第46話 なんでもいい(挿絵有り)
馬に乗って(乗せられて?)こんなに早く走れる日が来るとは思わなかった。風を感じながら喜びを噛みしめていると、妖精さんが言った。
「到着まで時間があるから、今のうちにこの世界の魔法について説明するね」
「授業で習ったわ!
精霊は、それぞれの属性によって聞き取りやすい音があるんでしょう?」
「へぇ。[イメージ]と[相性]って教える先生が多いのに、魔法学園にはそこまで分析出来てる先生もいるんだね」
妖精さんはとても感心しているようだった。
ヨド先生って実は凄い先生なのかも。
「しかぁし!
それだけじゃないんだよ?
だって、もしそれだけなら、精霊が聞き取りやすい話し方をする人がいて、日常生活の会話の中にたまたま呪文になる言葉が入ったときだって、魔法が発動しまくって大変なことになるよね?」
そうだね。
でも、だからこそのイメージじゃないの?
私はだんだんわからなくなってきた。
「さぁ! ここで問題です。
精霊は、いったい何を食べるでしょうか?」
「え!? 精霊が食べるもの?」
「うん。精霊もね。ごはんを食べるんだよ☆
だいたいね、タダで人のいうこと聞くわけないんだよ。
世の中ギブ&テイクだよね」
世の中ギブ&テイクって……。
ちょっ、ちょっと、なんか、夢が崩れ落ちるね。
「正解は! 〔感情を食べる〕でした!!」
「〔感情〕を食べるの!?」
「うん!
精霊には、感情が無いからね。
精霊の力を求める声が聞こえたら、その言葉を発しているときに出た感情を自分の中に取り込む。
そのお返しに魔法を放っているんだよ。
でも安心して?
精霊に感情を食べられたからって、その感情が消えるわけじゃないから。
感情を読み取るっていうか、感じ取る?
それが食事みたいなことであり、精霊を成長させることなんだ☆」
あ、なんとなくわかった。
感情を知ることが、成長への鍵なのね。
だから〔感情〕が精霊にとっての"ごはん"ね。
「実体を持たない小さな小さな精霊は、ある程度感情を食べて、ごくごく単純な何かの感情を持つようになると、〔妖精〕に進化するんだよ。
この段階での妖精の感情は、誰かの真似っこみたいなものだね。
妖精はねぇ、〔愛〕や〔恋〕という感情が好き☆
人間達の言う〔スイーツ〕みたいな感じ!
とても甘くて美味しい!!」
「まさか、花を撒き散らすのは、その場の空気を盛り上げるため?」
「うん!
もっともっと食べたいもん☆
減るもんじゃないし、ただ感情が盛り上がるだけだからWin-Winの関係だよね?
そして、感情を食べて自分の感情を持つようになると、妖精はやがて〔実体を持つ精霊〕に進化するんだよ。
魔法を使えない人も見ることができる体ね」
〔進化〕は一回だけじゃないのか……。
花が舞うのも、"食事のため"って……どんどん夢が壊れるわね。
「どの種族の感情を食べてきたかで、〔妖精〕や〔実体を持つ精霊〕の姿が変わるよ。
一番人気は感情豊かな人間!
でも、なかなか言葉を聞き取れないのが難点。
だから自分と周波数の近いモンスターに宿る精霊もいる。
そういう個体は、進化したときそのモンスターの姿になるんだよ。
もし、精霊のときにモンスターの体内にいて、妖精のときは人間の感情を取り込んでいたら、上半身人間で下半身モンスターになったり、その逆になったりするんだよ☆」
馬に乗って走りながらの説明だから軽い説明だと思ったのに、どんどん深くなっていく。
ロザリーの愛馬のローリーが、上手に私を乗せて走ってくれてるから妖精さんの話を聞く余裕あるけど、そういう話は落ち着いたときにゆっくり説明してほしい。
そんな私の気持ちを察したのか、妖精さんが言った。
「なんで今この説明をするかというとね?
上陸してきたモンスターが氷をはいたり、雷を落としたりするからだよ☆
遭遇したとき、なんでモンスターが魔法を使えるのか、ロザリーが疑問に思うかなと思って!」
「ちょっ! ちょちょちょっと!!
氷を吐いたり、雷を落とすモンスターが上陸したの!?
