第52話 歌います! (挿絵有り)
「行こう! ロザリー!!
今夜は大きい結界を作るから、ゴリゴリモンスターが出現する前に出発するよ!」
夜。
妖精さんに言われ、バードック家の別荘を飛び出した。
ローリーはスイカを気に入ってくれたので、出発前と帰ってからとでスイカをあげれば快く私を乗せてくれる。
だから、ドレスを着ていても乗りやすい。
そう!
今夜の私は寝間着ではない。
ドレスを着ている!!
しかも、目立ちにくい紺色!
着替えやすそうなのをあらかじめ用意しておいた。
夜にまぎれやすいし、これならヘンリー王子に「寝間着は危ない」と、心配されることなくコッソリ歌ってコッソリ帰れる。
大きな結界を張れたら、夜に出かけるのも今夜で最後。そうしたら、聖女騒ぎも収まるに違いない。そのあとは……少しずつヘンリー王子と心の距離を縮めていけるよう頑張る。うん。
それにしても……気になることが一つある。
私はローリーのおかげで馬を乗りこなしている気分に浸りながらも、妖精さんに聞いてみた。
「妖精さんって、ずっと側にいてくれるものだと思ってたけど、学園に着く頃にはいつも何処かに行っているよね?
昼間は何処に行ってるの?」
「ロザリーの近くにいてもあま~い恋や愛の感情を食べられそうにないから、愛をダダ漏れさせている人を探しに行ってる☆」
「……へぇ」
妖精って大食いなのかしら?
なんか、いつも食べ物の話になるのね。
「でね?
学園を飛び回ってて気付いたんだけど、ヨメナって子はあたしのこと見えてないよ?
結界を張れるなら〔光の妖精〕のこと見えるはずなのに。
あの子が聖女っていうのは怪しいね」
「え!?
ヨメナ様も結界を張っているんだと思ってたけど、違うかもしれないの?」
じゃあ、昨夜はどうして聖女っぽい格好でモンスターの現れる場所にいたんだろう?
『決まっているでしょ?
あなたの手柄を横取りするためですわよ?』
ロザリーにそう言われても、怒りの感情はわいてこなかった。ヨメナ様のおかげで、注目されずにすんでいるから助かっているんだもの。
『手柄どころか、ヘンリー王子までとられますわよ?』
胸の奥に一瞬痛みを感じたけど、何も考えられなくなった。
ダメダメダメ。
とりあえずは結界をはることを考えないと!
今夜は海岸ではなく、大陸の中心に近い街に来た。
オシャレな街並みも、誰もいないととても寒々しい。
ポツンポツンと等間隔に設置された街灯だけが、わずかに暖かさを感じさせてくれる。
本当に大陸を覆うほどの結界を張れるかな?
まぁ、私は歌うだけで、魔法を使うのは光の妖精さんだから、妖精さんが出来ると言うなら出来るんだろうけど不安になる。
「ここの舞台がね、とっても良いんだよ☆」
ノリノリで妖精さんが指をさしたのは、広場の舞台。
とても大きくて、品があって立派。
『あら、ここって……』
ロザリーが懐かしそうに言う。
この舞台は見たことがある。
ラーチ先輩が〔夏を呼ぶ式典〕で歌を歌った舞台!!
「え?
ここグイマツ王国!?
いつのまに国境こえたの?」
「すぐ隣の国だし、森から行けば警備が手薄なところもあるんだよ☆
いつも飛び回っている妖精の情報量を見くびらないでほしい。えっへん!」
得意げな妖精さん。
そっか。妖精は凄い早さで飛べるらしいもんね。
「大自然や神に祈りを捧げるために作ったこの舞台は、歌声が広く広く遠くに響きやすいように設計されているんだよぉ。
きっと大きな結界を張れると思うんだ☆」
そう言われて、舞台をよく見てみると、大きな音響反射板を二枚見つけた。
オシャレなデザインだと思ってたソレは、楽器の演奏をより観客に届けられるように、歌い手の声はもっと鮮明に届くように、音を反射しやすそうな長方形の形をしていた。こんなに大きいのに、存在を潜ませて設置してあるって凄い。
そして、さらに、空にも音が響かせられるようにと、舞台の壁にも工夫がしてあるようだった。
ぱっと見、カクカクした斬新なデザイン壁だなとしか、思わなかったけど凄いわね。この舞台。
これなら、この舞台が、私の力を底上げしてくれそう!
歌は得意じゃないけど、力不足な所はこの舞台が補ってくれそうな気がする!!
なんて頼もしい舞台なの!
何だかやれそうな気がしてきた。
妖精さんがキリッとした目で私を見る。
私は深く頷いた。
「じゃ、いくよ! ロザリー!!」
「うん!」
妖精さんが光るチョーカーになって、私の首に巻きつく。
すると私の髪は金色に変わり、持っていた魔法の杖は伸びてスタンドマイク代わりになった。
私は静かに息を吸った。
――――押せば良いのか、引けば良いのか、恋はよくわからない
すご~い、すご~い!
歌ってみて、この舞台の凄さがとてもよくわかる。
今まで海岸で歌ってたときと全然違う!!
少し声を出しただけで、すっごく響くから、自分の声がしっかり聞こえる!
