第60話 ゾンビごっこ(挿絵有り)
「俺たちを“肉の壁”にするつもりですか!?」
え……、何を言い出すの!?
驚く私を余所に、クラスの男子が「約束が違う」とか「せめて遺書を書く時間をください」とか叫んでる。
あれ?
私、〔聖女〕認定されたんじゃなかったの?
そんな酷いことするように見えるの?
『〔聖女〕じゃなくて、〔暗黒聖女〕ですわよ?』
頭の中のロザリーに指摘された。
そうか。“暗黒”ってつくね。だからか。
誤解をとかなきゃ。
「“肉の壁”になんてしないわ!!
ドラゴンが吐いた火が、民家に燃え移ったら消してほしいだけよ!
戦いに行くわけじゃない。
ドラゴンの子を返しに行くだけなんだからね!?」
「それだけならなんとか……」
「ある程度離れた所がいいです」
「すぐに返して、すぐに帰りましょうね」
皆しぶしぶ受け入れてくれた。
ドラゴンだって、こどもが帰ってきたらすぐに帰ると思う。
こうして、私とティアとクラスの男子が、ドラゴンのこどもを返しに行くことになった。水の妖精を呼べるマリーとスピカも「ついて行きたい」と言うので、安全なところから協力するという条件でついて来てもらうことにした。
「せっかくのマスコットキャラクターなのに~」
妖精さんは「もったいない。もったいない」と不満をもらしてる。
そうなんだよね。
レッドドラゴンのこどもって「きゅるきゅる」鳴いてカワイイし、ティアにとってもよくなついてて、本当にとにかくカワイイ。離れがたいのもわかる。けど、
「マスコットキャラは妖精さんだけで充分でしょ?」
「え? あたし???」
「そうよ。
だって私は、妖精さんがマスコットキャラだと思ってたもの」
「そうかぁ。えへへ~☆
そうだよね。二人もマスコットキャラはいらないね!
なら、しょうがないや」
気分を良くした妖精さんは、全面的に協力する気になったらしい。
「それぞれの馬車でぞろぞろ向かうより、歩いて森を直進した方が早く着くよ☆
サフラン生徒会長が〔ドラゴンスレイヤー〕を持ってくる前に、ドラゴンの子を返さなくっちゃね!
急げ急げ~!!」
なんて現金な性格!
まぁ、その方が助かるんだけどね。
妖精さん曰く、急いで現場に向かう先生以外に〔宮廷魔法騎士団〕も出発しているらしい。村の近くになると、逃げていく人もいて道路は大混乱。だから、森からの方が歩いて行ったほうが早いんだって。なるほどね。混乱の中、馬車で進むのは大変そうだね。
本日、二回目の学園の森。
私達は一人一個バケツを持って入った。
火を消す時にきっと役に立つ。
手で持って歩くと邪魔になるし、疲れそうなので、帽子のように被ることにした。なんだか、わんぱくな少年達が森に探検に行くように見えて、ちょっと心が和んだ。
「せっかくだから、ただ歩かずに魔法の効果を上げられるよう、発声練習を兼ねた歩き方で行ってみるわよ」
「……発声練習を兼ねた……歩き方…………ですか……?」
クラスの男子が不思議そうにしている。
“発声練習”なんて、普段聞かないもんね。
サポートで来てもらうだけのつもりとはいえ、ドラゴンのいる村の中に入るのだから危険なことに違いない。
少しでも妖精さんに聞き取りやすい音で、みんなが話せるようになってほしいところなんだけど、どう言ったらイメージつきやすいかな?
うぅぅん……
「〔ゾンビごっこ〕よ。
とっても簡単そうでしょ?
これなら…………」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
え?
「ゾンビにされる!!」
「いい人に見せかけても、結局は悪は悪!」
「俺たちは人気の無い森でゾンビに変えられるんだ!!!!」
「どうして信じてしまったんだ!」
「自分たちの愚かさを呪うばかりだ!!」
「えぇぇぇぇぇぇ!?
“ごっこ”よ? “ごっこ”!!」
『ほほほほほほほほ! 良いですわね。
骨の髄まで、あなたへの恐怖が植え付けられてますわ。
しっかり教育できてて素晴らしいですわねぇ』
ロザリー!
何を優雅に満足してるのよ!!
「ちょっと!!
ぎゃぁぎゃぁ言ってないで、まず、人の話を最後まで聞いて!!!!」
叫んだ後、私はみんなに〔ゾンビごっこ〕の説明をした。
・歩きながらやる発声練習ということ
・発声練習だけど、とにかく力を抜いてやること
・“声を出そう”なんて思わないこと
「足が地面についたとき、〔あ〕って言うの。
この時、脱力して言うから、ゾンビのような声になるってだけ。本物のゾンビみたいに〔あ゛~っ〕て、声をのばしてはダメよ? “足が地面についた衝撃で声が少しもれちゃった”ぐらいの小さな声で良いの。
あくまでごっこだから、本物のゾンビにはならないでね?
