第37話 悪役令嬢(?)にとりつきました!(挿絵有り)
「安いよ! 安いよ!」
「ちょっと早いけど、スイカが入ったよ!」
「じゃあ、味見してから考えようかしら?」
「いいよ。食べてみて!!」
目の前に広がるのは、魔法学園に行く途中にある市場……。
貴族の別荘が近くにあるから、珍しいものをよく取り扱ってるみたいだった。
ふと、洋服屋さんの鏡にうつった自分が目に入ってびっくり。
少し日焼けした肌。150センチ半ばぐらいの細い体。肩につかないぐらいのオカッパの髪型の13歳ぐらいの女の子……。そばかすがとてもチャーミング……。
誰これ!?
っていうか、か……体が動かない!
どうしたのかなと思っていると、私の意思とは関係なく、突然右腕が動いた。続いて左手。
そして、声が聞こえてきた。それはいつもとはちょっと違った聞こえ方だけど、よく知ってる口調……
『あれ? 私、体を動かせますわ。
でも……これは誰? 私ですの?』
わたくし?
その言い方、まさか!
(ロザリー!?)
『まぁ! 頭の中に声が響きますわ!!
……と、いうことは……!!
私達、今度は逆になってしまいましたの!?』
(そうみたい。今度は私がロザリーの頭の中にいて、ロザリーが体を動かせるみたい)
と、いいうことは、もしかして……
『じゃあ、私達二人で、知らない女の子の体に入り込みましたの!?
まさか、この体の持ち主は、今ごろ私の体の中!?』
(その可能性高いと思う!!
ロザリー! 魔法学園に確認しに行こう?)
そうロザリーを促していたら、スイカの試食をしていたおばさんがこちらを向いた。
「エナ! もうちょっと買い物に時間がかかるから、このスイカを載せたらその辺で遊んでて!」
〔エナ〕が、この体の持ち主の名前みたい。
おばさんが指差した先には、古くてこじんまりとした、かなり使い込んだと見られる荷馬車があった。それは一頭の馬で引くタイプの、屋根のない、車輪が2個だけの荷車を付け足したのものだった。
(ロザリー。あれで行こう)
『そうですわね!』
ロザリーは、おばさんの所にかけていき、スイカを受け取ると微笑んだ。
「これを、あの荷馬車に載せれば、しばらくは自由にしていいんですのね?」
「!? ……で、ですのね?」
「では、いってまいりますわ」
「ま、……ますわ!?」
混乱するおばさんを背に、ロザリーは素早く荷馬車にスイカを載せて、手綱を握った。そして、手綱を上から下へと打ち付けて、荷馬車を走らせる。
「!?
荷馬車で遊びに行くのかい?
遠くに行くんじゃないよ!!」
遠くでおばさんが叫んだ。
おばさんは驚いたけど、ロザリーの行動を受け入れたみたい。
と、いうことは……この体の持ち主、結構ワンパクなのね。
不審に思われなくて良かった。
(それにしても、ロザリー。
馬の扱いに慣れてるね)
市場から、あっという間に森に入って、魔法学園への坂道を登っている。
「ホホホホホホホホホ!
貴族令嬢の嗜みですわ!!」
森の中の道を、ガタンッ、ガラガラガラガラガラ……と使い古された荷馬車は激しく揺れながら走る。
その荷馬車で「ホホホホホホホホホホホ」と高笑いをする村の女の子!
それは、はたから見て異様な光景だろうなと思った。
ロザリーの運転は結構荒かったので、思っていたより早めに魔法学園に着いた。
着いてビックリしたのは厳重な警備。
魔法学園の門の遥か手前の所で、槍を持った警備隊が道の左右にいて、ロザリーを見るなりお互いの槍をクロスさせて、通れなくしてきた。
そうだよね。この国の王子様も通っているんだものね。厳重な警備にするよね。
「こら! 一般人はここを通るな!!」
「あら、私一般人ではありませんわ!」
警備隊の人に怒られたのに、ロザリーは気にせず再び手綱を上から下に馬に打ちつけて、無理やり突破。
そしたら、警備隊の人が走って追いかけて来ながら、水の魔法を打ってきた。
(ひぃぇぇぇぇ! 怖い!!)
『ホホホホホ!
このぐらいやってくれませんと、魔法学園の警備を疑ってしまいますわ!!』
怯える私に対して、ロザリーは大満足のようす。
そうね。自分が通う学園だものね。警備は厳重な方が嬉しいよね?
後ろから飛んでくる〔水の魔法〕をよけながら、ロザリーが荷馬車をぶっ飛ばして走らせ、魔法学園の馬車の乗降場に着いた。
ちょうどヘンリー王子が、ロザリーの体をお姫様抱っこして歩いている。馬車に乗るためにこちらに向かってきているみたい。複数の生徒が遠巻きに、王子について歩いていた。
「丁度いいですわね」
(そうだね。ロザリー。あとはティアがいたら、光の魔法で……)
と、ロザリーと作戦を練ろうとしたとき、ヘンリー王子にお姫様抱っこされているロザリーが、ゆっくりと目を開けた。
「……?
王子……さま?」
「そうだよ。ロザリー」
どうしよう!?
エナの目が覚めたみたい。
ぽ〜っとヘンリー王子を見つめているエナ。エナと私達の精神が入れ替わった事を知らずに、優しく見つめ返すヘンリー王子の姿を見て、なんだか胸がチクッとした気がした。
「待ちなさい!
