第36話 良かった……(挿絵有り)
「ははははは! もちろんだよ」
サフラン生徒会長に笑われた。
「さすが、【暗黒令嬢】。
私が修理して当たり前なのに、念の為に脅してくるのかい?
馬車の修理が終わるまで、送り迎えをしてもいいぐらいだけど……今日はヘンリー殿下の馬車で来たんだよね?」
「……!!」
ボンッといっきに血が上った。
さっき婚約を受けたから、ヘンリー王子がこれからも送り迎えに来そうな気がする。
そのことを想像したら、耳まで真っ赤になり、サフラン生徒会長に返事をすることが出来なかった。
会長には「わかっているよ」とでも言いたそうな温かい目で見られ、さらに恥ずかしくなった。
は、恥ずかしいけれど、なにはともあれ、プリンセス馬車の修理はしてもらえそうだし、黄緑色のモヤを燃やすことも出来た。良かった良かった。
ホッとしたら、一気に疲れが襲ってきた。白い棒を振り回した右手はプルプルのうえ、光の精霊を喚び出した反動で体がだるい。
『あなた、本当に頑張りましたものね。
決闘用の模擬刀を手にしなかったから、あなたは魔法で勝負すると思いましたのに。
まさかの馬車の飾りの部品で戦うなんて……』
……え?
決闘用の模擬刀!?
『そうですわ。
校舎の玄関を通るとき、左手に飾ってあったでしょう?
魔法学園とはいえ、貴族ならば時々もめ事が発生して、決闘することがあるでしょ?
でも、他国の王族も通うから、殺生事件にならないように、模擬刀で決着つけることになってますの。
細い剣も置いてあったのに、あなた素通りするから、私てっきり相手が何と言おうと得意の魔法で決着をつけるのだと思ってましたわ』
知らないよ〜!!
玄関通る時に教えてよ!!
『まぁ! 私、勘違いしてましたから無理ですわよ。
サフラン生徒会長だって、私と同じ勘違いをしてましたのよ?』
二人の私に対するイメージ悪すぎる!
もっと文句を言いたいけど、そうも言っていられない。
マリーとスピカが、生徒会の人と今もまだ戦っているかもしれないもの。
二人のもとに行こうと歩き出したとき、ゼアが校舎の方から走ってきた。
「ゼア、何故ここに?
先生との話は?」
「突然、ロザリーの気配がしたので、俺だけ抜けてきた。
大丈夫か?」
まさか、さっきロザリーが〔黄緑色のモヤ〕を見て『燃やしなさい!』って叫んだのを、ゼアは感じ取ったの!?
『……!!』
胸が熱くなってきた。
これは……、私じゃなくてロザリーね。
嬉しくて言葉は出ないけど喜んでるみたい。
「心配してくれて、ありがとう。
私の中のロザリーは、ゼアが心配してくれて、とても喜んでる」
「あなたの中のロザリーが喜んでる……」
急にゼアの足元から花びらが舞い上がった。
わ、私、何か余計なことを言ってしまったかしら?
花びらの勢いがよすぎて体がよろめくと、ゼアにギュッと抱きしめられた。
「ロザリー!
ロザリーは生きているのだな!?」
「? 私の中でいつも偉そうにして……」
「そうか! ……生きて……いるのか。よかった」
抱きつかれたので顔は見えないけど、ゼアは涙声だった。
そっか。
ゼアはロザリーの存在をうっすら感じることが出来るけど、詳しくはわからないのね。魂が眠ってるだけだと思ってたみたい。
そういえば、パーティーの時は、ロザリーが私の中にいると伝えただけで、毎日元気に指示を出してくるなんて言わなかった。
もっと早く教えてあげればよかった。
ロザリーのこと、本気で心配してたんだね。
「ロザリーに伝えてくれないか?
“君を愛してる”って」
ゼアが耳元で優しく言った。
「…………っ!!」
腰が抜けるかと思った。
私の中のロザリーに言っているんだとわかるのだけど、甘い!!
色気があるとか、そういうのじゃなくて、切なさと愛情が混ざった感じで、愛情がやや強め。ゼアの本気がジンワリ伝わってきた。
あの!
