第63話 届け!
くぅぅぅぅぅ!
妖精さんに力を借りようと思ったのに、先に避難していたなんて!!
このまま、ヘンリー王子やヨド先生の力を借りてゴリ押しで行くしかない。
私は〔炎の壁〕に突っ込んだ。すると、ヘンリー王子の出してくれた〔水の竜巻〕が私に合わせて前に進む。
〔水の竜巻〕の中にいる私のことは見えないだろうに、どうやっているんだろう?
ダメダメ! 細かいことは後、とにかく前に進まなきゃ!!
〔炎の壁〕を抜けるのは大変だった。
ドラゴンの炎がぶつかって〔火災旋風〕になりかけてるし、大きな炎だから圧力が凄い。アイザック先生率いる宮廷魔法騎士団の消火活動で、更に炎は揺らめいてもいる。よろめきながら、必死に踏ん張って前に進んだ。
あ”あ”っ!
どうして、こんなでかい炎を出してしまったのかしら!?
自分のアイデアが憎い!!
『これ以上ドラゴンが村に入って来ないためでしょ?
宮廷魔法騎士団の足止めも出来て、一石二鳥ですわ』
そうだった。そうだった。
なかなか前に進めないから、イライラしてしまった。
ヨド先生のマントが救いね。熱さを感じないし、火傷もしない。これがあって本当に良かった。
やっとの想いで〔炎の壁〕を抜けると、いた!
ドラゴンの両親!!
〔水の竜巻〕の中からでも、見上げたら確認できる。二匹の大きな赤いドラゴンが羽ばたいて、空中で止まってる!!
火を吐いて、〔炎の壁〕を押し返したいみたい。でも、宮廷魔法騎士団が全ての炎を消そうとするから、そっちも気に入らなくてイライラしてる。これはチャンス!
「今のうちよ!
さぁ! 飛んで!! 両親の元に帰るのよ!!」
私は、こどものドラゴンを飛びやすいように上に掲げた。
「ぐわっ!」
小さい赤いドラゴンが空に向かって飛んでいく。「ガンバレ! ガンバレ!」と見守っていると、突然ひょろひょろと落ちてきた。なんとか再び飛んでいこうとするけど、少ししたら落ちてくる。
『こどもだから、まだそんなに高くは飛べないようですわね』
そんな!
どうにか、どうにかならないの!?
あともうちょっとで両親の元に帰れるのよ!?
何度も羽ばたいて上を目指すけど、一定の高さから上には飛べないようだった。
こうしている間にも、アイザック先生の率いる宮廷魔法騎士団が〔炎の壁〕をどんどん消火している。それが終わればドラゴンの討伐。サフラン生徒会長がドラゴンスレイヤーを持ってきていたら、すぐに殺されちゃう。
早く何とかしなくちゃと思うのに、何も良い案が思い浮かばない。
「光の精霊よ…………たすけて……」
無意識に〔光の精霊〕に助けを求めていた。
一度、呼ぶことが出来たからとはいえ、〔光の精霊〕に何をしてもらおうというのか。自分でもよくわからなかった。それほど私の頭は混乱していた。
パァァァァァァァァッッッ!!
その時、私の足下近くの地面から、紫の光があふれ出した。
鼓動が早くなる。
この感じ、前にもあった!
ドキドキしながら足下を見ていると、地面から〔紫色に輝く精霊〕がゆっくりと現れた。ビルの3階建てくらいの大きさがある。紫色に輝くのは、私の魔法にはどうしても闇の属性が入ってしまうから。でも、でも、これは…………!
「光の精霊!!」
再び〔光の精霊〕が来てくれた!
ワラにもすがりたい状況だったので、とても嬉しかった。
《闇ノ属性ノ者……。私ニ、何ノ用デスカ?》
地面から少し浮いて、〔光の精霊〕が聞いてくる。
『ちょっと! 何て答えますの!?
〔癒やしの魔法〕をお願いしても、ドラゴンの子は空高く飛べませんわよ?』
貴重な精霊をムダに呼び出して、バチが当たると慌てるロザリー。 そう、ここで〔癒やしの魔法〕は意味が無い。
だから、〔光の妖精〕も“何の用ですか?”って言ってる。
ムダに呼び出したとわかれば、もう出てきてくれないかもしれない。精霊なんてホイホイと、気軽に呼べるようなものではないもの。
私の体が、少し震えだした。
でも、弱気な所を見せてはいけない気がする。
なるべく普通に聞いてみた。
「〔チョーカー〕になってほしいの」
少しの沈黙が流れた。
頭の中のロザリーは『何を言ってますの!?』と慌てている。
「〔妖精〕が進化したら、実体を持つ〔精霊〕に進化するのでしょう? 妖精が出来ることは、精霊になった今も出来るんじゃないかと思って。
やっぱり、進化すると出来なくなる?」
〔光の精霊〕の目がキラリと光った。
そして、少し顎を上に上げて、目を細めた。
〈私ヲ、挑発シテイルノデスカ……?〉
なるべく普通に聞いたのに、挑発されたと思われてしまった。
『この状況なら、そう取られますわよ。
“妖精に出来ることが、精霊には出来ないの?”って、嫌味を言っているようなものですわ』
え!?