魔法の仕組みより、そっちを先に教えてよ!
初めて出会うモンスターにしては、難易度が高すぎるわよ!?」
「でしょ? そんなのと戦いたくないよね?
だから、ロザリーに結界を張ってほしいんだよ」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
結界の張り方なんて知らないよ!!!!
『落ち着きなさい。
あなたや、この世界のためと言っているように聞こえますけど、そうではないですわ。
この妖精は、自分の食事のために結界を張れと言っているのです。
失敗しても、気にすることないですわね』
「自分の食欲のために、結界を張れと……?」
ロザリー? なんてこと言い出すの?
でも、さすがにそんなことは……
「あ、バレちゃった~」
……そんなことあるのね。
「強いモンスターが入ってくると、人間は恋愛どころじゃなくなるんだよね。そしたら、ごはんが減る~。
君たちだって、他のゲームの世界の強いモンスターなんて来てほしくないでしょ?」
「そりゃ、そうよ。怖いじゃない」
妖精さんと話していたら、遠くのほうで「ゴォリゴリ。ゴォ~リゴリッ。ゴリゴリゴリゴリ」と音がした。
『いましたわ!!』
ロザリーの声を聞いて、先の方をよく見ると確かにいた。
2、3メートルはありそうな大きな体。狐や蛇のモンスターなんだけど足が……。
足が、キャタピラ!!
やたらとギザギザになってる〔キャタピラ〕の足で、崖をゴリゴリ削るようにして上陸して来てる!!
〔ゴリゴリモンスター〕の“ゴリゴリ”は、地面をゴリゴリ削りながら進む〔ゴリゴリ〕なのね!
「あんな足でどうやって海を渡ったのよ!」
「なんと! 水属性だから、あのまま海を泳げるんだよ。
“ホラーっぽいRPG”って言ったでしょ?
[ゴリゴリモンスター殺戮伝]は、小学生向けのゲーム。
“ホラーっぽい”だけで、本格ホラーじゃない。
そして、こども向けだから“何でもアリ”の世界なんだよ」
そのとき、こっちに気づいた上陸したてのゴリゴリモンスターが、氷を吐いてきた。
手綱を右に引っ張って、ローリーに右に避けるよう指示を出す。
「キャタピラで海を渡れるわけないでしょ!!
だって、戦車は海を渡れないもの!
泳げもしないわよ!
教育上、よくないと思うわ――――――――――――――!」
なんとか避けたけど、これでは結界どころではない。
『今こそ、あなたの得意な魔法ですわ!!』
ロザリーの声に、私は急いでローリーから降りた。
「ローリー! 危ないから、ここから離れて!!」
そう言うと、ローリーは「ヒヒ~ン!」といって林の中へ消えていった。人の言うことがわかるなんて、賢い子!
「いくわよ……」
私は、杖を握りしめた。
“私の得意な魔法”。最初に習った〔火の魔法〕ね!
ニッと笑顔を作って息を吸い、息を吸いながら鼻腔あたりの筋肉を構えて、周りに響き渡るように大きな声で!!
〈《燃え上がれ! 炎よ!!!!!!!!!!》〉
呪文を唱えると、「ビーン」って杖から紫の光線が走り、上陸してきた二体のゴリゴリモンスターの足下に焦げ後がついた。
そして、その焦げ後から一気に〔紫の火柱〕がたつ。
ゴリゴリモンスターの目の前には〔紫の炎の壁〕!
今がチャンス!!
「妖精さん! 結界の張り方は!?」
「何でも良いから〔恋の歌〕を歌って!」
「〔恋の歌〕?」
「あたしがね、ロザリーの歌を編み込んで、結界を作るから!」
妖精さんはそう言うと、チョーカーになって私の首に巻き付いた。
サイズはピッタリ!
光の妖精だからか、チョーカーが光り輝いてて、首元が眩しい。
続いて、手にしていた杖が伸びた!
