第59話 ドラゴンの子
「くだものを穫っていたら、迷子のドラゴンを見つけて……」
そう話すティアの腕の中には、赤い色のドラゴンのこどもがいた。
ティアにガシッと抱きついていて、とてもカワイイ。私も抱っこしたい……。
くだものを探しているときに出会った迷子のドラゴンのこどもは、ティアにとてもなついたので「このまま置き去りはかわいそうだし、連れて帰ってはどうでしょう?」という話になり、連れ帰ったらしい。
……飼うの?
ドラゴンと一緒の生活は楽しそうだけど、実際に飼うとなると大変そう。トイレとか、ごはんとか。
心配する私の側では、「わぁ! マスコットキャラのドラゴンだ☆」と、妖精さんがはしゃいでる。
ティアとドラゴンの子は、ここで出会う運命みたい。なら、深く考える必要はなさそうね。考えるのは止めて、とりあえず食材の調理にとりかかった。
《燃え上がれ! 炎よ!!》
さっき〔紫の池〕に飛び込んできた魚を、〔紫の炎〕で焼く。
最近は炎も調節を出来るようになってきたので、山火事をおこすことなく焼けた。ただ……私が魔法を使うと、どうしても紫色で発動してしまうのが気になる。
大丈夫かな?
自分でも不安になるし、食べるには勇気がいる。毒の効果が付与されたり、呪われたりしないかしら?
「ロザリー!
その魚と、僕の野菜炒めを半分こにしない?」
「!?
ヘンリー王子、魚を釣れなかったの?」
「うん。僕の〔水の魔法〕は攻撃系らしくって、池が波打つから魚が警戒して寄りつかなかったんだ」
ヘンリー王子にも出来ないことってあるのね。
とっても優秀なイメージがあったから、ちょっと意外。
自分でも食べるのをためらうので、半分食べてくれるなら私としては助かる。「私のでよければどうぞ」と焼いた魚をヘンリー王子に半分あげて、私は代わりに野菜炒めを半分もらった。
魚の味は…………何か物足りないような、でも、自分で作ったからか、美味しいような気もする微妙な感じだった。
ちなみに、ヘンリー王子の護衛のジェイクとフォスターは、私達が魚釣りをしている間に、持ってきていたお弁当を交代で食べたみたい。
「こうして山の中で同じ物を食べていると、困難を分かち合ってる感じがして、仲間意識が強くなるね」
嬉しそうに話すヘンリー王子の“仲間”という言葉に、ドキッとした。心の距離が近い間柄。こそばゆいような、嬉しいような気持ちになる。
「〔紫の池〕に飛び込んで、〔紫の炎〕で焼かれた魚って、食べると特別な効果がありそうでワクワクするね」
なんて前向きな考えなのかしら!
食べている間、何か効果があるかとドキドキしたけど、結局は何も起きることなく無事に食べ終えた。
事件が起きたのは、放課後。
何故だかわからないけれど、生徒達が下校しようとするより早く、目立たないように先生達が帰って行った。
「どうしたんだろうね?
今日は先生達の間で飲み会でもあるのかな?…………なぁんて……」
「ドラゴン退治に行くからだよ☆」
なんとなく妖精さんに聞いたら、意外な言葉が帰ってきてビックリした。
それは、ティアも同じだったようで彼女もとても驚いていた。
「ドラゴン退治!?
まさか……今日出会ったこの子の親が、暴れているのですか!?」
「ティア様。突然どうなさったのですか?」
「親が暴れるって、いったい……?」
光の妖精さんの声は、私とティアにしか聞こえない。急に様子が変わったティアを、マリーとスピカが心配した。
「ロザリー様と仲の良い〔光の妖精〕さんが言ったんです。
先生達が、こっそりドラゴン退治に行ったと…………」
帰ろうとしていたクラスの皆が、ティアの言葉を聞いて動きを止めた。
きっと皆も、こどもがいなくなったから親のドラゴンが暴れているのではないかと想像している。ティアにドラゴンの子を連れて帰るように言ったメンバーの顔が特に青くなった。そのうちコソコソと、「この学園まで来るんじゃ……」と皆が話し始めた。
「大丈夫だよね? 妖精さん……」
不安になって、妖精さんに聞いてみる。
だって、ゲームの説明書には“ドラゴンと戦って、マスコットキャラを手に入れろ”なんて書いてなかった。こんなイベントがあるなんて知らない。恋愛シュミレーションゲームに、危険で残酷な事件は起きないと信じたい。
「大丈夫☆
魔法学園は、授業で使う魔法が近くの村に飛び出て行かないように、〔結界〕が張ってあるでしょ? この中までドラゴンの影響は無いよ」
「この中まで?」
「うん!
