〈第六夜〉ロザリー★グランプリ
広い、綺麗なアスファルトの道。
横幅が200メートルはあると思われる道の両側には、観客席。そして、目の前には紫色のレーシングカー。
ここは、サーキット場!
ということは、これは夢ね!!
「さぁ、始まりました!
真のロザリーを決める、〔ロザリー☆グランプリ〕!!
見事一位に輝いて、真のロザリーの座を掴むのは、いったい誰なのか!?」
ノリノリで解説をしているのは、いつも夢に出てくる妖精さん。
放送席で、テーブルの上のマイクの前でぴょんぴょんジャンプしながら喋ってる!! 小さいから、机の上に立ってもマイクに届かないのね。カワイイ。
妖精の羽を使って飛べばいいのに、羽があること忘れてるみたい。
「それでは、選手の紹介です!
第1コース! 悪霊令嬢ロザリー!!」
ロザリーが妖精さんに紹介されると、観客席から「ワァァァァァッ!」と歓声が上がった。
その中にはゼアもいて、「頑張れ! ロザリー!!」と、熱く応援していた。
「第2コース! 暗黒令嬢ロザリー!!」
またもや、「わぁぁぁぁぁぁ!」と歓声が上がった。「気をつけろ〜!」「【暗黒令嬢】だ!」「何かが起きるぞ〜!!」って声が……。
え……、悲鳴の方なの……?
中には、「俺の弟子なんだから、必ず勝て!」と言い放つ人もいた。宮廷魔法騎士で忙しそうなのに、家庭教師をしてくれているアイザック先生だ!
その隣には魔法学園のヨド先生もいて「がんばってください!」と声援を送ってくれてる。
この二人、夢のなかでも仲が良いのね。
「第3コース! 姫様令嬢ロザリー!!」
ひ、姫様令嬢!?
言葉が何かおかしいわよ?
姫様なの? 令嬢なの? どっちなの?
姫様令嬢って、エナのことよね?
驚いていたら、姫様令嬢は綺羅びやかなピンクのドレスを着て、ヘンリー王子にお姫様抱っこされて建物の中から登場してきた。
しかも、ヘンリー王子の首に腕を回してる。
ヘンリー王子はとても嬉しそう……。
「ま、まさか……、あなた学園で皆に“姫様令嬢”って呼ばれてるの?」
「え〜っとぉ、『“姫”って呼んで』ってお願いしたの!
そしたら、王子様もお姫様あつかいしてくれて、言ってみるもんだな〜って!!」
「ロザリーの体で何やってんのよ!」
私はロザリーの代理を頑張ってたのに、エナは自分の好き勝手にしてるの!?
悪役令嬢っポイといえば、まぁそうなんだけど、腹がたった。
ロザリーがもとの体に戻った時のことも、少しは考えてほしい。
『お〜っほっほっほっほっ!
なかなか面白いことをしてくれてるみたいね。とりあえず勝負をして、誰が真のロザリーか決着をつけましょう!!
お〜っほっほっほ!!!!』
ロザリーが余裕の笑み。この自信はどこからくるのかしら?
とりあえず私達は決着をつけるべく、それぞれのレーシングカーに乗ることにした。
「!!
僕の腕の中にロザリーがいるのに、目の前にもロザリーがいる! その向こうにもロザリー!!」
状況がのみ込めてないヘンリー王子は、ただ喜んでいた。
そうよね。3人とも顔が同じだから、見分けがつかないわよね。
「その子は私じゃないのに……」
イライラしながらシートベルトを締めると、放送席の妖精さんの勢いの良い声が聞こえてきた。
「よーい! スタート!!」
ロザリーは薔薇を連想させる赤。私は紫。姫様令嬢のエナはピンク。
妖精さんの合図で、各車一斉にスタートした。
「さぁ! 始まりました!! 女の醜い争いが!!!!
見事1位を勝ち取り、真のロザリーの称号をえるのは、いったい誰なのでしょうか――――――――!?」
妖精さんが白熱して、実況を始めた。
「ちなみに、このレーシングカーは〔火の魔法〕を使うと、加速します!」
え!?
〔火の魔法〕で加速!?
は!
