〈第十夜〉 続けて見る夢
「じゃあね。ロザリー。
本当は明日も会いたいけど、疲れただろうから明日はゆっくり休んで」
バードック邸まで送ってくれたあと、ヘンリー王子は名残惜しそうに帰って行った。
“大事にされてる”って感じがする。
夢見心地のまま、白馬に乗り換えて帰って行くヘンリー王子を見送った。
「“明日はゆっくり休んで”……か」
ぼ~っとした頭で、さっきの言葉を思い出す。
そういえば、明日は休日なので学園はお休み。
お休みの日も会いたいと思ってくれたこともまた嬉しかった。
迎えに来てくれたメイドのミュゼと、今夜も快く乗せてくれたローリーにお礼を言ってから部屋に帰っても、まだ胸の奥がじんわりと温かかった。
「ん――――!! 今夜は最高に楽しかったね☆」
妖精さんが大興奮でグルグル飛び回っている。
自分のことでいっぱいいっぱいだったから見ないフリしてた。この光の妖精さん、ずっと飛び回ってる。プリンセス馬車に乗ってるときは興奮しすぎて、馬車の外ではしゃいでたし、馬車を降りてからも空高く舞い上がって、とっても元気。
「まさかあんなにハッキリ魔法陣を描けるなんて思ってなかったよ!
うす~~い膜が出来れば良かったのに、上出来上出来☆」
『良かったですわね。
より良い効果を……と、考えたかいがありましたわね』
妖精さんもロザリーも褒めてくれてとても嬉しい。
「二人ともありがとう。
妖精さんがいなかったら、ゴリゴリモンスターが人を襲って大変なことになるところだったよ。
ロザリーも!
一緒に歌ってくれてありがとう。
すっごくすっごく心強かった」
「フフフ。
質の良い非常食が出来て、満足なんだよ☆」
『私も、特等席でラブラブっぷりを見せていただいたので大満足ですわ』
「そだね、そだね!
想いが通じてからの馬車での熱い抱擁とか大興奮だったね☆」
『ごちゃごちゃ言い訳してたから肯定してあげましたけど、気にせずイチャイチャすれば良いのですわ』
「そ―だね☆
で、イチャイチャするときは呼んでね?
花を撒き散らすから!!」
「ちょっと―!!
二人して人のこと面白がらないで!」
目の前のテーブルに座っているロザリーと妖精さんに、おもいっきり怒鳴った。
ん?
目の前……?
ロザリーは私の頭の中にいるはずなのに、目の前にいる。
『まだ気がつきませんの?
あなた。部屋に戻ってからブーツを脱ぐためにベッドに腰掛けて、そのまま倒れ込むように寝てしまいましたのよ?』
「じゃ、ここは夢の中!?」
「そだよ?
これからライヴの本番だよ?」
は!
よく見れば、ここは楽屋っぽい!!
メイクをするための鏡がある!
鏡の回りにはちょっと大きめの丸い電球がぐるっと付けられ、照明があたった時を想定してのメイクが出来るようになってる!!
そして今日のステージ衣装は、黒じゃなくて……白いドレス!
「?
なんでまたコンサートの夢なの?
もう歌の練習を夢でする必要ないよね?」
「今日はいつもと違ったからね~。
聖女が歌うのを見たかった人達の想いが、今日の夢になったっぽいよ☆」
『聞きたいと言うなら、聞かせてあげるまでですわ。
さ、行きますわよ!』
ロザリーに強く手首を掴まれ、ステージに上がると、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
観客席の左の壁の所には、今日もヘンリー王子がサングラスに黒いスーツ姿で、音楽関係の人ッポイ雰囲気を出している。
他にも、観客席の真ん中らへんにアイザック先生とヨド先生。ウチワを持って最前列にいるゼア王子。最近見る夢と同じ位置にみんないる。いつもと一緒と思ったら、ヘンリー王子がフイに上着を脱いだ。
ライブTシャツ!!
夢の中とはいえ、売り上げに貢献してくれたの!?
ありがとう!!
周りの観客は前を向いてて、ヘンリー王子がサングラスを外しても上着を投げ捨てても、特に目に入っていない。
そうだよね。
ライブってステージに注目するものだものね。
王子がライブに来るって、騒ぎになりそうなのに心配する必要はなさそうで良かった。さすが夢の中。
歌の前奏が流れ始めたので、気持ちを切り替えてロザリーと踊りだした。
二人で歌って踊って、ふと(ウインクしたら喜ぶかな?)と思ったので、サビの部分でこっそりヘンリー王子にウインクをしてみた。
「ぐはっ!!」
え?
突然ヘンリー王子が、銃で撃たれたようにのけっぞって倒れた。
鼻を押さえて、血の海に倒れ込んでいる。
「……今なら、死んでも悔いはない」
何かを呟いているようだったけど、ザワザワした声が多くてよく聞こえなかった。ヘンリー王子は、護衛のジェイクとフォスターによって素早く運ばれていった。
「大丈夫かぁぁぁぁぁ!?」
今度は右側の方で叫び声がして、振り向くとロザリーが青い顔をしていた。手が少し震えている。
『あ、あの……。
私も、あなたのマネをしてみようと思って、ゼアにウインクをしましたら……』
震えるロザリーが視線をステージの右下に移動すると、そこにはウチワを両手に握りしめ、血の海に倒れ込んでいるゼアがいた。もちろん彼もライブTシャツを着ていた。
「……俺はなんて幸せ者なんだ」
ゼアも何か呟いていたみたいだったけど、心配してざわつく周りの声で聞き取れなかった。
そして、警備員の人達に担がれて、ゼアも救護室へ連れて行かれた。
何? この夢。
巨大な魔法陣を描く手伝いで、思ったより疲れてたのかしら?
「それにしても、歌に込めた想いが届いたからといって、よく歌っている場所もわかったね」
木で出来た丸椅子に座って、救護室のベッドで眠るヘンリー王子を見守りながらボソッと独り言を呟くと、ヘンリー王子が目を覚ました。
まだ、意識が朦朧とするようで、寝たままこっちに向きを変えて私に一生懸命に何かを伝えようとしている。
「……それに、ついては……こんど、説明を…………」
「説明?
え? いったい何を……」
何を説明してくれるのか聞こうとした所で、目が覚めた。
そして、一日ゆっくり休んだのに、お休みの日も同じ夢を見た。
変な夢。
やっぱり、疲れているのだわ。




