第61話 ドラゴン発見
ここ、エナの家の近くよ!
『短い期間でしたが、お世話になった家が被害にあうのは避けたいですわね』
体が入れ替わった時、エナの部屋をお嬢様の部屋っぽく変えてたりしたから、思い入れがあるよね。シーツを窓につけたり…………
「あ――――――!!!!
あんた! なんでこんな所にいるのよ!!!!!!」
振り向くと、そこには茶色い髪におかっぱ頭のエナがいた。
「エナ! ひさしぶり!!」
「“ひさしぶり!”じゃないわよ!!
あんた! よくも私の部屋を少女趣味に変えてくれたわね!!
家に帰って、びっくりしたわよ!」
「怒らないで?
お詫びに、新しいカーテンとシーツを後で贈ったでしょう?」
「レースがいっぱいついた、お嬢様っぽいのをね!!」
どうやら、エナにはロザリーの趣味が合わないらしい。
お姫様に憧れてるみたいだったから、喜ぶと思ったのに。
「まぁ! この子、ロザリー様になんて口を!!」
「あなた、たしか前にロザリー様と魂が入れ替わった子ですわね?」
エナがプリプリ怒る姿を見て、マリーとスピカが私の前に出てきた。
体が入れ替わった時のことを覚えてくれてて、エナを警戒してる。嬉しいんだけど、今はドラゴンの子を早く返しに行きたいから、ここでもめたくない。私は慌てて二人をなだめた。
「いいのよ。二人とも気にしないで?
エナとはお友達になったの」
「あんた、なに悠長なこと言ってんのよ。
そんなことより、ここは危険だから早く逃げなさい!
ドラゴンが火を吐きながら、ゆっくりこっちの方に来ているのよ!!」
え!?
やっぱり、エナ優しい!!!!
一見不機嫌にプリプリ怒ってるけど、“友達”ということを否定しなかった上に、心配してくれるのね!!
ツンデレ!
ツンデレだわ!!
「そんなに危険なのに、どうしてエナはまだここにいるの?」
「羊たちを置いて逃げるわけにはいかないでしょ?」
そう言ったエナの後ろには、羊がいっぱいいた。
この子達をまとめながら避難してるから、まだ家の近くにいたのね。
きっと、混乱を避けるため、人がいない道を選んで歩いてきたんだわ。
「エナ。
わたしたち、ドラゴンの炎の被害を少しでも押さえるために来たの。
どっちの方角からドラゴンが来るかわかる?」
「……南西の方角から来るって話だけど、あんた本気?」
「ドラゴンは迷子の我が子を探しているだけなの。
連れて行ってあげれば、きっと巣に帰ると思う」
私がそう言うと、ティアがエナに抱っこしているドラゴンのこどもを見せた。
エナは少し目を細めたあと、「ふ~ん」と興味のなさそうなうなり声をあげた。
「危なくなる前に、その子を置いて逃げなさいよ?」
何も気にならないフリして、気遣ってくれてる!
優しい!! 優しいわ! エナ!!
私達はエナに「じゃあね」といって、先を急いだ。
そして、エナの家を少し過ぎた所で、いくつかの小さな炎が木や家を燃やしているのを見つけた。消さなきゃ!
「さぁ! 〔水の魔法〕を使ってみるわよ!!
自信を持って、思いっきり呪文を唱えてみて!」
男子たちが頭に被っていたバケツを下ろして、ヤケクソ気味に呪文を唱える。
〈〈〈〈〈水よ、器を満たせ!!〉〉〉〉〉
みんな呪文を唱える途中で、自分の声がいつもよりしっかり出ていることに気付いたみたい。言いながらビックリした顔をしてる。
そして、バケツに水が湧いてきて、さらにビックリしてる。
声質のせいか、〔水の魔法〕との相性が悪いのか、魔法が発動しなかった男子もいた。けど、自分の声が明らかに良くなったのを実感して、それだけでも満足しているようだった。水が出ないなら、他の人に自分のバケツを託して水を入れてもらい、炎に水をかける役にまわってる。
所々に燃えてた炎は、あっという間に消えてなくなった。
いける! いけるわ!!
男子も自信を持ったみたいで、私を追い越して次から次に炎を消していく。
でも、ゾンビごっこの効果は一時的。発声練習は毎日やるものだもの。長く効果が期待できないから、急がなきゃ。
「じゃ、男子とマリーとスピカはこの調子で炎を消していってね。私はティアとヘンリー王子とゼアで先を急いでドラゴンを――――――――」
「ロザリーさん!!
こんな所で何やっているんですか!?」
親ドラゴンの元に急ごうと思ったら、ヨド先生に出会した。 こんなに早くヨド先生に会うとは思ってなかった。
会ってしまったら仕方ない。怒られるのを覚悟して、説明することにした。
「実は野外実習でドラゴンの子を拾いまして……たぶんこの騒動は、それが原因だと思うんです。だから…………」
「だからコッソリ返しに来たんですか!
学生だけで来るなんて危険です!!
