第41話 約束(挿絵有り)
エナは朝から上機嫌だった。
今日も王子様が迎えに来てくれた!
朝からキラキラ王子様が、私の手をとって豪華な馬車に乗せてくれる。なんてステキなの!!
学園に着けば、皆は私を「姫」って呼んでくれるし(私が昨日お願いしたからだけど)この生活最高!
ただ……、魔法がね…………。
私、村では皆に凄い凄いって言われるのよ?
なのに、ここでは皆して「普通!」「普通!」って言う。
しかも、「普通の魔法も使えるなんて素晴らしいです!!」って、人をバカにしてるのかしら?
嫌味を言うわりには、皆は私より小さい炎しか出せないじゃない!
魔法の授業では、緑の髪のイケメン先生が「ロザリーさん、凄いです! 一般市民が使う普通の魔法も覚えたのですね!!」って、教師まで嫌味を言ってくる!
「『普通』『普通』って、ムカつくわね」
そう呟いたとき、茶色い髪を高い位置で2つ分けにして三編みしている女子生徒が「フフフ」と笑った。
「もともとロザリー様の魔法の威力は絶大ですからね。
この校庭の木々を燃やし尽くしたときは、本当に驚きました」
そう言われて校庭の端に植えてある木をグルっと見回すと、……全部コゲてる。
後ろには森やら山やらがあり、木がいっぱいあるから、コゲてる木に気が付かなかった。元々《もともと》そういう、黒い木だと思ってたわ……。
「……これ、私がやったの?」
「ふふふ。何をとぼけていらっしゃるのです?
校庭を〔毒の沼〕にだって変えたじゃないですか」
「ど、毒の沼!?」
驚いていると、今度は水色のロングヘアーの女子生徒が、微笑みながら解説を始めてくれた。
「校庭から校舎に続く階段の、真ん中の少し下……。紫の線が、横にず〜っとついてますね? あそこまで浸かったんですよ?」
……え?
うそでしょ?
膝がつかるぐらいまで、校庭が毒の沼に沈んだの!?それが本当なら、皆が「普通で凄い」と言うのもわかるわ。
「力の制御ま《せいぎょ》が出来るようになったんですね」という意味で、褒めてたのね。
そうか……。
私、実は凄い力を秘めているんだわ!!
魔法の実技の授業が終わると、王子様は野外実習の件で先生に話があるとかで、「先に教室に行ってて」と言われた。
仕方がないので、さっきの三編みの子と水色ストレートの子と教室に戻る。
「はぁ〜。疲れた!」
ため息をつきながら椅子に座った。
皆から「普通」「普通」と言われるナゾが解けて、一気に疲れが押し寄せてきたんだもの。
「ロザリー様。肩をお揉みしましょうか?」
クラスの女の子にそう言われ、「じゃ、お願い」と頼んでみたけれど、お嬢様だから力が弱い。「あなたでは力が足りないわ」と言うと、今度は男の子が肩を揉んでくれた。
やっぱり、肩揉みに力は必要ね。
肩揉みに満足してきたころ、教室のドアが開いて、護衛の人と一緒に王子様がクラスに帰ってきた。
ヤバイ!!!!
男の子に肩揉みしてもらっていたら、「では、僕は腕を」「僕は手を……」と、次々と人数が増えた。
5人の男の子にマッサージしてもらっている所を王子様に見られてしまった。
茶色い髪の三編みの子と、水色ストレートの子に「あなたは凄いんです」というような話を聞かされて、いい気になりすぎたわ!
王子様が、あきらかに不機嫌な顔をしている。
やだぁ、コレめっちゃ怒られるやつじゃん!!
「何やってるの?」
「えっと、……こ、これは、皆がマッサージしてくれるって言うから……」
“皆が言うから仕方なく”っていう雰囲気を必死に出したのだけど、王子様の顔は不機嫌なままだった。
王子様がボソッと「僕が婚約を申し込んだとき、ロザリーが言っていたのはこのことだったのか……」と呟いた。
なに? なんのこと?
「ロザリー。今こそ、君との約束を果たそう。婚約解消だ」
「え――――――――!?
やだやだ! 絶対、婚約解消しない!!」
「そうか。なら、婚約破棄だ」
王子様はハッキリとそういった。
とても冷たい目をしている。優しい人だと思ってたけど、男の人って怒ったらこんなにも怖いんだと思った。「ごめんなさい! もう浮気なんかしないから!!」と必死に訴えてみたけど、王子様の機嫌は全然よくならない!
ってか、そもそもこれは浮気なの?
なんかもうよくわかんなくなってきた。
「そういう問題じゃない。
僕がロザリーに婚約を申し込んだときに交わした〔約束〕を君が知らないなら、君はロザリーじゃないということだ。
ねぇ、君、僕の名前知ってる?
昨日も今日も、『王子様』と言うばかりで一度も僕の名前を呼んでないよね?」
……何も言えなくなった。
私、王子様の名前を知らない……。
このとき、初めて気がついた。
みんな、自分の人生を生きているのだわ。私はこの体になって、お姫様気分に浮かれすぎてた。私だけが主人公だと思ってた。
ここは夢の国なんかじゃないのね……。
でも、……でも!
そんなに私のことイジメなくったってよくない!?
私は教室を飛び出した――――――。
とにかく走って、校舎から出た。
これからどこに行けばいいのかわからないけど、とりあえず教室にいたくない!
「お〜っほっほっほ!!
丁度いいところで会ったわね、エナ!」
高笑いをしながら声をかけてきたのは、私だった――――――――。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
今日も、ロザリーが出てくる夢を見た。
――――その子は私じゃないのに……。
切なそうにしていた彼女を思い出す。
朝、目が覚めて必死に今日見た夢を思い出そうとしたけれど、全てをハッキリ思い出すことができない。
全体的に、幸せな夢だったようには思う。
ロザリーが、自分から僕の首に腕を回してくれたり、ついに彼女を城に連れ帰ったり……。
だけど、あの言葉が頭から離れない。
その理由がわかった。
ロザリーの心が誰かと入れ替わったんだ。




