第64話 帰還
あたたかい……。
安定した所で、私は何かにもたれかかっている。
なんて居心地が良いんだろうと思うと、だんだん視界がクリアになってきた。
これは、ヘンリー王子の笑顔……………………!?
目が覚めてびっくりした。
ヘンリー王子は、私をお姫様抱っこしたまま[古い切り株]に腰掛けている!!
ど、どのぐらい気を失っていたのかしら!?
ずっと寝顔を見られていたの!?
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!!
「ロザリーは、ちょっとの間しか気を失っていなかったよ」
ヘンリー王子が、慌てる私の心を見透かしたのか、教えてくれた。周りを見ると、宮廷魔法騎士団とティアたちが消化活動をしている。少し離れた所では、クラスの男子が民家に飛び火した小さな火を消していた。
みんな頑張ってる。
私も手伝おうとしたら、アイザック先生に止められた。
「お前、俺の仕事を増やす気が?」
前に、学園の校庭を毒沼のようにしたのを覚えているようで、キレ気味に止められた。
ヨド先生にも「こういう現場は、魔法が不安定になりやすい」とやんわり止められた。
「ヨド。遠回しに言ってもコイツには伝わんねぇ。
正直に“民家を燃やされては困る”と言え!」
私の信用ゼロ。
フラフラと牧場の柵にもたれかかると「そうやって休んでろ。ドラゴンの“炎の壁”に比べたら、こんなのすぐ終わる」とアイザック先生に言われた。言い方は荒いけど、気を使ってくれてるみたい。
でも、アイザック先生は勘違いをしている。
“炎の壁”はドラゴンのせいじゃない。村をドラゴンに焼かれないために、私が考えた案だ。作ったのが私達だと気付かれませんように……。
そんなことを願いながら、消火活動を見守った。
消火活動は、アイザック先生のいう通りすぐに終わり、私達は魔法学園に戻ることになった。
帰りは山道を登らなければならないので、これがキツかった。行きは楽だったんだけどね。
馬車道は避難していた住民のみなさんが使う。クラスの男子は「時に、市民に道を譲るのも強者の証ですね」とわけのわからない事を言っていた。
学園に着くと、クラスの女子が心配して校庭に集まってきた。
「皆様、ご無事ですか?」
「ここから見守っておりました!」
「ドラゴンの子を返せて良かったですわ!」
「親ドラゴンは思ったより大きくて怖かったですわ」
「男子も無事で何よりですわ」
女子が自分たちのことも心配してくれたのが嬉しかったみたいで、男子が前に出てきた。「俺たちも活躍したんだ」と胸をはって女子に説明している。
うんうん。
男子もがんばったよね!
「俺たちゾンビになったんだぜ!」
え……?
「肉と骨も、引き剥がせるようになったんだ!!」
え"え"っっ!?
男子は、行きに歩きながら森の中でやった[発声練習]の説明を始めた。しかし、女子が話についてこれていない。
現に、女子の顔色がみるみる青ざめていっている。
「その説明、ちょっと待っ…………」
きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
女子がいっせいに叫びだした。
男子の説明を止めようと思ったけど、間に合わなかった。
「私達を実験台にしないという約束でしたのに!!」
「今回は軽率な男子も悪かったですけれど、あんまりですわ」
「罰ですの!? これは罰ですの!?」
「暗黒聖女様の手をわずらわせたから……!」
「ロザリー様が怒ったら大変なことになりますのね!」
「「「「「男子がゾンビになってしまいましたわ!」」」」」
もう、女子は大混乱。
すぐに男子が誤解だと説明したので、わかってもらえた。
が、
校庭にはうちのクラス以外にも何人かいた。
学園に残ったほとんどの生徒は、教室の窓からドラゴンが近付いてくるのを見ていたみたい。だけど、全員は窓にはりつけない。だから、勇気のある人は校庭に出て様子を見ていたらしい。そんな、勇気のある生徒に、私達の話し声が聞こえたみたいで……。
「[暗黒聖女]がクラスの男子をゾンビにしたって!?」
「え? あいつら人間にしか見えねぇぞ?」
「実は高度な[死霊使い]だったのか!?」
「みんなでドラゴンの元に行ったらしい」
「そういえば、髪の長い女性がドラゴンに近付いていた……」
校庭から、校舎の窓辺の生徒へと話は広がっていく。
「まさか、あれはロザリー様だったの?」
「ドラゴンはロザリー様に脅えて逃げたのか!」
「あの時、密かに攻撃していたのかも」
「え!? ロザリー様がドラゴンを殴った!?」
「彼女はドラゴン殺しだ……」
「「「「「“ドラゴン殺しの死霊使い”[暗黒聖女]ロザリー様だ」」」」」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「誰が、“ドラゴン殺しの死霊使い”よ!!