嫌味!?
そんなつもりない!
あぁぁぁぁ!
ここは普通に聞かず、興奮したままお願いすれば良かった!!
もう、後悔しかない! チョーカーが無理でも、何か力を貸してもらえたかもしれないのに!!
心の中では大慌て。
そんな中、なるべく普通の顔をして[光の精霊]の返事を待った。冷や汗が出そう。
《イイデショウ》
〔光の精霊〕は静かに答えた。
でも、ちょっと“イラッ”としたらしく《シカシ、妖精ノ真似事ヲスルツモリハアリマセン》とか言い出した。
《私ハ、アナタノ[ティアラ〕ニナリマショウ》
そう言うと、〔光の精霊〕は小さな〔紫の光〕になって、私の額に飛んできた。〔紫の光〕は“紫色のティアラ”になって、説明を始めた。
《私ノ力ガ溢レテ、体ガ大キクナリマス》
見ると、私の体がどんどん大きくなっていく。
〔光の精霊〕と同じ、ビルの三階ぐらいの大きさになるのかもしれない。
服、破けないかしら?
心配したのが読めたのか、〔光の精霊〕は《セッカクナノデ、私ト、オソロイノ衣装ニシマショウ》と言った。服を用意してくれるのは、とてもありがたい。
魔法で私は〔光の妖精〕と同じ、ヒラヒラした長い布で出来たドレス姿になった。
ただ、〔闇の属性〕が入っているせいか、色は白ではなく紫。ティアラも紫。
髪をまとめていた白いリボンは、巨大化に伴いほどけてしまった。なので、縦巻きロールのクセがついたままの髪が、肩から下で大きく緩やかに波打っている。
巨大化した私。
ヘンリー王子の〔水の竜巻〕に入りきるわけもない。
必然的に、巨大化と共に〔水の竜巻〕を体で吹き飛ばしながらの登場になった。
みんな「あれは何だ!?」ってビックリしている。
宮廷魔法騎士団の消火活動の手が止まる。
少し離れた所で消火活動しているクラスの男子の手も止まった。
避難している村の人の足も止まった。
私が〔炎の壁〕を抜けるサポートをしてくれていたヘンリー王子達は「まさか……」と、ザワついていた。
みんながビックリしている今がチャンス!!
私は、こどものドラゴンを両手で大事に持って、高くジャンプした。
必ず親ドラゴンの元に返さなければ!
この子の両親が殺されるのはかわいそう。
ヘンリー王子も、ティアも、ゼアも、マリーとスピカも、ヨド先生も、そして私の事を異常に怖がるクラスの男子も、みんなこの子のために頑張った。
届け、届け、届け!!
羽が生えたように体が軽いのに、焦っているせいか長い時間に感じる。
「ぐぅわっ!」
「「グゥルルッ」」
こどものドラゴンの声が届いた!!
親ドラゴンが、こどもの声を聞いて返事をする!!
「あなたたちのこどもはここよ!」
私は、そっと両手を差し出した。
とにかく、こどものドラゴンを親元に返すのが先。
精霊の力で体が軽くなっても、空を飛べるわけじゃない。早く返さないと、体が地面に落ちちゃう。失敗したら、もう一回ジャンプすればいいんだけだけど、無駄な時間を使いたくない。
私は指先にちょこんと乗せているこどものドラゴンを見せた後、親ドラゴンの頭に乗せた。それが限界で、体がゆっくり下に落ちていく。
落下しながら、私は笑顔で言った。
「早く巣にお帰り」
ドラゴンの親子は、スゥッッと向きを変えて山の向こうに飛んでいった。
良かった良かった。
今回はクラスの男子にまで、無理をお願いしてしまった。
死人が出なくて、本当にラッキーだったと思う。
〔火災旋風〕になりかけている〔炎の壁〕が、まだ地上でゴウゴウいっているけど、そんなの気にならなかった。
今日はとにかく疲れた。
もう体に力が入らない。ゆっくりと落ち始めた。
《今日ハ、歌ワナイノデスカ》
そっか。
密かにそれを期待して力を貸してくれたのね。
精霊にとっても恋の歌はデザートなのか……。
「……とても疲れたので、今日は無理そう」
《ソウデスカ。デハ、次回ニ》
次回!?
また来てくれるの!?
今回、結界を張る必要がなかったので、歌をうたうことは頭になかった。
次からは歌うことにしよう。
そんなことを考えながら、私はゆっくり落ちていた。
地面が近付いた所で、変身が解ける。
体が地面にたたきつけられると思ったのに、痛くない。
あれ?
地面は?
「おかえり。ロザリー。頑張ったね」
まぶたが重くて、今どういう状況か見ることが出来ない。
この感じは、お姫様抱っこ? と思ったところで、私の意識は途切れた。