近くの村が燃えるぐらいだよ☆
貴族の別荘地に辿り着く前に、宮廷魔法騎士団が倒すから、慌てる必要はないね☆
皆は、ただ、いつも通り生活してれば良いんだよ☆」
ぜんぜん、大丈夫じゃない!!!!!!
そして、そういう問題じゃない!!
「ドラゴンの親が殺されるとわかって、いつも通りに生活できないわよ!!」
「私、この子を返しに行きます!!」
「「ロザリー様! ティア様!
光の妖精は何と仰られているのですか!?」」
ティアがマリーとスピカに、今の話を説明した。
それにしても、なんて事なの!?
きっと、ゲームではマスコットキャラが仲間になって、そのまま仲良くゲームが進んでいくだけなんだわ。実際、いつもと違う先生たちの様子を妖精さんに質問しなければ、そのままいつもの放課後になるところだった。
裏では、迷子になった我が子を探しに来た親ドラゴンが殺されるなんて残酷すぎる!!
「どうして、そんなに慌てるの?」
妖精さんが、不思議そうに質問してきた。
「だって、ただこどもを探しているだけの親が殺されるなんて、かわいそうでしょ!?」
「でも、仕方ないよ。
火属性のドラゴンはこどもを探すとき、辺りを全て燃やし尽くすんだよ?
火に強い我が子だけが燃えずに残って探す手間が省けるからなんだけど、人間には暴れてるとしか見えないからねぇ。殺されちゃうよね~』
いつも通り楽しそうに説明する妖精さんが、不気味に見えた。
たとえ人ごとでも、親が殺されるって悲しい事よ? 妖精さんにはそれがわからないんだわ。長く生きているから? 種族が違うから? ゲームの裏設定だから? 私は、妖精さんがわからなくなった。
『あの妖精、前に“精霊や妖精は感情を食べる”と言ってましたわね。
きっと、感情を食べないと、その気持ちがわからないのですわ』
そういえばそんなこと言ってた。“精霊は感情を持ってない”って。感情を食べて、精霊から妖精に、そして、実体を持つ精霊になるって……。
妖精は特に甘い恋や愛の感情ばかり食べるから、悲しいとか辛いとかわからないんだわ。
私はなるべく心を落ち着かせて、冷静に小さな声で妖精さんに聞いた。
「乙女ゲームの世界は、平和なんじゃなかったの?」
「……う~ん。乙女には……ね。
だってさ、この事件があるからティアの相棒になれるんだよ?
それに、ドラゴンを倒すために、サフラン生徒会長が母国の秘密の洞窟から〔ドラゴンスレイヤー〕を持ってくるんだよ?
それでアルムス王国はサフラン生徒会長に恩ができる。
それが、サフラン生徒会長を亡命に追いやった悪い大臣たちから国を取り戻す協力をしてもらうきっかけになる。そして、王子として国に戻ってからの、サフラン王子ルートが開けるようになるんだよ?」
サフラン生徒会長も、王子!!
「あ、すごくビックリした顔をしてる~。
“きらめき☆魔法学園”の攻略対象は、みんな王子様なんだよ☆
サフラン生徒会長が国に戻らないと、国民は悪い大臣たちに好き勝手され続けて大変なんだよ」
サフラン生徒会長の国の皆さんが大変なことになってる……。
でも、こどもを探しているだけのドラゴンを殺すのはかわいそうだと思う。
いったい、どうすれば……、どうすれば……。悩んだ末、私は決断した。
ごめん!
生徒会長!!
先にドラゴンの親子を助けたい。
私は、ザワつく教室で叫んだ。
「男子はみんな残って!!
今から、ドラゴンの子を返しに行くわよ!!!!」
これには、男子から「イヤだぁぁぁぁぁ!」との悲鳴が上がった。
意外だったのは、私の頭の中のロザリーも不満の声を上げたこと。
『ゼア王子やヘンリー王子ならわかりますけど、魔法の威力なんてないクラスの男子をみんな連れて行ってどうしますの?
足手まといにしかならないのではなくて?』
いいの!
私は頼りにしてるんだから!!




