第39話 肉を骨から引き剥がす?(挿絵有り)
残酷な描写があります。お気をつけください。
「【暗黒令嬢】は〔紫色の炎〕を扱うと聞いたが、普通だな。
ウワサはでまかせであったか」
ため息まじりに、連合軍とやらのオジサンにそう言われ、エナは「ムッ」とした。
なんで突然現れたオジサンにこんなにガッカリされなければならないの? ついさっきまで、生徒達に「姫」と呼ばれて(私がそう呼べといったけど)チヤホヤされていたのに!
エナは「ムス〜っ」として、「何よ。人をウソつき呼ばわりして」と呟いた。
その声が聞こえていたらしく、連合軍のオジサンは「仕方がないな」と言わんばかりに、再びため息をついて「では、念の為にもう一つ……」といった。
「【暗黒令嬢】は、自らの肉を骨から引き剥がす術を知っていると聞きました。
それを見せていただけませんか?」
は?
肉を、骨から、引き剥がす!?
エナは驚いた。
そんなことしたら死ぬじゃない!
“肉を骨から引き剥がす”なんて、普通の人間が出来るわけない。イジワルを言うオジサンだと、エナは思った。
「ちょっと!
そんなこと出来るわけ……」
“そんなこと出来るわけがない”と言い返そうとしたとき、約20人の連合軍の後ろの方から声が聞こえた。
どうやら、連合軍の人達の後から登校してきて、騒ぎの様子を後ろの方で聞いていた女子生徒のようだった。
「ロザリー様をウソつき呼ばわりするなんて、愚かな人達です!」
「本当ですわ!! なんて失礼な方達なんでしょう?」
現れたのは、茶色の髪を高い位置で2つ分けにして三編みにしている女子生徒と、長い水色の髪をおろした女子生徒だった。
とても親しげなので、お友達と思われる。
(良かった。味方が現れたわ)
「さぁ! ロザリー様!!
肉と骨の引き剥がし方を、見せてやってください!!」
「ロザリー様の素晴らしさを見せつけるチャンスですわね!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
味方だと思ったのに、とんでもないことを言う人達だった。
「あなた達、よ〜く見てなさい!」
「今からロザリー様が鼻のつけ根を両指で押さえて、肉と骨を引き剥がして見せわすわよ!」
彼女達は連合軍の人達に、自信満々で話す。それを聞いて、エナは血の気が引いてきた。
(え……、鼻のつけ根ってどのあたりのこと?
やっぱり、鼻の穴のことよね?
鼻の穴に両指つっこんで、そこから肉と骨を引き剥がしていくの!?)
グロい。
想像しようとするだけでグロい。
「ちょっと!
私、そんなこと出来ないわよ!?」
「ロザリー様、何をおっしゃいます?
私達にあんなに丁寧に教えてくださったではないですか」
「そうですわ。
とっても簡単じゃないですか」
これはもはや〔イジメ〕ではないだろうか?
エナにはそうとしか思えなかった。
このオジサンたちも、あとから出てきた二人も私がカワイイからイジメに来たんだわ!!
それに、周りで見ている人達の目! まるで、私が肉と骨を引き剥がすのは、あたりまえみたいな目で見てる。
誰も止めに入らないって、どういうこと!?
エナは限界に達した。
「もう!
皆でよってたかってんなの!?
“肉と骨を引き剥がす”なんて、出来るわけないでしょ!?」
エナは必死に抗議した。
「まぁ、そうでしょうな」
どうやらこの中でマトモなのは、エナにイジワルしにきた連合軍のオジサンだけのようだった。
「我々も『そんなこと出来るわけない』と思ったのですが、【暗黒令嬢】のウワサが社交会でも流れ始めたので、真実をつきとめに来たのです」
「単なるウワサだよ。
これ以上、僕の婚約者を困らせないでもらえないかな?」
(王子様!!)
王子様が自分を庇ってくれた。しかもエナを「婚約者」と……。
エナは嬉しくて、胸が弾んだ。
(あぁ! 王子様はやっぱりステキ!!
頼りになるわ!)
「!!
これは、ヘンリー殿下!
大変、失礼いたしました!!
こちらの御令嬢は、殿下のご婚約者様でございましたか!
そうとは知らず、無礼を働いてしまい申し訳ございません!!」
王子様の一声で、オジサン達はエナに丁寧に謝罪して帰って行った。
「「「「「御婚約おめでとうございます!!」」」」」
イジワルな人達が帰って、祝福ムードになり、エナは上機嫌になった。
そしてだんだんお祝いの言葉から、さっきのエナの態度を絶賛する言葉に変わっていった。
「それにしても、先程のロザリー様は素晴らしいトボケっぷりでした」
「技と無能なフリをして、連合軍をかわすとは!」
「あの普通の魔法にも驚きました」
(え? 無能なフリ? 普通の魔法?)
エナは不機嫌になった。
(むぅ……。
私の魔法、普通じゃないもん! 大きい炎だったじゃない!
なのに、人を無能扱い!!
何!? この人達!!
わかった!
王子様の婚約者の私に、みんな嫉妬しているのね!!)
「……わたし、今日は気分が悪いから……帰る!!」
人のことを〔暗黒〕だの〔無能〕だの〔普通〕だの、この人たちイジワルすぎる。
授業を受けるどころか教室にも入っていないけれど、今日はもう帰ることにした。
「僕が送っていくよ」
「……ありがとう。王子様」
「さ、行こう。僕のお姫様」
ヘンリー王子が優しく手を差し出してくれたのが嬉しくて、エナはガシッと王子様に抱きついた。
すると、王子様は優しく抱きしめ返してくれた。
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(“歌う”のではなくて、“話す”のよ!!)
グイマツ王国のお祭りのチラシを見た私達は、すぐエナの家に戻って羊の放牧をしながら、歌の練習に入った。
エナのお母さんに頼まれたし、放牧しないと羊がお腹をすかせて可哀想だから。
掃除は……申し訳ないけど、諦めた。
ロザリーは掃除をやったことがないみたいだったし、学園に行ったり貴族の別荘地に行ったり、時間を使いすぎてしまったから掃除だけで日が暮れそう。
少しでも歌の練習時間がほしかった。
「いきなり歌の練習とは思いませんでしたわ。
まずは、マリーとスピカに教えた〔肉と骨を引き剥がす方法〕からやるのだと思ってました」
(あぁ、「ハミング」の練習のことね。
あの時は〔精霊に聞こえる音〕が大前提だったからよ。
今回は人間だから言葉が通じるでしょ?
ラーチ先輩に聞こえればいいから、時間のかかる基礎は飛ばすわよ!!)
私はロザリーに、こども向けのアニメの歌を教えた。
お姫様がリスや小鳥やシカ達を相手に歌う「お料理の歌」。
(さぁ! ビシバシ行くわよ!!)