「ロザリーの持ってる杖、〔精霊の杖〕だね。
精霊に声を届けやすくしてくれる効果があるんだよ~。
これをマイク代わりに使おうね☆」
ロザリーの杖はクラスの皆のと違ってて、杖の先に花の蕾みのデザインがほどこされているから、枝の部分が伸びればマイクっぽい。
『ほほほ。入学祝いにお父様が取り寄せてくれたものですわ』
娘の夢のために、ドラゴンスレイヤーを手に入れようと言い出すぐらいだものね。
それにしても、首元から声がするって変な感じ。
準備は出来たから、“歌わなきゃ”と思うんだけど、なんか引っかかった。
……何でも良い、か。
『どうしましたの?』
いや、「何でも良い」といっても、それに適したものがあるんじゃないかなと思って……
『急がないと、炎が消えてしまいますわよ?』
声優のお仕事でガヤ(大勢の人が話す声)を録音するとき、台詞は指定されないことが多いのね。
自由にしゃべっていいんだけど、何度もお仕事によんでもらえる人って、そういうときの言葉選びがセンス良いのよ。
作品の内容をしっかり理解した上での演技に(凄い)と思ったりする。ジョークというか、茶目っ気というか、余裕? がある人もいたりする。
たぶん作品が出来上がってから聞く人は、ガヤの声なんかハッキリ聞き取れないと思う。
でも、録音現場では笑いがおきたり、驚いたりして盛り上がることがある。
うまく、言えないけど、今もね、なにか……何か、ある気がする。よく考えたほうが、よりよい結果をのぞめそうな歌にたどり着けるというか……。
「ロザリー! 早く早く!!」
妖精さんの言葉に焦りながら、私は必死で考えた。どんな歌が良いんだろう?
あ! わかった!!
〔テーマソング〕よ!!!!
〔きらめき☆魔法学園〕のテーマソング!
CMで何回か見たから盛り上がりだけ歌える。
これなら、+αの効果が望めそうじゃない!?
私は〔きらめき☆魔法学園〕のテーマソングを全力で歌った。
♪恋の魔法も教えてくれたらいいのに。
チャラランララ
きらめきの魔法学園。
Doki Doki☆♪
歌声に合わせて、夜空に〔光の線〕が伸びていく。光の線はユラユラと揺れながら、空に魔法陣を描いた。花びらがヒラヒラと舞って、幻想的な空間だった。
そして、魔法陣は空からゆっくり地面に降りてきた。
魔法陣は、〔光の結界〕になった。
これから上陸しようとするゴリゴリモンスターが、光の結界に弾かれるのを見るのは何だか不思議な感じがした。
やった!!
あとは、結界の中にいる二匹!
上陸したゴリゴリモンスターの動きを止めていた〔紫の炎〕は、もう消えてなくなりそうだから、もういっかい……。
『待ちなさい!!』
ロザリーの声に、びっくりした。
すると、横から〔赤い炎〕が飛んできた。
アルムス王国の魔法騎士団の皆さんが駆けつけたみたい。30人ぐらいいる! 「よかったよかった」と胸をなでおろすと、ロザリーが再び叫んだ。
『逃げますのよ!!』
え? なんで?
『あなた! 今、自分がどんな格好か忘れてますの!?』
私の格好?
『寝間着ですわ!!
殿方の前に寝間着姿で出るなんて、レディとしてはしたないですわ!
“バードック家”の品格が疑われましてよ!!』
そうだった! 寝間着だ――――――――――!!
すっかり忘れてた。私は今、白い寝間着に魔法学園の制服のブーツという格好!
遠くからだとわからないけど、近くで見ると少し透けている生地使ってるのがわかるから恥ずかしいことこの上ない!!
『高級な生地と言ってくださいませ』
そうとも言うかもしれないけど、とりあえず、か、帰ろう!!
私は急いで林の中に逃げ込んだ。
幸い、騎士団の皆さんはゴリゴリモンスターと必死に戦っている。
立ち去るとき、魔法騎士団の中に〔赤い髪〕の人がいたような気がした。家庭教師をしてくれているアイザック先生かな? と思ったけど、確認する余裕はなかった。
林を抜けて道に出ると、ロザリーの真っ白な馬車が止まっていた。曲線を多く取り入れたこのデザイン。久しぶりに見ても、お姫様が乗る馬車にしか見えない。
どうしてプリンセス馬車がここに!?
直ったの!?
「お嬢様! なんて格好で外にでかけたのですか!?
