第42話 元に戻りました
「……な、なんで、こんな所に私がいるのよ」
「ここまで来るのは大変でしたのよ?
なのに、そんな言い方って酷いですわ。
元の体に戻るために決まっているじゃない」
戸惑うエナに、ロザリーは優雅に説明した。
「あなたのお母様にワガママ言って、今日は朝からグイマツ王国の〔夏を呼ぶ式典〕を見に行きましたのよ?
そこで、式典に参加しているラーチ先輩に歌いながら話しかけて、魔法学園に連れてきてもらいましたの」
そう。とても大変だった。
式典で、グイマツ王国の王子であるラーチ先輩の歌が終わって、舞台裏にいる先輩に聞こえるように「ステキな式典だったわ♪ ラララララ♪」とか歌いながら歩いて、先輩の気を引いた。
恥ずかしがるロザリーに、人混みで歌を歌わせるのは本当に大変だった。
で、やはり私の予想通り、ラーチ先輩は歌いながらだと話を聞いてくれた。なので、事情を話してラーチ先輩の馬車に潜り込ませてもらい、魔法学園まで連れてきてもらった。
「ちょっと! 隣の国とはいえ、母さんが式典のお祭りを見に行くなんて、許してくれるとは思えない!!」
まぁ、普通はそうだよね。
旅費はかかるし、お祭りとなるとどうしても屋台の食べ物とか記念グッズに目がいくし、お金かかるもんね。
他にも羊の世話とか、畑の仕事とかあるし、急に言われても連れてってくれないのが普通だよね。
「お〜っほっほっほっほ!
羊の世話をしながら歌を歌っていたら、何やら色々と心配されて『どうしてもグイマツ王国の式典を見に行きたい』って言ったら、快く連れて行ってくれましたわ!!」
正しくは、「心配して」。
ロザリーが羊に向かって、「鳥さん」「リスさん」「鹿さん」って歌っていたら、「頭がおかしくなった」って凄く心配してくれた。「ストレスを無くせばもとに戻るかも」っていう理由から、式典の見学に行くことを許してくれた。
「エナ。あなたご両親に大切にされてますのね」
「な、何よあんた! 勝手に人の両親と仲良くなっちゃって! 私の両親よ!?」
「あなただって、ロザリー様の体で勝手なことをしてたじゃないですか!!」
私達の後ろからティアが現れた。
ラーチ先輩に魔法学園に連れてきてもらった時、丁度魔法の実技の授業が終わった所だったので、校庭から教室に帰る途中のティアとゼアをつかまえて「力を貸して」とお願いした。
今まで光の魔法で黄緑のモヤを退治できたから、たぶん、光の魔法で元に戻れると思う。
驚いたのは、ティアとゼアは私達の魂が入れ替わったことを知っていたということ。
昨日の朝に私を迎えに行って、そこでゼアがロザリーの気配がないことに気付き、エナのいない所でティアに教えたらしい。
愛の力って、凄まじいわね。
「皆に〔姫〕って呼ばせたりしてたでしょう?」
優しいティアにしては珍しく、「ビシッ」といった。
「親と学園の人を一緒にしないでよ! 私の両親なのに!!
もうやだぁ! せっかくお姫様になったのに楽しくない!! 家に帰りたい!」
そういって泣き叫ぶエナの手を、ロザリーは優しく握った。
「それは、私も同じですわ。
私達、元の体に戻って、自分の家に帰りましょう?」
「うん。そうする」
こうして、私達はティアに光の魔法をかけてもらうことになった。
「光よ! この者たちを元の体に戻せ!!」
パァァァァァァァっと白い光に包まれて、黄緑色のモヤが体の中から出ていき、私達は元の体に戻った。
そうわたしたち。
エナはエナの体に。ロザリーと私はロザリーの体に。もしかしたら、私は元の世界に帰るのかなと思ったけど、二人でロザリーの体に戻っただけだった。
「あ、体が動かせる」
『ま、とりあえずは良かったですわね』
私は再びロザリーの体を動かせるようになり、ロザリーは頭の中にいる。
「じゃ、エナは僕が送るよ」
「式典で歌ったってことは、あなた王子様なんでしょ? 私、平民よ? いいの?」
「小国の王子では不服かな?」
「ううん! ありがとう。王子様!!」
――・――・――・――・――・――・――・――・――
馬車の中で――――――――。
エナはラーチ王子といろんな話をした。
ロザリーとは昔からの知り合いなのかと聞くと、二日前に会ったばかりと聞いてエナは驚いた。
二日前に出会った子が、他の人と魂が入れ替わったからといって力を貸すだろうか? 普通は信じないとエナは思った。知らない人の姿で全てを信じるのは無理だ。
「ロザリーは僕に合わせて話してくれるんだ」
王子は楽しそうに話した。
グイマツ王国は歌が盛んで、皆よく歌を歌う。歌い始めると世界に没頭してしまうので、普通に声をかけてもわからないらしい。
「初めて会ったとき、ロザリーは歌いながら話しかけてくれたんだ。『杖を落とされましたよ〜♪』って、あはは!
