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悪役令嬢にとりつかれました!  作者: 葉桜 笛
ドラゴン現る

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第65話 夜の訪問者

「長い、一日だった~」



 寝る準備が終わり、天蓋てんがい付きのベッドにたおれ込む。

 いかにも“お姫様”っていう、このベッドが、今では安らぎの場所。

 毎日、色んな事がありすぎて、ベッドが豪華だからワクワクして落ち着かないとか言ってられない状態だわ。



『そうですわね。

 今日も、一日を通して、いろいろなドキドキがありましたわ』



 ?

 ドキドキ?


 頭の中のロザリーが話している内容が、私と少しズレている気がした。

 迷子のドラゴンのこどもの話じゃなさそう。



『野外実習では、手作りの料理を半分こ。

 あなたが〔炎の壁〕に突入とつにゅうするさいの、絶妙ぜつみょうなサポート。

 そして、疲れ果てたあなたをかかえたまま、さく腰掛こしかけて見守る王子!!

 あぁ! 一日でこんなにもドキドキの展開てんかいが!!!!』


「うきゃぁぁぁぁ!!!!

 目が覚めたら、お姫様抱っこ状態だったのを思い出すからやめて!!

 あれはホント、ドキドキした!」



 ロザリーにからかわれて悲鳴をあげていると、妖精さんがニコニコしながら飛んできた。



「ドキドキの展開は、まだ続くかも……なんだよ☆」


「?」



 妖精さんが何を嬉しそうにしているのか、わからない。

 楽しそうに、窓を指さしている。見ると、「コツン」とガラスがる小さな音がした。誰かが、窓に小石を投げたのかな?



 えっ、誰が?



 妖精さんの笑顔に、何かの予感がして胸が高まる。

 はやる気持ちをおさえながら窓に近付き、ゆっくりと窓を開ける。

 すると、こちらを見上げて「ほっ」としたような笑顔になるヘンリー王子がいた。



 なぜ、夜にヘンリー王子がコッソリたずねてくるの!?



 不思議に思っていると、花が「ふわ、ふわ」と、空からってきた。

 これは、人の恋や愛に反応して、妖精がき散らす花?

 気付けば、どこからともなくバイオリンの二重奏にじゅうそうが聞こえている。

 とても静かで、キレイな音色だった。



 まさか、まさか、まさか…………!!



 心拍数が早くなる。

 ヘンリー王子は、〔セレナーデ〕を歌おうとしてるのかもしれない!


 王子が「スッ」と息を吸っただけで、さらに胸が高まった。

 予感通り、ヘンリー王子は歌い始めた。

 優しく、ただストレートに「君が好きだよ」という〔愛の歌〕。

 まっすぐに、私に向かって歌ってる。

 少しひかえめな伴奏ばんそうは、他の人が歌を聞きつけて、邪魔されないよう配慮している感じさえする。

 私だけに……、私だけの歌。

 これはじっとしてはいられない。




 どうしよう!

 今すぐ飛びつきたい!!




 でも、でも、でも!

 この部屋を出て、階段を降りている間に「いやがられた」と勘違かんちがいされて、帰ってしまったらどうしよう?

 一言「ちょっと待ってて」と、声をかければいいんだろうけど、この歌を途中で止めたくないし…………どうしよう、どうしよう!

 ドキドキして、頭が混乱こんらんしてきた。

 



『好きな人が、自分のためだけに歌ってくれてるのですもの。ドキドキしますわよ。

 ですから…………わかるでしょ?』



 え? ……何が?

 ロザリーは、何を言ってるの?






『さぁ! あの胸に、飛び込むのです!!』






 !!!!!!!!!!


 頭の中のロザリーが、大胆だいたんな提案をするので、反射的に声にならない叫び声が出た。

 


「――――ヘンリー王子の胸に飛び込むの!?

 ど、ドキドキしすぎて、ムリぃ!!――――」


「おぉっ!! 良い案だね☆

 手伝ってあげるぅ!!!!」



 妖精さんはノリノリだ。

 いったい何を、どう手伝うっていうの?…………はっ! これは!!


 突然とつぜん、妖精さんがチョーカーになって、私の首に巻き付いた。

 私の全身が輝きだし、髪の色が金色になっていく。

 妖精さんの力で、私を軽く、動きやすいようにしてくれた。



「2階から飛び降りるのは危険だものねぇ?

 これで、安全に飛び込めるよ☆」



 ひ、光の妖精の、ムダづかい!!



『何を言ってますの!

 恋愛は、常識を守ろうとしてたら、前に進みませんわ!!

 時には、大胆だいたんな行動も必要ですわよ!

 目の前で、愛情表現をしめしてくれているのです!!

 自分の気持ちに素直すなおになって、王子に飛びつけば良いのですわ!!!!』



 わ、わかったわよ!



 私は、頭の中のロザリーと妖精さんにかされたいきおいで、二階の部屋から、外で歌っているヘンリー王子の胸に飛び込んだ。



「ロザリー!!」



 ヘンリー王子は驚いた後、少しまゆひそめた。

 やっぱり、飛びつくべきではなかったかしら……。



寝間着ねまきで出歩いてはダメだと言ったじゃないか!」



 そう言って、とても嬉しそうに、マントでかくすように私を抱きしめた。

 魔法学園の制服のマントと違って、柔らかくて軽い素材。

 そして、それは、私がすっぽり入るほど大きかった。



「ごめんなさい。屋敷の中だから良いかと思って……」


「君が、飛び込んで来てくれるのは嬉しいけど、僕以外の男にその姿を見られるのは嫌だ。

 護衛のジェイクとフォスターは信頼できるけど、彼等も男だよ?

