第62話 計画通り?
親ドラゴンにかなり近い所まで走って行った私は、ティアが抱っこしている〔こどものドラゴン〕を指さした。
「あなた達のこどもはここよ!!」
そう叫んでも、親ドラゴンには気付いてもらえなかった。
緊張した様子で、警戒しながら近くを所々燃やしてる。
ティアもマリーもスピカも「連れて帰ってあげて!!」と、ドラゴンに向かって叫んだけど気付いてくれない。口数の少ないゼアも「おい……」と、ドラゴンに呼びかけようとしたとき、親ドラゴンが空高く舞い上がった。
え!? 飛ぶの!?!?!?!?
『そりゃ、翼があるのだから、飛んでも不思議ではありませんわ』
そうは言っても、今までこどもを探しながらゆっくり歩いて来てたじゃない!! さ、作戦が!!!!
『〔作戦〕って、皆で“炎の壁を作る”でしたかしら?
どうせ失敗してたでしょうから、気にしなくても良いですわ』
酷い! ロザリー!!
そりゃ、ヘンリー王子も「どうかな……」と言ってたけど、賛成してくれたもん! ティアとマリーとスピカは大賛成だったし……
『あの三人はあなたの信者みたいな人達ですから、あなたの言うことは全て賛成しますわ』
ヘンリー王子に作戦を聞かれたとき、私は魔法で〔炎の壁〕を作ることを提案した。
そうしたら、ヘンリー王子とゼアとヨド先生は“どうだろう?”といったような鈍い反応だった。
一時的にでも魔法で〔炎の壁〕を作れば、そこから先の家は守られるんじゃないかと思ったんだけどな……。もう燃えていれば、そこから先を燃やすのは困難。というのは、ちょっと雑な考え方だったかな?
でも、ヘンリー王子は「びっくりして僕たちの方を見て、我が子に気付くかもしれないね」って、言ってくれた。
『あなたのことが好きすぎて、ヘンリー王子はまともな判断ができてないだけですわ。
恋愛って恐ろしいですわね』
ヨド先生も「マントの防御力があればやれます」って言ってくれたし、いけると思う。
『それって、マントがない人はどうなりますの…………』
ロザリーが疑問を投げかけて来たとき、飛び上がったドラゴンが首を引いた。お腹に力を入れ、息をスーっと吸い込んで胸を大きく膨らませていく。
これ、絶対、火を吹く気じゃない!!
「みんな!
怒りを込めて呪文を唱えて!!!!」
(え!? 怒り?)と一瞬驚いたようだったけど、全員が思いっきり怒りを込めた大きな声で呪文を唱えた。
〔火の精霊〕は怒りの感情を好んで食べる。
強い強い感情が好き。だから、怒りの感情を込めるのよ!!
迷子のあなた達のこどもを連れて来たのに、なんで気付いてくれないのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
〈《燃え上がれ! 炎よ!!!!!!》〉
ボゥァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
皆で唱えた呪文が、大きな〔炎の壁〕となって現れた。
目の前にあるのは、炎、炎、炎、炎、炎、炎。
授業で魔法を唱えたときより大きい炎になってる!!
飛んでるドラゴンの高さに届きそうなぐらい、大きい炎だわ。
魔法の実技の担当のヨド先生と同じぐらいヘンリー王子の炎が大きいのには、びっくりした。
『ここが田舎で良かったですわね。
街でこれをやったら火の海になりますわ』
うん。
家から家まで、すごく距離のある村で良かった。
羊や牛を飼うために土地が広いから、思いっきり魔法が使えて助かった。
これだけ大きい炎なら、ドラゴンもこの先に進む気がなくなるんじゃないかしら。
参考になるような本を読んでて良かった。
小さい頃に読んだ本に、炎が燃え広がらないよう反対から火を放つシーンが……って、あれ? そういえば、本では、燃えてほしくない側の土を掘って、その前に火を放ってた気がする…………。
『土なんか掘ってないですけど、大丈夫ですの?』
恐る恐る〔炎の壁〕の端から端を見た。
右端と真ん中あたりが、二匹の親ドラゴンが放った炎と絡み合って渦を巻き始めている。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
火災旋風だわ!!!!
『宮廷魔法騎士団が来ましたわ』
見ると、黒い馬に乗ったアイザック先生が先頭に立って、魔法騎士団が町の方から現れた。
大変、大変!
早くなんとかしないと、親ドラゴンが殺されちゃう!!
火災旋風になるし、このタイミングで宮廷魔法騎士団は来るしで、全てが裏目に出て、もう泣きそう。
『まぁ……。これだけ大きな〔炎の壁〕が現れれば、気がつきますわよね』
宮廷魔法騎士団の皆さんは、まず、〔水の魔法〕で消火活動を始めた。
大きい炎を消すときの水蒸気って、どうなのかしら!?