あの、ぶっきらぼうな感じのゼアが!!
こんな、甘い言葉を!!!!
何か……軽々しく見てはいけないものを、見てしまったような罪悪感が浮かんでくる。
二人の間にいて申し訳ない気持ちになった。
『あなたをこの世界に引き込んだのは、私です。気にしなくていいから、私の言葉を伝えて頂戴』
わ、わかったわ。
「ゼア。
ロザリーが『ありがとう。とても嬉しい』って」
「…………うん」
『それから……』
「それから……、ごめんねって」
そして、ロザリーが私の目を通じて、物を見る事は出来るけど、感覚が無いこと。もし、このままゼアと付き合ったとして、私とゼアが仲良くしてると浮気現場を至近距離で見ているような気持ちになって辛いこと。死んでしまった自分より、私の方を優先することにしたことを伝えた。
説明しながら、切なくなってきた……。
涙がボロボロこぼれてくる。
「二人は愛し合っているのに……。
ゼアは時を超えてまで、ロザリーを追いかけているのに、ハッピーエンドになれないの?
切ないよ、ロザリー……。
やっぱり私、ヘンリー王子と婚約するのやめ……」
『ダメですわ! 決めたでしょ!?』
「っ……でも、ロザリー。切ないよぉ……」
『ゼアが私だけのものにならないなら、私だって嫌ですわ!!』
「ロザリー……、独占欲が強すぎる……」
泣きながらロザリーと話していたら、ゼアがさらにギュッと抱きしめてきた。
「……ロザリー。
片思いだと思ってたから、心が通じあえてとても嬉しい……愛してる」
『私も、あなたを愛していますわ……』
「ロザリーが、『私も、あなたを愛していますわ』って言ってる……」
すると、ロザリーの『愛しています』に感動したゼアの気持ちがさらに昂ぶって、
「ロザリー!! 愛してる!」
『私も愛してますわ! ゼア王子!!』
「ロザリー!」
『ゼア!』
「ちょっ、ちょっと待って!
耳元と、頭の中とで、愛を叫び合っておりますが、間に入ってる私の事も少し気にかけて?」
「何を言っている。
あなたが間に入れなければ、ロザリーと会話ができない」
『そうですわ。そうですわ!
ゼア……。私も同じ気持ちですわ……』
ゼアの熱い言葉に、どんどんロザリーの胸が高まってロザリーもどんどん熱くなる。ロザリーにつられて私もドキドキなんだけど、両思いはステキなことなんだけど…………ちょっと!!
その熱い愛の告白は、二人きりの時にしてくれない!?
今の状態では無理なのはわかるけど、熱い!
熱すぎる!!
二人の熱い愛に頭はクラクラするし、ロザリーのドキドキで体は熱いしで、私はフラフラになってきた。
そのうち体が浮いたような感覚になったと思ったら、私の魂がロザリーの体からゆっくり抜けていってた。
あ……、私……、体から魂が抜けていってる……。
ゼアがロザリーを抱きしめているのを、浮かび上がりながら、ぼや〜っと眺めている。
体から抜けたせいか、意識もフワフワした感じでぼやけているけど、これで良いんだと思った。
これで二人は幸せになれるね。
私が抜けてロザリーが体に戻れば、ロザリーとゼアは幸せになれる。
良かった。
本当に良かった。
フワフワと浮き上がりながら、(お二人ともお幸せに……) と心の中で願った。
きっと私は、元の世界に戻るのね。
次第に、私の意識が遠くなった。
何はともあれ、ロザリーが幸せになれそうで良かった。
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意識が朦朧としている中、賑やかな声が聞こえた。
「……いよ。……いよ!」
「ちょっと………けど…………」
「……ゃあ……」
「い…………。…………!!」
賑やかな声がだんだんハッキリ聞こえ、次に目が目が覚めたとき、少し混乱した。
山道の広い所を上手く使って立てられた市場。
見たことある。
ここ、魔法学園に行く途中に通る道……。
目の前の洋服屋さんの鏡にうつった自分を見て、さらに驚いた。
少し日焼けした、150センチ半ばぐらいの細い体。肩につかないぐらいのオカッパの髪――――。
誰これ!?




