第57話 騒ぎのあと
教室に入ると、私達より先に来て雑談していたクラスメイトが、私を見るなりその場に跪いた。
「「「「「暗黒聖女ロザリー様! おはようございます!!
巨大な結界をありがとうございました!!!!!!」」」」」
「え……あ、……いや、どうも…………」
何て答えたら良いのかわからなくて、頭を掻くと皆に詰め寄られた。
「「「「「どうして我々を頼ってくれなかったのですか!?!?」」」」」
「確かに私達は戦力になりません!」
「ですが、出来ることもあったはずです!」
「我々以外に配下が増えたらしいですね」
「ここから見てました」
「俺たちのことも忘れないでください!!」
あまりの迫力に後ずさると、登校してきたばかりのマリーとスピカが後ろから現れた。
「ロザリー様、おはようございます」
「どうやら皆、自分たちの方が“先に配下に加わった!”と主張したくなるぐらいに嫉妬し始めているようですね」
「えっ……そうなの?」
「私達も、少し寂しく思います」
「ロザリー様がお強いのはわかりますが、出来れば何か力になりたいです」
……不思議な感じがする。
最初“暗黒令嬢”と皆に呼ばれ避けられてたのに、皆が私に力をかしてくれようとしている。ちょっと歪だけど、クラスにとけこんできた気になった。
とりあえず、「じゃぁ……今度。何かあった時はお願いするね」と返事をした。学園にいる間に、皆の力を借りなければならないような事態なんて起こらないでほしい、と思うけど。
騒ぎが落ち着いて、心に余裕ができて気になるのは〔聖女〕とウワサされていたヨメナ様。ヨメナ派の人達が「配下に加わりたい」と言ってきたから、どうなったのか心配。
そう思っていたら、魔法の実技で教室を移動している時に、マリーがヨメナ様を見つけた。
今日もとても綺麗。七三分けで流した長い金色の髪が大人っぽくて神秘的にも見える。明かるい所で見ても、〔聖女〕とウワサされるのがよくわかる。隣にいる男子生徒もとても綺麗な顔立ちをしていた。うん。美男美女ね。
……もしかして、ヨメナ様の隣にいる男子生徒が、マリーの元婚約者?
「あ! ヨメナ様です。
ちょっと、行ってきます」
え?
婚約者を奪い取った人の所に直撃するの!?
私とスピカを置いて小走りにヨメナ様の元へ向かうマリーに、思わず手を伸ばしたけれど届かなかった。マリー……足が速い。
『まぁ! ワクワクしますわね!!
どんな愛憎劇が繰り広げられるのかしら?』
えぇ!?
頭の中のロザリーに言われて、マリーとヨメナ様の戦いを想像してしまった。
ビンタしに向かうマリー。
それを、才色兼備パワーで「ふふふふふ」と、ヒラヒラ舞うように避けるヨメナ様。「きぃぃぃ! 足下にも及ばないなんて!!」と、その場に崩れ落ちるマリー。
ダメ!
ダメよ! マリー!!
あなたが戦おうとしても、とてもかなわないわ!
しかし、マリーはあっという間に、ヨメナ様の側に行ってしまった。
「あ! マリーちゃん。
これから魔法の実技なの? がんばって!」
「はい! 今日も〔火〕と〔水〕の魔法の練習です。がんばります」
……。
二人は仲良さげに会話している。元婚約者と見られる美しい男子生徒とも普通に話してる。
変に勘違いした自分が恥ずかしい……。
ヨメナ様の元から帰ってきたマリーが、話してくれた。
「ロザリー様が巨大な結界をはったときに、よくわからないけどヨメナ様とわかりあえたんです。
元々親同士が決めた婚約でしたから、ジョンのことも恨んだりとかしてませんし、今も変わらず遠慮なく話せる〔幼なじみのお兄ちゃん〕です」
微笑みながら語るマリー。
ドロドロしてないなら、それにこしたことはないわね。
「私がこんなに爽やかな気分でいられるのは、ロザリー様のおかげです。
今の私は、スピカと二人でロザリー様の右腕と左腕になることが目標ですから、元婚約者の事は気にならなくなりました」
「そう……」
良かった。ホント良かった。
マリーが笑顔でいられるなら、マリーとスピカを右腕と左腕にして、この世界を支配するのも良いかもね……って、
「ちょっと!?
私はこの世界を支配する気はないわよ!?」
「「ふふふふふ」」
マリーとスピカに笑われた。
これって、マリーにからかわれたの?
それとも、私が二人に冗談を言ったと思われたの!?
二人がどこまで本気かわからないまま、野外実習の日付が迫っていた。
野外実習ではヒロインのティアと〔魚釣り対決〕のミニゲームがあったり、ティアが小さいドラゴンを仲間にするイベントもあるのよね――――。
*****
ほぼ同じころ、ヘンリー王子とティアとゼア王子が職員室から出てきた。
野外実習では、今の段階で使える魔法を使って、自分たちでお昼ご飯を作ったりする。
国によって文化が違うため、食べてはいけない食材の聞き取りの他、王族のしきたりでやってはいけないことがないか事前の確認が複数回に分けて行われる。
「もしものためとわかっていても、ロザリー様と一緒にいる時間を削られると思うと、嫌になりますね。
誰かさんのせいで、今日はロザリー様と登校出来なかったものね? ゼア!」
ティアが、『一緒にヘンリー王子に冷たい視線を向けようよ』と誘うようにゼア言ったのに、ゼアはとても落ち着いていた。
「え?
俺は気にしてない」
――――――ありがとう
ゼアは、空に大きな魔法陣が描かれた日のことを思い出していた。
――――お父様もお母様も、お屋敷の皆も、私の大事な人だけど、何かが少しづつ前の世界と違って寂しく感じるときがある
「結界が張られた日、俺にも歌声が聞こえたんだ――――」
それを聞いてヘンリー王子が少し顔を赤くしつつ申し訳なさそうにするので「違う女性の歌声だ」と付け足しておいた。
そう。
あの日、歌っていたのは一人ではなかった――――。
連合軍に呼ばれた従兄妹のティアの護衛のため、大陸の北西にある小さな国の海岸にゼアはいた。
本来なら、王子が公爵令嬢の護衛などしない。
が、ティアは〔光の精霊〕を呼べる貴重な人材。おまけにかなりのドジであるため、ティアの事を昔から知っているゼアが護衛をするようにと父に言われたのだった。今まで誰も見たことのない未知のモンスターと戦っているとき、ウワサで聞く〔聖女の歌声〕が聞こえてきて、その場の皆が不思議に思った。
(今まで聖女はアルムス王国にしか現れていないのに、歌が聞こえる……?)
ゼアは〔聖女の歌声〕に奥行きのようなものを感じた。歌のことなどサッパリわからないのに、確かにそう感じた。
――――時を超えて追いかけてくれて、ありがとう
(別の声が微かに聞こえる……?)
どうやら歌っているのは、皆がウワサする聖女だけではないようだった。誰かもう一人、一緒に歌っている。しかも、自分が知っている人。
(ロザリーだ!!)
時を超える前に出会ったロザリーの声。
夢の中でしか聞けないと思っていた。だけど今、微かだけれど、確かに彼女が自分に語りかけてくれているのが聞こえる。その奇跡のような出来事に、ゼアは胸がいっぱいになった。
彼女はまだ生きている。