「え?
それだけですか?」
「それだけよ」
戸惑いの表情で、「それなら簡単だけど……」と言いながら、「罠かも」と、まだ疑っている男子。そこに、マリーとスピカが出てきた。
「まだ、わかりませんの?
ロザリー様は、私達に酷いことをするかたではありません」
「皆さんもよく思い出してみてください!!」
「肉と骨を引き剥がされたやつが何言ってんだ!!」
「まぁ! なんて言い方なの!?」
「引き剥がされたんじゃなくて、引き剥がしたのですわ!」
「どぉぉ違うんだ!?」
「どっちだろうと一緒だろ!?!?」
「「これを見なさい!」」
マリーとスピカが、両手の人差し指で〔鼻の付け根〕を押さえ、〔ラ〕の音の高さで「ン~~~~」と、ハミングして見せた。
「これが“肉と骨を引き剥がす”ですわ!!」
「「「「「え?」」」」」
ここで、声を前に響かせるのに、骨に肉がかからないよう意識するといいことをみんなに説明した。鉄の棒を叩いて音を響かせても、手で握ると音が響かない。という説明ね。
「それだけで、〔水の魔法〕を使えるようになったのか……」
「ウソみたいな話だ」
「言い方が紛らわしいが、確かにその通りのようだ……」
「……人体実験は勘違いだった」
「じゃあ、それを練習すれば、俺たちも〔水の魔法〕が使えるように?」
「すぐには無理よ。
これを習得するには、普通は半年から一年かかるわ。
マリーとスピカの場合は、スピカがピアノを習ってて音を取るのが上手だったから出来たの。マリーは、私の見本の他に、スピカの変化を間近で見れたのがとてもいい参考になったのよ。
普通、慣れないうちは鼻声と間違えたり、大変なんだから」
今回は人数が多いから、同じような教え方はできない。きっと凄く時間がかかちゃう。しかも歩きながらこれを教えられない。
で。
私が思いついたのは、筋肉を上げるんじゃなくて、頭の位置を結果的にちょびっと下げるやりかた。
足が地面につく瞬間、衝撃で少しだけ頭が揺れる。
そのときに声を出せば筋肉が少し上がってて、いい声が出ると思うのよ。
題して「頭で空気を迎えに行く作戦!!」
『あら、変なこと思いつきましたのね』
何も対策とらずに向かうより、ダメ元でもやってみた方が良いでしょ?
下から上に持ち上げるより、上から下に下がる方が、きっと楽よ。
家で練習するなら、足を肩幅より開いた状態で立って、上半身を前にだらぁんと倒す。それで声を出す。っていうやり方もあるわ。いい声出るわよ。
『頭が逆さなら、わざわざ指で筋肉を持ち上げる必要もないですわね』
他にも、マイク前で演技をするにあったって、良い効果を望める素晴らしい練習方法があったりするわ。
発声練習は一つじゃないから、自分にあったやりかたを選ぶといいかも。今回は〔ゾンビごっこ〕ね。
みんな〔ゾンビごっこ〕に納得してくれたので、ちょっと不気味な声を出しつつ森の中を進むことになった。
「〔あ〕を四回言ったら四泊休んで、次は〔い〕ね。
さぁ! やるわよ!! あ"、あ"、あ"……」
私達は「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、・・・・い゛、い゛、い゛、い゛」と呻くように、五十音の発声練習をしつつ、親ドラゴンの元へと向かった。
マリーとスピカは私の側で、全力でゾンビになりきってくれてる。ヘンリー王子とティアは列の後ろの方でニコニコ楽しそうにしてて、ゼアはその近くで胡散臭いと思いつつ発声練習に付き合ってくれてるようだった。
クラスの男子は、やる気がなさそうに歩いてる。脱力するのがポイントだから、ま、それで良いわ。私がちょっと切ないだけ。はぁ。
それにしても、森の中で良かった。
道路でやったら人目について、また変なウワサが流れる所だったわ。
森を出て気付いた。
見たことある景色だわ。
貴族の別荘地の近くだから、知っててもおかしくないけど、懐かしい気が……。
『そうですわね。私も懐かしく思います。
あまり良い想い出ではなかった気もしますわね………………』
あ゛ぁぁぁっっ!!
ロザリー!
ここ、あれだ!!
前に、体が入れ替わった〔エナ〕の家がある村だ!!!!




