第54話 白馬に乗った王子様
今回はR15かな?と思います。
苦手なかたはお気をつけください。
「「「「「アンコール! アンコール!!」」」」」」
歌い終わってビックリした。
気がつけば、広場に30人ぐらいの人が集まっている。きっとこの近くに住む人達。
歌で魔法陣が空に出来上がっていく感動的な光景を、もう一回見たいんだろうけど……。
「……アンコールと言われても…………、空に魔法陣が出来て結界を張れたたし、もう歌ってもさっきみたいに光とか出ませんよ?」
「それでもいい!」
「もう一回!!」
「聞きたい聞きたい!」
「アンコールぅ!!」
「「「アンコール! アンコール!」」」
舞台の上から恐る恐る聞いてみると、再びのアンコール。
どうしよう……?
結界を張れたから、妖精さんそろそろ変身といちゃうよね?
夜に歌うのも今夜で最後だし……。「うぅ~ん」とうなりながら悩んでいると、チョーカーに変身している妖精さんが、「いいんじゃない? もうちょっとこのままでいてあげるから歌ったら?」と言ってくれた。
「じゃぁ、もう一回」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
妖精さんに返事をしたのに、小さな声を観客の皆さんはしっかり聞き取って、歓声をあげた。とても喜んでくれると、私も嬉しい。
アンコールにこたえて、もう一回「きらめき☆魔法学園」のテーマソングを歌った。
頭の中のロザリーも、ノリノリで歌ってくれた。私にしかその声は聞こえないけど、また一緒に歌えてとても嬉しかった。
(ありがとう。みんな、ありがとう――――――)
感謝の気持ちでいっぱいになった。
歌い終わって、ふと視線を観客の皆さんから外して仰天した。
(広場の入り口に“白馬に乗った王子様”!?)
護衛の人を一人連れている。
白い軍服に、白いマント。金髪の髪が爽やかで、正に絵に描いたような王子様。
(ヘンリー王子! 何故ここに!?)
視線が合うと、こちらに馬を走らせてきた!
とても真面目な顔をしている。
ゴリゴリモンスターが現れるようになったのは、私のせいってバレたのかしら!?
とりあえず逃げるしかない。
私は慌てて舞台のカクカクしたデザインの壁を軽やかに駆け上がり、近くの二階建ての建物の屋根の上に飛び上がった。
妖精さんがチョーカーになって、首に巻き付いてくれてる影響で体が軽いもんね!
これで逃げ切れると思ったら、なんと! ヘンリー王子が馬をジャンプさせ、軽やかに屋根の上に飛びうつってきた。
(ウソでしょ!? 何て身軽なの!?!?
こんなにも無茶して追いかけてくるなんて、そうとう怒っているのだわ)
『真剣な顔には見えますけど、あれは怒っている顔とは言い切れないものがありますわよ?
もっと別の理由なんじゃ……あ!』
ロザリーが何かに気がついた。
『まさか!
あなた、今夜も寝間着で来たと思われているんじゃ……』
え!?
ドレスを着ているのに?
広場にいる人達はヘンリー王子の身軽さに、「おぉ~!!」と歓声を上げてるけど、それどころじゃない。
まさかと思って自分の姿を確認すると、体が輝いて髪の色どころか、ドレスの色もわからなかった。
紫の髪が金髪に見えるのは前回確認したから、そこは驚かない。
驚いたのはドレスの色。
紺色のドレスを着ているはずなのに、白か黄色にしか見えない!!
着替えやすいぶん質素なデザインだし、これだとまた寝間着を着ていると勘違いされてもおかしくないかも!
誤解を、誤解を解かなければ!!
こうしている間にも、ヘンリー王子は走ってきている。
屋根から屋根へ飛びうつって走りながら、私は必死に主張した。
「ドレスドレスドレスドレスドレスドレスドレスドレス着てます! ドレスドレスドレスドレスドレスドレスドレスドレス! 紺色! ドレス! 寝間着じゃない! 今日、私はドレスを着ています――――――――!!!!!!!!」
もう、必死でドレスを着ていると訴えた。
それでもヘンリー王子は止まらない。
追いつかれないけど時間の問題だわ。
昨夜の約束だと、追いつかれたら左の鎖骨辺りにキスをされる!
は、恥ずかしい!!
『なんてことでしょう!!
昨日の今日でこんな展開になるなんて!