歌っているときに歌って話しかけられたら、確かに耳に入ってくる。びっくりしたと同時に、いい子だなって思ったよ。
歌の世界に入りすぎて、僕は変人あつかいされることが多いからね。まさか、僕の世界に入ってきてくれる子がいるなんて思わなかった」
そう言ってニコニコ思い出し笑いをすると、王子から花びらが舞った。それは、恋心に反応して妖精が舞わせるといわれる花びら。
「ちょっ、ちょっと、ぶ、ぶふぁ! ちょ……」
花びらは嵐のように舞い上がり、エナの顔にバシバシバシバシぶちあたってくる。エナは息苦しくてたまらなかった。
「ちょっと! あんたがロザリーに恋してるのは、よくわかったから!! ぶふぉ!
馬車の中は狭いんだから、こんな所で花びら舞わさないでよ!」
エナは必死に叫んで訴えるが、王子は「フフフフフ」と笑っていた。
馬車の中は、花びらがゴォォォぉぉぁぉっと渦を巻いて吹き荒んだ。
もうすぐ馬車がエナの家に着くというとき、エナは王子に質問した。
「式典で歌を歌ったってことは、あなた王子様なんでしょ? 名前はなんていうの?」
「ラーチ・グイマツ・スプだよ」
「ラーチ王子。
♪送ってくれて、あ、り、が、と、う〜♪」
「あはは!
♪ど〜う、い、た、し、ま、し、て〜♪」
ラーチ王子の楽しそうな顔を見て、(金髪の王子様にも、名前を聞けば良かった)と思った。
「あ、そうだ!
式典は夜の部もあるんだ。見に来る?」
グイマツ王国の夏を呼ぶ式典は、朝と夜の二部構成になっている。
朝は街の中の広場で行われ、夜はお城の中の女神像の前で行われる。朝は誰でも見れるが、夜はお城の中なので貴族しか見られない。その夜の部に、エナは誘われた。
「え? 貴族しか見れないんじゃないの?」
「ドレスを着ていれば、わからないよ。僕がドレスを贈るから、見においで。送迎用の馬車もつけるから。
見てみたかったんでしょ?」
「いいの!?
ありがとう! ラーチ王子!!」
――・――・――・――・――・――・――・――・――
体を動かせるって、素晴らしい!
たった二日間だったけど、ロザリーの頭の中で見てるだけの生活だったから、生きてる素晴らしさを強く感じる。
体を動かせることに感動していると、校舎からヘンリー王子が出てきた。他にもパラパラと生徒が校舎から出てくる。
『もう帰る時間なのですわね』
遠目にヘンリー王子を見ていると、飛びつきたい衝動にかられた。
エナと体が入れ替わって、いつものあたりまえが、あたりまえじゃないことに気付いた。
人生、何が起こるかわからない。
ロザリーが幸せになるためなら身を引ける。
でも、知らない人にただヘンリー王子を取られるだけというのは、とても嫌だなと思った。
『ホホホホホホホホホホ。
なら、飛びつきに行くべきですわ』
うん! そうだねロザリー!!
私はヘンリー王子に向かって走り出した。
両手を広げ、彼の胸に向かって一直線にかけていく。普段なら恥ずかしくてできないけど、今は体に戻れた高揚感で、何でもできる気がした。
大地を蹴り、ヘンリー王子に飛びかかると、「スッ」とヘンリー王子が避けた。
え?
避けるの!?
地面に転げるまでの数秒が、とても長く感じられた。全てがスローモーションになり「ドタンッ!」と倒れた所で、スローモーションは終わった。
地面に一人で倒れたけど、痛くなかったのはヘンリー王子の護衛のフォスターが、私をかばって下敷きになってくれたから。
「すみません。
フォスターさん、助けてくれてありがとうございます」
ヘンリー王子が凄くびっくりした顔をした。そして、すぐに私を睨みつけてきた。何で?
「やめろ。今更元に戻ったフリをしても遅い。
僕は婚約破棄を取り消すつもりはない」
婚約破棄?
この言い方だと、ヘンリー王子はエナと私達の入れ替わりに気付いて、婚約の話をしたときの約束通りに別れようとしたととれる。
約束を守ってくれたんだ……。
入れ替わりに気付いてくれたんだ。
それがとても嬉しくて、胸のあたりがじんわりと暖かくなった気がした。
「ティアに頼んで、光の魔法でさっき元に……」
「ロザリーに何をするんだ!」
元に戻ったと説明しようとしたとき、ゼアがヘンリー王子を殴った。
「君がそんなに怒るということは……まさか、本当に元に戻ったのか!?」
「お前のロザリーは、そう言っていただろう?」
「ゼア! そんなに怒らなくていいから!!」
私は慌てて止めに入った。
それにしてもゼアったら「お前のロザリー」だなんて、なんてこと言うのよ。顔が赤くなるじゃない! とか思って私は顔が緩みそうになったけど、ヘンリー王子はとても辛そうな顔をしていた。
「…………ごめん」
そう呟いて、ヘンリー王子は馬車の乗降場のロータリーの方へ走りだした。
護衛のジェイクとフォスターが急いで主を追いかける。慌てて私も追いかけた。
誤解を解かなきゃ!
「待って! 私、気にしてない!!
それより! 約束を、守ってくれて、うれしかっ……た!!」
息を切らして走りながら、必死に叫んだけど、ヘンリー王子の足が早い。
護衛の二人も早いし、体を鍛えている男の人との体力の差に、泣きそうになる。全然追いつかない。
ヘンリー王子はあっという間に馬車に乗り、行ってしまった。
全身から力が抜け、血の気が引いていく感じがした。
私はもう見限られてしまったのかもしれない――――。