その女はニセモノですわ!!」
ロザリーが叫ぶと、ヘンリー王子がこちらを見た。
目が合った瞬間、時が止まったように感じた。もしかしたら、入れ替わったことに気付いてくれるかもしれない。
そう期待したけれど、すぐに目はそらされ、王子は半円になっている乗降場に待機している王族専用馬車へと向かって行った。
目をそらされたことに、また胸がチクッとした気がした。体の感覚はないはずなのに胸が痛むなんて気のせいだよね。
それに……ゼアだって、ロザリーの感情が昂った時しか、気配を感じ取れなかった。なのに、普通の状態でヘンリー王子に私に気付いてほしいなんて、ワガママだ。
ロザリーは諦めず、古くて質素な荷馬車から飛び降り、ヘンリー王子のもとへと走った。
すると、すぐに王子の周りにいた数名の生徒に取り押さえられてしまった。
「このおかたをどなたと心得る!」
「【暗黒令嬢】ロザリー様だぞ!」
「一般人がロザリー様に近付こうなんて、100年早いですわ!」
「身のほどをわきまえろ!!」
「「「「「暗黒令嬢ロザリー様に害をなすものは、我々が食い止める!!」」」」」
数名の生徒は、よく見ればクスメイトだった。二日前に自ら配下に加わったクラスメイト、優秀すぎる!
「くぅ……何てこと!?
忠実な部下が、ここへきて仇となりましたわ!!」
悔しがるけど、ちょっと嬉しそうなロザリー。
そうだよね。
今はこの体の持ち主のエナと心が入れ代わってしまっているけど、ロザリーのためにクラスメイトが体をはって止めてくれたんだもんね。嬉しいよね。私も嬉しい。
そんな複雑な心境になっている私達のもとに、サフラン生徒会長がやってきた。
「私はロザリーと決闘したあと、ずっと近くにいたが、ニセモノと入れ替わる時間はなかった」
(確かにそうなんだけど、〔心〕が入れ替わったのですよ!!)
と、必死に訴えようとしても、今の私は話すことができない!
「中身だけが入れ替わったんですのよ!! あなた本当に見てましたの!?」
「確かにロザリーは戦いのあとに、気絶したが……。かといって、君が本物にも思えない。
君は貴族令嬢のような話し方をしているけれど、ロザリーの話し方と少し違う気がする」
ぐぅぁぁぁぁぁぁぁ!
そりゃそうでしょうね!!
その時は、本物のロザリーは私の頭の中。サフラン生徒会長と話していたのは、私でしたからね!!
ロザリーが本物なのに、偽物扱いされるって……何!? この切なさ!!
そして、「本物のロザリーなら、【紫の炎】を出せるはずだ」という話になり、炎を出して見せることになった。
しかし、出てきたのはオレンジ色の〔ロウソクの炎〕のような小さなもので、私達はすぐさま「ぽ〜ん」と追い出された。
行きとは違い「カラカラカラカラ」と覇気のない音で、荷馬車は山道を走った。
「あなたが私の中にいるから、私も【紫の炎】が出せると思ったのですけれど、ダメでしたわね」
(……ロザリー。
ここまでニセモノ扱いされたのに、意外と元気だね)
「警備隊も、配下のクラスメイトも、サフラン生徒会長も、みんな優秀でした。
すぐに体を取り戻せなくて残念でしたけれど、そこに満足している部分もあるのですわ」
(そっか。そだね。
みんな良い人だし、ロザリーの事を思ってくれての行動だものね。ありがたいね)
カラカラカラと弱気に荷馬車は走るけれど、何かおかしいと思った。よく見た景色……。
「さぁ!
次はうちの別荘に向かいますわよ!!」
あ、だから、おかしいと思ったのか。来た道を戻っている感じがしなかったもの。
諦めて家に帰るふりをして、今度はバードック家の別荘に行くのね?
「私に長年仕えているメイドなら、異変に気付くはずですわ!」
(確かに!
私がこの世界に来たとき、すぐに怪しまれたもの!!)
私達は期待を胸に、別荘に急いだ。
「何の御用ですか?」
バードック家の別荘に着くと、ロザリー付のメイドさんが門の所にいた。
どうやら、ロザリー(の体の方)を送ってくれたヘンリー王子を見送ったあとみたい。
「今、運び込まれたロザリーの体には、偽物の魂が入っているわ!
私が、本物の〔ロザリー・バードック〕よ!!」
そう言って、ロザリーは顎を振り上げた。ごく自然に、大きく威厳たっぷりの、振り上げっプリだった。
「……」
メイドさん、何も言わない。
(ロ、ロザリー。
いきなり直球すぎて、伝わらなかったのかもよ?)
『そんな!
私と彼女の仲ですのよ!?』
(いや、でも会っていきなり、知らない女の子にそう言われても混乱するんじゃ……)
と、ロザリーと頭の中で話していると、メイドさんにつまみ出された。
「村娘と遊んでいる暇はありません。
主が体調不良なのでお引取りください」
信じてもらえなかった。
無理やり荷馬車に乗せられたうえに、メイドさんが思いっきり馬のお尻を叩いたから、荷馬車が発車してしまった。
「待ちなさい! ミュゼ!!
あなたなら、わかるでしょう?
アレは私ではないわ! 私ではないんですのよ!!」
ロザリーは必死に叫んだけれど、メイドさんは顔色一つ変えなかった。
私には、そのことにロザリーが深く傷付いたように感じられた。




