第38話「姫」って呼んで(挿絵有り)
村人エナの体の中に、主人公とロザリー。
ロザリーの体の中に、村人エナの魂が入ってます。
翌日になっても、私とロザリーはエナの体に入ったままだった。そして、体の主導権はロザリーのまま。
農家の朝は早い。
日の出とともに起きて朝食をすませたら、エナの両親は畑に行くらしい。
「じゃ、エナは家の掃除をしたら、羊を放牧するんだよ」
「わかりましたわ」
「……エナ、まだ貴族ごっこやってんのかい」
笑顔で両親に答えたあと、ロザリーは家の掃除に向かう……ことはなく、昨日と同じこの家の荷馬車に乗って魔法学園へと向かった。
アルムス王国の魔法学園の警備は厳重で、今日は魔法学園に続く山道の入口で止められた。
しかも、昨日2人だった警備隊の人数が増えて、今日は10人ぐらいいる。
「また来ると思っていたぞ!
一般人はここから先は進入禁止だ」
警備隊の手には、エナの人相書きがあった。
不審者への対応早っ!
“遊び気分で近寄ってきた”と思われているみたい。捕まらなかったのが救いね。
ここは引き返して、魔法学園に通う生徒が利用している別荘地に向かうことにした。
「フッ……。
このぐらいで私、くじけませんことよ?
ゼア王子に会えれば、すぐに私だと気付いてくれるに違いありません!!」
(確かに!
ゼアはロザリーの気持ちが高ぶったときに、ロザリーの気配を感じ取っていたものね!!
ロザリーが体の主導権を持つ今なら、絶対に気付いてくれる!!)
希望を持ったのも束の間で、貴族の別荘地へと続く道でも警備隊に止められた。またもやエナの人相書きを手にしている。
「来ると思ったぞ。
ここは、こどもの遊び場ではない!
帰れ!!」
アルムス王国の警備、素晴らしい……。
これではゼアの所どころか、ロザリーの家の別荘にも行けない。
ロザリーと私は絶望した。
勢いよく家を飛び出して来たのに、またもや「カラカラカラ……」と荷馬車が覇気のない音を立てて引き下がるはめになってしまった。
気が抜けたまま、荷馬車がエナの家への道を走る。そこで私は気がついた。
(ね、ロザリー。
さっきから、木に紙が貼ってあるよ?)
「まさか!
ここにも人相書きですの!?」
所々の木に貼り付けてあったのは〔人相書き〕ではなく、グイマツ王国のお祭りの宣伝だった。
(あぁ!
これ、昨日ロザリーが言ってた『グイマツ王国の夏を呼ぶ式典』の宣伝ね!!)
「グイマツ王国はすぐ隣の国だから、この町でも宣伝しますのね」
(これはチャンスよ!
歌いながら話しかければ、ラーチ先輩なら話を聞いてくれるわ!!)
「ま、まさか、あなた……。
私に、“歌え”と言ってますの?」
(よくわかったわね!
さぁ、ロザリー! 帰ったら歌の特訓よ!!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その少しあとのバードック家の別荘――――――
「すご〜い! お姫様になったみたい!!」
エナは感激した。
白いレースの天蓋付きベッド。よくわからないけど、大きい額縁に入れられた高そうな絵画。ジャンプしても届きそうにない高い天井からぶら下がっているシャンデリア。上まで手が届かない大きな窓。
細かい装飾を施されたドレッサーをのぞいたら、その鏡を見てびっくりした。透き通るような白い肌にブルーの瞳。少し紫がかった紺色の髪。
「……これが、わたし」
「ロザリー様。きっと今日もヘンリー王子がいらっしゃいますから、早めに魔法学園に行く準備をすませましょう」
どうやら自分は「ロザリー」というらしく、王子様と魔法学園に通っているらしい。もしかして本当にお姫様になったのだろうか? そう思いながら、メイドに準備を手伝ってもらっていると、本当に王子様が迎えに来た。
うっそ!
夢じゃなかったのね!?
金髪の王子様に抱きかかえられる夢を見たのだと思った。なのに、その人が現実に現れ、自分を迎えに来たことにエナは歓喜した。
なんてステキな世界なの!?