近くにいると火傷するんじゃない……?
前に、モヤにとりつかれたヨド先生に〔黄緑色の炎〕で焼かれたとき、消化してくれるときの水蒸気がいっぱい出て、すっごく苦しかった。あの時より大きな炎だから、どうなるか想像もつかない。
ヨド先生のマントがあるから私は大丈夫だけど、皆が危ないわ!!
「みんな下がって!」
皆に離れるように言ったあと、私はティアからこどものドラゴンを無理矢理引き剥がした。
「ロザリー様!? まさか!!」
「私にはヨド先生のマントがあるから、〔炎〕も〔水蒸気〕も平気」
とにかく、こどものドラゴンを早く返すしかない。そして、皆には安全なところまで下がってほしい。そのことで頭がいっぱいだった。
「今なら、宮廷魔法騎士団は〔炎の壁〕に気をとられてて、ドラゴンの討伐どころじゃないわ!
全て、計画通り」
強がって、無理に笑顔を作って見せる。
とにかく早くなんとかしたい。
「ろ、ロザリー様? 目が座ってますわ」
「本当に計画通りですの?」
心配するマリーとスピカ。
二人とも、いつも心配してくれてありがとう!
感謝を胸に、私はこどものドラゴンを抱え、〔炎の壁〕に向かって走った。
親ドラゴンは〔炎の壁〕の向こう側。
迂回するより、突っ切った方が早い。
『あなた、死ぬ気ですの!?』
ロザリーの声が頭に響く。
大丈夫だよ。ロザリー。
ヨド先生のマント着てるから、ちっとも熱くないの。
それに、たぶん…………。
ザァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
〔炎の壁〕に向かってまっすぐ走る私の周りに、水が降り注いだ。 振り向かなくってもわかる。
大きな〔水の竜巻〕。
これは、ヘンリー王子の〔水の魔法〕。
〔黄緑色の炎〕から助けてくれた時と同じ魔法。
ヘンリー王子なら絶対、手をかしてくれると思ってた。
目には見えないけれど、想いが通じ合ってるっていう感覚に顔がにやけてしまう。
他にも、ゼアが、ヨド先生が、〔水の魔法〕で私の進行方向の炎を弱くしてくれてるし、マリーとスピカは〔水の精霊〕を呼んで、私が皆の心配をしなくていいように防御に徹してくれている。
クラスでは〔暗黒令嬢〕とか言われて浮いた存在の私なのに、全力で力を貸してくれる友人がいる。そのことが嬉しくて、嬉しくて、ヤケクソな事態なのにフワフワした気分になった。
(ありがとう! 皆ありがとう!!
私、今なら空だって飛べそうな気だってするわ!!!!)
あ、そうだ!
ゴリゴリモンスターが入ってこないように結界を張ってた時、妖精さんの力を借りたら体がとても軽くなってた。あれやったら、親ドラゴンの高さまで飛んで、この子を返せるんじゃないかしら?
「妖精さん! 妖精さん!
またチョーカーになって力を貸して!!」
私は妖精さんにお願いをした。
あれ?…………返事がない。
『光の妖精なら、かなり前に森の方へ逃げて行きましたわよ?』
え”え”ぇぇ!?
そうなの?
周りはヘンリー王子の〔水の竜巻〕で、外はよく見えないけど「遠くから応援してるんだよ☆」と森の木の陰から声援を送る妖精さんの声が聞こえた気がした。
せっかく良い案を思いついたのに――――――――!!
妖精さぁぁぁぁぁぁん!!!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、エナは驚いていた。
飛び上がる二匹のドラゴン。
突然現れた〔炎の壁〕。
のどかな田舎の村が、死の恐怖に脅かされている。
「ドラゴンは一匹じゃなかったの!?
それに、あの炎!
なんて恐ろしいドラゴンなの!!」
脅えるエナ。
それとは対照的に、近くにいた魔法学園の男子生徒が〔炎の壁〕を見て歓声を上げた。庶民の生活が脅かされているのに興奮している。貴族はクソだなとエナは思った。
「「「「「ロザリー様の炎だ!!」」」」」
「ロザリー様?
あの炎はドラゴンが吐いたんじゃないの?」
「〔炎の壁〕の真ん中が広く〔紫の炎〕になっているだろう?」
「ロザリー様の炎は〔紫〕だ!」
誇らしげに説明する男子生徒たち。
(はぁぁぁぁぁぁぁ!?
ウソでしょ!?!?!?!?)
一番大きく燃え上る不気味な〔紫の炎〕を見て、(そりゃ〔暗黒令嬢〕と呼ばれるわけだ)とエナは納得していた。




