第51話 ごちゃごちゃ(挿絵有り)
「暗黒令嬢! 貴様の悪行もこれまでだ!!
聖女ヨメナ様が、聖なる力で貴様を討ち滅ぼす日も近いからな!
首を洗って待っていろ!!」
登校して、魔法学園の校舎に入ってすぐ男子生徒に怒鳴り声。敵意むき出しで言葉を吐き捨てたあと、名前も知らない男子生徒は去って行った。
“怖い”というより、少し感動した。「首を洗って待っていろ!」なんて、お芝居の世界でしか聞かない台詞を生で見れるとは!
そして、感動する私とは別に「失礼な人ですね」と、ティアはとても怒っていた。
ヘンリー王子から婚約破棄を宣言されて以降も、ティアとゼアは変わらず毎日迎えに来てくれ、最近は三人で一緒にティアの馬車で登下校している。
「今の、何なんですかね!?
ロザリー様は今日まだ何もしてないのに!!」
……“まだ”。
ティアの言い方では、まるで私が毎日何かやらかしているみたいに聞こえるわよ。
最近は学園で問題を起こしてない。
ここ数日は……。
「ロザリー様!
あんな愚かな人間の言葉に耳をかす必要はないですからね!?」
お……、愚かな人間。
「〔暗黒令嬢派〕に対して、〔聖女派〕が最近増えてきてますから、ちょっといい気になっているんです。きっと」
え? ちょっと、ちょっと待って。
聖女の話も気になるけれど、〔暗黒令嬢派〕も気になった。
「暗黒令嬢派って、うちのクラスの皆のこと?」
「そうです! ロザリー様!!
他のクラスにもけっこういると聞いていますよ?
活動内容は、ロザリー様が他の人より強い魔法を発動させたとき、“何でも無いから気にしなくていい”と言って回るだけのささやかなものです」
前に“人体改造をしないと約束してくれるなら、配下に加わります”ってクラスの皆が言ってから、知らない間に人数が増えてる!?
活動内容は……無害そう…………かな?
ありがたい活動内容だけど、何か不安。
「聖女派はちょっと夢見がちの人達なんですよ?
聖女のヨメナ様が全てを浄化し、そのうち暗黒令嬢のロザリー様をも討ち滅ぼすと言っているんです」
「……うちほろぼす」
「出来るわけないですよ!
だって、紫色になるけど、ロザリー様も〔光の魔法〕が使えるのにどうやるんですか!
そもそも、ロザリー様は邪悪な存在ですらないのに……、っていうか、ロザリー様が聖女なんかに倒されるわけがありません!!」
ティアに教えてもらってから気がついた。
そういえば、私が廊下を歩いても気にしない人が増えてきた気がする。
今だって、道をあけてお辞儀する人は数名だもの。
これって、あれじゃない?
そのうち、普通の学園生活をおくれるんじゃない?
聖女ヨメナ様のおかげで、私の存在が薄くなってる!
うやむやに出来なくても、浄化されたフリとかすれば良さそう。
でも、討ち滅ぼされるんじゃそれも無理かなと考えながら教室に入ると、マリーとスピカが最新の噂を知らせにきた。
「おはようございます!
聞いてくださいロザリー様!!
聖女はこの学園の生徒で間違いなさそうです。
魔法陣を描くとき“魔法学園”と歌うそうです」
ゴフォッ!
「しかも、白い馬車に乗っていて、その馬車で魔法学園に登校するのを見たという目撃証言まで!」
ブフォッ!
二人の報告にむせてしまった。
それ、私のことじゃない!
『良かったですわね。聖女になれるチャンスですわ』
何を言っているの、ロザリー?
ゴリゴリモンスターが他の大陸から来るようになったのが私達のせいとバレたら重罰になりそうだから、この件はうやむやに終わらせたいんでしょ?
『でも、何回か結界を張っているうちに、パターン化してきてますもの。 追いかけられやすくなってきているのは確かですわ。
あなたが結界を張っているとバレるのも時間の問題ではなくて?』
ロザリーの言う通り。
最近パターン化してきた事がある。
それは、ゴリゴリモンスターの出現ポイント。
結界を張ると、もうそこからは上陸できない。
だから、次の日は少し東側の海岸にゴリゴリモンスターが現れる。
アルムス王国の西に広がる連合国は、その逆。
ティアが張った結界の少し西側の海岸へと、ゴリゴリモンスターの出現ポイントがずれている。
予想しやすくなったぶん、聖女の追っかけが日に日に増えてる。
追いかける人が増えれば、目撃者も出てくるよね……。
「この学園で白い馬車に乗っているのは、ヨメナ様だけだそうです」
「まぁ! そうなの!!」
思わず歓喜の声を上げてしまった。
これなら、バレないんじゃないかしら!?