よく見れば、私達はスタートしたのはいいものの、スピードが遅い!! こども向けの、お金を入れたら動くパンダの乗り物ぐらい遅い!
いっそのこと、歩いた方が早いぐらい!!
〔火の魔法〕で加速するなら、いける!
私、〔火の魔法〕得意よ!!
〔火の魔法〕を唱えるポイントは、大きな声!
〈《燃え上がれ! 炎よ!!》〉
思いっきり大きな声で呪文を唱えると、「ビィィィィィィン……」と音がして、「ドォゥゴォォォォォン!!!!」と車が紫の火を吹いた。
車が一気に加速して、トップに躍り出る。
スピードが早すぎてGがかかり、体が重い。
でも!
ロザリーや、ヒロインのティアが相手ならいいけど、エナに負けたくない!!
ガタガタと激しく揺れる中、しっかりハンドルを握って闘争心を燃やしていると、フイに体が軽くなった。
なぜ?
「お〜っと!
【暗黒令嬢】! あまりの速さに車が空を飛んでいる――――――!!」
目の前には「青空」しか見えなくなった。
「【暗黒令嬢】ロザリー! コースアウトです!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
車が加速しすぎて空を飛んだあと、海岸に不時着した。
何事にも“丁度いい具合”ってもんがあるわよね。……やりすぎたわ。
「うわぁぁぁん! 悔しいよう!!」
どうせ誰もいないし、人目も気にせず思いっきり喚いて悔しがっていると、誰かが車のドアを開けた。
「ロザリー。帰ろう?」
「え……? ヘンリー王子?」
不思議でたまらなかった。
エナをお姫様抱っこして会場入りしたのに、何でこっちに来たの?
同じ顔だとしても、私はレーシングスーツ着てるし、〔姫様令嬢〕のエナはピンクのフリフリドレスを着てて、見分けはつきやすいよ?
「〔姫様令嬢〕はどうしたの?」
「ロザリーと同じ顔だし、頼まれたからお姫様抱っこしただけだよ?
僕が好きなのは【暗黒令嬢】のあなただ」
「? 【暗黒】がいいの?」
ますますワケがわからなくなった。
普通、お姫様が良いんじゃないの?
「【暗黒】が、じゃなくて“あなた”がいい。“王子の僕”じゃなくて、“僕”を見てくれるから、好き」
「!!」
びっくりした。
まさか、「好き」と言われるとは思わなかった。
びっくりしている間に、ヘンリー王子は私を車から降ろすために抱きかかえた。これはこれで密着度が高くて、お姫様抱っこと同じぐらいドキドキする。
「ロザリーが3人いるなら、一人いなくなっても問題ないよね?」
「……え?」
「このまま、一緒に城に帰ろう?」
「うぅええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!?」
流石夢の中、ヘンリー王子はヒュ〜んヒュ〜んと空を飛んで、軽やかに移動する。
ふと、姫様令嬢がピンクのドレスでヘンリー王子の首に腕を回して現れたのを思い出した。
モヤモヤっとした気になって、私も勇気をもってヘンリー王子の首に腕を回してみる。
すると、私を抱えるヘンリー王子の腕に力が入り、ギュッと引き寄せられた。
「お、落ちたら……危ない、か、ら……なんだからね?」
ドキドキしながら必死に言い訳をする。
夢の中だから、何も気にすることないのに言い訳をしてしまう私は小心者だ。
抱きつく大勢のため、顔はよく見えなかったけど、ヘンリー王子が嬉しそうに「そうだね」という声が聞こえた所で目が覚めた。
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レースの方では――――――――。
「ちょっと焦ったけど、紫の車はコースアウト。
赤い車はスピードがあまり変わらないし、優勝はいただきね!!」
「おぉ〜っと!
〔姫様令嬢〕スピードアップ!!
だが、〔悪霊令嬢〕はマイペースを貫く!
この余裕、何故!?
何故なのか!?」
その時、〔悪霊令嬢〕ロザリーが、レースの最中なのに車を止めて優雅に車から降りた。
『フッ。
試合をしようがすまいが、真のロザリーは私ですわ』
「お〜っと、これは盲点!!
確かに、オリジナルのロザリーが真のロザリーだ!!」
「えぇ!? そんなぁ〜」
『お〜っほっほっほっ!!』