 出来ることなら……僕は君をひとめにしたいんだ…………」


「……!!」



 さらに「ぎゅっ」と抱きしめられ、ドキドキしすぎて何も言えなかった。

 心拍数しんぱくすうは上がるし、体温も上がるし、目が回る。

 とりあえず、屋敷の中であろうと、寝間着で部屋から出てはいけないと理解した。




「オヤ。

 先客センキャクガ、イルノデスカ」



 ドキドキしすぎて目がまわるのでヘンリー王子にしがみつくと、空から思わぬ来客があらわれた。



「光の精霊さん!!」



 なんで!?

 なんで、ここに来たんだろう?


 私は不思議に思った。

 ヘンリー王子もビックリしてる。



「ヤハリ、アナタノ歌ヲ聞キタクテ、来マシタ」



 どうやら、歌を聞けると期待きたいして力をしたのに、聞けなかったのが残念だったらしい。「じゃ、今日のお礼に」と、歌を歌うことにした。


 ヘンリー王子のマントにくるまれたまま、近くの膝丈ひざたけぐらいの花壇かだん腰掛こしかける。

 そこで、のんびり〔きらめき☆魔法学園〕のテーマソングを歌った。それは、夜のピクニックみたいな不思議な時間だった。



「ロザリーはスゴイね」



 ヘンリー王子が柔らかく微笑ほほえむ。



「夜に精霊が歌をきに来るし、君の歌はこの世界を変えた」



 そう言って空を見たので、私もつられて空を見た。

 空には、ゴリゴリモンスターけのための大きな魔法陣が、ほんのり光っている。そこから舞いりる花びらもかすかに光っていて、夜に見ると幻想的だなと思った。



「あの魔法陣が出来てから、夜も少し明るくなって犯罪が減ったんだ」


「……そうなの?」


「“明るくなったから”だけじゃなくて、この舞い降りてくる“花びら”を見ると犯罪をおかす気がなくなるみたいだよ?」



 そうなんだ。

 妖精さんの魔法ってスゴい。



「他ノ歌モ、歌ッテクダサイ」



 一曲では物足ものたりないらしく、光の精霊さんに他の歌も催促さいそくされた。



 ほ、他の歌?

 他に“きらめき☆魔法学園”の歌を知らない。

 歌、歌…………

 あ! あるじゃない!!

 各学校に必ずあるもの。

 それは、校歌!!



 でも、正直いうと、うろ覚え。

 だって、まだ入学して一ヶ月ぐらいなんだもの。



「じゃ、ぼくも一緒に歌うよ」



 ヘンリー王子が面白そうにクスッと笑った。

 そして、私達は二人で校歌を歌った。伴奏ばんそうはジェイクとフォスターのバイオリン。それは、情緒じょうちょあふれる演奏だった。

 だからなのか、ヘンリー王子と二人で歌うと、校歌も恋愛の歌のようになった。

 それとも、精霊や妖精さんが好きな歌は“恋の歌”と意識しているからなのかな? 


 歌詞の“緑にかこまれたこの地で、ぼくらは学ぶ”の所は、まるで“大自然に囲まれて、愛を学ぶ!”みたいな感じになった。

 歌いながらドキドキして、ずかしいやら、れくさいやらで、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。

 でも、ミュージカルというか、バラードというか、そんな感じで校歌を二人で歌うのは楽しかった。



 精霊さんがるように聞いてくれるのも、調子に乗ってノリノリで歌ってしまう原因げんいんだなと思っていると、何だかまわりがほのかに明るくなってきた。

 それは、少しやわらかい、夜のイルミネーションのようだった。



「うわぁ☆

 他の妖精や、小さな小さな精霊が集まって来たよぉ」



 チョーカーになって、首に巻き付いている妖精さんが言った。

 進化した精霊さんの他は、私は〔光の妖精さん〕しか見えない。小さい小さい赤い光や緑の光、水色にオレンジ、紫の光はきっと、他の種族の妖精さんなんだろうな。


 気付けばヘンリー王子の周りにも、光が集まっている。

 ふわふわと、やわらかいらかい光。これは、もう、ときめかずにはいられない不思議な空間だった。



「心ミタサレル歌ダッタ」





 光の精霊さんが満足して帰っていくと、私達の周りに集まった光がゆっくりと消えていった。妖精さん達も帰ったみたい。



「今日は来て良かった」



 ヘンリー王子が静かに言った。

 ホッとしたような、満足したような顔をしている。



「セレナーデを今更いまさら歌ったって、遅いかなと不安だった」



 遅い?

 どうしてそんなことを言うんだろう?

 聞くと、どうやら私にあきれられるかもと思ってたみたい。



「僕がロザリーに婚約破棄だと言ったとき、君のもとにセレナーデを歌いに来た男が四人もいたと聞いた。すごくくやしいと思ったよ。僕が最初に届けたかった。」



 そう言って、ヘンリー王子は私をギュッと抱きしめた。

 もともと、マントに包まれて近かった距離がさらに近くなってドキドキした。



「今日、君が“怒りを込めて炎の魔法を”と言ったとき、いつもより大きな炎が出て自分でも驚いた。僕は自分が思うより、独占欲どくせんよくが強いみたいだ……」


 ヘンリー王子の腕に、さらに力が入った。

 “怒り”というより、嫉妬の炎だったの……?

 耳まで顔が赤くなる私のほほにキスをして、ヘンリー王子は帰っていった。


 

ジェイクとフォスターは、勤務時間外です。個人的にヘンリー王子の恋を応援したくて「ムードを出すには、邪魔にならない程度の伴奏が必要です!」と、強引についてきてくれたのでした。



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