これなら余計な力が入ったりしない!!
――――女の子らしさって、いったいどうしたら良いの?
妖精さんの魔法で、歌声は〔光の線〕になって空に舞い上がっていく。
その光の線に、他の妖精さんが集まってきているのか、いくつか花びらが舞いだした。
――――昨日もやらかし、今日もやらかし、失敗ばかり
妖精さんが好きなのは、〔愛〕や〔恋〕の感情。
お姫様抱っこは毎回ビックリするなぁとか、気がつくといつも近くにいたなとか、ヘンリー王子のことを思い出しながら歌ってみた。
思い出すだけで、ワクワクするようなキラキラするようなこの感情がきっと妖精さんの好物なんだよね。
――――でもね。でもね。きっと大丈夫。
キラキラと夜空に描かれていく魔法陣を見上げながら、ヘンリー王子と一緒にこの景色を見れたらよかったのになと思った。
だって、とってもキレイなんだもの。
そんなことを考えていたら…………次の歌詞忘れた!
あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!!!
想いを込めることに夢中になりすぎた!!
あわあわあわあわあわあわあわあわあわあわ。
どうしよう!?
やっぱり夢の中で歌詞を覚えるとか無理だったのよ!
冷や汗がダラダラと出てきた。
ドレスは汗を吸いにくい素材だから、生地が肌に張りついてきて気持ち悪い。
首に巻き付いている妖精さんも、さすがに私の異変に気がついた。
「ロザリー?
とりあえず、落ち着いて歌詞を思い出すんだよ!」
そんなこと言われたって、頭の中はパニック状態。
一生懸命に思いだそうとするけど、何にも……そう! 何にも思い出せない!!
――――――他のみんなと同じように出来なくていい。あなたは、あなたなのよ?
どこからか歌声が聞こえてきた。
これ、歌の続きだわ。
おかげで、歌い続けられる。
――――人には好みがあるのよ(人それぞれよ)
私の歌にハモリを入れてきた!
この頼もしい歌声は…………頭の中のロザリー!?
『オ~ホッホッホッホ!
私も夢の中であなたと歌っておりましたのよ?
歌詞もメロディーもハモりだってバッチリですわ!!』
ロザリーが一緒に歌ってくれる!
なんて頼もしいの!?
『私は体を動かせませんから、私の歌声はきっとあなただけにしか聞こえないのでしょうけれど、気分がちょっと変わるでしょ?』
うんうんうん!
全然違う!!
とっても心強い!!!!
――――ステキな出会いがきっとある
ロザリーのおかげでなんとか持ち直し、私達は二人で「きらめき☆魔法学園」のテーマソングを歌った。
心なしか、さっきより光の線が太く、花びらはさっきより多くなってきた気がする。きっと、これが“心強い”ってやつね。一人で歌ってたときより世界が違って見える。
――――恋の魔法も教えてくれればいいのに
まるでロザリーがすぐ隣にいるように感じる。
ううん。
それよりもっと近く。
体がほぼ重なっていると感じるぐらい近い――――――。
――――きらめきの魔法学園 Doki Doki☆
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ロザリーが歌い始めるほんの少し前。
ヘンリー王子は、未知のモンスターが次に現れると予測される海岸に向かうべく、護衛のジェイクとフォスターを連れて馬を走らせていた。
貴族の別荘地から町に出る山道を下っているとき、白い馬車が町中を走って行くのを見た。
(あれは、ヨメナ嬢の馬車?)
ヨメナ・ストークス伯爵令嬢が乗っていると思われる馬車が走り去ったあと、たまたま居合わせた町の人が「あ、聖女様!」「聖女様がんばってください!」と激励の声を上げていた。
もしかしたら、たまたまではないかもしれない。
最近は毎晩聖女が現れるので、聖女見たさに夜に出歩く人が増えている。
そんなことを思っていたら、どこからともなく歌声が聞こえてきた。
―――――――・・・・・・・・・・・・き。
(…………まただ……)
この歌声を聞くと、何かが流れ込んできて胸が熱くなる。
はっきり聞こえないけれど、謎の聖女の歌声だ。
とても遠くから聞こえる。
今日は、空全体から降り注ぐように聞こえるから、どの方角にいるのか見当がつかない。
見上げれば、夜空に光の線で円が描かれ始めていた。
(大陸を覆うほどの魔法陣を描こうというのか?)
――――――好き
(え?)
――――――――大好き
歌は、かすかにしか聞こえないのに、それとは別に、聖女の言葉がハッキリ聞こえた。
驚いて辺りを見回すと、ジェイクとフォスターが不思議そうにこっちを見る。
「声が……」
「そうですね。殿下。
どこからか歌声がします」
「遠くてハッキリわかりませんね」
どうやら聖女の言葉は自分にしか聞こえないらしい。
――――――ヘンリー王子のことが大好き
すぐに彼女のもとへ駆け出したい衝動にかられた。が、今回の魔法陣は大きすぎて聖女がどこにいるのか見当がつかない。
とりあえず、手がかりは町の人が“聖女様の馬車”と認識していた馬車だけ。
ヘンリー王子は、さっき走り去ったまっ白い馬車の後を追うことにした。