下を向くと、足元が見えないほどの〔ふたつ分け縦巻きロール〕のこの髪型はちょっとイジワルな人っぽくて嫌だけど、夢のような世界ね。
輝くような金色の髪のカワイイ女の子と、存在感の薄いグレーの髪の男の子も、何故か一緒に豪華な馬車に乗ってきた。
王子様とカワイイ女の子は、「今日の体調は大丈夫ですか?」と、エナのことをとても心配してくれた。グレーの髪の男の子は特に何も言わずに真面目な顔をしていたので、たぶん女の子の従者か何かだとエナは思った。
すごい! すご〜い!!
よくわかんないけど、本当にお姫様になっちゃった!!
お姫様気分のまま魔法学園に着き、馬車から降りて校門をくぐれば、突然十数名の生徒達が両脇に並んで、お辞儀してきた。
まぁ!
私が〔お姫様〕だから、お出迎えしてくれるのね!!
「「「「「【暗黒令嬢】ロザリー様! おはようございます!!」」」」」
は?
エナは驚いた。
必要以上に「ビシッ」としたお辞儀をする彼等が、悪の組織の一員に見えてきた。
【暗黒令嬢】?
お姫様じゃないの!?
「昨日も見事でございました」
「まさか【悪魔】を喚び出されるとは」
「【悪魔】の力を使えばゴーレムなど……」
「生徒会も、もう何も言ってこないでしょう」
「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!
何それ何それ何それ何それ!?」
地団駄を踏みながら叫ぶエナに、生徒達は不思議そうな顔をする。
「どうなされました?
【暗黒令嬢】ロザリー様!?」
「『どうなされました?』じゃないわよ!
【暗黒令嬢】って何よ!?
悪の親玉みたいじゃない!!
いい?
私のことは『姫』って呼んで!!」
「姫……」
「「「「「おぉ! 【暗黒の姫】ロザリー様!!」」」」」
「違うわよ!
姫よ姫!!
【暗黒】なんかつけないで!!!!」
一列に並んでいた生徒達の目が点になった。そして、3秒ぐらいたつと、エナの言っていることを理解してくれたらしく、皆で「「「「「姫! おはようございます!!」」」」」」
と挨拶してくれた。
エナはそれに満足して、「えぇ。皆様おはようございます」と、お姫様っぽく挨拶を返した。
これからは「姫」と呼んでもらえることに満足したところで、後ろからおじさんの声がした。
「失礼いたします!
我々は、連合軍第五師団の者!!
この学園に【暗黒令嬢】がいるとの噂を聞きつけてやってきた!
今、彼女は何処にいるか教えていただきたい!!」
軍服を着た大人が20人ぐらいやってきたその物々しさに、その場の空気に緊張が走った。
瞬時にエナは、この人達は自分を探しに来たのだと感じとった。
この人達、私の特別な護衛なのね!!
エナは彼等が自分の護衛に来たのだと、勘違いをし、すぐさま胸を張って前に進み出た。
「それは、私のことよ!!」
すぐ、自ら名乗り出たエナに、「……おぉ………!」と静かな歓声が上がった。
「そうですか。
あなたのような若くて美しいご令嬢が【暗黒令嬢】とは、にわかに信じられませんな……。
ここは一つ、噂に聞く〔火の魔法〕を見せていただけませんか?」
「いいわよ! 見せてあげる」
“若くて美しい”と言われ、うかれてノリノリで答えるエナに、王子様は心配そうな顔で「ロザリー……」と呟いた。エナは「心配ない」と余裕の笑みを返した。
(私、火の魔法だけは得意なのよね。村でも、私以上の使い手はいないんだから!)
「いくわよ! 『ファイヤー!』」
右手を高く上げて、エナは叫んだ。
「な!?」
「赤い炎!!」
「紫じゃない!?」
「呪文が違いますわ!」
「しかも、杖なしで!?」
「手の中に炎が!!」
生徒達は驚いた。
連合軍の人達も驚いた。
皆が驚くので、エナは得意げになった。
(ふふふん♪
普通の人は魔法を使えたとしても、指先に炎が灯るだけなのに、私は手の中にボールぐらいの炎を出せるのよ?)
みんな驚きすぎて、口が半開きになって動かない。
でも、思っていた反応とは何か違う気がする。それに、「紫じゃない!?」という声があった。いったい〔紫〕がなんだというのか?
エナは不思議に思った。
(え……? 何? この反応?)