そういうことは、大人に任せるべきです!」
「この子、ティアにべったりなので……」
早く、こっそり返してあげようとばかり考えてた。
それが正しい行動かどうかも考えるべきだったなと反省していたら、ヨド先生がマント脱いで私にくれた。
「せめて、これを装備して行ってください。
無茶したらダメですよ?」
「……いいんですか?」
ヨド先生が、いつも着ているこのマント。
同じ物を着ている人を見たことがない。
「このマントは、高い防御力を持っています」
そうなんだろうなと思う。
ヨド先生のマントって、生徒の制服のハーフマントより更に手触りが良い。そして、軽いのに“絶対守ってくれる安心感”がある。
制服のマントだって、貴族向けだから良い物使ってるって感じはあるんだけど、それ以上の安心感。しかも、防御力を上げるとどうしても重たくなると、家庭教師をしてくれるアイザック先生が前に言ってたのに、この軽さはなに!?
「良いんですか?
“あたが傷つかないよう、凄い魔法防御を”って、フードの縁に書いてありますけど……貴重なものなんじゃ…………」
「「「「「「「『え?』」」」」」」」
貴重なマントを借りて良いのか心配したら、なぜか、みんなが驚いた。
なんで、みんな驚くの?
『あなた……あの文字読めますの?』
「この世界で妖精文字を読める人間って、ごくごく少数なんだよ?
それはもう、学者とか、限られた人だけなんだよ!
すごいね! ロザリー☆」
「そうなの?」
頭の中のロザリーや、妖精さんまで驚いてる。
妖精が出てくるゲームだから、普通にルーン文字とかみんな読めるものだと思ってた。
違ったのね。
「昔、(他の人より抜き出る“個性”ってなんだろう?)って悩んでたとき、(ルーン文字を読めたら個性的かな?)と思って、とりあえずアルファベットだけ覚えたの。
でも、結局は付け焼き刃で……“個性”と言えるものにはならなかった。
全部が完璧に頭に入ってるわけじゃないから、まずはアルファベット表を作ってからでないと読めないし、時間がかかるから“読める”というほどじゃないわ」
そう言って苦笑いすると、マリーとスピカが号泣した。
「ロザリー様は何でも軽々やってのける天才だと思っていました!!」
「本当は、色々もがいて強くなられたのですね!!」
号泣する二人の後ろでは、男子が蒼白して考え込んでいた。
「俺、魔法を使うのに“個性”なんて考えたことなかった」
「所詮は相性だとばかり……」
「……あの強さは、もがいたからなのか」
「最初からバケモノ級の才能を持ってたんだと思ってた」
「初めてロザリー様が人間らしく見えた」
「「「「「うおぉぉぉぉ! 俺たちももがくぞ!!!!!!」」」」」
いや……、魔法ではなくて、声優としての話なんだけど……。
ま、いっか。
男子がやる気を出して、炎の鎮火のために勢いよく走りだしたから。
そして、走りだした男子の足はすぐに止まった。
私の足も止まった。
全身に緊張が走り、このまま進んではいけないという予感がした。
見ると、遠くに赤くて大きなドラゴンが2匹いた。
身長はビルの10階ぐらいの高さまである。精霊と同じで、建物の3階ぐらいの大きさと思ってた。想像してたのより約3倍の大きさって、けっこうキツいわね。……怖い。
私達がドラゴンに恐怖している間も、森や家、草原が焼かれていく。
大量の水も飛び散ってて、宮廷魔法騎士団が活躍しているみたいだけど、押されている感じがする。
ダメよ!!
ここで躊躇っていたら、いけないわ!
だって、ゲームの中でドラゴンが暴れたというシナリオが無いということは、そんなに被害がないうちにサフラン生徒会長がドラゴンスレイヤーを持ってきて、ドラゴンを倒したということだもの。
早くしないと、親ドラゴンが殺されちゃう!!
私は前に走り出した。
後から、ヘンリー王子とゼアとヨド先生、少し遅れてマリーとスピカ、そしてティアが続いてくる。
「ロザリー!
急に走り出してどうしたんだ!?」
走りながら、ヘンリー王子が声をかけてきた。どんなときも「楽しそうだね」とニコニコして見守っているのに、心配してくれてる。
『あなたのこと、普段からよく見ているのでしょうね。
“暗黒令嬢”というウワサも気にしてなかったですし、ヘンリー王子は自分が見たものを信じる人なのですわ。常に笑顔でも自分をしっかり持ってるとは、やはり王子なんですのね』
“普段からよく見てる”
ちょ……ちょっと、ロザリー!
変に意識しちゃうから、こんなときに余計なことを言うのはやめてくれる?
頭の中のロザリーと会話してたら、ゼアも「ヤケになるのは良くない」と心配してくれた。 ゼアは、あれね。ロザリーの体を心配しているのだわ。愛されてるわね、ロザリー……ってそれどころじゃないのよ!!
「早くしないと、サフラン生徒会長がドラゴンスレイヤーを持ってきちゃう!
そうしたら、親ドラゴンが殺されちゃうわ!!」
ヘンリー王子は走りながら「わかった」と頷いて、「急ごう」と言ってくれた。「何か作戦はある?」と聞かれたけれど…………そんなもの、ない。
確かに作戦はあった方が良い。
作戦作戦作戦作戦作戦………………。
私は思いついたことを提案することにした。
「一つ、やってみたいことがあるの。
協力してくれる?」
「第15話 闇の魔法」のヨド先生の挿絵。
左に“oubougy”。右には“iyousugo”と書いてあります。
“anatagakizutukanaiyou sugoimahoubougyowo”
〔あなたが傷つかないよう、凄い魔法防御を〕
の一部分でした。