みんな見てたんでしょ!?
殺してないし、攻撃もしてないわよぉぉぉぉぉぉぉ!」
私は全力で叫んだ。
でも、誤解は解けなかった。
クラスの男子は、さっきは誤解を解いてくれたのに、今回は「さすがロザリー様です!」と、喜んでいる。
どうやら、自分たちが責められるのを避けたい気持ちもあるらしい。ドラゴンを連れ帰るようにティアに提案したのが、今回のキッカケかもしれない。怒られるのが嫌だから、いつにも増して私をヨイショしようとしているように見える。
『ふふふふ。
強そうで良いではないですか』
頭の中のロザリーは大満足。
私は良くない。
ドラゴンを殺してないのに、“ドラゴン殺し”だなんてどういうこと!? それに、ゾンビを使ってどうやって空飛んでるドラゴンと戦うのよ! おかしいことに気付いてほしいわ!!
『巨大化してたから、指先に[ドラゴンのこども]がいたのがわからなかったのですわね。
みんな頑張りましたし、今回はクラスメイトをかばってあげなさい』
確かに、みんな頑張った。
ドラゴンの近くに行くだけでも、ものすごく勇気がいること。なのに、発声練習しながら現場に向かって、消火活動を最後まで頑張った。私の威名がちょっと変わるぐらい、いっか……。今さらだし、ね。はぁ……。
「うわぁ☆
どんどんロザリーの異名がスゴクなるね!」
喜ぶ妖精さん。
肝心な時にいなくなってたくせに、こういう時だけ面白がってよってくるんだから! もう!!
ティアとマリーとスピカも「さすがロザリー様です!」と喜んでいる。
あなたたちは近くで見てたでしょ? 何で今できたウワサを信じるのよ。
ゼアは私の心労を理解してくれたみたいで、ボソッと「……大変だな」と呟いた。そう。大変なの。
ヘンリー王子は楽しそうに笑って「ロザリーは本当にスゴイや」と喜んでいた。
笑顔のヘンリー王子を見て、ふと思い出した。
“炎の壁”を力を合わせて作る時、みんなに“怒りながら呪文を唱えて”とお願いした。
ヨド先生は、先生だから炎が大きいのはわかる。
あの時、ヘンリー王子もヨド先生と同じぐらいの炎を出していたのが気になる。今まであんなに炎を出したことなかった。
ヘンリー王子って、いったいどんな“怒り”を抱えているのだろう…………
◇◇◇◇◇
この日の夜。
ロザリーのお父さんが別荘に来た。
「おぉ! ロザリー!! 無事だったか!」
魔法学園の近くにドラゴンが現れたので、心配して見に来てくれたらしい。
「昔は、のどかな田舎だったのに、この辺も物騒になったものだ。
しかも、お前の通う学園の“暗黒令嬢”とやらは、今や“ドラゴン殺しの[暗黒聖女]”と呼ばれているらしいじゃないか」
けしからん。けしからん。と言っている。
それに対して、頭の中のロザリーが訂正した。
『まぁ、お父様ったら、情報収集が甘いですわ。
正しくは“ドラゴン殺しの死霊使い[暗黒聖女]ロザリー”って呼ばれてますのよ?』
いいわよ。訂正しなくて。
私にとっては、どっちも同じよ。
心の中で会話していると、ロザリーのお父さんが使用人を呼んだ。
男性の使用人が二人来て、白い布に巻かれた[板]らしきものを運んできた。
ロザリーのお父さんが、めっちゃ笑顔になる。
「ロザリーの欲しがっていた[ドラゴンスレイヤー]だ」
白い布が取られ、イカつい剣が姿を現す。
あきらかに普通の剣よりゴツい。
濁った鉛色の刀身。
それは、大きな生き物を目的とした大きさだった。重さが1kg、2kgの世界じゃない。10〜20kgはありそう。
確かに、前にドラゴンを倒せるようになりたいと言ったけど、こんなの両手でも持ち上げられないわよ!
『そうですわね。
男性の使用人が二人で持ってきましたものね。
女性には扱えませんわ』
娘が欲しがっているからと、[ドラゴンスレイヤー]を探し出してくる親。
さすが、悪役令嬢の父親ね。娘に甘すぎるわ。
でも、そのおかげで助かった。
ドラゴンの子の両親が殺されずにすんだ。ありがたさで胸がいっぱいになる。
私は目に涙をうかべながら、力一杯お礼を言った。
「はっはっは!
そんなに喜んでくれるなんて、父は嬉しいよ」
――――――――――――――――――――
洞窟では…………。
「何故だ!?
我が国の秘宝ともいうべき[ドラゴンスレイヤー]は、何処にいったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
サフラン生徒会長が、叫んでいた。




