第58話 野外実習
今回はR15かなと思います。
残酷描写が少し入ります。苦手な方はお気をつけ下さい。
今日の授業は、野外実習。
山の中にある魔法学園のグラウンド横から、さらに上の森に来た。杖だけ持って、おしゃべりしながらプチ登山。天気も良いし、なんて楽しい授業なの!
最初は木々の間の獣道を進み、途中から川沿いを歩いて、私達は広い河原に辿り着いた。
他のクラスの生徒は、今日も普通の授業。ちょっとずつ日にちをずらして、クラスごとに実習するみたい。
「では、皆さん!
各自、お昼ご飯の材料の調達に取りかかってください。すぐそこに川がありますし、この先には野菜畑もあります。畑の近くには、果物のなっている木もありますよ。
皆さんが今までに習った〔火の魔法〕と〔水の魔法〕で、美味しいお昼ご飯を作ってください。
これが、今日の授業です」
“お昼ごはんを作る”
これが野外実習なのか……。
もっと疲れることをするのかと思ってたから、平和的で良かった。楽しい授業になりそう。
「今“楽しそうな授業だ”って思ったでしょ?
甘いね、ロザリー!
貴族のお子さん達には、なかなか厳しい試練なんだよ?」
妖精さんが楽しそうに、私の周りを飛ぶ。
すると、私の頭の中のロザリーも、同じようなテンションになった。
『そうですわ!
クッキーも、ろくに作れない人が何を言っているのかしら?』
ロザリーと妖精さんが「ふふふふふ」と不気味に笑う。
何よ。ロザリーだってクッキー作れないじゃない。
私が、むす~っとした顔をしてみせると、妖精さんが得意げに胸を張った。
「野外学習と言えば!
“魚釣り対決”なんだよ!!」
ゲームのイベントであるね。そんなミニゲームが。
魚釣り対決って、実は試練なの?
でも、今の私にはティアと対決する理由ないんじゃない?
「魚釣り対決! 楽しそうですね!!
ロザリー様、私もぜひ参加したいです!」
妖精さんの話を聞いていたら、ティアが楽しそうに話しに入ってきた。
私は何もしゃべってないから、周りにいる人は不思議そうにしている。そうなんだよね。〔妖精さん〕は普通の人には見えないものね。
ティアが、笑顔で皆の方を向いた。
「〔光の妖精王〕と会話したことがあるロザリー様と私は、〔光の妖精〕が見えるんです」
その言葉に皆が納得した。
けど……なぜヘンリー王子にドヤ顔? よくわからないけど、ドヤ顔のティアも可愛い。
とりあえず〔魚釣り対決〕をやる流れになった。
「釣り竿と、エサのミミズはどうする?」
しーん。となった。
?
私、今、変なこと言った?
「……ロザリー様。
ミミズを釣り針につけるのは、なかなかの試練です。きっと、ロザリー様以外に魚釣りをしようと思うのはティア様だけです。
私もミミズを触るのはちょっと…………」
スピカがコッソリ耳打ちしてくれた。
ミミズを触る!!
私も出来ない!!!!
ゲームなら、ボタンをポチポチ押してれば良かったけど……そうだよね、自分でつけなきゃいけないよね。スピカに言われるまで、気がつかなかった。
確かに、これは試練だわ。
ノリノリで話にのってきたティアは平気なの? 顔を見ると、ティアは青い顔をしていた。……ティアもミミズを触れないのね。
「がんばって!
ロザリーの試練はこれからなんだよ☆
魚釣りにミミズがなくても、問題ないよ!
違う試練だよ」
“違う試練”?
何を言っているのかわからない。と混乱していたら、ヨド先生がこっちに来た。
「みなさん、杖だけ持ってきましたよね?
せっかくなので、魔法を使ってみませんか?」
魔法?
魔法で魚を釣るの?
ヨド先生はニコニコしながら河原の石を手で避けだした。
そして、石を避けて出来たスペースに〔水の魔法〕で水を溜めると、小さな池が出来た。
「見てて下さい」
池を眺めていたら、すぐ近くの川から手のひらサイズの魚が飛び込んできた。少しして、もう一匹「ぴちょん!」と、ヨド先生が作った池に魚が飛び込んだ。元気にジャンプする魚の姿に、ワクワクすると同時に(不思議だな)と思った。
「この川に住む魚の中には、よりキレイな水を求めて移動する種類もいるんです。魔法でキレイな池を作って、魚を捕まえて下さい」
いける!
これなら、いけるわ!!
ミミズを触らなくて良い!
ミミズを探してくる必要も無い!!
最初にちょっと作業をしたら、ただ待つだけ!
(これならティアも出来るわね!)と、ティアの方に視線を移したら、ティアが目を輝かせて頷いた。他のクラスメイトも(これなら出来そうだ!)と、さっそく〔水の魔法〕で池を作り始めた。
私もティアも、川から片手を広げた所ぐらいの場所の石をよせて、“小さな池”作りにとりかかった。すると、だんだんクラスの皆が私達の周りに集まってきた。なんで?