喜ぶ私とは別に、マリーとスピカは不思議そうな顔をしている。
「明らかにヨメナ様はロザリー様の敵だと思うのですが、何故そんなにも喜ばれるのですか?」
戸惑うマリー。
そんなマリーを、スピカが慌てて止めに入った。
「待って、マリー!
そうじゃないわよ。
敵がハッキリわかったから、消すべき相手を知れてロザリー様は嬉しいのよ」
スピカの言葉に衝撃を受けるマリー。
マリーとスピカが青ざめた顔で、ゆっくりと私を見る。
その顔は「ヨメナ様を消すのですね?」と言っているようだった。
「ちょっと。
私はそんな物騒な事しないわよ?」
冷静に、でもしっかりとスピカの言葉を否定した。
……のに!
教室にどよめきが走った。
「暗黒令嬢ロザリー様が、ついに動くわ!!」
「物騒じゃない、聖女の消し方ってなに!?」
「死なない程度に、痛めつけるということなのか!?」
「秘密裏に聖女を学園から追い出すということでは!?」
「いや、存在そのものを、最初から無かったことにするんじゃないのか!?」
「そんなことが出来るの!?」
「彼女なら、やるかもしれない……」
「だって暗黒令嬢だぞ!?」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
瞬く間に話が広がっていく。
私は慌てた。
「ちがう! 違うから!!
私はそんなことしないわよ――――――――――!!」
教室に響き渡るほどの大声で否定すると、マリーとスピカはホッとした顔をした。
そう。マリーとスピカは…………。
クラスメイトの皆さんは信じてない様子。
ティアは嬉しそうな顔をして、ゼアは「ふっ」って鼻で笑った。
「ティア? 私は何もしないわよ?」
「はい! そういうことにしておきますね♡」
「その笑顔!!
絶対理解してくれてないわよね?
ちょっとゼア!
今、また笑ったわね?」
「この学園に入るまで、貴族の噂はくだらないと思っていたが、噂が広がるのを間近で見ると面白いものがある」
『まぁ!』
どうなってるの!?
私だけが慌ててる!
頭の中のロザリーは『好きな人が面白いと思うものを知れて嬉しい』という感じで喜んでる!!
「ちょっと!
私は平和を愛する人だからね!?
勘違いしないでね!?」
「「「「「はっ! かしこまりました!!」」」」」
みんな返事は良かったけど、本当にわかってくれたか怪しいもんだわ。 私はこのストレスを、バードック家の別荘に帰ってから、光の妖精さんにぶつけた。
「…………と、いうふうに、聖女のウワサのせいで、さんざんなのよ!」
「そうなんだね。
じゃあ、今夜決着をつけちゃおうか」
「決着? ヨメナ様と?」
「ゴリゴリモンスターとだよ!!
ロザリー何をごちゃごちゃ考えているのかわからないけど、ゴリゴリモンスターが来なくなれば解決なんじゃない?」
「……たしかに」
妖精さん曰く、ゴリゴリモンスターが上陸するのが難しいほどの大きな結界を張れば良いとのこと。
簡単に言うけど、できるのかな?
「フルバージョンなら出来るよ☆
今まではワンフレーズしか歌ってなかったでしょう?
全部歌えば大きなのが出来るぅ」
「ノリノリで言ってくれるけど、私は盛り上がりの所しか知らないわよ?」
「そんなことないよ。
だって、最近は毎日のように夢の中でコンサートしてるじゃん?」
確かに……。
最近は夢の中でアイドルになって歌ってる……。
そのせいで、盛り上がり以外の知らなかった部分も覚えてきた気がしなくもない。
「まさか!
歌詞を覚えさせるために、わざとアイドルになる夢を見せてたの!?」
「へっへっへぇ~♪」
照れくさそうにモジモジする妖精さん。
何も考えてないんだと思ってたけど、しっかりしてるのね。
「これはね、死活問題でもあるんだよ。
妖精は〔愛〕や〔恋〕の感情を食べるって前に言ったでしょ?
今ロザリーって失恋中じゃん?
ヘンリー王子への想いが冷めたら、妖精の非常食の結界を作れないじゃん」
うっわぁ~。
この妖精、私利私欲しか考えてない。




