞いて、ロザリー(ロザロザ?)と私は驚いた。
ロザリーの体、手に入るの!?
「ロザリンが妖精文字を読めるから、もしかしたら、〔古の光の妖精〕のもとにたどりつかるかもしれないんだよ」