不思議に思っていると、マリーが笑顔で耳打ちしてきた。
「ロザリー様。皆、失敗したようですわ。
〔光の魔法〕を使えるロザリー様とティア様なら、魚がたくさん捕れると予想して集まってきたようです。おこぼれにあずかろうという魂胆が見え見えですわ」
見ると、川の近くのあちこちに、小さな池を作った跡があった。水の魔法が使える人はすぐに挑戦したけど、ヨド先生みたいに魚がすぐに飛び込んでこなくて、早々に諦めたみたい。そもそも、〔水の魔法〕は〔火の魔法〕より難しくて、クラスの半分ぐらいしか使えないものね。水を出すだけじゃなく、魚が飛び込みたくなるほどの〔キレイな水〕となると、さらに難易度が上がるんだろうな。
よ~し! ここは、〔光の魔法〕が使える私達が良いところを見せなくちゃ!!
「たくさん釣れた方の魚を皆で分けよう?」
わぁぁぁぁぁ! っと盛り上がった所で、ティアは私より先に池の準備が出来たので〔水の魔法〕を使った。「ちょろちょろちょろちょろ」とゆっくりだけど、水が出てくる。さすが〔光の魔法〕を使えるティア! 出て来た水が、なんだか輝いている!! 「おぉ~!」と歓声が上がった。
ティアがゆっくり池の水を入れている間に、私も準備を終わらせるわ!
前に、精霊さんが「妖精は感情を食べる」と教えてくれた。
感情を使えば、より、キラキラとキレイな水が出るに違いない!
私はイメージした。
魚が喜ぶキレイな池を!!
そこで優雅にくつろぐお魚さん……。
あぁ! ステキ!!
お魚さんの憩いの場を作るって、なんてステキなの!
……っていう思いを込めて、水の妖精さんが呪文を聞き取りやすいように、鼻腔を広げ、構えをキープし、硬口蓋を……って、あれね。技術的にやるより、ヨド先生が授業で教えてくれた“カワイイ声”で呪文を唱えた方が、思いを込めやすそう。やっぱ、先生ってスゴイ。実践的だわ。
私は、心からキレイな水を願って、なるべくカワイイ声を意識しながら呪文を唱えた。
〈水よ、器を満たせ!!〉
出ろ出ろ出ろ出ろ! キレイな水!!
出来上がれ! キレイな池!!
今回はちゃんと大きさもイメージした。
過去の失敗のように、辺り一面……なんてことにはならず、ちゃんと目の前に“小さな池”が出来た。想像した通り、〔光の魔法〕の影響も受けて池の水がキラキラ輝いている。ただ…………
池の水の色が〔紫〕
……また、みんなが静かになった。
どうしても〔闇の魔法〕の影響が出るみたい。
それでも、池の水はキラキラしているので、魚がとんできた!
よし! そのまま入ってちょうだい!! と願ったものの、池の水の色を見た魚がビックリして、体を慌ててくねらせ、ありえないバタつきを見せて川に戻っていった。
魚ってあんなに慌てた顔するんだな…………って思った。
その後も何匹か私の作った池に飛び込もうとしたんだけど、紫の池を見ると必死に体をバタつかせ、お互いに体をぶつけてでも方向転換して川に帰っていった。
一匹だけ、方向転換に失敗して紫の池に落ちた魚は、最初はとてもビックリして混乱していたものの、光の属性も入った水だから居心地良さそうにしている。そうでしょう。そうでしょう。見た目じゃないのよ。
「ティア様! がんばってください!!」
「われわれのお昼ご飯は、あなたさまにかかっています!」
「クラスメイトを助けると思って、ぜひ! 勝って下さい!!」
「あの池、絶対にヤバイです!」
クラスメイトの悲鳴のような声援がティアに…………。
“あの池”って、私の作った池よね?
見た目は、怪しい効果のありそうな池だけど、ちゃんとキレイな池なのに! ……たぶん。
結果はティアの大勝利だった。
14匹。凄いわ、ティア。
それに比べて私は一匹。
クラスの皆は、心からの喜びの声を上げた。
ティアの池に入った魚を、皆で分けることになった。
「はぁ。
妖精さんの言った通り、試練だったわ……」
「何、言ってんの? これからだよ?」
これから?
不思議に思う私の後ろで、どよめきが……。え? 何?
「これ、どうすれば良いんだ?」
「魚を料理どころか、料理そのものを作ったことないわよ?」
「生きたまま焼くわけにはいかないでしょ?」
皆、魚を殺すことをためらってる。
え、待って。
私も生きてる魚を調理したことない!
スーパーで売ってる魚しか触ったことないわよ!?
私も無理だ。
「ほら~。試練でしょ?
特に、貴族のお坊ちゃんやお嬢ちゃんにはキツいよね~」
“食育”!!
この野外実習は食育も兼ねてたのね。
命のありがたみと、それに関わる人々のありがたさを私達は実感した。
魚は陸に上がれば生きてはいられない。
私達は魚を池から出して、石の上に置き、山の中の畑に向かった。
弱りゆく魚を見ていられないから、野菜や果物を取りに行くことにした。
「ロザリー様。元気を出して下さい。
私、ロザリー様が元気になるような果物を探してきますね!」
優しいティアと、ティアを応援した何人かが、私に気を遣って森のさらに奥へと果物を探しに入っていった。
――――そして、みんなは果物を抱きかかえているのに、ティアだけ小さいドラゴンを抱っこして帰ってきた。
え? ドラゴン!?
クッキー対決の頃に主人公が言ってた“魚釣り対決”にやっとたどり着きました。