どこまで、どこまで盗み見していいのかしら!?
私、心の準備が出来ておりませんわ!!』
もちろん、私も出来てないわよ!!!!
ちょっと! ロザリー!?
“盗み見”どころか“かぶりつき”で見る気満々じゃない!!!!
『“かぶりつき”って何ですの?』
最前列よ!!
下北沢の小さな劇場とかにお芝居を観に行って「“かぶりつき”でもいいですか?」って言われると、たいてい座席の前の(本来は通路ではないかな?)と思われる場所に座布団が敷いてある所に案内されるのよ。
狭いから、足やお尻が痛くなってくるし、座布団二枚ないと寒くなってくるけど、ただ座っているだけで役者さんにさわれそうな距離だし、お話の中に入り込んだように大迫力で物語を楽しめるのよ。
本当に、かぶりつけるぐらい近いんだから。
『まぁ! まぁ!! まぁ!!!!
座布団がよくわかりませんけれど、とっても楽しそうですわね!!』
ロザリー上機嫌。
本当にかぶりつきで楽しむつもりだわ!
人ごとだと思って!!
とにかく逃げなければ!
私は「待ってくれ!」と叫ぶ王子から逃げるため、隣の三階建ての建物に飛びうつろうと右足を踏み込んだ。
「《〈王子専用スキル発動!!〉》」
(王子専用スキル?
ヘンリー王子は何を言って…………う”っ!!)
突然体が動かなくなった。
この感覚、前にもあった。
初めて水の魔法の授業を受けたときと、パーティーに参加したときのテラスで、今と同じように動けなくなった!
王子の色気のせいだと思ってたアレは、スキルだったの!?
混乱している間に、追いついたヘンリー王子が私の右手をとる。
その瞬間、体が動くようになったけど、走ってきたヘンリー王子の勢いに流されてバランスを崩し、後ろに倒れていく。
間抜けに跳ね上がる左足。
このままでは体が屋根に打ち付けられてしまう!
それが怖くて目をぎゅっと閉じた。
もうダメだ。
体を打ち付けられた後は、二階の屋根のうえから、地面に落ちるんだわ――――――!!
そう覚悟した。
すると、「スッ」と王子が左手を私の背中に回して体を支え、手をとった右手は私が“真っ逆さまの体勢”にならないよう、左の膝裏をガッシリ摑む。
そのまま、ヘンリー王子の顔が近付いてくる。
『キャー!
キスですの? キスですの!?』
そんなまさか!
だってだってだって!!
「ムードがない!!」
言いながら、思わず顔を右に逸らした。
頭の中でロザリーに言うつもりが言葉に出てしまったため、顔を右に逸らして独り言のフリを装おうと思ったんだけど…………、ご、誤魔化せたかな?
そ~っとヘンリー王子の顔を盗み見ると、顔色が……白い。ような気がする。
「はっ! ごめん!!」
そう言って「パッ」と王子が慌てて私から両手を離した。
体がフワッと落ちていく。
この体勢で手を離したら、確実に下に落ちる。
「離さないで!!!!」
半ベソ状態で、必死にヘンリー王子の首にしがみついたら、ヘンリー王子は、ゆっくりと私を立たせてくれた。
いくら我に返ったからといっても、手を離さないでほしい。
二階の屋根から落ちそうになったショックで、まだ腕がブルブル震えて、すぐにヘンリー王子から離れられないじゃないの。
ん?
“我に返った”?
え?
本当に、今、キスしようとしてた……?
まさかの可能性に、ちょっと混乱してきた。
でも
傍から見たら、フィギュアスケートのペアの最後の決めポーズみたいになってるかもしれないけど、長いドレスで隠れている足は、危ういバランスで体重を支えているからぷるぷるだったのよ!?
『ヘンリー王子が支えてくれているのだから、全体重をあずければ良かったのですわ』
そんなことしたら、目が回って気絶しちゃうわよ!
そもそも、ヘンリー王子は私を[聖女]だと勘違いしているから、話がややこしくなるじゃない!!
ロザリーと「ああすればよかった」「こうすればよかった」と言い合っていると、ヘンリー王子の両手が私の頬にふれた。
「…………ロザリーの望むままに」
そのまま、そっとキスがふってきた――――――――。
え?
ちょっとまって?
今、「ロザリー」って言った?