さ、早く馬車に!!」
現れたのは、ロザリー付きのメイドのミュゼだった。そっと、上着をかけてくれる。
他のメイドから、私がスイカの皮を持っていったのを聞いて念のため私を探していたら、ローリーに乗って走って行く姿が見えたらしい。
御者を呼んで急いで馬車を出して追いかけてきたけど見失い、困っていた所にローリーが現れて、ここまで連れてきてくれたと……。
ローリー、賢い子!!
そして、ミュゼに感謝!!
「ミュゼ、ありが……」
は! いけない。メイドさんにお礼を軽々しく言ってはいけないんだったわ!!
私は顎を振り上げて、ミュゼを見下しながら「よくやったわ」と偉そうに言った。すると、「お褒めくださり光栄です」と言われたので、間違ってはいないのだろう。……たぶん。
でも、今回の奇行には、さすがのミュゼも心配したらしい。なので、ここには結界を張りにきたと説明した。
妖精さんのことは、伏せておいた。
この世界に来てまだ一週間ぐらいだけど、妖精が見える人と会ってないから、いちおう、ね。
帰り道。道がカーブになっているところで、さっきまでいた所が見えた。
ゴリゴリモンスターが海から上陸しようとして、結界に弾かれてる。魔法陣はもう光ってないようだし、〔光の結界〕もかなり落ち着いた光になっていたけど、モンスターをしっかり弾いてる。
「結界を張るなんて、流石ロザリーお嬢様です!
モンスターがどんどん弾かれてます!! 素晴らしい結界です!」
「ふふふん☆
この〔恋の歌〕を編み込んだ魔法陣には、たくさんの妖精が集まってるんだ」
ミュゼの言葉に気分を良くした精霊さんが解説を始めた。
ミュゼには精霊さんの声は届かないし、姿も見えないのに……。褒められたのがよほど嬉しかったのね。
「そもそもの体の構造が違うから〔人間〕と〔精霊〕がぶつかることはないけど、〔精霊〕と〔妖精〕はぶつかっちゃうんだよね☆
さっき“モンスターの感情を食べる精霊”の話をしたでしょ?
モンスターの体の中にいる精霊が妖精とぶつかっちゃうから、モンスターはあの結界を抜けられないんだよ」
妖精と精霊が“ぶつかる”!?
けっこう物理的な防ぎ方なんだね。
もっともっと不思議で神秘的な力かと、思ってた。
そんなに、妖精がギュウギュウに集まったのだろうか?
ミュゼの前で妖精さんと話すのは躊躇われて、妖精さんに聞くに聞けないでいると、それを察したのか、妖精さんが説明を続けた。
「妖精は食事のとき光速で飛び回るからね。
それと、モンスターの体内にいる精霊にとっては、自分が進化したとき、この魔法陣に編み込まれた歌が食料になるかもしれないんだよ? だから、無理して結界を壊すようなことはしない☆」
この魔法陣が、未来の自分のごはんになるかもしれないなんて、精霊さんも複雑ね。
『平和なアルムス大陸でさえ、魔法を使えないモンスターはおりませんから、これでひとまず安心ですわね』
そっか、なら良かった――――――――。
バードック家の別荘に帰ると、ロザリーの部屋のベッドに倒れ込んだ。
『ブーツは脱ぎなさい』
ロザリーに言われて、ヨロヨロと体を起こしてブーツを脱ぐ。
「今日は疲れた……」
私はため息をついた。
今日行った崖、海食崖っていうの?
まさか、サスペンス劇場の崖っぽい所で、モンスター相手に一人で熱唱することになるなんて思わなかった。
端から見たら変な女よ! 絶対!
『あら、とてもノリノリで可愛かったですわよ?』
あのときは必死だったから私にはよくわからないわ。
「それにしても、よくモンスターの上陸に間に合ったわね」
「ふふふん☆
ナビゲーターである私だから、早めに察知できたんだよ!
偉い? ね、偉い~?」
得意げに言う妖精さんに、「うん。えらい。……えらい」と返事しながら、私は眠りについた。
◇◇◇
ロザリーが去った少しあとで、魔法陣のもとにヘンリー王子が数人の従者を従えて駆けつけていた。
「見たことのないモンスターに、巨大な魔法陣。
一体何が起きているんだ?」
ヘンリー王子は少しの間、魔法陣を眺めていた。




